ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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【OPテーマ:碧き願い】英雄伝説 碧の軌跡 Evolutionより


Evolution Vol.0 もうひとつのプロローグ
E-0-1 先生、赴任


 ――連邦生徒会室・ロビー*1

 

「……い」

 

 無銘生徒会の生徒会長――蒼井ハルが仲間たちと共に数々の厄災を乗り越えてから十年。子供から大人に、可憐な外見はそのままに、彼女は全ての生徒の味方としてシャーレの職員になった。

 

「……先生、起きてください。ハル先生!!」

 

 シャーレの仕事は激務だ。10年前、先生1人でシャーレを管理運営していた開設当時よりは改善されたとはいえ、数千ある学園の生徒から持ち込まれる業務量は生半可なものではない。自宅に帰りそびれ、オフィス内部の居住区で寝泊まりすることも多い。

 今日も当番の生徒が起こしに来てくれたのだろうか。そんなことを思いながらも目を開けると、そこには見覚えのある少女の顔があった。

 

「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」

 

「え……?」

 

「……夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」

 

 ふと周りを見渡すと、見慣れた執務室ではなく、連邦生徒会のロビーにいることに気付いた。さらに、連邦生徒会の制服を着た目の前の彼女が発した言葉、これではまるで……。

 

「もう一度、改めて今の状況をお伝えします」

 

「うん、お願いするよ」

 

「私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生……のようですが」

 

 間違いない。自分は先生として別の並行世界(キヴォトス)に召喚された。しかし、なぜこんなことに? 未だ認識が追いつかず、呆然としながらも頭をフル回転させるハルに、リンは説明を続ける。

 

「……ああ。推測形でご説明したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」

 

「……そうなんだ」

 

「混乱されてますよね。分かります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私に付いてきてください。どうしても、先生に協力していただきたいことがあるのです」

 

 くるりと踵を返すと、リンはエレベーターのある方に向かって歩き出した。

 

「まずは情報の共有を。現状に付いては移動しながらご説明します」 

 

「その前にひとつ。私は、何をすればいいのかな?」 

 

「学園都市の命運をかけた大事なこと……ということにしておきましょう」

 

 気になることは多いものの、まずはこの世界の状況を把握するのが最優先だろうと判断したハルは、大人しくリンに付いていくことにした。ロビー内に設けられたエレベーターに乗り込むと、リンは1Fと書かれたボタンを押す。

 

 ウィイイイイイイン――

 

 エレベーターの壁面はガラス張りになっており、外の景色を望むことができる。そこから景色を眺めると、見慣れた/見たことのない青空と都市が広がっていた。

 

「『キヴォトス』へようこそ。先生」

 

「……ようこそ、か。私もここの出身なんだけどなぁ……」

 

 と言いながら、窓に映る自分の姿を一瞥する。先生の制服、そして頭上に輝く――

 

「……ない?」

 

 この学園都市の(元)生徒なら誰もが有しているはずのヘイローが、そこには存在しなかった。

 

「どうかされましたか?」

 

 リンに問われ、慌ててハルは首を横に振る。

 

「……ううん、なんでもないよ」

 

 そうこうしている内にエレベーターは一階へと辿り着いた。

 

 

 

 ――レセプションルーム*2

 

「ちょっと待って! 代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んできて!」

 

 扉が開くと、その先では何人もの生徒たちがざわざわ……と2人を待ち構えていた。

 彼女たちの中には見覚えのある顔がいくつも存在したが、その全てが10年前――まだ自分が生徒だった頃の姿をしている。

 その中の1人、ミレニアムサイエンススクールの制服に身を包む少女がリンに詰め寄る。

 

「……うん? その大人の方は?」

 

「首席行政官。お待ちしておりました」

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

 ミレニアムの生徒――早瀬ユウカに続くように、トリニティ総合学園の羽川ハスミと、ゲヘナ学園の風紀委員会に在籍する火宮チナツが、次々と抗議の言葉を浴びせる。

 リンは苦虫を噛み潰したような顔を彼女たちに向ける。時間がないというのに、面倒事が群れをなしてやってきた……とでも言うような表情だ。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」

 

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ!」

 

 ユウカが、苛立ちを隠すこともなく、まるで食らいつくように、声を荒げて言葉を返す。

 

「数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ! この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」

 

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

 先の3人と、トリニティ自警団の守月スズミが報告を上げる。そのどれもが、大人として、元生徒として、ハルにとっても聞き捨てならない問題だった。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐ会わせて!」

 

 無言になる。数秒ほど目を瞑り、息を整えるとリンはその事実を口にした。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

 

「……え!?」

 

「……!!」

 

「やはりあの噂は……」

 

 衝撃の事実。そのあまりにも予想外な内容に、生徒たちは皆一様に驚愕を露わにする。

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先程まで、そのような方法は見つかっていませんでした」

 

「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」

 

「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

 

 急に話の中心に引っ張り出されたハルは、生徒たちの視線を一身に浴びることになった。

 

「!?」

 

「!」

 

「この方が?」

 

「はじめまして。私は蒼井ハル。今日から、ここの先生として働くことになったよ」

 

 ハルは生徒たちに向かってお辞儀をすると、にっこりと微笑みかける。

 

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……い、いや、挨拶なんて今はどうでもよくて……! この先生はいったいどなた? どうしてここにいるの?」

 

「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」

 

「はい。こちらのハル先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……? ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

 リンの説明を受けても、まだユウカは訝しげな表情を崩さない。

 

「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」

 

 一息。リンが言葉を続ける。

 

「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です」

 

「組織としては完全に中立、尚且つ強大な権限を有する組織というわけだね?」

 

「はい。なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……。シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今は殆ど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます」

 

 そこまで言うと、リンは制服のポケットから携帯端末をおもむろに取り出す。

 

「先生を、そこにお連れしなければなりません。モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」

 

『シャーレの部室? ……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』

 

「大騒ぎ……?」

 

 端末の画面に表示されたのは、連邦生徒会の交通室所属の幹部である由良木(ゆらぎ)モモカだ。片手に抱えている明太子チップスの袋の中身を直前まで食べていたのか、唇には食べかすが付いている。オウム返しに尋ねるリンに、モモカは最新の情報を伝える。

 

『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』

 

「……うん?」

 

『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ? それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるで、そこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』

 

 そう言えば、そんなこともあったっけ……とハルは遠い過去の日の記憶を思い返す。

 

『まあでも、もうとっくに滅茶苦茶な場所なんだから、別に大したことな……あっ、先輩、お昼御飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!』

 

 ブツッ、と一方的に通信を切断されたリンは、苛立ちのあまりに全身をプルプルと震わせる。

 

「大丈夫? 深呼吸でもする?」

 

「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」

 

 はぁ……とリンはため息をひとつ漏らすと、じーっと自身を囲む生徒たちの顔を一通り眺め、何かを企むような悪い顔で口を開いた。

 

「……?」

 

「な、なに? どうして私たちを見つめてるの?」

 

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

 

「……えっ?」

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

 そう言って歩き出したリンの背中に、ユウカは慌てた様子で声をかける。

 

「ちょ、ちょっと待って!? ど、どこに行くのよ!?」

*1
【推奨BGM:水と草木と青い空】英雄伝説 零の軌跡より

*2
【推奨BGM:C.S.P.D -クロスベル警察-】英雄伝説 零の軌跡より




TIPS:
本編終了後、並行世界に召喚された『蒼井ハル』がこの世界の先生です。
本当は、本編の続きを執筆する予定でしたが、新鮮なネタを優先することにしました。
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