――百鬼夜行・商店街*1
「それでは、私たちはお祭り運営委員会として最後の準備があるので、一旦失礼しますね。きちんとしたお礼は、また後ほどさせてください」
「お頭! 良い席でクライマックスを見届けてクダサイね!」
「先生、今日はお疲れ様です。ひと仕事終えたあとのお菓子は、糖分が脳に染みる……! お礼の品と言うにはささやかかもしれませんが……先生も、お一つどうぞ」
「うん、ありがとう。3人ともお疲れ様」
アナからお菓子の袋を受け取ったハクノは、軽く頷きながら、お祭り運営委員会の3人に労いの言葉をかける。
「では先生、自分たちもこの辺りで……ミカ、今夜はお祭りデートを楽しもっか!」
「うん。今日は色々あったけど、気を取り直して……いざ! デートへ出発~!」
シズコたちに続くように、ハルとミカは手を繋ぎ、楽しげに商店街の中を歩き出した。途中で一度振り返り、ハクノに笑顔で手を振る。その後、賑わう祭りの喧騒に溶け込むように彼女たちの姿は見えなくなった。そうして生徒たちを見送り、一人残されたハクノもゆったりと歩を進める。
「もうすぐあの、ミレニアムと合作の花火が始まるって!」
「遅れる前に早く行こう!」
人々の流れに乗って、花火会場の方へと移動する。花火が綺麗に見られる展望台は、多くの人で賑わっていた。そんな人混みの中でも、すぐに彼女を見つけることができた。
「ひ、人が多すぎて、イズナ、酸欠になりそうです~」
「イズナ!」
「あっ、この声は……! せんせ……いえ、主殿!」
急に走ってきたイズナの勢いで、危うく倒れそうになりながらもその小さな体を受け止める。*2
「主殿! イズナが見晴らしの良い場所を見つけておきましたので! あそこがちょうど……」
笑顔を輝かせたイズナが指差す方向に目を向けると――
「……って、ああぁっ! すぐ人でいっぱいに! うわぁん! ど、どうしましょう!? さっきの場所も道も、全部塞がれてしまいました!」
……既に人で埋め尽くされていた。どうやら花火を特等席で見るために、みんな考えることは同じらしい。この混雑では、とてもじゃないがあの場所には辿り着けないだろう。慌てるイズナを落ち着かせるように、ハクノは穏やかに提案した。
「落ち着いて。人混みの中でも見づらいし、ここで見ようか」
「は、はい! えへへっ!」
ヒューッ、ドン!
「あ、始まりました……!」*3
夜空に火の玉が上がり、音を立てて弾けた。次から次に、色とりどりの花火が空へと打ち上げられる。赤、青、黄色……様々な色の光が夜の闇を彩り、その美しさに人々は歓声をあげた。
イズナは目を輝かせながら、食い入るように花火を見つめる。百鬼夜行の名物――巨大な桜の木を背景に、夜空を彩るその花火たちは、まさに百花繚乱の様相を呈していた。瞳の中に満開の花火を映すイズナが、興奮を抑えられない声を上げる。
「わあっ! 素敵です!」
空に咲き誇っては消えていく、儚くも美しい夜の徒花。それは須臾の内に散りゆく実を結ぶことのない花でありながら、永遠に多くの人の心に残り続けるような美しさを秘めていた。
「えへへっ、この景色……主殿と一緒に見られるだなんて……」
うっとりと花火を眺めていたイズナだったが、ふと表情を曇らせると、ゆっくりとハクノの方に向き直った。
「主殿……その、イズナ、色々とご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。イズナは、イズナは……」
「気にしないで、これでも先生だから。生徒にかけられる迷惑なら、いつでも大歓迎だよ」
「先生……」
不安げな表情を見せるイズナに、ハクノは柔らかな声で優しく語りかけた。その言葉に耳を傾けたイズナは、数秒ほど目を閉じて心を整えた後、心を決めたように満開の笑顔で口を開いた。
「えへへっ……主殿! イズナ、ここに宣言します! 先生は、主殿は、私の夢を応援してくださる方! これから先、イズナは主殿に忠誠を誓います!」
「そ、そっか」
「ですので主殿! これからもイズナを、末永くよろしくお願い致します! イズナはこれからも修行を続けて、主殿のために頑張っていきますので! ニンニン! えへへっ……!」
まるで告白のようなその言葉に少し戸惑いを覚えながらも、イズナの純粋な瞳に宿る真っ直ぐな思いを感じ取り、ハクノもイズナに応えるように彼女の瞳をしっかりと見つめて返事をした。
――ドンッ! ヒュー……ドォンッ! 少しずつ花火の勢いが衰えてきた。そろそろフィナーレだろうか。最後の一花までを目に焼き付けようと、2人並んで静かに夜空を見上げる。
そして最後の花火が上がり、祭りの終わりを告げるかのように、一際大きな爆発音が轟いた。
――百鬼夜行・第38旧校舎*4
数日後――百鬼夜行連合学院の校舎の一つにて。1枚のチラシを片手に、ある教室の前へと辿り着いたイズナは、その教室の引違い戸に貼られた張り紙を見つけ、目をキラキラと輝かせる。
「おお、ここが噂に聞いた忍術研究部……! 忍術を研究する部活があるだなんて……イズナ、全然知りませんでした! ここで修行すれば、イズナも立派な忍者に……!」
期待に胸を膨らませたイズナは、小さく頷き、意を決してトントントンと戸を叩いた。
「……よし! 失礼します……!」
――ガラッ! ……と、そこには。
後書き:
『Event.1 桜花爛漫お祭り騒ぎ!~空に徒花 地に忍び~』はこれにて閉幕。
次章 校境なき生徒会『Vol.2 名もなき王女のためのパヴァーヌ 第1章』お楽しみに
次章予告:
【テーマ曲:Way of Life】英雄伝説 零の軌跡より
「眠っていたアリスを起こしてくれたのは、ゲームをこよなく愛する仲間たち」
「勝利へのシナリオが見えた!」 シナリオライター 才羽モモイ
「ドットを打つように緻密に……!」 グラフィック担当 才羽ミドリ
「わたしはエースパイロットです。……ゲームでの話ですが」 ゲーム開発部部長 花岡ユズ
「あなたのような優秀な人材が欲しかったのよ」 No.Ⅲ ■■■■
「死線が忌み名……お見せいたします」 No.Ⅳ ■■■■■
「運がよかった? いいえ、計算通りです」 冷酷な算術使い 早瀬ユウカ
「私は、私が正しいと信じる道を進むだけよ」 ビッグシスター 調月リオ
「先生もゲーム、好きですか?」