曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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56.星が墜ちる日

 

 囚われたアツコを救出するべく、バシリカを目指す先生とアリウススクワッドは、現在の戦力では正面突破は不可能と考え、旧校舎の地下回廊からの侵入を試みる。

 

 しかし、スクワッドの動向を予測していたマダム『ベアトリーチェ』は先回りして戦力を投入していた。更にその戦闘の最中、スクワッドを追ってきた聖園ミカも乱入したが、先生達は無事に撃退することに成功した。

 

 先を急ぐ先生一行だったが、ミカの策略によりサオリと分断されてしまう。地下回廊に取り残されたサオリは、先生達に先に向かうように告げたのだった。

 

 そしてサオリとミカの戦いは、ミカの勝利に終わった。決着後、サオリの後悔の告白を聞いたミカは、サオリの過去を自身と同じであると考え、だからこそサオリを殺すことは自分に救いがないことへの証明であると嘆いた。そこに先生とミサキ、ヒヨリが合流した。

 

 

「先生、姫を助けに行ったのでは……?」

 

「せ、先生……えっと……」

 

「もちろん、助けに行くよ。サオリも一緒にね。それと……ごめんね、ミカ。私がきちんとミカと向かい合って話をしなければならなかったのに……」

 

「せ、先生は悪くないでしょ!? 悪いのは私なのに、どうして……」

 

「今は生徒の、アツコの生命が掛かっているから、サオリの手伝いをしているんだ。だから、アツコを助けたら一緒にトリニティへ帰ろう」

 

「そんなことしたって私は、『魔女』だよ? もうチャンスなんてないのに、何も変わらないよ……」

 

「ミカは魔女じゃないよ。人の言うことを聞かないだけの不良生徒で。……だから、戻ったらちゃんと話を聞かせてほしいな」

 

「…………」

 

「チャンスはね。なければ作り出せばいいんだよ。失敗したとしても、何度でも。ミカ、サオリ。多少の失敗で道が閉ざされることはないんだ。だって──この先に続く未来には、無限の可能性があるんだから」

 

『戯言もそこまでになさい!!』

 

「ベアトリーチェ……!」

 

『興が醒めました。見せ物はここまでで十分です。つまらない余興はここまでにしましょう。それに──儀式は既に始まっているのですから』

 

「あ、アツコッ……!!」

 

「そんな……!」

 

 

 ベアトリーチェの合図で映し出されたのは磔にされているアツコの姿だった。ステンドグラスを背景に赤い蔓のようなもので拘束されており、辺りにはゴンゴンと何かを打ち付けるような不気味な異音が鳴り響いていた。

 

 

「……何かおかしくない…?」

 

「え……?」

 

『固ったいなぁ……。 こんな邪悪そうな物体なのに、まさか聖剣突きで全然折れないとは……』

 

『お、お前っ……!? いつの間にここに来たと言うのですか!?』

 

『うおっ、普通にバレた』

 

「嘘でしょ……?」

 

「そう言えばミカと一緒のはずなのに姿を見かけないと思ったら、あんなところにいたんだ……」

 

 

 アツコが拘束されている柱の根元に大きめの剣をフルスイングする男。ベアトリーチェにその存在がバレたことを認識した青年は、ベアトリーチェを一瞥して、そして何事もなかったかのように破壊活動を再開した。

 

 

『やめっ、やめなさい!! 私が高位の存在になるための儀式の邪魔を、今すぐにやめろと言っているのです!!』

 

『お、ちょっとグラつき始めた?』

 

『私の話を聞きなさい!!』

 

『ん……? ウハハ! 顔どころか全身真っ赤っかー! あ、これって中継繋がってますよね?』

 

「トマリ!」

 

『おお、謎技術ですね。ご覧の通りですが、ちょっと俺ではお姫様の救出は無理そうです』

 

「な、何とかならないのかっ!?」

 

『頑張れば斬れない事はないですけど、その後が続かないですねぇ……。まあでも、今回は間に合ったのでセーフと言う事で。いやー、俺は王子様でも勇者でもないので、この辺が潮時でしょう』

 

 

 目標達成が不可能である旨をあっけらかんと言い放った青年に唖然とする先生達。青年が発している騒音以外の音が消えたのも束の間、ベアトリーチェが声を張り上げる。

 

 

 

『儀式の価値もわからないドブネズミ風情が……!』

 

『あれ? 俺の昔の俗称を何故知っているんです? もしかして古参ファンの方?』

 

「何をどう読み取ったら、そんなトンチキ解釈が出力されるの?」

 

「確かにドブネズミみたいな顔はしてるけど……」

 

『酒場で仲間の勧誘と言うのは定番の流れですよね』

 

「な、何の話をしているんでしょうか……?」

 

「もうっ! やっぱり話が全然噛み合わないんだけどっ……!」

 

 

 追っかけとか困っちゃうなー、と無表情で呟きながらも、青年は特に手を止めることはなかった。かと思えば、急に手を止めてベアトリーチェに向き合った。

 

 

『まあいいや。ちょっとした取引をしませんか、深紅色の貴婦人さん? こちらはそこのお姫様が欲しい。貴女の要望は?』

 

『そんな無駄な交渉に私が取り合うとでも?』

 

『うーん……そうですか。一応有識者として忠告しますけど……この儀式は取り止めた方がいいですよ? 破滅願望をお持ちなら別ですが』

 

『ふん、何かと思えばまたくだらない戯言を。貴方の虚言に付き合う程、私は暇ではありません』

 

『他者を犠牲に力を授かる様な儀式を執り行った者の末路は破滅のみ。超大国の王も巨大宗教の教祖も、最終的にはその身を滅ぼした。同じ道を辿りたくなければ、身の振る舞いをもっと弁える事をお勧めいたしますが』

 

『そのようなお話は、私には一切関係ないので問題ありません。貴方の世界のルールを勝手に当てはめないでください。不愉快です』

 

『…………』

 

 

 ベアトリーチェがそう言い切った後の数瞬間、無音の時間があった。ガラス玉の様な目をした青年は、何事もなかったかの様に大袈裟なリアクションで以て応えた。

 

 

『ウハハ! 一理ある! それに儀式は既に始まっていますし、今更すぎる警告でしたね。それにしても……』

 

『…………何が言いたいのですか?』

 

『いえ、交渉決裂したなら言っても詮無き事ですね。やはり交渉事は苦手だと実感しただけです』

 

 

 青年は憂鬱そうに溜息を吐くと、徐に懐から大きな宝石を取り出した。激しいテンションの落差に若干困惑するベアトリーチェだったが、すぐに立て直して青年を睥睨する。恐ろしい形相で睨め付けられているが、青年は意に介する事もなく、軽い世間話をする様に話し掛けた。

 

 

『ここに来る少し前に星を見ていました。今日は新月に近い晴れですが、晴れにしては若干湿った空気感でそれなりに好条件の日でした。自分には星座の知識なんてありませんが、眺めているだけでも案外悪くないものです。さて、貴女は星が好きですか?』

 

『…………』

 

『まあどちらでも構いませんが。折角の機会ですので、こちらの儀式をお見せいたしましょう』

 

『っ……! やはりですかっ……!』

 

 

 青年が淡く輝いている宝石を空に放り投げる。すると宝石は砕け散り、空間が歪み始め、その場の空気が振動する。

 

 

『ウハハハハ! 高位の存在とやらになれる器かどうかの試金石だ! 星を墜とす我が秘術、汝の死力で以て打ち破って見せよ! 力を得るに相応しいと証明して見せよ!』

 

『ぐっ……!』

 

 

 発生した衝撃で周囲のユスティナ聖徒が纏めて吹き飛ばされる。やがて空間の裂け目から、光り輝く小さな物体が地上に墜ちて来た。

 

 そして落下地点にあった祭壇を吹っ飛ばして、異様だった雰囲気が元に戻った。

 

 

『…………大それた演出ではありましたが、大した威力ではありませんね。御伽話の錬金術師の実力も、蓋を開けてみればこの程度で……奴はどこに消えたと言うのですか? …………いえ、そういうことでしたか、姑息なマネをっ……!』

 

 

 忽然と姿を消した青年。しかし作戦目標であるアツコの身柄は、未だにベアトリーチェの手にあった。今回の青年の襲撃における被害は、精々が祭壇ぐらいのもの。そこまで思考を巡らせて、漸くベアトリーチェは儀式を中断させる事が青年の狙いであると思い至るのだった。

 

 




主人公:人工ダイヤモンドでは、やっぱりアカンかったか……

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