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夏空のやくそく、やはり素晴らしかったです。もう終わっていますが。
「ちはー、お届け物でーす」
「……おや? まさかトマリが来るとは。怪我の方は大丈夫……ではないようだね。しばらくは入院と聞いていたから、私から訪ねる予定だったのだが」
「入院していたら色々と危機感を感じたので、諦めて退院したんですよ。正直働きたくないです」
「ああ、うん。そろそろナギサも限界だったから、確かにその判断が適当だろう。しかし君は相も変わらず、怠惰なのか勤勉なのか釈然としない行動ばかりするな……。おっと、次に君は『俺ほど勤勉な奴はいない』と言うだろう」
「俺ほど勤勉な奴はいない……ハッ!? まあそれはさておき、限界なのがわかっていたら、もう少し手伝ってくださいな」
深夜に病室へ突撃訪問してきたかと思ったら、急に暴走して安心したらその場で爆睡をかますと言う、およそ模範的なお嬢様とは思えない暴挙に及ばれたんだぞ。ある意味ではナギサ様らしいと言えばらしいけど、大体の場合こちらに被害が飛んでくるんだよ。誰か止めてくれよ。
「生憎だが、どうも彼女は私に仕事を回すつもりはないらしくてね。まだまだ私が虚弱であると思い込んでいるようだ。君からも提言してほしい」
「身体が弱いのは事実では?」
「ほう? トマリまでそう思い込んでいるのかい? そうか、それならばまずはその認識の相違を是正するところから始めようではないか。認識の相違と言うのは必然、君達の私に対する一方的な既成概念の押し付け、いや、私の過去に起因した先入主の払拭を期した討議を開催するべきで……君、聞いているのか?」
「そんな事、見れば分かるでしょう?」
「…………私の話を聞き流しているように見えるが」
「そりゃあ聞き流していますし」
「君という奴は……」
だって聞かせる気がないじゃん。いやまあ、頑張れば俺でも理解できなくはないかもしれないが、頑張る必要がない場面で態々頭使いたくないし。もう少し平易な言葉を使うべきでは?
コミュニケーションはドッジボールではないんだな。俺が言う事じゃないけど。そして一方的に喋るだけなら、壁打ちでもしていればいいんだ。ある意味では、AI の使い所かもしれない。
「日常会話をしたいなら、もっと頭を使わなくて済むような話し方をするべきでは?」
「……これが私の標準なんだ。それに君の意見には賛同しかねる。私は思考を巡らせて対話するべきであると主張しよう」
「まあ言いたい事は分かりますよ。しっかり論理と整合性を図って、漏れなく語義も間違えることもなく、と言うのが理想的な事ぐらいは」
「……では、何故トマリはそのような提案をしたのだろう。聞かせてもらえないか?」
「端的に言えば、面倒臭いんですよ。日常的にそこまで考えるのが」
「…………」
「遠回りな言い回し、抽象的な例え話、聞いた事ないような単語。どれもセイアさんの個性だから止めませんけど、それはそれとして受け手からすれば結論に辿り着くのが大変です」
後はシンプルに話が長い。本当に長い。この辺の話は言葉こそ違えど、散々ミカさんが指摘しているとは本人から聞いたので、態々言わなくてもよかったとは思うが。まあ指摘する人数が増えれば、ある程度は考慮するだろうと言う打算である。
「セイアさん。『先入主』と言う言葉ではまず意味が通じません。俺に通じた事は奇跡だと思うべきです。せめて『先入観』の方を使ってください」
「確かに、先入観の方が一般的だったか」
「ちなみに世の中には『既成概念』の意味が理解できない人がそれなりにいると思われます」
「トマリ。それは流石に嘘だろう」
俺も本当かどうかは知らない。が、それっぽい理由を簡単に論う事はできるんだよな。興味がなかったり、そもそも十分な教育環境がなかったりとか。まあそんな事知らなくとも、別に生活に困らないだろうし。
「まあでも、これからはお手本が近くにいるので、そっちを見習うのが手っ取り早いんじゃないですか?」
「……なるほど、ミカのことか」
「当然。俺達と違って、生粋のコミュ強モンスター系女子こと、聖園ミカです」
「君と同じ枠組みに入れられている点については抗議するが、確かに発言の是非については検討の余地がある」
そう言う所だぞ。まあ俺も余計な発言する方だから、言い返されてもそこまで気にしないけど。
「ふむ…………ああ、そうか。トマリ、安心すると良い。私がミカとの交流を増やしても、彼女が君を呼び付ける頻度は変わりないだろうから」
「逆です。呼び出す頻度を減らせって、いつも言ってるんですよ」
「フッ、そう照れることはない。私もそこまで無粋ではないんだ。それに、顔を合わせる際に二人でなければならない規則などないからね」
「なんて迷惑な提案なんだ……」
ミカさんをセイアさんに押し付k……交流計画がセイアさんの思い付きで破綻しそうなんだが。むしろ厄介な奴が二人に増える罰ゲームなんだよなあ。もっと自分達が面倒臭い性格な事を自覚するべきでは?
「まあここまで来たら、ティーパーティーでお茶会すればいいんじゃないですか?」
「一層の事ナギサも巻き込んで、自分はフェードアウトする魂胆だろう?」
「うわ、すぐに考えている事を先回りしてくるじゃないですか」
「君の行動原理自体は単純で、普段の行動パターンから推量するのは容易だからね」
予知夢の代わりにテレパシーでも習得した? ナギサ様にもそう言われるが、どちらかと言えばポーカーフェイスって言われる方が多いんだが。……あ、行動原理の方か。確かにそっちはシンプルだわ。
「一つ聞きたいのだが、私が予知夢で見た正体不明の『怪物』は姿を現したかい?」
「ああ、あれですか。あれはまあ、出現する事はないですよ」
「理由を聞いても?」
「セイアさんの言っている『怪物』は特殊な召喚方法を経由する必要があるので、余程の事がないと召喚しませんので」
興奮状態で召喚されて、目の前の動くものを手当たり次第破壊し続けるし、そもそもあれは味方ではない。だから、全方位敵しかいねえ! な時にしか使わない手である。それ以前に、そんな事態に陥ったらさっさと逃げるので本当に出番がない。
ついでに、予知夢の結末を聞き及んでいたので端から選択肢にもなかった。本当にその選択をした未来が存在するのか怪しいとは思うが。
「……そもそもの前提として、あれは君の意思で召喚できるものなのか?」
「まあ、やろうとすれば。貴重な素材を消費するので、滅多な事では使用しませんが」
「……私には、時々君が、途方もない何かに見えるよ」
「はぁ……その奇怪なポーズと効果音とスポットライトによる演出と言い、君の常識は理外の理と言わざるを得ない」
「偉大な相手というのは輝いて見えるものですヨ」
「眩しい理由のみを聞いている訳ではないんだがね」
別の世界から来ていると言う一点だけで、途方もない存在ではあるのでは? 逆に俺から見れば、キヴォトス人も羽や角が生えてたり、やたら身体が頑丈だったりする不思議生物だし。
「……まあ、君に関しては、摩訶不思議な力を持っていても、非生産的な用途に終始するのは容易く想像できる。主として他愛ない戯謔を弄する程度だろう。ああ、誤解しないでほしいのだが、決してそれを非難している訳ではないんだ。むしろ、御伽話に登場する『悪い魔法使い』の様に、私利私欲のために悪用しない点には好感さえ持てるぐらいだ。人は誰しも真に他人の心内を見ることは不可能であるため、究極的には……」
だから話が長いんだよ。帰っていい?
主人公:役に立つか微妙な技能を割と豊富に持っている。セイアと喋っている時は、シマエナガくんを頭に乗せていることが多い。
セイア:主人公に振り回されていることも多いが、なんやかんや言いつつ時間の限りは話に付き合ってくれるので、割と好感は持っている。