ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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「まあ簡単に言うと、真打(ヒロイン)登場☆ってところかな?」


1-1-8+ トリニティからの風

 ――ブラックマーケット*1

 

「ここがブラックマーケット……」

 

「わあ☆ すっごい賑わってますね?」

 

「本当に。小さな市場を想像していたけど、街ひとつぐらいの規模だなんて」

 

 セリカ、ノノミ、シロコの3人は物珍しそうに辺りを見回しながら口々に感想を述べる。

 彼女たちが足を踏み入れたそこは、アビドスとは比較にならないほどの喧騒に包まれていた。多様な物品を販売している店が並び、大人や子供が思い思いに買い物を楽しんでいる。そう、例えるのならば、まさに歓楽街のような街並みだった。

 

「連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるとは思わなかった」

 

「うへ~普段私たちはアビドスにばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所が多いんだよー」

 

「ホシノ先輩、ここに来たことがあるの?」

 

「まあねー、何度かあるよー。それに他の学区にも、変わったものがたくさんあるんだよー」

 

 シロコが尋ねると、ホシノは懐かしそうに顔を綻ばせる。しかし、そんな現地の和やかな雰囲気とは裏腹に、オペレーターを務めるアヤネは周囲を警戒するように辺りの様子を探っていた。

 

『皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起こるかわからないんですよ。何かあったら私が……』

 

 タタタタタタタタタ!*2

 

『きゃあっ!?』

 

「銃声だ」

 

 突然、辺りに響き渡る銃声。シロコが反応し、咄嗟に声を上げる。

 

「待て!!」

 

「う、うわあ! まずっ、まずいですー!! つ、ついてこないでくださいー!!」

 

「……うん。流石にこの数を同時に処理するのは難易度がかなり高い。ここは撤退すべきだ」

 

「……面倒だなー。別の制服を着てくれば良かったかな?」

 

「そうはいくか!」

 

 前方からは、3人の少女を追いかけてこちらにやってくる不良の集団。その中の1人、白いバツ印の描かれた黒いマスクで口元を覆い、「我絶死覇火我異威々」と白いプリントが入ったスカートを身に着けた少女が、手に持った銃を乱射しながら叫ぶ。

 

『あれ……あの制服は……』

 

 アヤネはハッとして、不良に追われる少女たちの制服に見覚えがあることに気が付く。

 

「わわわっ、そこどいてくださいー!!」

 

 ドンッ! と逃げていた少女の1人がシロコに衝突する。幼い顔立ちだが、シロコ以上の身長を有している彼女は、ベージュ色のロングヘアをふわりと広げながら、尻餅をついた。

 

「い、いたた……ご、ごめんなさい!」

 

「大丈夫? なわけないか、追われてるみたいだし」

 

「そ……それが……」

 

「何だおまえらは。どけ! アタシたちはそこのトリニティの生徒たちに用がある!」

 

「あ、あうう……わ、私たちの方は特に用はないのですけど……」

 

 金髪の不良少女に銃を突きつけられて、ベージュ髪の少女は及び腰になりながらも答える。

 

『……!! 思い出しました、その制服……キヴォトス一のマンモス校の一つ、トリニティ総合学園です!』

 

「そう、そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある! だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」

 

「拉致って交渉! なかなかの財テクだろう? くくくくっ」

 

「へぇ……。こっちが下手に出ていれば、随分と調子に乗ってくれるじゃんね?」

 

 トリニティ総合学園の制服を身に纏う少女の1人。先日、シャーレ奪還作戦にてハクノに協力した聖園ミカが、敵意を剥き出しにして、目の前の不良少女たちを睨み付ける。

 

「どうだ、おまえらも興味があるなら計画に乗るか? 身代金の分け前は……」

 

 アビドスの生徒たちは、不良たちの言葉を最後まで聞かずに自らの武器を手に取り、戦闘態勢に入る。

 

「罪人は懲らしめないとです☆」

 

「うん」

 

「あ……えっ? えっ?」

 

 状況が理解できずに困惑するベージュ髪の少女を余所に、アビドスの生徒たちは目の前の不良たちに向けて弾丸を発砲した。それを好機と見た3人目のトリニティ生も、自らの銃を抜き、戦闘に参加する。

 

「Vanitas vanitatum……全てを無に帰し、徒労であると知れ」

 

「その言葉は……!」

 

 美しい銀髪と紫の瞳が特徴的なトリニティの生徒が零した言葉にホシノが反応する。だがすぐに、今はそれどころではないと、『Eye of Horus』の銃口を不良たちに向ける。

 

「……ミカ」

 

「ハルちゃん? それに、先生も……そっか、そうなんだ。もう始まってたんだね」

 

 同じく固有武器『Quis ut Deus』を構えるミカに、ハルが声をかける。アビドス高等学校の制服に身を包むハルと先生の2人を見て、ミカは状況を即座に把握した。

 

「先生……事情はあとで話すよ。だから今は……」

 

「うん。行くよ、みんな!」

 

「「「「「『(おー)っ!』」」」」」

 

 ハクノの号令とともにアビドスの面々は不良たちとの交戦を開始した。

 

 ◇ ◇ ◇*3

 

「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……」

 

「ヒフミちゃんとアズサちゃん……こっそりトリニティから抜け出してきたんだもんね?」

 

「あうう……何か問題を起こしたら……想像しただけでも……」

 

 ミカの言葉に、ヒフミと呼ばれた少女は今にも倒れそうなくらいに顔が青褪める。彼女はトリニティ総合学園の2年生。本名は阿慈谷(あじたに)ヒフミ。そして、もう1人は同じく2年の白洲(しらす)アズサ。

 彼女たちは学園上層部には内緒で、こっそりとトリニティの自治区から抜け出してきたようだ。

 

「えっとー、ヒフミちゃんだっけ? それにしても、トリニティのお嬢様たちがなんでこんな危ない場所に来たの?」

 

「あ、あはは……それはですね……実は、探し物がありまして……」

 

 ホシノからの問いかけに、ヒフミは恥ずかしそうに頬をかきながら答える。

 

「もう販売されていないので買うこともできない物なのですが、ブラックマーケットでは密かに取引されているらしくて……」

 

「もしかして……戦車?」

 

「もしくは違法な火器?」

 

「化学武器とかですか?」

 

「えっ!?」

 

 冗談なのか本気なのか。シロコ、ホシノ、ノノミの口から次々と物騒な言葉が飛び出してきたことに、ヒフミは困惑と驚きが入り混じった声を上げる。一瞬の間を置いてから、ヒフミは慌てた様子でぶんぶんと首を横に振った。

 

「い、いいえ……えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです」

 

「ペロロ?」

 

「限定グッズ?」

 

「はい! これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ! 限定生産で100体しか作られていないグッズなんですよ」

 

 ヒフミが鞄から取り出したのは、白く丸っこい鳥のような姿をした謎の生物。両目があらぬ方向を向いており、その名のとおり、口の端からちょろっと舌を出しているなど、どこか奇妙なデザインのぬいぐるみだった。

 アイス屋とのコラボ商品だけあり、開いた口の中にアイスクリームが詰め込まれている。それを大事そうに抱えたヒフミが笑顔で自慢気に胸を張る。

 

「ね? 可愛いでしょう?」

 

「わあ☆モモフレンズですね! 私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよねえ!」

 

「分かるのか!? この目、表情……何を考えているのか全く分からないところが可愛いんだ!」

 

「うんうん、私はミスター・ニコライが好きなんです!」

 

「分かります! ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて」

 

「私も最近発売されたニコライの本『善悪の彼方』は買った! 当然、初版を!」

 

 ヒフミとアズサ、それからノノミがテンション高くペロロ談義を始める。なお、話題に上がったニコライとは、カンガルー科の動物、クアッカワラビーをモチーフとするキャラクターだ。

 

「……いやぁー何の話だが、おじさんにはさっぱりだなー」

 

「ホシノ先輩はこういうファンシー系にまったく興味ないでしょ」

 

「ふむ、最近の若いやつにはついていけん」

 

「歳の差、ほぼないじゃん……」

 

 セリカのツッコミを、ホシノは気にした様子もなく受け流す。そもそもペロロという謎の生物を知らないホシノは、話の輪から外れていた。一方でノノミは熱心にヒフミたちとモモフレ談義をしていたが、やがて満足げな表情をすると、モモフレ仲間の2人と共に本題へ戻ってくる。

 

「というわけで、グッズを買いに来たのですが、先ほどの人たちに絡まれて……」

 

「うん。それで、私は2人の護衛として一緒に付いてきたんだよ。でも、流石に数が多すぎて、2人の安全を確保しながらだと厳しくてね……」

 

「みなさんがいなかったら今頃どうなっていたことやら」

 

 2人からの説明を聞き、アビドスの生徒たちは納得したように頷く。

 

「……ところで、アビドスのみなさんは、なぜこちらへ?」

 

「私たちも似たようなもんだよ。探し物があるんだー」

 

「そう。今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて」

 

「そうなんですか、似たような感じなんですね」

 

 お互いに探し物があると知り、ヒフミが親近感を覚えたように表情を綻ばせた、まさにその時。

 

『皆さん、大変です! 四方から武装した人たちが向かってきています!』*4

 

「何っ!?」

 

 セリカが驚きの声を上げる同時に、周囲の空気が一変した。先ほどまでは楽しげな喧噪で包まれていた場所が、あっという間に戦場の緊張を孕んだ空気に様変わりした。

 1分も経たないうちに、一行を取り囲むように数十人の不良たちが姿を現した。その中の1人、先程の『我絶死覇火我異威々』の不良が声を荒げる。

 

「あいつらだ!」

 

「よくもやってくれたな! 痛い目に遭わせてやるぜ!」

 

 突然、大勢に囲まれてしまった8人の生徒たちは、互いの背中を預けると同時に武器を構える。

 

『先ほど撃退したチンピラの仲間のようです! 完全に敵対モードです!』

 

「望むところ」

 

「まったく、なんでこんなのばっかり絡んでくるんだろうね? 私たち、何か悪いことした?」

 

「変なフェロモンでも出ているのかな?」

 

「うへ~……おじさん、そういう人気は求めてないなー」

 

『愚痴はあとにして……応戦しましょう、皆さん!』

 

 それぞれの言葉を最後に、8人は一斉に目の前の不良たちに向けて引き金を引いた。

 

 ◇ ◇ ◇*5

 

「うぐっ!!」

 

 ミカの放った弾丸が相手の体に命中する。銃弾は的確に敵の右肩を撃ち抜き、力が抜けた手から銃が零れ落ちる。と同時に痛みに悶絶し、その口からは苦痛の声が漏れた。

 

『敵、後退しています! だけどこのままでは……』

 

「仲間を呼ぶつもり? いくらでも相手してあげる」

 

「ま、待ってください! これ以上は戦っちゃダメです!」

 

 銃を構え直したシロコをヒフミが制止する。

 

「ん? どうして?」

 

「だ、だって……ブラックマーケットで騒ぎを起こしたら、ここを管理している治安機関に見つかってしまうかもしれません!」

 

「……マーケットガードの戦力は厄介、わざわざ自分から敵に回す理由は無い」

 

 ヒフミとアズサの言葉に、ホシノが冷静に頷く。

 

「ふむ……わかった。ここのことはヒフミちゃんたちのほうが詳しいだろうから、従おう」

 

「ちぇっ、運のいい奴らめ!」

 

「こっちです!」

 

 ヒフミの手招きを受けて、ハル、ミカ、シロコの3人はハクノを連れてその場から離脱する。その後ろをノノミ、セリカ、アズサが続き、ホシノが殿を務める形で逃走を開始した。

 

 

 

 ――歓楽街*6

 

「……ここまで来れば大丈夫でしょう」

 

 一行が辿り着いたのは、焼きそば屋やラーメン屋などの屋台が立ち並ぶ通りだ。先ほどまでいた区域とは異なった、昔ながらの雰囲気を感じる空間となっている。

 

「ふむ……ここをかなり危険な場所だって認識してるんだね」

 

「えっ? と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所のひとつですから……」

 

「ブラックマーケットだけでも、並の学園数個分の規模に匹敵する。いつどこでも盗聴、尾行、監視が付いていると思ってたほうがいい。ここは魔窟だ」

 

「すごい言われようだね……」

 

 ハクノが苦笑いしていると、ハルがどこか真剣な表情で口を開いた。

 

「それに、ここでは様々な『企業』が違法な事柄を巡って利権争いをしているからね」

 

「ここ専用の金融機関や治安機関もあるくらいだもんね」

 

 ハルの言葉をミカが引き継ぐ。無銘生徒会。その監視の目は、連邦生徒会の目が届かない土地にも――否、連邦生徒会の目が届かない土地だからこそ。多くの勢力が鎬を削り、勢力争いを繰り広げるブラックマーケットに注がれていた。

 

「銀行や警察があるってこと……!? そ、それってもちろん、認可されていない違法な団体だよね!?」

 

「はい……そうです」

 

「スケールがケタ違いですね……」

 

「中でも特に治安機関は……とにかく騒ぎを起こしたら、まずは身を潜めるべきです……」

 

 よほどその治安機関とやらを恐れているのか、そう静かに語るヒフミの表情はどこか青ざめているように見えた。

 

「ふ~ん、ヒフミちゃん、ここのことに意外と詳しいんだねー」

 

「えっ? そうですか? 危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか……」

 

 感心したように何度も頷くホシノに、ヒフミは不思議そうな顔で首を傾げる。

 

「よし、決めたー」

 

「……?」

 

「助けてあげたお礼に、私たちの探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」

 

「え? ええっ?」

 

 ヒフミは、突然の提案に目を白黒させた。そんな彼女に追い打ちをかけるように、ノノミとシロコが喜々とした声を上げる。

 

「わあ☆いいアイデアですね!」

 

「なるほど、誘拐だね」

 

「はいっ!?」

 

 思わずヒフミの口から大きな声が出る。まさかの展開に思考が追いついていないのだろう。先輩たちの悪ノリの被害に遭ったヒフミを気遣うように、セリカが助け船を出す。

 

「案内をお願いしたいだけでしょ? もちろん、ヒフミさんたちが良ければ、だけど」

 

「あ、あうう……あの、アズサちゃん……アズサちゃんはどう思いますか……?」

 

「うん。アビドスの生徒たちには恩がある。ヒフミが良ければ、私は彼女たちの力になりたい」

 

「……アズサちゃん。分かりました。アビドスのみなさんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます」

 

 アズサの後押しもあって、ヒフミは協力に快く了承した。

 

「よーし。それじゃあ、ちょっとだけ同行頼むねー」

 

 

 

 ――便利屋・オフィス*7

 

 プルルルル……! プルルルルルルルル……!

 

「アルちゃん、なにしてんの? 電話出ないの?」

 

 その頃。便利屋68の事務所では、アルが鳴り続ける電話を前に棒立ちしていた。普段ならば、すぐに電話に出て客と対応するアルだが、今回は棒立ちのまま動こうとしない。不審に思ったムツキが不思議そうに声をかける。

 

「表情が暗い……もしかしてクライアント……?」

 

「うわ、そりゃそんな顔にもなるわ。失敗したって報告しないとじゃん?」

 

「アル様……」

 

「……くっ」

 

 アルが苦悶の声を漏らす。2人の言うとおり、依頼の失敗を報告しなければいけない状況を考えると気が重いのだろう。やがて、覚悟を決めたように電話に出る。

 

「はい……便利屋68です」

 

 

 

 ――高層オフィスビル

 

「ふむ、興味深い報告だ」

 

 便利屋の依頼人(クライアント)。黒いスーツに身を包む大柄の人影は、静かに報告の内容に耳を傾けていた。

 

「ここまでの練習は拝見したよ。で、実戦はいつだ?」

 

『……うえ? あれが実戦だったんです……が……あ、いえ、何でもありません。も、もちろん実戦はすぐにでも……という感じで……あ、えっと1週間以内には……はい』

 

『!?』

 

『!!』

 

 大柄の人影からの問いに、アルは震えた声で答える。その答えを聞いたカヨコとムツキは、共に大きく目を見開いて驚きを露わにする。

 

『ふふっ。はい、そうです。……お任せください』

 

 そうしてアルとの電話を終えると、大柄の人影は訝しむように小さく呟く。

 

「奴らのデータ自体は正確な物だったはず。計算ミスか? いや、しかしあの力は明らかに……」

 

「……お困りのようですね」

 

 すると、いつの間にか近くに控えていたもう一つの影から声をかけられた。大柄の人影は、ゆっくりと顔を向ける。その先には、自分と同じように黒いスーツを身に纏った人型の姿があった。

 

「……黒服か」

 

 体は影のように黒く無機質で、右目に当たる箇所に発光部があり、そこから顔全体に亀裂が走っている。また、黒い手袋を着用しているが、手袋と袖の間の地肌のような部分にも同様に亀裂が存在している。まさに異形としか言い様がない異様な姿だが、大柄の人影は何一つ動揺を見せることなく、自らが黒服と呼んだ存在に平然と言葉を紡ぐ。

 

「いや、困ってはない。ただ、計算に少しエラーが生じただけだ。アビドスの連中が、データより遥かに強かっただけのこと」

 

 すると、黒服は考えるような仕草を見せた後、大柄の人影にこう伝えた。

 

「……データに不備はありません」

 

「……?」

 

「これは単に、アビドスの生徒がさらに強くなった、と解釈すべきかと」

 

 その言葉を聞き、大柄の人影は怪訝そうな声音で問い返す。

 

「それは一体……」

 

「アビドスにどのような変化要因があったのか、確認してみましょう。……では」

 

 意味深な言葉を口にすると、黒服は暗い影の中に溶けていくかのように忽然と姿を消す。大柄の人影は、それ以上は何も言わず、ただ黙って眩い陽の光に照らされる街並みを見下ろしていた。

 

 

 

 ――便利屋・オフィス*8

 

「……はあ」

 

 アルが受話器を置くと同時に、ムツキとカヨコが心配そうな表情で声をかける。

 

「やつれたねえ、アルちゃん」

 

「社長、一体どういうこと……? まさか、また戦うの?」

 

 アルは黙ったまま目を伏せる。それからムツキとカヨコの顔を順に見やると呟くように答えた。

 

「……あのクライアントは、私も詳しくは知らないけど、超大物なのよ。……この依頼、失敗するわけにはいかないわ」

 

「だけどアビドスの連中、思ったより強かったじゃん。それに、あの『シャーレ』の先生が一緒にいるから、私たちだけじゃ無理だよ。お金も全部使い果たしちゃったしね。どう戦うのさ?」

 

 ムツキの正論に、アルはグッと言葉に詰まる。そう、今言ったように自分たちだけではアビドスの生徒たちには勝てない。その上、新たに戦力を雇うような資金もない。八方塞がりという言葉がこれ以上なく当てはまる状況だ。

 

「わっ、私がバイトでもしてきましょうか?」

 

「その稼ぎで傭兵を雇うには、全員あと1年は働かないと……」

 

 オドオドと口にしたハルカだが、すかさずカヨコに指摘され、何も言えなくなってしまう。

 

「こんな高いオフィスなんか借りてるから、無駄にお金ばかりかかってるんじゃ……」

 

「う、うるさいっ! ちゃんとした会社なら、事務所は基本でしょ! そのほうが仕事の依頼も増えるんだから!」

 

「別に、私は前みたいに公園にテントでも構わないけどー?」

 

「黙りなさいよ! みんなうるさい! 静かに!!」

 

 カヨコとムツキの言葉に、アルが顔を真っ赤にして憤然と叫ぶ。それから少しの間をおいて、アルは落ち着きを取り戻したのか、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、重い口を開いた。

 

「……融資を受けるわ」

 

「は? アルちゃんはブラックリスト入りしてるでしょ」

 

「違うわよ! 私は指名手配されて口座が凍結されただけ!」

 

「そうだっけ?」

 

 ムツキは首を傾げたが、そう言えばとすぐ思い出したように相槌を打った。

 

「……あ、そうだった。風紀委員会にやられたんだよね」

 

「くっ、風紀委員会め……ここまで痛めつけられるとは思わなかったわ」

 

「中央銀行も、行ったところで門前払いだろーね」

 

「うるさいってば! 他にも方法はあるんだから!」

 

 アルは腹立たし気に机をドンと叩く。

 

「見てなさいよ、アビドス。このままじゃ終わらせないんだから」

 

 そして、静かな闘志を燃やしてそう宣言すると、勢いよく立ち上がった。

 

「便利屋のミッションはこれからなのよ!」

 

 そう息巻くアルの姿に、カヨコとムツキは顔を見合わせて、やれやれと肩を竦める。

 

「……」

 

「へー、一体どうするつもりなんだろ?」

 

 光が強いほど、影は深くなる。その影は、未だ深淵の中に溶け込んでいた。

*1
【推奨BGM:ルバーチェ商会】英雄伝説 零の軌跡より

*2
【推奨BGM:Alert】ブルーアーカイブより

*3
【推奨BGM:リベールからの風】英雄伝説 零の軌跡より

*4
【推奨BGM:Unwelcome School】ブルーアーカイブより

*5
【推奨BGM:Colorful Mess】ブルーアーカイブより

*6
【推奨BGM:ルバーチェ商会】英雄伝説 零の軌跡より

*7
【推奨BGM:陰謀】英雄伝説 空の軌跡SCより

*8
【推奨BGM:MX Adventure】ブルーアーカイブより




TIPS:
ブラックマーケット。
大抵の品物を取り揃えた闇市。治外法権がまかり通る治安の悪いエリア。

後書き:
致命的ミスに気が付いたので修正して再投稿しました。
まだ昼間なのに、「月明かりが冷たく照らす」とか夜の描写は流石に……。
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