砂のカービィと星のハヤブサ   作:稗田之蛙

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星になったファル子。

 ……意識を取り戻したスマートファルコンは、星々の真っ只中を漂っていた。

 手足を動かしてみると、もどかしさしか感じない。例えるなら、息苦しくない水の中に浮いているような……そんな感覚だった。

 

 おそらく、夢を見ているのだろう。明晰な意識の中で、ファル子はそう思った。

 

 ピンクの妖精に呑み込まれてしまった時は恐怖を覚えずにはいられなかったが、今この状況にはむしろ心地よさすら感じる。

 まるで、暖かい揺りかごの中にいるような感覚……このままここにいれば、嫌な事なんて何も起こらないのでは? このまま眠りにつければどんなに心地よいだろうか?

「ファル子。キラキラに輝くお星様になれたのかな?」

 ファル子は遠くを流れる一筋の星を眺めながら、ぽつりと呟いた。

 

【挿絵表示】

 

 ファル子は、対戦相手である地方のウマ娘にも慕われるようなウマドルになりたかった。だから、彼女達に不遜のないようにとキラキラな歌や踊りを練習した。レースだって人一倍頑張った。

 しかし、頑張れば頑張るほどそれは遠ざかっていった。今ではファル子を見る時は流れ星ではなく、隕石が降ってきたような顔をされる。

 いつしかキラキラに輝いて、皆の憧れになるようなウマドルではなく……人から離れたところで輝き続ける、孤独な星……ファル子は自分自身をそんな存在に感じていた。

「……」

 それが酷く悲しくて、辛くて……ついには星々の中で一筋の涙を流してしまった。

 それは星々のような輝きも持たず。ただ空間をすーっと流れていくだけ。

 

『ありがとう。でも、やっぱり練習にはファル子先輩がいないと、だめだよ……』

 どこからか、聞き覚えのある声がした。ファル子は声がした方を振り返る。そこにはあったのは一等星よりもずっとずっと輝かしい……『星々の集まる銀河』。

『私達がキミのフォームを参考に、模範(コピー)出来ない、っていうのもそうだけど、それだけじゃなくって……なんというか……』

 何か話をしているらしい。帰ったら一緒に練習すると約束していた子達だろうか? ファル子は懸命に耳をピンと張る。

 

『自分の走りに自信がない時に『すっごくキラキラだよ!』って、まるで本心から思ってくれてるように褒めてくれたりね。その後もちゃんとどう走り方を軌道修正すればいいのか、ヒントをくれたり』

『あー、そう。それ。なんというか、一緒にいたら前向きになれるっていうか……』

『士気がアゲアゲ? マジ卍みたいな』

 

 ファル子は、はっとした。これは自分の事だと。確かに、練習で付き合っていた時はそんな振る舞いをしていたが。

 

『ともかく、ファル子先輩がいてくれたら助かる。ううん、私達にとっては居ないとダメな人で、練習とかもそうだけど、先輩というか、友人というか……学友として、一緒に居たいの』

 

 ……ファル子は後輩の温かい言葉を耳にして、胸がじんっと熱くなるのを感じた。

 仲が良い方だとは思っていたが、後輩達がそんな風に思っていてくれただなんて、知らなかった。

 だから皆のそんな言葉がとても嬉しくて……先とは違う種類の涙が、自然ともう一筋流れた。

 今度の涙は、銀河の輝きを受けてまるで星のように輝いて見える。

 

『この後、みんなでファル子先輩が行きそうで思い当たる場所にしらみつぶしでいってみます……?』

『でも貴女たちには練習が』

『ファル子先輩を見捨てて練習に励むのも、なんだか調子が狂っちゃうというか……お友達に対して薄情って『キラキラじゃない』って思うんです。ハイ』

 

 エイシンフラッシュと後輩が話し合う声が聞こえる。どうやら、練習を放棄してファル子を探そうとしているらしい。

 そして同時に申し訳なかった。自分が居なくなった事で皆が困っているのではないかと思いやられて。

「うん……キラキラのお星様になりたい、なんて願うより。みんなの元に戻らなきゃ……!」

 

 そう思って、銀河の中に、手を伸ばそうとした瞬間――――

 

 

『ちぇすとおォォおおおおおおーーーー!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 この世のモノとは思えぬ地獄の鐘のような轟音が銀河の方向から放たれ、そこでファル子の意識は途絶えた……。

 

 

 

 

 

「ぺぽっ……?」

 次に意識を取り戻した時に見えたのは、青い空、白い雲、ピンクの球体。

 ファル子の事を呑み込んだピンク色の妖精は、気絶していたファル子を心配そうに覗き込んでいる。

「……あれ、ファル子……呑み込まれたはずじゃ……」

 そのはずであるが、手足や衣服を見てみる。五体満足。耳が少しキーンとするが、たぶん夢の残滓だろう。

 今は少し冷たい空気が心地よかった。頭後ろには、タオルが敷いてある。ピンク色の妖精が敷いてくれたのだろう。

「ありがとうね。妖精さん」

「はーいっ♪」

 スマートファルコンは頭をぽりぽりと掻いた後、立ち上がる。ピンク色の球体がぴょんぴょんと飛び跳ねながら、ファル子が無事な様子に喜んだ。

「さて……お日様の位置的に練習時間かな? まずは、トレーナーとか練習約束してた子に謝らないと……」

 そう思って周囲を見やる。

 

 

 エイシンフラッシュ、後輩達、その複数人が青白い顔をしてその場に倒れていた。

 

 

 

 

 

「驚愕! 轟音が鳴り響いて様子を見に来たと思えば、生徒が倒れ伏しているとは……」

 轟音を聞いて駆けつけてきた理事長とたづな、そして職員達が救護に当たる。

「あー、えーっと。なんで気絶してたんだか……」

「私、練習中に……日射病かなぁ?」

 事情聴取中にそんな言葉が聞けた。

「救護! とりあえず大事を取って保健室に連れて行くのだ! ……そして、ファルコン」

「は、はいっ!」

 理事長の鋭い目線がファルコンを襲う。ファル子は、なんとなく叱られるような気がして肩を縮こまらせた。

 確かに、無断で寮を抜け出したのは。皆に心配をかけたことは間違いない……。

 だがしかし、理事長は怒らなかった。真剣な顔をしながら口を開いた。

「悩みがあるなら、ちゃんと周囲の人間に相談するといい。一人で抱え込むのはよくないぞ? ……あとでトレーナー共々理事長室に来るように」

 ファル子は眼を丸くした。それから、理事長は真剣な顔を崩して、微笑む。

 ファル子がなんとなく自分の目元に指を当ててみると、濡れていた。たぶん、泣いた痕があったからその辺りはバレたのかもしれない。

 何か見透かされているのは恥ずかしい気持ちだったが、同時に頼もしいとも思った。

「ファルコンさん」

 呼びかけに振り向くと、そこにいたのは同室の学友――エイシンフラッシュ。

 彼女はファル子の事を真っ直ぐに見つめながら、抱きしめてきた。

「おかえりなさい」

 彼女はファル子を抱きしめながら、短くそう言った。

 

「はーい♪」

 足下から可愛らしい音が聞こえてきて、皆もそちらの方を向く。

 見れば、ピンクの球体が「何かハッピーエンドな雰囲気だ」というのを感じ取ったのか、嬉しそうにダンスを踊っていた。

 

「そういえば、この子は? 先ほどまでファルコンさんのカツラを被っていましたが……」

 今となっては、何も被っていない。すっぴん状態。

 ファル子はエイシンフラッシュから一旦身体を離し、ピンクの球体を抱き上げて目線を合わせる。

「ぽぺ?」

 ファル子がニコニコと笑うとピンク色の球体もにぱっと笑った。

 どういう生物なのかは理解出来ないが。しかし、これからわかっていけばいいし、少なくとも――先ほど良い夢を観られたからか――この子と接していきたいとファル子は思った。

 

「ファル子の新しい、お友達、って紹介していいかな?」

「はいっ♪」

 

【挿絵表示】

 

 

つづく。

1~3話のように挿絵の要素が大きい小説

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