ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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少し大きめの改稿を入れたので再投稿しました。


1-1-5 定例会議

 ――アビドス高等学校・生徒会室*1

 

「……それでは、生徒会の定例会議を始めます」

 

 翌日、アビドス高等学校の生徒会室には、生徒会役員全員と出張組二人の姿があった。なお、学校を卒業した自分が必要以上に口を挟むべきではないと、今朝方目を覚ましたユメはアルバイト先の柴関ラーメンに出勤している。今頃、開店のために忙しなく働いているだろう。

 

「本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが……」

 

「は~い☆」

 

「もちろん」

 

「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない……」

 

「あはは……」

 

 ノノミとシロコが元気よく声を上げる一方、セリカは不機嫌そうに眉根にシワを寄せる。そんな彼女たちの様子を見て、ハルはただ苦笑いするしかない。

 

「うへ、よろしくねー、先生」

 

「よろしく」

 

 ホシノはいつもと変わらないゆるい喋り方でハクノに声をかける。応じたハクノも、緊張した風もなければ、気負った様子も感じさせない。まさに普段通りと言わんばかりの自然体だった。これが年長の余裕というものなのだろう。

 

「早速議題に入ります。本日は、私たちにとって非常に重要な問題……『学校の負債をどう返済するか』について、具体的な方法を議論します。ご意見のある方は、挙手をお願いします!」

 

「はい! はい!」

 

「はい、1年の黒見さん。お願いします」

 

 真っ先に手を挙げるセリカだったが、アヤネの他人行儀な呼び方に唇を尖らせて不満を零す。

 

「……あのさ、まず名字で呼ぶの、やめない? ぎこちないんだけど」

 

「せ、セリカちゃん……でも、せっかく会議だし……」

 

「いいじゃーん、おカタ~い感じで。それに今日は珍しく、先生もいるんだし」

 

「珍しくというより、初めて」

 

「ですよね! なんだか生徒会っぽくてイイと思いま~す☆」

 

「はぁ……ま、先輩たちがそう言うなら……」

 

 渋々、先輩たちの意見を尊重すると、改めてセリカは口を開いた。

 

「……とにかく! 生徒会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産の寸前としか言いようがないわっ! このままじゃ廃校だよ! みんな、わかってるよね?」

 

「うん、まあねー」

 

「毎月の返済額は、利息だけで595万円! 私たちも頑張って稼いではいるけど、正直利息の返済で精一杯。ユメ先輩の協力で少しずつ返せてはいるけど……これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアするだけじゃ限界があるわ」

 

 そこで一旦、セリカは言葉を区切ると、コホンと咳払いをしてから話を続ける。

 

「要するに、このままじゃ、埒が明かないってこと! 何かこう、でっかく一発狙わないと!」

 

「でっかく……って、例えば?」

 

「これこれ! 街で配ってたチラシ!」

 

 意気揚々とセリカは鞄の中から1枚のチラシを取り出した。

 

「これは……!?」

 

「どれどれ……『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』……ねえ……?」

 

「そうっ! これでガッポガッポ稼ごうよ!」

 

 自信満々に言い放つセリカだったが、アヤネとホシノは困ったように顔を見合わせる。

 

「この間、街で声をかけられて、説明会に連れていってもらったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!」

 

「……」

 

「これね、身に着けるだけで運気が上がるんだって! で、これを周りの3人に売れば……」

 

 そこでようやく、周りの面々が何とも言えない微妙な顔をしていることに気が付いたセリカは、怪訝な表情をして首を傾げた。どうして、みんなはそんな顔をしているのだろうか。

 

「……みんな、どうしたの?」

 

「却下ー」

 

「えーっ!? なんで? どうして!」

 

「セリカちゃん……それ、マルチ商法だから……」

 

「儲かるわけない」

 

「むしろ、罰金刑とかの対象になるからね?」

 

「へっ!?」

 

 マルチ商法、或いはマルチレベル・マーケティングとは、商品やサービスの販売を行う際に、その購入者を第三者の勧誘に結び付ける連鎖により、階層組織を形成・拡大する販売形態である。正式名称は連鎖販売取引。特定商取引法第33条で定義される、紛うことなき詐欺商法だ。

 連鎖販売取引自体は違法ではないものの厳しい規制がされており、違反すれば取引停止などの行政処分や、罰金刑や懲役刑などの刑事罰の対象になる。

 

「そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな……こんな怪しいところで、まともなビジネスを提案してくれるはずなんてないよ……」

 

「そっ、そうなの? 私、2個も買っちゃったんだけど!?」

 

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」

 

「……!!」

 

「まったく、セリカちゃんは世間知らずだねー。気を付けないと、悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよー?」

 

「そ、そんなあ……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに……」

 

 とぼとぼと力なく肩を落として、セリカは自分の椅子に座り込む。気のせいか、おなかが空いてきたような気がする。意気消沈する後輩を励ますように、ノノミはその肩にそっと手を置いた。

 

「大丈夫ですよセリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう? 私がご馳走しますから」

 

「ぐすっ……ノノミせんぱぁい……」

 

「えっと……それでは、黒見さんからの意見はこの辺で……他にご意見のある方……」

 

「はい! はい!」

 

「えっと……はい、3年の小鳥遊生徒会長。ちょっと嫌な予感がしますが……」

 

 2人目の発案者は、生徒会長のホシノ。面倒臭がり屋の彼女が会議に積極的に参加してくれるのは喜ばしいのだが、アヤネとしては嫌な予感しかしないというのも正直なところだった。

 

「うむうむ、えっへん! 我が校の一番の問題は、全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよねー。生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒数を桁違いに増やせれば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはずー」

 

「え……そ、そうなんですか?」

 

「そういうことー! だからまずは生徒の数を増やさないとねー、まずはそこからかなー。そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるしね」

 

「鋭いご指摘ですが……でもどうやって……」

 

「簡単だよー、他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」

 

「はい!?」

 

「今度は、略取誘拐と逮捕監禁のダブルコンボかぁ……」

 

 刑法225条。営利目的等略取及び誘拐罪。営利、猥褻、結婚または生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、または誘拐した者は、1年以上10年以下の懲役に処す。

 一方、逮捕・監禁罪は刑法220条に規定されている犯罪だ。不法に人を逮捕し、または監禁する行為を内容とする。法定刑は3月以上7年以下の懲役。

 言わずもがな、両方とも犯罪行為である。予想の斜め下を行く提案にアヤネは目眩すら覚える。

 

「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするのー。うへ~、これで生徒数がグンと増えること間違いなーし!」

 

「それ、興味深いね。ターゲットはトリニティ? それともゲヘナ? ミレニアム? 狙いをどこに定めるかによって、戦略を変える必要があるかも」

 

「お? ……えーっと、うーん……そうだなあ、トリニティ? いや、ゲヘナにしよーっと!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! そんな方法で転校とかってありなんですか!?」

 

 強制転校計画に前向きな反応を示すシロコに対して、ホシノはあれ? と首を傾げるが、まあいいやと話を先に進める。セリカに続けてホシノまでそんな提案をするものだから、もはやアヤネは頭痛が止まらなくなっていた。

 

「それに、他校の風紀委員が黙っていませんよ……」

 

「うへ~やっぱそうだよねー?」

 

「やっぱそうだよねー、じゃありませんよ、ホシノ先輩……もっと真面目に会議に臨んでいただかないと……」

 

 そう苦言を呈すると、アヤネはこめかみを押さえながら、深いため息をひとつ吐いた。

 

「いい考えがある」

 

「……はい、2年の砂狼シロコさん……」

 

「銀行を襲うの」

 

「はいっ!?」

 

 三人目。シロコの突拍子もないアイデアに、アヤネは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「確実かつ簡単な方法。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」

 

「さっきから一生懸命見てたのは、それですか!?」

 

「5分で1億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」

 

 シロコは0から4までの番号が振られた覆面を机の上に並べると、額の部分に数字の2が刺繍された青い覆面を己の顔に被せる。

 

「いつの間にこんなものまで……」

 

「うわー、これ、シロコちゃんの手作りー?」

 

「わあ、見てください! レスラーみたいです!」

 

 と、3号の緑の覆面を被ったノノミがクルクルとその場で回転しながら嬉しそうに声を上げる。

 

「いやー、いいねぇ。人生一発でキメないと。ねえ、セリカちゃん?」

 

「そんなわけあるか!! 却下! 却下ー!!」

 

「そっ、そうですっ! 犯罪はいけませんっ!」

 

 強盗罪は刑法236条で定められた罪。暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取したり、前述した方法により、財務上不法の利益を自分で得たり他人に得させたりすると成立する。

 ノリノリで1号の覆面を取るホシノの発言を、常識人寄りのセリカとアヤネは全力で却下する。

 

「そんなふくれっ面をしてもダメなものはダメです、シロコ先輩っ!」

 

 2号の覆面を脱ぎ、頬を大きく膨らませて不満を露わにするシロコに、アヤネは毅然とした態度で言い放つ。いくらお金が必要とはいえ、越えてはいけない一線と言うものが存在するのだ。

 

「はあ……みなさん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」

 

「あのー! はい! 次は私が!」

 

「はい……2年の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでご意見をお願いします……」

 

「はい! 犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーン且つ確実な方法があります!」

 

 最後の刺客。十六夜ノノミの提示したアイデア、それは――

 

「アイドルです! スクールアイドル!」

 

「ア、アイドル……!?」

 

「そうです! アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです! 私たち全員がアイドルとしてデビューすれば……」

 

「却下」

 

 ノノミのアイデアを即座に却下したのは、その体の凹凸がやけに少ないホシノだった。

 

「あら……これも駄目なんですか?」

 

「なんで? ホシノ先輩なら、特定のマニアに大ウケしそうなのに」

 

「確かに、人を集めるという意味では、それもアリかもしれないけど……」

 

「うへーこんな貧弱な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない」

 

 と、ホシノはぱたぱたと手を横に振った。そんな態度に不満そうに、ノノミが口を尖らせる。

 

「決めポーズも考えておいたのに……」

 

 しかし、すぐに表情を戻すと、じゃーん! と、満面の笑みでポーズを堂々と披露する。

 

「水着少女団のクリスティーナで~す♧」

 

「どういうことよ……。何が『で~す♧』よ! それに『水着少女団』って! だっさい!」

 

「えー、徹夜で考えたのに……」

 

 不満を口にするノノミだったが、彼女の提示したアイデアに賛同する者はひとりもいなかった。

 

「あのう……議論がなかなか進まないんですけど、そろそろ結論を……」

 

「それは先生に任せちゃおうー。先生、これまでの意見で、やるならどれがいい?」

 

「えっ!? これまでの意見から選ぶんですか!? も、もう少しまともな意見を出してからの方がいいのでは!?」

 

「大丈夫だよー。先生が選んだものなら、間違いないって」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! なんでそう言い切れるんですか!?」

 

 続けざまに浴びせられた言葉の数々に、アヤネは悲鳴にも似た声を発してしまう。そんなアヤネの悲痛な叫びを無視して、会議はさらなる混沌へと突き進んでいく。

 

「まさかアイドルをやれなんて言わないよね?」

 

「アイドルで☆ お願いします♧」

 

「……」

 

 鋭い口調で問いかけるセリカ。期待に満ちた顔をするノノミ。スッと先程の覆面を被るシロコ。

 生徒会全員からじーっと視線を向けられたハクノは、しばらくの間視線を右往左往させた後、意を決したように自らの選択を言葉にした。

 

「銀行を襲う!」*2

 

「ええっ!? 本気ですか!?」

 

「よし、それなら……」

 

 ハルは鞄から黒い覆面を取り出すと、自分の顔にそれを装着した。額の位置には、まるで示し合わせたかのようにローマ数字でⅠと刺繍されている。

 

「ハル先輩!? ど、どうしてそんなものを持ってるんですか!?」

 

「え? どうしてって、それは……銀行を襲うために?」

 

 アヤネから覆面の所持理由を尋ねられたハルは、覆面越しにも分かるようなきょとんとした顔で、その問いに答える。どう考えても悪ふざけとしか思えない返答を聞かされたアヤネは、憮然とした表情で頭を抱えてしまう。

 

「あはははー! よし、決まりー! それじゃあ出発だー!」

 

「きゃあ~☆ 楽しそうです!」

 

 ホシノとノノミは、まだ何も計画内容を聞いていないというのにすっかりその気になっている。

 このままでは、本当に銀行を襲うことになってしまう。止めなくてはと焦るアヤネだが、その思いはホシノの明るい声によって無惨にもかき消されてしまう。そして、ノノミもホシノに同調して賛成の意を表明するものなので、もはや誰にも止めることなど出来はしなかった。

 

「ほ、ホントに? これでいいの?」

 

「うへ~いいんじゃなーい?」

 

「計画は大胆なほどいい。でしょ、アヤネ?」

 

「……い……」

 

「い……?」

 

「いいわけないじゃないですかぁ!!」

 

 ガッシャーン!

 

 ただ一人、周りの空気に流されずに自分を保っていたアヤネは、ついに耐えきれなくなり、学校の外にまで響き渡るような大声で叫んだ。

 

「出たー! アヤネちゃんのちゃぶ台がえしー!」

 

「……」

 

「きゃあ、アヤネちゃんが怒りました! 異常事態です!」

 

「うへ~キレのある返しができる子に育ってくれたねえ。ママは嬉しいよーん」

 

「誰がママですかっ! もうっ、ちゃんと真面目にやってください!」

 

 怒り心頭で顔を真っ赤にしながら、アヤネは心の奥底に溜め込んでいた不満を爆発させる。

 

「いつもふざけてばっかり! 銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばっかり言って!」

 

 そんな彼女の剣幕に、セリカもシロコも、そしてホシノさえも黙ってしまう。普段怒らない人ほど怒ると怖いとはよく言ったものだが、今のアヤネには有無を言わせぬ迫力があった。結論を言うと、このあと滅茶苦茶説教された。

*1
【推奨BGM:特務支援課】英雄伝説 零の軌跡より

*2
【推奨BGM:Unwelcome School】ブルーアーカイブより




TIPS:
奥空アヤネ。アビドス高等学校一年生。同学校の生徒会の書記。
個性的な生徒の多いアビドスでは比較的常識人で温厚な性格をしている。
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