ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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0-2 災厄の狐

 ――D.U.外郭地区・シャーレの部室付近*1

 

 遠くの方から放たれた砲弾が、激しい音とともに地面を抉り、周囲の建物を爆発炎上させる。

 

「な、なに、これ!?」

 

 タタタタタタッ!!

 

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

 

 SMG(サブマシンガン)から銃弾をバラ撒きながら、ユウカは自分の置かれた状況に憤りの声を上げる。連邦生徒会に状況説明を求めるために連邦生徒会室まで訪れたというのに、どういうわけかこうして不良たちと戦わされている。彼女が怒りと不満を露わにするのも無理はないだろう。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……」

 

「それは聞いたけど……!」

 

 眼鏡の少女――ゲヘナ学園の風紀委員会に在籍する火宮(ひのみや)チナツの返答に、しかし納得できないとばかりにユウカは意見する。

 

「私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど! なんで私がこんなことを……!」

 

 パパパパパッ!

 

「いっ、痛っ!! 痛いってば!! あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!」

 

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定はされてはいません」

 

「うちの学校ではこれから違法になるの! 傷跡が残るでしょ!」

 

 トリニティ総合学園の3年生。学園内外を問わずトリニティ総合学園自治区における違反行為を取り締まる治安維持組織・正義実現委員会の副委員長を務めている黒翼の少女――羽川(はねかわ)ハスミが、悪態をつくユウカに、冷静な口調で注意を促す。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です」

 

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点、ご注意を!」

 

「分かってるわ」

 

「よし……それなら、自分が先生を護衛するよ。ミカ、前の方は頼んでもいいかな?」

 

「オッケー!」

 

「先生、先生は前に出ないでください! 私たちが戦ってる間は、後ろの方にいてくださいね!」

 

 部隊編成は早瀬ユウカ、火宮チナツ、羽川ハスミ、聖園ミカ、そして白髪の少女――ハスミと同じトリニティ総合学園の生徒。本校内にあるトリニティ自警団の団員、守月(もりづき)スズミ。

 5人の顔をさっと見回したハクノは、迫りくる不良たちを見据えながら、生徒たちに宣言した。

 

「今から私の指示に従って」*2

 

「え、ええっ? 戦術指揮をされるんですか? まあ……先生ですし……」

 

「分かりました。これより先生の指揮に従います」

 

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」

 

「了解です、先生」

 

「ふ~ん? 戦術指揮? お手並み拝見かなぁ」

 

 五者五様の反応を見せる生徒たち。その前には、何人もの不良たちが迫っている。

 

「よし、始めようか」

 

 現在、ハクノの指揮下にある生徒たちは、学園都市全体でも上澄みに位置する実力者ばかりだ。

 一般生徒とは比較にならない戦闘能力を持っているが、有象無象の類といえど、流石にこの人数を一度に相手にするのは骨が折れる。不可能ではないが、時間がかかるだろう。

 だが、彼女たちの想定を覆すほどの指揮能力をハクノは有していた。正確に、尚且つ迅速に、生徒たちに指示を出すことで、数の差で圧倒的に劣る状況を驚くほど速やかに打破していく。

 

「なるほどー、ふーん……うん、ハルちゃんが期待を寄せるだけのことはあるかも」

 

 最後の一人を撃ち抜いたミカが、戦闘の余韻を残しつつも興味深そうにハクノに視線を移す。

 

「確かに……なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします……」

 

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」

 

「なるほど……これが先生の力……まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か……」

 

 スズミ、ハスミ、ユウカの順に感嘆の声が次々と上がる。

 

「それでは次の戦闘もよろしくお願いします、先生」

 

「任せて」

 

 ハクノは自信に満ちた表情で、次の戦場に向けて視線を鋭く切り替えた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「もうシャーレの部室は目の前よ!」

 

 幾度かの戦闘を経て、一行は着実に目的地へと近づいていた。

 

『今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました』

 

 通信が入る。画面に映るのは、シャーレ奪還の協力をユウカたちに要請した首席行政官のリン。

 一人、後方で情報収集に務めていた彼女は、集めた情報を前線の部隊に共有する。ハクノの端末に狐面を被った和装の少女が表示される。

 

『ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください』

 

 狐坂(こさか)ワカモ――無差別且つ大規模な破壊行為を行うことから《災厄の狐》と呼ばれている特級危険人物。固有武器は『真紅の災厄』。九九式短小銃(ボルトアクションライフル)三十年式銃剣(銃剣)を取り付けたもの。

 連邦生徒会の管理するデータに目を通したハクノは、それを記憶の片隅に留めながら、シャーレの部室の方向に視線を向ける。その先では、

 

「……あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフッ、まあ構いません」

 

 赤と黒の華のような形状をしたヘイローを頭上に輝かせた和装の少女――ワカモが嗤っていた。

 

「あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしてる物と聞いてしまうと……壊さないと気が済みませんね……。ああ……久しぶりのお楽しみになりそうです、ウフフフ♡」

 

 黒幕の正体は判明した。遮蔽物で身を守りながら、黒幕の待つシャーレの部室に向かって突き進んでいく。前衛に立つユウカたちが不良集団を一掃すると、遂にその姿を捉えた。

 

「騒動の中心人物を発見! 対処します!」

 

 ワカモの姿を目視で確認したハスミがボルトアクションライフルを向け、発砲する。

 

「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。お可愛らしいこと」

 

 舞うような所作で銃弾を避けたワカモは、狐面の下でニヤリと嘲笑を漏らし――

 

「でも残念、今は遊んでいる時間はありませんからね。皆様、後は任せます」

 

 周りにいる不良生徒たちに指示を出し、自らは後方へと退避していく。

 

「……って、逃げられてるじゃない!? 追うわよ!」

 

「いいえ、生半可な行動をしてはなりません。私たちの目標はあくまでも、シャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです」

 

「……うん、まあいいわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃないってことね」

 

「罠かもしれませんし」

 

「はい。建物の奪還を優先で。このまま引き続き、進むとしましょう」

 

 他の生徒たちもハスミの言葉に賛同する。ワカモの後を追うように前進した一同は、シャーレの部室の目の前まで来ると、辺りを占拠する不良たちを制圧する。

 

「よし! 建物の入口まで到着!」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ――

 

「……うん? この音は……」

 

「気を付けてください、巡航戦車です……!」

 

 巡航戦車――戦車の分類の一つ。機動力を犠牲にして防御力を上げた歩兵戦車とは逆に、防御力を代償として機動力を優先した戦車だ。とはいえ、巡航戦車も戦車の名に恥じぬだけの耐久力は備えている。少なくとも、一般生徒に対処できるようなものではない。

 

「クルセイダー1型……!」

 

「トリニティの制式戦車と同じ型だね。うーん、ブラックマーケット経由かな?」

 

「もしくはPMCに流れたものを不良たちが買い上げたのかもしれません」

 

「何にせよ、不法に流通された物に違いないわ!」

 

 クルセイダー巡航戦車の砲口が、土嚢などの遮蔽物を薙ぎ払いながらユウカたちに向けられる。

 

 ヒュオオオオーーー!!

 

 発射。空を裂き、主砲の砲弾が凄まじい速度で飛来する。銃弾の直撃すら痛いで済む非常に頑丈なキヴォトスの住人でも、流石に戦車の主砲の直撃を喰らえばただでは済まない。相応の怪我を負うことになる。

 

「うへ~、流石に痛いな~」

 

 ――だが、ここに例外が存在する。簡素な輪の形状をしていたヘイローを、開いた瞳のような形状に変化させたハルが、クルセイダーの主砲から発射された砲弾を片手で受け止める。お手玉でもするように軽々と砲弾を掌中で弄ぶハルは、

 

「お返し、だよ!」

 

 それを戦車に向かって投擲した。

 

 ドカアアァァァァン!

 

 クルセイダーの砲塔に直撃した砲弾が炸裂。一発の爆発で、クルセイダー巡航戦車が轟沈する。

 

『流石は《(よろず)の魔人》……連邦生徒会長から幾度となく逃げ切った生徒ですね』

 

(よろず)の魔人?」

 

『はい。十人十色、一人一人特色の異なる生徒の力を完全に模倣する万能。今回の騒ぎの主犯であるワカモ以上に危険視されている危険人物です』

 

  生徒たちは、各々特有の神秘をその身に宿している。それは、他の誰にも真似できないその生徒だけの力。しかし、蒼井ハルはその神秘を完全に模倣する。故に、(よろず)。彼女を敵に回すということは、彼女と交友関係にある生徒全てを同時に敵に回すの同義と言っても過言ではない。

 

「楽勝~☆ 大したことなかったね」

 

『『シャーレ』部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう』

 

 

 

 ――シャーレ・建物の地下*3

 

「うーん……これが一体何なのか、まったく分かりませんね。これでは壊そうにも……」

 

 シャーレの建物内部に侵入したワカモは、地下に設置された謎の装置を前に首を捻っていた。

 

「……あら?」

 

 すると、部屋の中に新たな人物が入ってきた。その人物は、キヴォトスの生徒であれば例外なく持っているはずのヘイローを有しておらず、大人の男性の姿をしている――

 

「あら、あららら……」

 

「……?」

 

「あ、ああ……」

 

「あの、どう……」

 

「し、し……。失礼いたしましたー!!」

 

 ビュン、と目にも留まらぬ速度で部屋の外へ逃げ出したワカモ。部屋に入ってきた人物――ハクノは、その後ろ姿を不思議そうに見つめていた。

 

 

 

 ――シャーレ・建物の地下*4

 

「お待たせしました」

 

 数分後。地下で待機していたハクノの元に、作戦中オペレーターを務めていたリンが到着した。

 

「……? 何かありましたか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「……そうですか。ここに、連邦生徒会長の残したものが保管されています」

 

 スッとリンが徐ろに取り出したのはタブレット型の端末だった。

 

「幸い、傷一つなく無事ですね。……受け取ってください」

 

「タブレット端末……?」

 

「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残した物。『シッテムの箱』です」

 

 どこかで聞いたことがあるような気がする……と、ハクノは思考を巡らせるが、具体的に心当たりがあるわけではない。拭いきれない違和感を覚えつつも、すぐに思考を目の前に切り替える。

 

「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みの全てが不明。連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました」

 

 リンの説明を聞き、ハクノは『シッテムの箱』をまじまじと見つめる。

 

「私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

 

「……」

 

「……では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかってます。邪魔にならないよう、離れています」

 

 リンから『シッテムの箱』を渡されたハクノは、無意識のうちに端末の電源を入れていた。

 

 

 

 …

 Connecting To Crate of Shittim…

 

 システム接続パスワードをご入力ください。

 

 

 

 ……我々は望む、七つの嘆きを。

 ……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 接続パスワード承認。

 現在の接続者情報は岸波ハクノ、確認できました。

 

 『シッテムの箱』へようこそ、ハクノ先生。

 生体認証及び認証書作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。

*1
【推奨BGM:Alert】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:Get Over The Barrier!】英雄伝説 零の軌跡より

*3
【推奨BGM:Shady Girls】ブルーアーカイブより

*4
【推奨BGM:Interface】ブルーアーカイブより




TIPS:
この作品の生徒側の主人公である蒼井ハルの神秘の性質は『模倣』。
ゲーム的に言えば、プレイヤー自身が育成した生徒一人の能力をそのまま反映する。
通称『生きた大人のカード』。
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