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「……私が引きつけている間に、アツコを助けに行って」
「なっ!?」
「先生、いつも問題ばかり起こしてごめんね。それと……私にもチャンスがあると言ってくれてありがとう」
「お前は……」
「……で? 今はどの様な状況なんです? ヒヨリ?」
「……へ? え、ええぇっ!? ど、どうしてここに!?」
「うるさっ。おいおいおい、折角俺が空気を読んで喋ってんのに、何勝手に全部台無しにしてくれちゃってるわけ? はぁ〜……どう落とし前つけんの? ヒヨリちゃんよぉ〜……」
「ヒ、ヒイィッ!? な、なんで因縁つけられているかわかりませんがごめんなさいっ!?」
「チンピラがカツアゲしてるようにしか見えなくない?」
「なんであのバカはヒヨリにだけ、やたら馴れ馴れしい態度なの?」
そんなのヒヨリがヒヨリだからに決まっているだろ。それ以上の理由が必要か?
「トマリはこう……悪役と言うか外道役と言うか、なんかそう言うのがよく似合うのはなんなのだろうね……」
「偶に言われますが、やはり不思議ですよね。実態は菩薩だと言うのに」
「実態はどう考えてもピエロじゃない?」
誰よりも穏やかで平和主義で、優しい顔付きをしていると言うのに。何も考えてない平和ボケした顔? 誰だそんな巫山戯た事言った奴は? タダで顔の整形手術してやろうか?
ここで全員の目線が自分の顔、もっと詳しくあげれば目元に向けられている事に気付いた。珍しい事もあるものだ。
「左目が……左目が澱んだ赤色になってるけど、大丈夫なの……?」
「……何となくは分かっているでしょう?」
「…………」
「イメチェンですが」
「は?」
「はぁ……」
「私は真面目に聞いているんだよ。……本当に、大丈夫なの?」
「普通に見えていませんけど……」
「…………」
錬金術師的に表現するなら、『畜生ォ、持って行かれた……!!』 の様な状態ではある。まああそこまで不可逆で厳しい訳ではないが。だから、そこまで悲痛そうな顔する必要はないぞ。腹に風穴開いても蘇った俺を信じろ。儀式における代価の勘定ミスはままある事である。
「片目ぐらいなら別に……まあその内治りますので、あまり気にしなくても構いませんよ? 流石に今から近接戦闘などはしたくありませんが」
「……トマリは自分のケガに無頓着すぎない?」
「まあトレードとしては上々ですから。そりゃあ俺だって痛いのは嫌ですけど、全ての戦闘を無傷で切り抜けられるなんて虫のいい事、端から考えていませんので」
「トレードって……」
「効果的なら自傷も厭わない冷静さは普通に恐ろしいな……」
「はぁ、俺は普段から常に冷静沈着ですが……」
「その根拠のない自信はどこから湧き出てくるの?」
むしろ自己肯定感が死んでそうな君達が見習うべき姿勢では? 目指すべき理想の姿を拝める事に感謝するべきだろ。まあ一々突っ込んでいると話が長くなりそうだから黙っておこう。これぞ冷静かつクレバーな対応である。
「囚われのお姫様救出についてですが、祭壇を使えなくして来たので、当分は儀式の進行も不可能です。貴重な生贄を適当に殺めるとは思えないので、最悪のパターンは回避できている筈です。後は先生達で頑張ってきてください」
「十分な成果だ。感謝しかない」
「途中から通信が途切れ途切れになってましたけど、そんなことになってたんですね……」
「高笑いしてるところとかやってることだけ見ると、トマリの方が悪役っぽかったよね、あれ」
「ああ言うのはハッタリが大事ですからね」
「本当にハッタリだったのかは怪しいけど……」
「まあ何にせよ、俺も魔法使いの端くれです。かぼちゃの馬車は既に準備したので、お役目は果たしたと言う事で。舞踏会には不参加とさせて貰いましょうかね」
魔除けのお守りも装備させておいたので、アフターフォローもバッチリである。後は先生達がマダムをぶっ飛ばして姫は救出されましたとさ、おしまい! の流れだろ。だから俺の出る幕ではない。それならもう帰って良くない? いや帰る。しかしここで一つ、大きな問題に直面した。
「で、俺はもう一仕事終えたので帰りたいのですけど、あの見るからにヤバそうなビッグシスターと愉快な仲間達はどうするのです? あの集団が邪魔で帰れないのですが」
「アレは私たちが引きつけるから、サオリたちはアツコを助けに行って」
「すまない……」
「ミカも気をつけてね……」
「心配しないで、先生。……じゃあ、トマリはこっちね。ドサクサに紛れて逃げようとしているのは分かってるから」
「…………」
「何? その不満そうな顔。言ったよね? アナタは私と道連れだって。それに、私と一緒に地獄に落ちてくれるんでしょ?」
「知らん、何それ……。そんな恐ろしい約束、俺がする訳ないじゃないですか。存在しない記憶がミカさんの脳内に生えているんですけど……」
「……は? 何それ? 何があっても私の味方って言ったよね? アナタも私を裏切る気なの?」
「記憶が捏造されてる……うわ、顔怖っ」
美人の顔が狂気に満ちていると迫力が凄い。さっきまで正気に戻ってたじゃん。やめてよね、急にバケモンに戻るの。きれいなミカさんは泉に帰ったのか?
「あ、そっか! 今は片目が見えないんだっけ! それじゃあ仕方ないなぁ」
「あ、はい。そう言う事なんで……」
「前に出るのは許してあげる! その代わり、アナタは私の後方から支援よろしくね!」
「駄目だ、このお姫様。話が通じている様で全然通じてねえ……。そうだ、先生達からも何とか言ってやって下さいよ」
「頑張れ、男の子!」
「ド無能が」
役立たずの先生は何の解決策も示さずに、スクワッドと共に先に向かって行った。その場に残されたのはミカさんと俺と、大勢のユスティナ聖徒の皆さん。現段階では睨み合っているだけの膠着状態なので、このまま戦わずに終わってしまって欲しいが。
結局の所、ミカさんが抗う気満々ならば、俺の意思はどうあれベストを尽くさなければならないのだ。だから最初から俺も戦う気はあった。本当の話ですとも、ええ。
「……ねえ。トマリならアツコを助けて、そのまま連れてくることもできたんじゃない? そうしなかった理由はあるの?」
「それはまあ……できなくはないですが、今回は安全策を選んだだけですよ。救出するのは誰でもいい訳ですし、確実な方法だと思ったので。ミカさんのお願いは聞いていますので、問題はないでしょう?」
「ふーん……まあいいんだけどさ。でも、騒動中は無茶ばっかりするアナタが、安全策なんて珍しいね。と言うか、もしかしたらベアトリーチェを始末するかもって思ってたぐらいなんだけど」
「ああ。キヴォトスでそう言う事はタブーらしいですからね。郷に入れば郷に従いますよ」
「別にキヴォトスじゃなくてもタブーじゃない?」
「そう言う説もあります」
「そう言う説以外あってほしくないかなぁ……」
苦笑いするミカさんの表情からは、先程まで浮かべていた狂気の色は鳴りを潜めている……様に見える。本当の事はサッパリ分からないが。ミカさんについては余りにも不可解すぎるので、ゴリラ……と言うのは半分冗談だが、宇宙人か何かだと薄ら思っているのが正味の話である。
「……あんな事言ったけどさ。トマリは逃げてもいいんだよ? ひとりぼっちは寂しいけど、でも、やっぱり……」
「情緒不安定すぎない?」
脳内で闇のミカさんと光のミカさんが綱引きでもしているのか? いや、それは不可能だ。そんな事をしようものなら、決着前に綱が引きちぎれるだろう。
「そもそも道連れとか言っていますけど、まさかミカさんはここで死ぬつもりなんですか?」
「…………」
「共倒れなんて、冗談じゃないですよ。俺はまだ伝説のプリンも幻の駅弁も、百鬼夜行や山海経の伝統料理すら食べていません。こんな場所でくたばってたまるかよ」
「何それ、食べる事ばっかじゃん。食い意地張ってるんだから、もう」
「でも明確な目標です。ミカさんの方こそ、目標はないのですか?」
「私の目標は……」
「危なっ!? 人が喋ってんのに、無粋な奴ら!」
急に銃弾をぶっ放して来たので、ミカさんの前に出て大楯でガードする。開戦の合図って訳か? 唐突すぎるがそんなものかと納得もできる。敵軍の中で一番ヤバそうな奴が、大砲みたいな武装を構えたのが見えた。
「目標がないなら、ミ゙ッ!? イダダダッ!?」
構えた大楯ごと押し戻されるのは流石に想定外だ。人に向けていい火力の武装じゃないだろ!? どうにか抵抗していると、突然押し戻される力が弱まった。
「アナタだけで頑張っていてもすぐ死んじゃいそうだから、私が手伝ってあげる。アレを引きつけるついでに、ね。……貸し一つだよ☆ しかも大っきなヤツ!」
「えっ。……あのー、クーリングオフとかってぇ……」
「却・下♪ 帰ってから、どんなこと命令しよっかなー☆」
「…………」
まあ帰る気がある分、自暴自棄になられるよりはマシ……なのか? 何故か俺だけ割りを食っている様な気はするけど。まあいいや。いや良くはないけど良い事にしよう。
「バケモンにはバケモンをぶつけるんだよ! 行けっ! ミカチュウ! インファイト!」
「トマリはふざけないと死んじゃう病気なの?」
▼ミカチュウは そっぽをむいた!