ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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1-1-2 アビドスでの初日

 ――アビドス高等学校・生徒会室*1

 

「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど」

 

 戦闘終了(Battle Complete)。ハクノの指揮もあり、アビドス生徒会の面々は、何事もなくヘルメット団を撃退することに成功した。

 

「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよ、ホシノ先輩……勝たないと学校が不良たちのアジトになっちゃうじゃないですか……」

 

「先生の指揮が良かったね。私たちだけの時とは全然違った。これが大人の力……すごい量の資源と装備、それに戦闘の指揮まで。大人ってすごい」

 

 目を輝かせるシロコ。これまで補給の当てがなかったアビドス高等学校にとって、ハクノが用意した資源と装備はまさに天からの恵みだった。

 それだけの補給を可能にしたのは、シャーレの地下室に設置された物質生成機『クラフトチェンバー』だ。これは『シッテムの箱』から制御される大型の万能3Dプリンターで、要求された資源や装備をほぼ自由に生成できる。この装置により、ハクノは物理的な制約を受けることなく、生徒たちに必要な物資を惜しみなく提供することができたのだ。

 

「今まで寂しかったんだね、シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたおかげで、ママはぐっすり眠れまちゅ」

 

「いやいや、変な冗談はやめて! 先生困っちゃうじゃん! それに生徒会長はその辺でしょっちゅう寝てるでしょ!」

 

「そうそう、可哀想ですよ」

 

「あはは……少し遅れちゃいましたけど、あらためてご挨拶します、先生」

 

 苦笑いを浮かべながら、アヤネはハクノの方へ向き直る。

 

「私は、生徒会で書記とオペレーターを担当している1年の奥空アヤネ……」

 

 奥空アヤネ。ヘイローと同じ赤系の色合いのウェリントン眼鏡がトレードマークで、編み込みカチューシャの黒髪ボブからは尖った耳が覗いている。

 

「こちらは同じく1年のセリカ、」

 

「どうも」

 

 無愛想に挨拶した少女の名前は黒見(くろみ)セリカ。猫又の尻尾のように長い黒髪をツインテールに纏めており、頭の上の猫耳と相まって、人慣れしていない黒猫のような印象をハクノに抱かせた。

 

「2年のノノミ先輩とシロコ先輩」

 

「よろしくお願いします、先生~」

 

「さっき、道端で最初に会ったのが、私。……あ、別にマウントを取ってるわけじゃない」

 

 十六夜(いざよい)ノノミ。ベージュ色の髪と服の上からでも分かる巨乳が最大の特徴。また、アビドス生の中では身長が最も高い。瞳の色は黄緑。ゆるふわでおっとりとした雰囲気を纏っている。

 

「そして、こちらは生徒会長の、3年のホシノ先輩です」

 

「いやぁ~よろしく、先生ー」

 

 最後に紹介された生徒の名前は小鳥遊(たかなし)ホシノ。年齢に不釣り合いの非常に小柄な体型で、ピンク色の長い髪の頭頂に1本の巨大なアホ毛が生えている。右目が黄色、左目が青色のオッドアイ。唯一の3年生にして、アビドス高等学校の生徒会長だ。

 

「ご覧になった通り、我が校は現在危機にさらされています……そのため『シャーレ』に支援を要請し、先生方がいらしてくれたことで、その危機を乗り越えることができました」

 

「別に大したことはしてないよ。みんなが頑張ったおかげかな」

 

「いえいえ、謙遜なさらず……先生がいなかったら、さっきの人たちに乗っ取られてしまったかもしれませんし、感謝してもしきれません……」

 

 深々と頭を下げ、丁寧に感謝の意を示すアヤネ。他の生徒たちも、同意してうんうんと頷く。

 

「ねえ、まずは事情説明からしてもらえるかな? 先生は今回が初めてのアビドス訪問だし」

 

「あ、そうですよね。ご説明いたします。私たち生徒会はこのアビドスを蘇らせるために日々活動しています」

 

「うんうん! 全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです! 全校生徒といっても、私たち5人だけなんですけどね」

 

「他の生徒は転校したり、学校を退学したりして町を出て行った。学校がこの有り様だから、学園都市の住民も殆どいなくなって、カタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末なの。現状、私たちだけじゃ学校を守り切るのが難しい。在校生としては恥ずかしい限りだけど……」

 

 アヤネの説明に、ノノミとシロコがさらに補足する。つまり、この5人はアビドスに残った最後の生徒で、アビドスを復興するために頑張っているということのようだ。

 

「もし『シャーレ』からの支援がなかったら……今度こそ、万事休すってところでしたね」

 

「だねー。補給品も底を突いてたし、流石に覚悟したね。なかなかいいタイミングに現れてくれたよ、先生は。……もちろん、ハルもね」

 

ホシノは最後の一言とともに、ハルに向けてウィンクを飛ばす。

 

「ふふ、自分たちが来たからには、大船に乗ったつもりでいてくれていいよ」

 

「うんうん! もうヘルメット団なんてへっちゃらですね。大人の力ってすごいです☆」

 

「かといって、攻撃を止めるような奴らじゃないけど」

 

「あー、確かに。しつこいもんね、あいつら」

 

「こんな消耗戦を、いつまで続けなきゃいけないのでしょうか……。ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに……」

 

 アヤネは深刻な顔で俯く。皆、終わりの見えない戦いの日々に疲れ切っているようだった。

 

「そういうわけで、ちょっと計画を練ってみたんだー」

 

「えっ!? ホシノ先輩が!?」

 

「うそっ……!?」

 

「いやぁ~その反応はいくら私でも、ちょーっと傷付いちゃうかなー。おじさんだって、たまにはちゃんとやるのさー」

 

 1年生2人に訝しげな視線を向けられ、ホシノは拗ねたように口を尖らせる。どうやら、ホシノは先ほどからずっと何かを考えていたようで、その考えがようやくまとまったらしい。

 

「……で、どんな計画?」

 

「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルが続いているからねー。だから、このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らが一番消耗しているだろうからさー」

 

「い、今ですか?」

 

「そう。今ならハルもいるし、補給とか面倒なことも先生が解決してくれる」

 

「なるほど。ヘルメット団の前哨基地はここから30kmくらいだし、今から出発しよっか」

 

「良いと思います。あちらも、まさか今から反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし」

 

「うん、自分も行けるよ。みんなのおかげで、十分に休めたからね」

 

 体力は十分。親友の聖園ミカとお揃いのトリニティ製SMG(サブマシンガン)を飾り付けた固有武器『κιβωτός θεωρία』を背に担ぎ、ハルも準備万全だ。

 勇み立つ先輩3人とハルの姿を見ながら、アヤネが恐る恐るといった様子でハクノに尋ねる。

 

「……先生はいかがですか?」

 

「私も賛成だよ」

 

「よっしゃ、先生の御墨付きも貰ったことだし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー」

 

「善は急げ、ってことだね」

 

「はい~それでは、しゅっぱーつ!」

 

 ノノミの号令とともに、アビドス生徒会とハルはヘルメット団のアジトに向けて出発した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 これまで補給不足の状態で幾度となくヘルメット団の攻撃を退けてきたアビドス生徒会が、万全の状態で仕掛けた戦いに敗北するはずもない。

 本来の実力を存分に発揮したアビドス生徒会と助っ人のハルは快進撃を続けた。

 そして、ヘルメット団が築き上げたアジトを強襲した彼女たちは、ものの数分でこれを制圧。補給所、アジト、弾薬庫を修復不可なまで徹底的に破壊した。

 

「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした」

 

「ただいま~」

 

「ふぅ~、疲れた~」

 

 ヘルメット団を撃退した生徒たちがアヤネとハクノの待つ生徒会室に戻ってくる。その疲労した姿に、アヤネは労いの言葉をかけ、ハクノはスポーツドリンクを差し出した。

 

「火急の事案だったカタカタヘルメット団も片付きましたね。これで一息つけそうです」

 

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」

 

「うん! 先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ! ありがとう、先生! この恩は一生忘れないから!」

 

 数秒の沈黙。勢い余ってセリカが発したその言葉を、ハクノは決して聞き逃さなかった。

 

「借金返済って?」*2

 

「……あ、わわっ!」

 

「そ、それは……」

 

「ま、待って!! アヤネちゃん、それ以上は!」

 

「……!」

 

 アヤネが何かを言おうとした瞬間、セリカが慌てて止める。

 

「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」

 

 しかし、ホシノはあっさりとセリカの制止を振り切り、けろりとした表情でそう言った。

 

「むしろ、私としては先生が知らなかったのが意外だったかなー。借金のこと、この学校と付き合いの長いハルは知ってたでしょー?」

 

「まぁ、うん。けど、自分が訳知り顔で語るのも違うでしょ」

 

「ま、それもそうだね。というわけで、先生も気になるみたいだし、最初から説明しちゃおっか」

 

 その発言を聞いたセリカは、まるで水をかけられた猫のように飛び上がった。

 

「ホ、ホシノ先輩!? なにもわざわざ話すようなことでもないでしょ!」

 

「別に罪を犯したとかじゃないでしょー? それに先生は私たちを助けてくれた大人でしょー?」

 

「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生は信頼していいと思う」

 

 シロコもホシノの意見に賛成する。けれど、セリカはなおも納得できない様子だ。

 

「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」

 

「確かに先生がパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん? 悩みを打ち明けてみたら、何か解決法が見つかるかもよー? それとも他にいい方法があるのかなー、セリカちゃん?」

 

「う、うう……」

 

 ホシノに正論を突きつけられたセリカは、反論の言葉を失ってしまう。

 頭ではセリカもホシノの言うことが正しいと分かっている。だが、心の奥底に何か割り切れないものが残り、セリカは湧き上がる感情のまま声を荒らげた。

 

「でっ、でも、さっき来たばっかりの大人でしょ! 今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!? この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん! なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……私は認めない!!」

 

 セリカは憤りを抑えきれず、ガタ! と扉を力任せに開け、生徒会室を飛び出していく。

 

「セリカちゃん!?」

 

「私、様子を見てきます」

 

 慌ててノノミがセリカを追いかけるように生徒会室を出て行くと、部屋の中にはしんとした沈黙が広がった。微かな足音が遠ざかり、息苦しい空気が広がる中、誰も何も言えず、ただ時間だけが無為に過ぎていく。その沈黙を打ち破るように、ホシノが重い口を開いた。

 

「えーと、簡単に説明すると……この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ。でも問題はその金額で……7億円ぐらいあるんだよねー」

 

「……7億1435万円、です。アビドス……いえ、私たちが返済しなくてはならない金額です」

 

 7億……途方もない数字に、ハクノも思わず言葉を失う。

 

「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く……殆どの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました……」

 

「そして私たちだけが残った」

 

「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全てこの借金のせいです」

 

「詳しく事情を説明してほしい。どうして、そんな借金を背負うことに?」

 

「借金をすることになった理由ですか? それは……」

 

 それから、アビドス高校生徒会の面々が語り出したのは、人の身ではどうしようもない巨大な災厄と、その災厄がもたらした衰退の歴史だった。

 

「数十年前、この学区の郊外にある砂漠で砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。学区のいたる所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい。その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした……。しかしこのような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」

 

「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」

 

「……はい。最初の内は、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途を辿りました……そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです……」

 

 一度そこで言葉を切り、アヤネは続ける。

 

「私たちの力だけでは、ほんの少しずつ返済するのが精一杯で……弾薬も補給品も、底を突いてしまっています」

 

「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて」

 

「……まあ、そういうつまらない話だよ。で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投入できるようになったってわけー。もしこの生徒会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくてもいいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし」

 

「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」

 

 ホシノとシロコの言葉に、ハクノは首を横に振った。

 

「アビドスを見捨てて戻るなんてことはしないよ。なんたって、私は君たちの先生だからね」

 

 先生とは、生徒の味方だ。困っている生徒たちを見捨てて、自分だけがのうのうと帰るなんて考えは、ハクノの中には微塵もない。

 

「そ、それって……」

 

「借金返済、一緒に頑張ろう」

 

「あ、はいっ! よろしくお願いします、先生!」

 

「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて」

 

「良かった……『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

 

「そうだね。希望が見えてくるかもしれない」

 

 アビドス生徒会の生徒たちの瞳に希望の光が宿る。それは絶望の中で苦しみ続けていた彼女たちが、やっと掴んだ小さな希望。どれほど努力しても行き詰まる現状を誰よりも深く理解していたからこそ、その現状を変え得る一筋の光に、彼女たちは大きな希望を見出したのだった。

*1
【推奨BGM:Romantic Smile】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:Midsummer Cat】ブルーアーカイブより




TIPS:
蒼井ハルの固有武器『κιβωτός θεωρία』。
親友の聖園ミカとお揃いのトリニティ製SMG(サブマシンガン)を飾り付けたもの。
日本語読みはキヴォトス・セオリーア。『キヴォトス理論』のギリシャ語直訳である。
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