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ミカさんに前へ出て貰う作戦は何故か却下された。さっき前に出なくていいって言ったじゃん。あなたを詐欺罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判もおこします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですね! そう言えば、今日が聴聞会の日だった。戦わずして完全王者!
「でも実際どうするのですか? ミカさんが前に出て、その間に俺が消えるのがベストでしょうに」
「女の子を見捨てて逃げるなんてサイテーじゃん☆ ねぇ、一応聞いてあげるけど、なんでそれがベストだと思ったの?」
「女の子? ……ああ、確かに分類上では♀かもしれませんが」
「ちょっと? 温厚な私でも流石にキレるよ?」
「ほら、ミカさんが心置きなく全力を出せるように、巻き添えとか気にしなくていい様にするべきじゃないですか」
「大丈夫! そんなこと心配しなくていいよ! 私はトマリが巻き込まれても全く、これっぽっちも気にしないから☆」
「サイテーだわこの女」
倫理観が終わってやがる。魔女じゃなくて鬼畜だろ。性格がカスだったとしても、顔が良ければ大抵の事は許されるとはよく言ったものである。俺は許さないけど。
「ここから先は敬虔で善良なる者は立ち入り禁止ですからね。奴等は入れません」
「それだと私たちが悪者みたいじゃん」
「そう言っていますが?」
「ちょっと納得いかないんだけど……」
魔女(と呼ばれている別の何か)と悪(っぽい普通)の錬金術師のかにかま隊が、至聖所を目指す聖職者(の亡霊)達の邪魔をしているからまあ間違ってはいないだろう。真っ黒集団と天使が相対しているから、見た目だけなら逆ではあるが。
「まあいいや。……トマリの担当はバルバラね! ファイト☆」
「えっ。俺は後衛では……」
「うんうん、私のナイトになれるなんて光栄だよね☆ じゃあよろしくー!」
「ナイトじゃない、アルケミストです。ついでに言うと無所属です。やべっ、『コイン落とし』! ……ジャックポット!」
再度、武器を構え直しかけたバルバラの頭上に拳大のコインを降らせる。『コイン落とし』は確定でコイン1枚か、オッズを変更して当たり (コイン2枚以上) を狙うパターンがある。今回はジャックポットを引いたので、配当は当たりより遥かに良くなっている。なお、ハズレを引くと逆に自分の頭上にコインが落ちて来るので注意されたし。
今回の払い戻しは驚異の50枚超えである。頭上に大量のコインが降り注ぐ光景は、想像以上に絵面が酷いぞ。コミカルだけど割と痛そう。ちなみに落ちたコインについては、時間経過で勝手に消える環境に配慮が行き届いた仕様となっている。その他にはリキャストが7分で7回まで回数をストック出来るなど、風変わりな制約がある。
「地獄の沙汰さえも何とやらって言いますからね。まあ天国に行く俺には関係ない話ですが。……おし、今日は当たり付きのアイスでも買って帰るべ。……ん? いや待てよ?」
アイスを買う → 当たりを引く → アイスを交換する → 当たりを引く → アイスを交換する が無限ループするって事? お前は一生アイス食ってろってか? 最高だろ。
「永久機関が完成しちまったなアア~!! ミカさんの方は……うわやっば」
一方でミカさんは既に敵集団に突っ込んでいる所だった。数十人を一人で相手取っているのは、流石としか言いようがない。しかもステゴロである。やっぱやべーよあの女。近寄らんとこ。
焼け石に水かもしれないが、敵の固まっている辺りを狙って手榴弾を投げ込んでおく。この程度で仕留められるとは思っていないが、まあ嫌がらせとしては十分に機能するだろう。現に隙を晒した敵は、そのままミカさんにとどめを刺されているから。乱戦に強い女こと、聖園ミカの本領発揮である。やたら戦闘IQが高い。やはりミカさんは魔女ではなく、バトルマスターとかバーサーカーの類いでは?
立て直したバルバラの目を狙ってナイフを投げる。いとも容易く打ち払われたが想定内だ。その一動作の隙で肉薄して、ショートソードでバルバラの手許を斬り付けた。流石に武器を取り落としてはくれないか。
すかさずバルバラの方も銃身を振り回して応戦してきたが、既に退避は完了している。轟音こそ響くが、目前で空を切るだけである。その間合いじゃ、拳半分届かない!
ガラ空きになった肘に一突き入れ、深追いはせずに距離を取る。追い掛けて来ると踏んでカウンターを狙ったが、予想は外れて敵に動きはなし。存外、冷静な立ち回りである。面倒くさい。いやまあ、何と言うか……。
「パワーもリーチもタフネスも、諸々のパラメーターで圧倒的に負けているんですけど……俺が勝っている部分は何? ユーモアとか? よろしければハンデとか貰えたりしません?」
「…………」
「あっ、貰えない? そもそも話し合いで解決とかは……あ、駄目ですか? そう……」
何なら左目が見えない状態だから、此方がハンデを与えている側とも言えなくもない。弱い方を更に弱くするのおかしくない? と言うか、常人ならさっきまでの攻防で、右腕が使い物にならなくなっている筈なんだよなぁ……。全然効いてないんですが? 俺は被虐趣味でも戦闘狂でもないから普通に萎えるが。
俺の相手こんなのばっかじゃん。高耐久、高火力、大量の仲間とか、俺には無いものばっか持ち合わせてんの止めて貰える? 嫌がらせかよ。そもそもの話、何で強い方が群れているんだよ。理不尽だろ。いやまあ、無いものは無いで諦めて、ありあわせで勝負するしかないが。
「まあ、うん。時間さえ稼げばミカさんか先生辺りが何とかしてくれる筈。……してくれるのか? や、してくれるといいな」
こちらから与えられるダメージは微々たるもの、敵の攻撃は下手すれば一撃が命取り、救援はイマイチ期待出来なさそう……まだツーアウトってところか? 代打は何時でも大歓迎だぞ。
遠すぎず近すぎずの位置どりで相手の出方を待つ。睨み合いのまま時間が過ぎれば楽だが、そうは問屋が卸さない。攻め切れると判断したのか、バルバラは一気に距離を詰めて来た。ソーシャルディスタンスは守れよな! 勢いのままに横薙ぎする予備動作が見えた。あら、危ない。
「頭を下げればぶつかりません。おっと、足癖の悪い聖女様だこと」
サッカーボールキックはちょっと殺意が高くないかね? サッカーやろうぜ! お前(の頭が)ボールな! を地で行く蛮族スタイル。早く文明開化するんだ。
無茶な体勢から繰り出された蹴りを、更に姿勢を低くして掻い潜る。そして片足立ち状態のバルバラの膝裏を薙ぐ。さしもの強靭な肉体を持つバルバラであっても、バランスを崩して背中から転倒した。こう言うのを界隈では横転したとか表現するんだろ。俺は詳しいんだ。
聖女と言えば、もう二度と会う事はないだろう妹分を思い出す。出会った頃はスペックこそ高いがオドオドしていて微妙に頼りなかったものの、すっかり死も救済の一つと考える立派な聖女様になっていましてね。バルバラはその極致なのかもしれない。
「決定打がねぇんだよなぁ……」
パワーで勝るなら、後はマウント取ってとどめで済むかもしれないが、俺がやっても振り払われて終わりだろうからしない。もう一度思いきり膝を斬り付けて、暴れられる前に少し距離を置く。ついでにミカさんの援護もしておく。まあミカさんのいない場所を爆破するだけだから、これはそこまで手間でもない。
足の一本でも飛ばせれば随分と楽になるのだが、バルバラは特に堪えた様子もなく立ち上がった。効果は 今ひとつのようだ…… 少しは痛がれよ。サービス精神が足りない。長丁場になる事が確定しているからか、自然と溜め息が溢れた。
「まあでも、怪物退治って大体そうなるか……」
特に俺一人だと、火力不足になりがちである。取り回しが良くて便利な高威力の技を持っていないと言うべきか。これは平和主義で心優しい性分が影響しているのであろう。
持っているショートソードを構える。身軽に立ち回る必要があるならこちらを使う場合もあるが、個人的にはもっと大き目のものの方が扱い慣れてはいる。子供用の剣なんて高級品、そうそう落ちていなかったから仕方ない。
ミカさんの方はまだまだ余裕がありそう。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。
私事ですが、遠い昔に書いた魔法少女ものの一次創作を発見してしまいました。現在と作風がまるで変わっていない点については、ぶれない姿勢を評価したいと思います。