ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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E-0-2 先生の力

 ――D.U.外郭地区・シャーレの部室付近*1

 

 遠くの方から放たれた砲弾が、激しい音とともに地面を抉り、周囲の建物を爆発炎上させる。

 

「な、なに、これ!?」

 

 タタタタタタッ!!

 

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

 

 SMG(サブマシンガン)から銃弾をバラ撒きながら、ユウカは自分の置かれた状況に憤りの声を上げる。連邦生徒会に状況説明を求めるために連邦生徒会室まで訪れたというのに、どういうわけかこうして不良たちと戦わされている。彼女が怒りと不満を露わにするのも無理はないだろう。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……」

 

「それは聞いたけど……!」

 

 チナツの返答に、しかし納得できないとばかりにユウカは意見する。

 

「私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど! なんで私がこんなことを……!」

 

 パパパパパッ!

 

「いっ、痛っ!! 痛いってば!! あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!」

 

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定はされてはいません」

 

「うちの学校ではこれから違法になるの! 傷跡が残るでしょ!」

 

 ホローポイント弾。先端内部が空になっている弾丸。弾頭の先端が凹んだ形をしており、標的に着弾した際に潰れて扁平な形になる。対人、対動物用の弾丸であり、殺傷力が高い弾丸の一つに数えられる。その殺傷力は頑丈な肉体を持つ生徒たちに傷跡を残すほどであり、連邦生徒会による違法指定はされていないものの、自治区独自の法で使用禁止を定める学園も存在している。

 ミレニアムサイエンススクールでも、今後ホローポイント弾は使用禁止になる予定だった。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です」

 

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点、ご注意を!」

 

「分かってるわ。先生、先生は前に出ないでください! 私たちが戦ってる間は、後ろの方にいてくださいね!」

 

 部隊編成は早瀬ユウカ、火宮チナツ、羽川ハスミ、そして守月スズミの4人。

 正史通りの面々だ。自分の出身世界が特異点であることをよく理解しているハルは、自分の世界ではここにいた残りの2人(自分たち)の不在は気にせずに、今一緒にいる自分の生徒たちに意識を向ける。

 

「今から私の指示に従って」*2

 

「え、ええっ? 戦術指揮をされるんですか? まあ……先生ですし……」

 

「分かりました。これより先生の指揮に従います」

 

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」

 

「了解です、先生」

 

 四者四様の反応を見せる生徒たち。その前には、何人もの不良たちが迫っている。

 

「よし、じゃあ行ってみようか」

 

 他の誰よりも先生の戦術指揮を傍で見てきたハルの指揮能力は異能と称するほどの領域にある。

 彼女の指示に従い、生徒たちは次々と不良集団を戦闘不能に陥れていく。その様子は、故郷の友人たちが見れば、かつての先生の指揮を思い出すようなものだった。

 正確に、尚且つ迅速に、生徒たちに指示を出すことで、不利な状況を瞬く間に打破していく。

 

「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします……」

 

「……やっぱりそうよね?」

 

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」

 

「なるほど……これが先生の力……まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か……」

 

 スズミ、ハスミ、ユウカの順に感嘆の声が次々と上がる。

 

「それでは次の戦闘もよろしくお願いします、先生」

 

「任せて」

 

 ハルは自信に満ちた表情で、次の戦場に向けて視線を鋭く切り替えた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「もうシャーレの部室は目の前よ!」

 

 幾度かの戦闘を経て、一行は着実に目的地へと近づいていた。

 

『今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました』

 

 通信が入る。画面に映るのは、シャーレ奪還の協力をユウカたちに要請した首席行政官のリン。

 一人、後方で情報収集に務めていた彼女は、集めた情報を前線の部隊に共有する。端末の画面にハルの想定通りの少女の姿が表示される。

 

『ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください』

 

 狐坂(こさか)ワカモ――無差別且つ大規模な破壊行為を行うことから《災厄の狐》と呼ばれている特級危険人物。固有武器は『真紅の災厄』。九九式短小銃(ボルトアクションライフル)三十年式銃剣(銃剣)を取り付けたもの。

 連邦生徒会の管理するデータに目を通したハルは、その内容が自身の知る彼女の情報と相違がないのを確認すると、シャーレの部室の方向に視線を向ける。その先では、

 

「……あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフッ、まあ構いません」

 

 赤と黒の華のような形状をしたヘイローを頭上に輝かせた和装の少女――ワカモが嗤っていた。

 

「あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしてる物と聞いてしまうと……壊さないと気が済みませんね……。ああ……久しぶりのお楽しみになりそうです、ウフフフ♡」

 

 黒幕の正体は判明した。遮蔽物で身を守りながら、黒幕の待つシャーレの部室に向かって突き進んでいく。前衛に立つユウカたちが不良集団を一掃すると、遂にその姿を捉えた。

 

「騒動の中心人物を発見! 対処します!」

 

 ワカモの姿を目視で確認したハスミがボルトアクションライフルを向け、発砲する。

 

「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。お可愛らしいこと」

 

 舞うような所作で銃弾を避けたワカモは、狐面の下でニヤリと嘲笑を漏らし――

 

「でも残念、今は遊んでいる時間はありませんからね。皆様、後は任せます」

 

 周りにいる不良生徒たちに指示を出し、自らは後方へと退避していく。

 

「……って、逃げられてるじゃない!? 追うわよ!」

 

「いいえ、生半可な行動をしてはなりません。私たちの目標はあくまでも、シャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです」

 

「……うん、まあいいわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃないってことね」

 

「罠かもしれませんし」

 

「はい。建物の奪還を優先で。このまま引き続き、進むとしましょう」

 

 他の生徒たちもハスミの言葉に賛同する。ワカモの後を追うように前進した一同は、シャーレの部室の目の前まで来ると、辺りを占拠する不良たちを制圧する。

 

「よし! 建物の入口まで到着!」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ――

 

「……うん? この音は……」

 

「気を付けてください、巡航戦車です……!」

 

 巡航戦車――戦車の分類の一つ。機動力を犠牲にして防御力を上げた歩兵戦車とは逆に、防御力を代償として機動力を優先した戦車だ。とはいえ、巡航戦車も戦車の名に恥じぬだけの耐久力は備えている。少なくとも、一般生徒に対処できるようなものではない。

 

「クルセイダー1型……! 私の学園の制式戦車と同じ型です」

 

「不法に流通されたものに違いないわ! PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも!」

 

 クルセイダー巡航戦車の砲口が、土嚢などの遮蔽物を薙ぎ払いながらユウカたちに向けられる。

 

 ヒュオオオオーーー!!

 

 発射。空を裂き、主砲の砲弾が凄まじい速度で飛来する。銃弾の直撃すら痛いで済む非常に頑丈なキヴォトスの住人でも、流石に戦車の主砲の直撃を喰らえばただでは済まない。相応の怪我を負うことになる。尤も、命中すれば……だが。

 

「撃ち落とします!」

 

 羽川ハスミ。彼女の固有武器は『インペイルメント』。エングレーブ入りのボルトアクションライフル。卓越した狙撃能力を有する彼女は、目視だけで飛来する砲弾を撃ち落とすほどの腕前を有している。況してや、見慣れたクルセイダー1型の砲弾であれば、狙い撃つのは造作もない。

 

 ドカアアァァァァン!

 

 発射された弾丸はクルセイダー巡航戦車の砲弾に命中し、空中でその軌道を逸らした。砲弾は明後日の方向に飛んで行き、周囲の建物に着弾して爆発を引き起こす。

 

「ナイスショット! みんな、このまま一気にクルセイダー戦車を制圧するよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 ハルの号令が響くと、生徒たちは一斉に散開し、クルセイダー1型との戦闘に突入した。

 

「あちらに気を取られてる間に……ちょっとお邪魔しますね。フフフフ♡」

 

 

 

 ――シャーレ・建物の地下*3

 

「うーん……これが一体何なのか、まったく分かりませんね。これでは壊そうにも……」

 

 シャーレの建物内部に侵入したワカモは、地下に設置された謎の装置を前に首を捻っていた。

 

「……あら?」

 

 すると、部屋の中に新たな人物が入ってきた。その人物は、キヴォトスの生徒であれば例外なく持っているはずのヘイローを有しておらず、大人の女性の姿をしている――

 

「あら、あららら……」

 

「……え?」

 

「あ、ああ……」

 

「えぇぇ……」

 

「し、し……。失礼いたしましたー!!」

 

 ビュン、と目にも留まらぬ速度で部屋の入口に向けて駆け出した。そのまま部屋の外に飛び出そうとしたワカモの前に、スッと部屋に入ってきた人物――ハルが立ち塞がる。

 

「いや、待って。ワカモ、あなたにお願いしたいことがあるんだ」

 

「わ、私に頼み事……?」

 

「今日の夜、またこの建物に来てくれないかな?」

 

 真剣な表情で、ワカモの目を真っ直ぐ見据えながら、ハルが言う。

 

「よっ、夜に二人きりっ……そんな、あなた様がそこまで積極的な方だっただなんて……!」

 

「ダメかな?」

 

「だ、大丈夫ですっ……で、では……わ、わわわ私、今夜の逢瀬を、た、楽しみにしておりますので……! すみません、今はこれにて……!」

 

 顔を真っ赤にしたワカモが慌てた様子で部屋を後にする。彼女の反応の意図を正確に察したが故に、振り返りもせず去っていく後ろ姿をハルは何とも言えない複雑な表情で見送るのだった。

 

 

 

 ――シャーレ・建物の地下*4

 

「お待たせしました」

 

 数分後。地下で待機していたハルの元に、作戦中オペレーターを務めていたリンが到着した。

 

「……? 何かありましたか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「……そうですか。ここに、連邦生徒会長の残したものが保管されています」

 

 スッとリンが徐ろに取り出したのはタブレット型の端末だった。

 

「幸い、傷一つなく無事ですね。……受け取ってください」

 

「これが……」

 

「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残した物。『シッテムの箱』です」

 

 シッテムの箱。10年以上前、連邦生徒会長と交戦した際に逃亡を選択した最大の理由であり、ハルの先生を守り続けた最後の防御。まさか、自分がこれを使用する日が来るとは……。

 

「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みの全てが不明。連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました」

 

「……なるほど」

 

「私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

 

「……」

 

「……では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかってます。邪魔にならないよう、離れています」

 

 自分の先生がシッテムの箱を運用する姿は元の世界で幾度となく目にしてきた。その記憶を辿るように、目の前の端末の電源を入れた。

 

 

 

 …

 Connecting To Crate of Shittim…

 

 システム接続パスワードをご入力ください。

 

 

 

 ……我々は望む、七つの嘆きを。

 ……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 接続パスワード承認。

 現在の接続者情報は蒼井ハル、確認できました。

 

 『シッテムの箱』へようこそ、ハル先生。

 生体認証及び認証書作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。

*1
【推奨BGM:Alert】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:Seize The Truth!】英雄伝説 碧の軌跡より

*3
【推奨BGM:Shady Girls】ブルーアーカイブより

*4
【推奨BGM:Interface】ブルーアーカイブより




TIPS:
狐坂ワカモ。連邦矯正局入りしている百鬼夜行連合学院の生徒。
矯正局を脱走した「七囚人」の一人。
無差別かつ大規模な破壊行為を行う事から「災厄の狐」と畏れられている。
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