ラーメンの屋台ねえ
「この前アビドスで爆破された柴関ラーメンのこと、覚えてる?」
「巻き込まれて死にそうになったラーメン屋ですよね」
「屋台として復活したらしいよ。なんでも親切な誰かさんがお店の前にお金を置いて行ってくれたのと、復活を望む声が多かったからとか」
「へえ、そうなんですね。その話題を今出したってことはラーメンを奢ってくれるってことですよね?ご馳走様でーす!」
「いやまあそうなんだけど…」
釈然としないような表情をするが気にしない。こっちも約束したとはいえ、労基も真っ青な労働環境に放り込まれているのだから、これぐらい別に許されるだろう。
しかし、熱烈なファンを獲得しているほどの店なら味に期待ができる。それに屋台と言うのも趣があって悪くない。今から楽しみだ。
「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで…あっ!」
「やあセリカ。半日ぶりだね」
「そう言えばここがバイト先でしたね」
「ど、どうして…!」
本当は他のアビドスの子達も一緒に来たかったのだが、皆さん予定が入っていたみたいで断念した。非常に残念。
「ご、ご注文は、お決まりですか…?」
「私は味噌ラーメンにしようかな」
「ふむ…醤油ラーメン大盛りに餃子、チャーハンセットで」
引き攣った笑顔のセリカさんが注文を受ける。客商売でお見せしては駄目な顔をしているが、まあよく頑張っている方だろう。一応笑顔だと判別できなくはないし、取り繕っているだけマシである。店主であろう二足歩行の柴犬にオーダーを伝えている。あ、こっちに来た。
「おう、先生じゃねえか!久しぶりだな!そっちの坊主は初顔だな?」
「あ、どうも。トマリです。ラーメン食べに来ました」
「柴大将も元気そうでよかったです。それにしても立派な屋台ですね」
「ハッハッハ!いいものだろ?柴関ラーメンは元々、屋台から始めたこともあってな。初心にかえった気分だよ。美味いラーメン作ってやるから、坊主も期待して待ってな!」
「ウッス」
見た目に反した厳つい言葉遣いのギャップが凄い。快活に笑っている姿は、引退を考えていたとはとても思えないほど活気に満ち溢れている。店主の人柄(犬柄?)も先生の言う通り、好感が持てる。
「お邪魔するわよ!」
「大将やってる〜?」
「お、お邪魔します」
「おっと、便利屋の嬢ちゃんたちか。いらっしゃい!」
「アンタ達また来たのね…」
ラーメンを待っている間に新たに客が入った。威勢よく来店したのは、何処か見覚えのある4人組だった。
「あら、そこにいるには先生と…先生を助けてくれた人じゃない!あの時はお世話になったわ!」
「どう言う原理で治したのかはわからないけど、助かったのは事実。感謝してる」
「くふふ、そう言うこと〜!あ・り・が・と♥」
「わ、私のせいで、あんなことに……死にましょうか!?死にますっ!!」
「待って!?」
「まあまあ落ち着いて〜」
今更ながらの感謝の言葉を貰うが、帽子を被った子の発言が物騒すぎて気が気じゃなかった。小柄で小悪魔的な子が宥めているが、これが平常運転ならそれはそれで怖い。
「あー、便利屋66の皆さん?」
「トマリ、2つ足りないよ」
「あ、そうなんですか?えー…まあ柴関ラーメンの件も解決済みですし、いいんじゃないですか、先生?」
「誤魔化したねトマリ。…うん、事故だったみたいだし、元々私は気にしていないよ」
「そう言ってもらえると助かるわ」
名前も知らないままだったので、簡単に自己紹介を済ませた。友達の友達と改めて友達になるみたいな?折角なので席を共にすることになったのだが。
「くふふ…」
「退避ィー!!貴様は俺の後ろに立つなァー!」
「おお、無駄に綺麗な前転回避だね」
「えー?いいじゃん別に抱きつくぐらい。それとも、胸がドキドキしちゃうからダメなのかなー?」
「ボマーに抱きつかれるとか、プラスチック爆弾を体に引っ付けてるのと同じだろ?緊張でラーメンも食えないね!」
「醤油ラーメンセットお待ち!」
「ほらトマリ、ラーメンも伸びるから…」
「いただきまーす!」
「スキあり〜!」
「久々のラーメンうまっ!」
「いや、普通に食べてるじゃない!?」
「なんなのコイツ…」
「あはは…なんというかトマリらしいね…」
呆れたような視線を向けられるのは心外である。注文したラーメンに手をつけない方が道義に反する。そんなラーメンに失礼な真似、出来るはず無かろう。各自で注文した品が出揃う中で、先生がある疑問を投げかけた。
「そう言えば、便利屋のみんなは今は困ってない?新しく事務所を設けたって聞いたけど」
「当然よ!私が経営しているのよ?全く心配いらないわ」
「流石アル様です!」
「とか言ってますけど、実際のところは?」
「また高いオフィス借りてるからお金ばかりかかってる」
「私は面白ければなんでもオッケー!」
まあどうにもならなくなったら先生が助けに入るだろうし、大丈夫だろ(適当)。頑張れカヨコ課長!アルちゃん社長を支えてあげるんだ!
「先生たちも何かあったら便利屋を頼ってちょうだい!どんな依頼でも、便利屋は必ず遂行するから!」
「ふふふ、また頼らせてもらおうかな?」
「素行調査から失せ物探しまで?」
「うちは探偵じゃなくて便利屋よ!?…まあでも依頼として受けるならやるわ」
「仕事は選べないってこと?」
「選ばないってことよ!『選べない』じゃなくて『選ばない』!一流のアウトローとして受けた依頼は完遂するものよ!」
「一字違うだけで変わるもんだねえ」
「実際は選べないであってるけどね…」
「うぐっ…」
「まあ親しみやすくていいんじゃない?」
「親しみやすさなんていらないのよ!?」
吼えるアルちゃん社長を尻目にラーメンを啜る。ハードボイルドでアウトロー?そこになければないですね。多分元からそんなものはなかった。あるのは餃子だけ…ムツキさん?俺の餃子勝手に食べないでいただけます?
最終的に、アルちゃん社長の如何にアウトローが素晴らしいかの演説が何故か俺に向けて始まり、それは替え玉をお代わりしても続いた。なお、他の面々は思い思いに雑談していた模様。俺もそっちの方がよかったんスけど。
自分の好きなものの話はつい長くなる。オタクにありがちな習性らしい。