ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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Vol.2 名もなき王女のためのパヴァーヌ 1章 レトロチック・ロマン
2-1-1 冒険の始まり


 ――???*1

 

……

 

私の声が、聞こえますか……

 

そこにいますか? この世界を救う――

 

 遠くから声がする。

 

「――勇者よ。あなたのことを、ずっと待っていました。今こそ、全てを話しましょう。太古、天使と魔族が……」

 

 夢の中のように神秘的な――

 

「カットカット、カッーーート! ダメダメ、ありきたりすぎ! これだと発売と同時に転けそうな感じ!」

 

 響き渡る誰かの声が、それまでの言葉を押し流すように割り込んできた。その瞬間、場の空気は一変する。漂っていた神秘の余韻は容赦なく掻き消され、どこか寂しげな雰囲気を醸していたBGMも、断ち切られるように途切れてしまった。

 

「私がユーザーだったら、プロローグでこのテキストが出た瞬間に「あ、やめよ」ってなるよ!」

 

「そうかなぁ……今の、王道で結構良い感じだと思うけど……」

 

「いやいや、ダメダメだよ! とにかく、もう一回! うーん……」

 

 先ほど途切れたBGMが再び流れ出す。静かで荘厳な調べが空気を包み込み、どこか神秘的だった雰囲気を取り戻そうとしているかのようだ。それに呼応するかのように、声のトーンも落ち着きを取り戻し、優しく語りかけるような口調に変わっていった。

 

「……勇者よ、あなたを待っていました。私は、女神《モモリア》。私たちの世界《ミレニアムランド》は今、過去に類を見ない危機に瀕しています」

 

 まるで古き良きゲームの冒頭シーンを彷彿とさせるような言葉。その謎の声――自らを女神モモリアと名乗る人物――は、語りかける調子を崩すことなく、慎重に、それでいて神秘的な空気を維持しながら言の葉を紡いでいく。

 

「この危機を乗り越え、生徒会の廃部命令からゲーム開発部を……いえ、《ミレニアムランド》を救えるのは、あなただけです。過酷な道のりになるかもしれません……それでも、どうかお願い致します」

 

 語りが進むにつれ、聞く者の心を引き込もうとするような力強い響きが加わっていく。その中には、どこか不自然な内容も含まれているように感じられたが、不思議と話の流れに沿う形で語り続けられる。

 

「これから始まる、あなたの冒険のその先に……どんな試練や逆境が待ち受けているのか、今はまだ分かりません。ですが……どうか最後まで、勇気だけは失わないでください。勇者様の傍には、旅路を共にする少女たちもいるはずですから」

 

 勇者の冒険を支える仲間たち――その存在を示唆するかのような言葉を紡ぎ終えると、モモリア(仮)は小さく息をつき、まるで心を決めたかのように頷いた。そして、一呼吸を置いてから、最後の言葉を口にする。

 

新しい世界で、あなたはその少女たちから「勇者」ではなく……

 

もっと特別な、ふさわしい名で呼ばれることになるでしょう

 

その名前とは――

 

 

 

 ――???*2

 

「先生!!」

 

「――はっ!?」

 

 大きな声に驚いて目を覚ます。目の前に広がっていたのは、見慣れない天井。体を起こし、呆然と左右を見回す。起き抜けに口を衝いて出たのは、極めてシンプルな疑問の言葉だった。

 

「ここは、どこ……?」

 

 昨今では珍しいブラウン管テレビが3台と、様々な種類の据え置きゲーム機が所狭しと並べられたゲーム部屋――いくら記憶を探っても、そんな場所の心当たりはなかった。まだ半分は寝ぼけている頭で、今自分の置かれている状況を理解しようと試みる――が。

 

「あっ、目覚めた!? 気が付いたか? 君は運がいいな!」

 

「急に変な喋り方しないで、先生が戸惑ってるでしょ」

 

 その思考を遮るように、見知らぬ2人の少女が声をかけてきた。双子だろうか。雰囲気や顔つきにはわずかな違いがあるものの、お揃いのネコミミ型のヘッドホンカチューシャと瞳の色――片方は桃色、もう片方は緑色――を除けば、ほとんど見分けがつかないほどよく似ている。

 

「へへっ、嬉しくってつい……先生、大丈夫? このまま目を覚まさないのかと思ったよ」

 

「本当に良かったです。お姉ちゃんが窓の外に投げたプライステーションが、偶然とはいえ先生の頭に命中した時は……このまま殺人事件の容疑者になってしまうかと思いました」

 

「次からは気を付けてね? 先生は、弾丸一つでも命に関わるくらい貧弱なんだから」

 

 双子の少女に真剣な表情で注意を促すのは、オフィスレディ――俗に言うOLが仕事で着るようなレディーススーツ風の黒い制服に身を包むハルだった。その隣では、首元に水色のリボンをあしらったメイド服を身に纏ったミカが、うんうんと同調するように頷いている。

 

「お姉ちゃんの代わりに謝ります。ごめんなさい、先生」

 

「ふーんだ。そう言うミドリだって、私が「もしかして先生に当たっちゃったかも!?」って叫んだ時、第一声は「プライステーションは無事!?」だったじゃん」

 

「そ、それは、私たちゲーム開発部の財産リスト第1号だし、思わず……」

 

 桃色の少女――姉の言葉に、緑色の少女――妹は、少し恥ずかしそうに目を伏せる。原因こそ間違いなく姉の方にあるが、自分も人のことを言えないような反応をした自覚が、多少なりともあるようだ。

 

「と、とにかく!! 先生は、あのシャーレから来たんですよね?」

 

「うわっ、本当に!? じゃあ私たちが送った手紙、読んでくれたんだ! もし読んでくれたとしても、本当に来てくれるなんて思ってなかった!」

 

「手紙って、あの……」

 

 少しずつ、ハクノは意識を失う前の記憶を取り戻していく。何時も通り執務室で書類仕事に追われていた彼の下に届いた一通の手紙。それが、この学園を訪れる切っ掛けになったことを――。

 

 

 

 ――シャーレ・執務室*3

 

『先生、ミレニアムサイエンススクールから要請が届きました。送り主は……ミレニアムのゲーム開発部? みたいです』

 

「ゲーム開発部……! ゲームは生活必需品だからね、これは是非とも協力しないと!」

 

 シッテムの箱の画面に映るアロナが口にした《ゲーム開発部》という名前が耳に入るや否や、童心を忘れず、スマホゲーに高額課金するなど趣味や欲望に忠実なハクノは、書類仕事などそっちのけで目を輝かせた。

 

「えっと、なになに……」

 

『ゲーム開発部は今、存続の危機に陥ってます。生徒会からの廃部命令により破滅が目前に迫っている今、助けを求められる相手はあなただけです。勇者よ、どうか私たちを助けてください』

 

「これはまた……」

 

『すごく面白いと言いますか……かなり切羽詰まっているということは、ひしひしと伝わってきますね……』

 

 アロナが言葉を選ぶのも無理はない。何と言うか、内容がまるで典型的なゲームのプロローグそのものだ。とはいえ、文面から判断する限り、余裕がない状況なのは間違いなさそうだが……。

 

『あ、先生はミレニアムサイエンススクールについてご存知ですか?』

 

「うん、少しくらいなら。ユウカの通っている学校だよね?」

 

『はい、その通りです。ミレニアムサイエンススクールはトリニティ、ゲヘナと合わせてキヴォトス三大学園と呼ばれる大きな学校です。通称ミレニアム、他のどんな学園よりも合理と技術に重きを置いています。科学の研究に特化しており、理系の生徒さんたちが多く集まっていることが特徴ですね』

 

 なるほど、とハクノは頷いた。要するに、勉学を究めるための教育機関というより、技術や知識を追究するための研究機関のようなものなのだろう。さらに言えば、三大学園などと大仰な名で呼ばれていることから、それ相応の研究成果を出しているのも容易に想像できる。

 

『伝統ある名家のような他の二つ、ゲヘナとトリニティに比べると歴史は長くありませんが、影響力という点においては引けを取りません。キヴォトスで「最新鋭」或いは「最先端」の名を冠するものは、そのほとんどがミレニアムから生まれると言っても過言ではないくらいです』

 

 実際、彼の推測は的を射ていた。歴史が浅いにも拘わらず、残り二校の三大学園にも劣らない影響力を有する最大の理由は、子供・大人問わずに他の追随を許さない突出した技術力にある。

 

『そんな学校なのですが……一体何があったのでしょうか?』

 

 

 

 ――ミレニアム・ゲーム開発部*4

 

 そして、同行を申し出たハルとミカの2人と共にミレニアムを訪れたところ、突然の衝撃で意識を失い、目が覚めたらこの部屋の布団に寝かされていたというわけだ。会話の内容からして、プライステーション――ゲーム機が頭部にクリティカルヒットした影響で気絶したらしい。

 

「改めて……ゲーム開発部へようこそ、先生!」

 

「先生に来ていただけて、嬉しいです」

 

 記憶の整理が終わるのを見計らったかのように、双子の少女たちが歓迎の言葉を口にする。

 

「私はゲーム開発部、シナリオライターのモモイ!」

 

「私はミドリ。イラストレーターで、ゲームのビジュアル全般を担当してます」

 

「あと今はここにいないけど、企画周りを担当してる私たちの部長、ユズを含めて……」

 

「「私たちが、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部だよ!/です!」」

 

 双子の姉妹は、自分たちの名前と役割を誇らしげに語った。姉のモモイと妹のミドリ、名は体を表すとはよく言ったもので、それぞれ桃色と緑色を基調とした装備を纏っている。さらに、部屋の片隅に置かれた銃も、統一感を損なうことなく同じ色合いで揃えられていた。

 

「よしっ! じゃあ先生も起きたことだし、『廃墟』に行くとしよっか!」

 

「廃墟……? あの、もうちょっと詳しく状況を説明してくれる?」

 

「あー……そっか、先生はまだ何も聞いてないからね」

 

 疑問を口にするハクノに、ミカが「そういえばそうだった」とばかりに苦笑を浮かべた。

 

「じゃあ最初から順に説明するね。えっとね、まず私たちゲーム開発部は今までずっと、平和に16ビットのゲームとかを作ってたんだけど。ある日……急に生徒会から襲撃されたの! 一昨日には、生徒会四天王の1人であるユウカから最後通牒を突きつけられて」

 

「最後通牒?」

 

「――それに関しては、私から直接ご説明しましょうか?」

 

 鸚鵡返しに尋ねたハクノに、扉の方から別の少女の声が返ってきた。見ると、何時の間にか1人の少女が立っている。彼女の姿と声を見聞きしたモモイとミドリは盛大に頬を引き攣らせた。

 

「こ、この声は!?」

 

 そこに立っていたのは――。

*1
【推奨BGM:Morose Dreamer】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:Pixel Time】ブルーアーカイブより

*3
【推奨BGM:特務支援課】英雄伝説 零の軌跡より

*4
【推奨BGM:On The Green Road】英雄伝説 零の軌跡より




TIPS:
ゲーム開発部。
その名の通りゲーム開発をしている部活動だが、いわゆるレトロゲーム同好会のような側面も強く、最新科学を追及するミレニアム内では変わり者扱い。とはいえレゲー以外のゲームも作っているらしくゲームセンターで遊べる筐体タイプのゲームの開発なども行っている。

本章の衣装
蒼井ハル:セミナーの制服。リオと同じ制服を着た岸波白野(女)。
聖園ミカ:C&Cの制服。多分、アカネと同じ型のメイド服を着ている。
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