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どうでもいいことですが、サブタイトルは雰囲気で決めてます。
バルバラとの攻防は長く続いていた。相手が銃を撃とうすればあの手この手で手元を狂わせる。近接で殴り掛かってくるなら受け流す。隙を見せればついでに叩くが、決して深追いはしない。堅実な立ち回りとも言えるし、消極的な戦法とも評価できる。まあ目的は時間稼ぎだから、現状はこれで問題なし。別に、アレを倒さなくっても構わんのだろう?
相手方もこのままでは埒が明かない事は分かっているのか、露骨に距離を取ろうとして来たがそんな事は織り込み済みである。それなら準備に時間が掛かる代わりに殲滅力の高い大規模魔法を打ち込んでやろうと用意しかけたが、何かを察したのかすぐにバルバラが踵を返してきた。そのまま放置していてくれれば、全部吹き飛ばして台無しに出来たのに。
だが、唐突に均衡は崩れた。
「きゃあっ!?」
悲鳴とほぼ同時に何かが衝突する音が響く。無限に湧いて出て来る敵を相手にノーガードで殴り合い続けて、むしろよくここまで持たせたものである。まあミカさんならこの程度ではくたばらないだろう。その辺は信頼できる。
手榴弾で援護していなかったのかって? 消耗品は使えば無くなるんだな。どこかのダンボール蛇みたいに無限に1fで生成できる訳ではないのだ。
どうやらミカさんは運が良いのか悪いのか、隣の部屋まで吹っ飛ばされたらしい。下手人はあの、やたら巨大な奴か? 見ていなかったから分からないが。あのまま追撃までされるのは流石に可哀想かもしれない。
「『この指止まれ』! うわ、相変わらずキモい!」
幽霊みたいな奴等のほぼ全員が一斉にこっち向くの不気味すぎる。小さな子供でなかったとしても、泣き出すかもしれないインパクトである。この後の展開を想像すると、俺は別の意味で泣きたくなるが。世の中には野郎の涙は汚いだけだと、泣きっ面に蹴りを入れるサイコパスが存在する事を知っているので、泣かない方がいいと思われる。
なお、『この指止まれ』の様なヘイト集めに関する技術は、何故か3種類も持ち合わせている。一応多少の効果の違いはあるが、無駄にバリエーションが豊富である。以前、『お前なら普段通りに立ち回っていれば、そんな技術なくても変わらないだろう』と言った旨の高度な煽りを
取り敢えず煙玉を投げ付けてその場を誤魔化す。陰湿ワンパターン戦法? 囲まれたら物量で擦り潰されるからしゃーなし。別に囲まれてなくても、数的に大きく不利な事には変わりないんだな。なお、視覚以外で位置情報を把握されたら詰みである。大人しく尻尾巻いて逃げます。
「そこは関係者以外立ち居入り禁止ですね」
ミカさんのいる部屋の前だけ通せんぼする。どうせ無限に湧くっぽいのなら、倒すよりやり過ごす方向性でいく方が楽だと思われる。そのまま暫く適当に処理していると、何故か kyrie eleison が聞こえてきた。おうたを歌っている場合じゃないのだが?
「遂に頭がお花畑に? いや、それは元からだった」
歌謡や舞踊は気分を昂揚させる他に、望んだ現象を起こすための対価になる事もある。抽象化すると何の事だが分からないかもしれないが、まあ代表例は雨乞いである。一応そう言った例があるので、戦闘中の歌唱については一概に否定する気はない。で、この kyrie には一体どういう効果があるんです? そもそも kyrie って何の曲なんですか?
そうして煙が晴れた先では、何故かユスティナ信徒達の動きが静止していた。素晴らしい。奇跡も魔法も、あるんだなって思いました。やっぱすげえよミカは……当然俺はミカさんならやってくれるって最初から信じていたぞ。
「あれ? もう終わりですか? アンコールをお願いしたいのですが」
「kyrie ってそういうものじゃないんだけど、わかってなかったの?」
「そう言えば昔、シスターマリーから解説された様な……。まあそれは置いておいて、何故かは知らないですが、音楽が鳴っている間はアイツら動かないみたいなので、延々と歌い続けてください」
「え? そうなの? うーん……あれ?」
ミカさんは困惑しながら蓄音機を操作しているが、うんともすんとも言わないのが現状である。嫌な予感しかしないが?
「蓄音機が動かないんだけど……」
「そんな事あります?」
「いや、元々来たときには壊れていたんだから、さっきまでみたいに動く方が奇跡だったんだよ? それにしても、全然動かないね……」
「こう、電化製品みたいに叩けば直ったりは……あっ」
「えいっ☆ あっ」
「「…………」」
後一歩、気付くのが遅かった。年代物の蓄音機がミカパンチ☆ に耐えられる筈もなく。
「……壊れちゃったかも☆」
「壊したんですよねぇ……」
「うっ、うるさいよっ!? だいたいトマリが叩けば直るなんて言ったのも原因じゃない!?」
「まさか叩く時の強さを態々指定する必要があるなんて、夢にも思わないじゃないですか」
「あーもうっ! ごめんってば! ……それで、蓄音機は動かないけど、どうする?」
オメーも考えろよ、とは思っても言わない。言ったらキャンキャン騒ぎ出して煩そうだから。目を瞑って熟考する事、実に3秒間。
「死にともな 嗚呼死にともな 死にともな」
「急に辞世の句を詠み始めないでくれる?? 諦めるの早くない?」
よくあの一瞬で辞世の句って分かったな。やっぱりミカさんは、頭が良いのでは? 将来性が期待できる。まあ死んだらそんな事無意味だがな! ガハハ!
「袋小路になっているので逃げ場がないです。敵に侵入される前に、一旦ここから出た方がいいと思います」
「確かにあっちも、もう部屋のすぐ近くまで来てるね。オッケー、私に任せて!」
言うや否や、部屋の前にまで迫っていたユスティナ信徒を纏めて殴り飛ばした。蓄音機が破壊されるのも納得の剛腕である。敵に回すと恐ろしいが、味方になると頼もし過ぎる。このまま逆らうやつら全員ブッ殺していこうぜ!
「20秒だけ時間を下さい」
「了解!」
「あ、やっぱり40秒、いや1分で」
「もうっ! 早くしてねっ!」
「へーい、用意できたので俺の後ろへお願いしまーす」
「なんか早くない!?」
「そりゃあまだ、15秒も経っていませんし」
「時間を伝えてる意味ないじゃん!」
時間ギリギリを伝えて、結局準備できませんでした! よりは良いだろうから。今回はよく使っている聖剣のレプリカを構えている。次の一手は最初が肝心。むしろ最初だけでいい。
「『薙ぎ払い』! ……またつまらぬものを斬ってしまった」
「斬るっていうか吹き飛ばしてない? いやまあ、それでもあの威力はすごいと思うけど」
「おお、実際その通りですね」
動作だけなら居合いと同じだから。得物を振った後の風圧が増幅されているだけなので、別に相手を斬っている訳ではないんだな。ちなみに勇者ちゃんだとビームが出せます。恐ろしい子!
「斬れぬものなど、あんまり無い!」
「なんでそこはちょっとだけ謙虚なの?」
「俺は正直者ですので」
「まあ間違ってはいない、かな……? そう言えば、なんで最初からそれやらなかったの? 楽勝だったじゃん」
「ああ、これ使うと暫く右腕が使い物にならなくなるんですよ。ほら」
動きの悪くなった右腕をプラプラさせる。頑張れば動かせない事もないが、普通に痛いのでやらない。昔は使うと滅茶苦茶怒られたが、今では怒って治してくれる子もいないのだ。正直に言えばやりたくなかったが、強引にでも前線を押し上げておかないと、逃走経路の確保もままならないのでやらざるを得なかった。右腕は犠牲になったのだ。
「……え? 本当に大丈夫なの、それ……?」
「たかがメインカメラとメインアームが片方やられただけです。……結構痛いですね」
「そんな無茶する前に相談して!!」
「いやー……後々の事を考えると、恐らく必要になりそうでしたので」
戦力的にはミカさんの方が強いとは思うが、範囲攻撃なら俺が頑張った方がいいかと思って。要は役割の違いと言うか、それだけの話である。
「まあでも、もう心配しなくていいんじゃないですか? 多分ですけど」
「何を根拠にそんなことを……」
「ごめん! お待たせ! ミカ! ……と、ついでにトマリ」
「せ、先生!?」
「おう、来て早々に喧嘩売ってんですか?」
「あはは。トマリにはこれぐらいの対応がちょうどいいかなって」
「いや、もっと崇め奉られるべきだと相場で決まっていますが?」
「そんなおバカな相場、すぐにでも無くなった方がいいと思うよ」
この後、先生が謎のカードを取り出して、なんやかんやあってトリニティの戦略兵器と団長が乱入して来て、なんやかんやあって事態は収束したらしい。なお、途中で突然現れたセリナさんによって俺だけ連行されたため、詳細については知らない。
エデン条約4章 〜 完 〜
なんやかんやあって終了