星々は、その光輝と神秘で人を魅了した。そして、それは、人類とウマ娘の歴史が始まって以来変わることがなかった。
永久とも想える長い時の中。その一欠片に、スマートファルコンは宇宙(ソラ)を眺めていた。
「……わたし。お星様みたいに、みんなが輝かしいと想えるウマドルになれるのかな……」
呟くように言った言葉は、虚空へと消えていく。スマートファルコンは、不調のただ中にいた。
それは彼女のウマ娘のあり方に起因するものだ。彼女は、ファンとの約束を果たす為に『地方巡業』という形でG1勝利ウマ娘であるにも関わらずオープンレースへ出向する事がある。
スマートファルコンに憧れを抱くファンは、彼女を自分の眼で見れる事に喜んでくれる。その事にファル子も疑いはない。
だが、その喜びは表裏と一体である。
『――――赤鬼ッ……!』
同じレースを走る地方のウマ娘から、そう呼ばれた事もあった。
彼女がダートのレースを走る。砂塵舞う荒れた舞台で、スマートファルコンは――当然の如く勝利する。
オープンレースのウマ娘とて、有象無象の木っ端ではない。トレセン学園に入学し、トレーニングに一定以上励み、実力と努力をもって勝利を一度以上は勝ち取った――狭き門をくぐり抜けた、いわば『秀才』達なのだ。
そんな者達からであっても、スマートファルコンという存在は畏敬の対象であり、恐怖の存在だった。
『……なんでG1に勝ったウマ娘がオープンまで降りてくるのよ……それも地方の……』
彼女と同じコースを走り、共に競い合う他のウマ娘達が言う。その言葉を耳に入れながら、スマートファルコンは……笑っていた。
挑発しているわけではない。気にしていないわけでもない。しかし「みんなが憧れるウマドル」として、大勢のファンの前で顔を曇らせるわけにもいかないのだ。
トレーナーにさえ、そんな気持ちは打ち明ける事が出来なかった。打ち明けてしまえば、地方のウマ娘達を責めてしまう形になりかねない。それはスマートファルコンの本意ではない。
「……みんなの憧れる……ウマドルになれたら、いいな……なりたいよ……」
小さな声で、誰に聞こえる事もない願いを口にする。いや、ソラに流れた一筋の「お星様」にだけは聞いてほしかったのかもしれない。
虚しい気持ちに、ファル子は涙を流しかけそうになった時だった。
――どごぉおおおおん!!
轟音と共に、地面が激しく揺れ動く。その衝撃は凄まじく、スマートファルコンは思わず尻尾を逆立てる。何が起こったのか解らないが、近くに何か落ちてきたのは確かだ。
慌てて立ち上がって、周囲を見渡す。すると、少し離れた地点にもうもうと砂埃が舞っているのが見えた。
何が落ちて来たんだろう? そう思っておそるおそる近づくと、砂煙の中から何かが聞こえた。
――ぐぅうううう…………。
……それは獣のうなり声ではなく、情けないような、頼りないような音だった。お腹が空いた時に鳴る虫の音。まさしくソレ。
ファル子は、自身の耳を疑った。いや、誰であろうと、こんな状況で空腹の音が耳に入れば疑うに違いない。
何かが落ちてきたと思った場所には、金色に輝くデフォルメ星型の隕石……その上に、ピンク色の手足がついたボールが乗っかっていた。
スマートファルコンは恐る恐るといった様子で近づき、その顔をのぞき込んだ。
――ぐぅうううう…………。
……やはりこのボールから、その音は鳴り響いているらしい。
「……お腹が空いてる、のかな?」
直感的に、そう思った。それ以外に、この音を説明できる事が思い浮かばなかった。
スマートファルコンは、そっと手を差し伸べた。それが普通のボールであれば、彼女はこのままソレを放置して立ち去っただろう。しかし、これは普通ではない。
何かはわからないが、異常だと感じるモノへ近づいているというのに、ファル子は不思議と恐怖を感じていなかった。むしろその逆で、彼女の中に浮かんでいたのは好奇心だった。
スマートファルコンは、門限の過ぎた寮にこっそり帰ってくると、既に寝ているであろうエイシンフラッシュを起こさないように、ゆっくりゆっくり冷蔵庫を開ける。
中には、エイシンフラッシュがオープンレースの勝利祝いに買っておいてくれた未開封のロールケーキが置いてあった。スマートファルコンはそれを食べたいのをこらえながら、内心でエイシンフラッシュに謝りつつ……皿に移してピンク色のボールの前に持って行った。
「どうぞ、召し上がれ☆ ……あ、でも動物さんは人間と同じもの食べられない事多いって聞くし、この子はロールケーキが毒なんて事は……」
そこまで言いかけて、スマートファルコンは言葉を切った。ピンク色のボールが、ロールケーキをよだれを垂らしてキラキラとした眼差しで見つめていたからだ。
「……どうぞ、召し上がれ♪」
なんとなく、ロールケーキは食べた事がありそうだと思った。ファル子は、その可愛らしいピンクの……宇宙人? 妖精を近くで眺めて微笑んでいた。
そのピンク色の生物は、ファル子が促すのが先か後か、大口を開けたかと思えば、空間を吸引する音を立ててロールケーキが吸い込まれていく。
――きゅいぃーん。
「へ?」
ロールケーキと一緒に……近くでニコニコ眺めていたファル子も、そのピンク色の物体に呑み込まれていった…………。
――ごっくん。きゅる、きゅいん!
「……何の音ですか?」
エイシンフラッシュが物音に気づいて目を覚ましたのか、電気を付けて冷蔵庫の場所までやってくる。
周囲には――ファル子の姿は無い。ベッドの方にも居なかった。……これはおかしい、とエイシンフラッシュは焦り始めた。
慌てて周囲に何か痕跡がないか見回す。何もない。変哲もない。綺麗さっぱり。
かと思えば、バランスボール程のピンク色の球体……が、……茶色い……カツラを被って…………。
「うー、しゃーい☆」
つづく。