「そう言う訳で、その内セイアさんからのお茶会の申し込みが増えそうですって」
「へえ〜。セイアちゃんってば、そんな事考えてたんだね」
話し合う機会を増やしたいとは、元々考えていたらしい。まあ仲直りしたとは聞いているので、態々行動を起こさなくても、この結果は変わらなかった様に思うが。
「じゃあ、スケジュールの調整とかお茶会の準備はよろしくね☆」
「めんどくさい……って程でもない、か?」
一番多忙なナギサ様の予定さえ合えば、後の二人はどうとでもなりそうな気がする。と言うか、数時間程度なら何処かしらは空いているタイミングぐらいあるだろ。お茶会の準備に関しては、ナギサ様が張り切って用意するだろうし。
いや、待て。百歩譲ってナギサ様についてはともかく、その他二人のスケジュールとか把握していないんだから、俺に言われても無理だろ。そもそもミカさんに関しては、ほぼ一日暇なんじゃないのか?
「で、もう満足しましたか? しましたね? よし、それでは帰りましょうか」
「んー、次は百円ショップ? ってところに行ってみたいな☆ エスコートよろしくー!」
「貴重な休みが丸一日潰れるんですけど……」
「楽しい一日でしょ?」
洋服とか小物に興味ないから、こっちは暇なんだよ。トリニティに百均なんてあるのか? ……普通にデパート内にテナントがあったわ。しかも、現在地から割と近い。
今日はミカさんから、庶民の利用する店の案内を任されていた。拒否権? そんなもの、ウチにはないよ……。
昼食時なのでファミレスで、小休止中である。そこでミカさんはと言うと、定番のドリアとピザを普通に食べていた。紛う事なくお嬢様の筈なのに、特に抵抗はなさそうな様子である。この適応力よ。
「ここは一つ、ファミレスニュービーのミカさんにセオリーを伝授しましょう。これだけ覚えおけば、今日はもう帰っていいですよ」
「へぇ、そんなのあるんだ。一応聞いておこうかな。聞いても帰らないけど」
「ドリンクバーは二種類以上混ぜるのがセオリーです。そして、入れた飲み物は残さないこと。それだけです」
「ふーん、そう。ところで、トマリは何飲んでるの?」
「スクイッドサイダーです。よければ差し上げますが」
「それはいらない。トマリだって一口飲んでから、全く口をつけてないじゃん。……ちなみに、どんな味なの?」
「開発者の正気を疑う味です」
サイダーって清涼感が売りだと思うんだが、この自分をサイダーと勘違いしている思い上がった液体は一味違った。まずドロッとしていて生臭い。そして、無駄に強い炭酸と纏わりついてくる磯臭さで喉にダメージを与えてくる謎の白濁した液体である。味については筆舌に尽くし難いが、以前辺境の部族に認められるために飲まされた謎の液体より下である。しかもあっちは、苦労してでも飲むメリットがあったから。
「南無三!」
「おおっ、一気にいったね! 半分以上残ってたのに!」
「ごほっ……」
「すごいっ、頑張った! でも、魂が抜けてる顔ってこんな感じなんだろうね……。なんかバルバラと真っ向から立ち向かってるときより苦戦してない……?」
「…………ミカさん」
「……何かな?」
「これ、ほぼ毒です」
「……それはちょっと言い過ぎ、だと思う、かな……? 多分……」
火を囲んで肉を食らう。それは原始的であるからこそ、本能を刺激する至高の瞬間である。
打ち上げ、祝勝会など、お題目は何でもいい。肝心なのは肉が食えるかどうかである。だから、
今宵、共に網を囲うのは先生の他に、サオリさんを除くアリウススクワッドの三人だった。挨拶もそこそこに、早速肉を注文、届いた端から焼いていく。お喋り? いいや、そんなことよりまずは肉を焼くんだ。時間制限付きの食べ放題プランなら、至極当然のスタートである。
そして、肉を焼くのに集中していたから、気づくのが遅れてしまった。
「あの、アツコさん? 物理的に近いです。少し離れてください」
「私は気にしないから大丈夫だよ?」
「俺は大丈夫じゃないです。壁に押し込まれてるんですけど」
「あっ、敬語は禁止。一緒にご飯を食べて、距離を詰めるのがいいんだって」
「なんなんすか、この人……」
マイペースで距離感が異様に近い。近いどころかゼロ距離である。接触している肩や足が既にめり込んでるのに、そこから更に侵食してきてるんですけど。距離はゼロですらなく、最早マイナスである。領土侵犯やめてね。
確かに、最初から違和感はあったんだ。俺が入店した時点で、先生とスクワッドの他二人が対面に座ってる状況だったし。アツコさんが態々立ち上がって、座敷の奥に通してくれたし。でも、こうなるとは思わないじゃないですか。
「で、何がどうしてこうなったんです?」
「先生がね、『自分のやりたいことを探してみたら?』 って提案してくれたんだ。だから今、それを実行しているんだ」
「なるほど、話の繋がりが読めん。ただ、諸悪の根源はやはり先生か……」
「なんかトマリって、私に対する当たりが強くない?」
自分の今までの行動と、その結果を考えれば自ずと理解できるだろ。今はそれよりも、結局アツコさんが何にをしたいのか丸で分からないのが怖い。そう言えば、マスクを取った素顔を初めて見たな……。
至近距離から目を合わせて、アツコさんから衝撃の一言が飛び出した。
「私はあなたと『恋』をしてみたい」
「じ、人選ミスッ……! 圧倒的人選ミスッ……!」
「はぁ……。私もそう言ったんだけど、姫もなかなか頑固だったんだ」
「とても……正気の沙汰とは思えない……!」
「恋は正気ではできないからね!」
「先生って、何故余計な発言しかしないんですか?」
実在していたのか、吊り橋効果……! 都市伝説ではなかったのか……!? でもおかしいな。俺がベアトリーチェに殴り込みに行った時って、アツコさんは気を失ってなかったか?
いや、前提を疑うべきだ。恋を『してみたい』だから、本当に恋をしている訳ではないとみた。悲しいかな、勇者や戦士が女性に言い寄られている裏で、チビ共とご老人に囲まれていた身だったから、とても現実とは思えない。美人局の方がまだ納得できるぐらいに。
「私は一応、姫だからね。トマリは囚われた姫を助けたってことになるよ」
「異議あり! 助けたのは先生とスクワッドです! 間違いありません! 俺は見ていませんけど、本当なんです! 信じてください!」
「でも、トマリが先行しなかったら、儀式の終わりまで間に合わなかったと思うよ? それに、囚われていた私に『絶対、大丈夫。何とかするから』って、最初に励ましてくれた。私、あれがなかったら、諦めてたかもしれない」
「あの時、意識あったんかい……。いやでも、最終的に救出したのは俺ではないので」
「それに、綺麗なクロスのネックレスまでくれたよ。ネックレスのプレゼントには、一緒に居てほしいって意味があるって、雑誌に書いてあった」
「ただの魔除けのお守りです……。誓って、特別な意味はございません!」
「でも、星が降る中で抱きしめて『もう少しだけ頑張って』って、優しく声を掛けてくれたよ」
「抱きしめてません! 風圧から保護していただけです!」
「最後のお別れのときに、手の甲にキスを……」
「してないです! 事実無根です!!」
「うーん、なかなか強情……」
全部曲解されてるし、最後に至っては完全に捏造である。俺がそんな顔面強者にしか許されない行動をする訳ないだろ!
誰かこの暴走姫を止めてくれよ。ヒヨリ? 奴は一人で肉を貪っているぞ。くそっ、俺もそっちが良かった!
主人公:肩身は狭かったが、それはそれとして肉は食べた。
アツコ:異性と恋をするなら、距離を詰めればいいんでしょ?
ミサキ:姫、それ多分違うと思う……。
ヒヨリ:お肉おいしいです……!