ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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E-1-1-2 対策委員会へようこそ

 ――対策委員会・教室*1

 

「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど」

 

 戦闘終了(Battle Complete)。ハルの指揮もあり、アビドス高等学校の生徒たちは、無事にヘルメット団を撃退することに成功した。

 

「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよ、ホシノ先輩……勝たないと学校が不良たちのアジトになっちゃうじゃないですか……」

 

「先生の指揮が良かったね。私たちだけの時とは全然違った。これが大人の力……すごい量の資源と装備、それに戦闘の指揮まで。大人ってすごい」

 

 目を輝かせるシロコ。これまで補給の当てがなかったアビドス高等学校にとって、ハルが用意した資源と装備はまさに天からの恵みだった。

 持ち前の異能の力で弾薬関係をあまり気にしたことがないハルからしても、シャーレの地下室に置かれた『クラフトチェンバー』の性能には目を見張るばかりだ。素材と触媒があれば、物理的制約を殆ど受けずに資源や装備を自由に生成できるのは非常にありがたい。

 

「今まで寂しかったんだね、シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたおかげで、ママはぐっすり眠れまちゅ」

 

「いやいや、変な冗談はやめて! 先生困っちゃうじゃん! それに先生は女の人でしょ!」

 

「あはは……パパっていうのも、あながち間違いじゃないかもだけどね……」

 

「え!? 先生、それってどういう……」

 

 困惑の声を上げるセリカに、うふふっとハルは余裕のある笑みを見せる。

 

「ううん、気にしないで。それより……」

 

「……あ、はい。少し遅れちゃいましたけど、あらためてご挨拶します、先生。私たちは、アビドス対策委員会です。私は、委員会で書記とオペレーターを担当している1年のアヤネ……」

 

 アヤネは姿勢を正すと、丁寧なお辞儀をしてみせた。

 

「こちらは同じく1年のセリカ、」

 

「どうも」

 

 セリカもアヤネに続き、ぺこりと頭を下げる。

 

「2年のノノミ先輩とシロコ先輩」

 

「よろしくお願いします、先生~」

 

「さっき、道端で最初に会ったのが、私。……あ、別にマウントを取ってるわけじゃない」

 

 1年生に続いて、2年生のノノミとシロコがそれぞれ自己紹介をする。

 

「そして、こちらは委員長の、3年のホシノ先輩です」

 

「いやぁ~よろしく、先生ー」

 

 ホシノがへらっと気の抜けた笑顔で、ハルにそう告げる。

 

「ご覧になった通り、我が校は現在危機にさらされています……そのため『シャーレ』に支援を要請し、先生方がいらしてくれたことで、その危機を乗り越えることができました」

 

「別に大したことはしてないよ。みんなが頑張ったおかげかな」

 

「いえいえ、謙遜なさらず……先生がいなかったら、さっきの人たちに乗っ取られてしまったかもしれませんし、感謝してもしきれません……」

 

 深々と頭を下げ、丁寧に感謝の意を示すアヤネ。他の生徒たちも、同意してうんうんと頷く。

 

「どういたしまして。……ところで、対策委員会について聞いてもいいかな?」

 

「あ、そうですよね。ご説明いたします。アビドス対策委員会とは……このアビドスを蘇らせるために有志が集った部活です」

 

「うんうん! 全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです! 全校生徒といっても、私たち5人だけなんですけどね」

 

「他の生徒は転校したり、学校を退学したりして町を出て行った。学校がこの有り様だから、学園都市の住民も殆どいなくなって、カタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末なの。現状、私たちだけじゃ学校を守り切るのが難しい。在校生としては恥ずかしい限りだけど……」

 

 アヤネ、ノノミ、シロコが順々に自分たちの置かれている現状を説明する。10年前、元の世界で聞いた通りの状況だ。やはり、この世界でもアビドスは危機的状況にあるらしい。

 

「もし『シャーレ』からの支援がなかったら……今度こそ、万事休すってところでしたね」

 

「だねー。補給品も底を突いてたし、流石に覚悟したね。なかなかいいタイミングに現れてくれたよ、先生は」

 

 ホシノが冗談めかした口調で、しかし本音を交えてハルに告げる。彼女の視線の先には、「大切に使いましょう!」と張り紙がされた、僅かに弾薬が入った小さな箱が置かれていた。

 

「ふふ、安心して。私が来たからには、大船に乗ったつもりでいてくれていいよ」

 

「うんうん! もうヘルメット団なんてへっちゃらですね。大人の力ってすごいです☆」

 

「かといって、攻撃を止めるような奴らじゃないけど」

 

「あー、確かに。しつこいもんね、あいつら」

 

「こんな消耗戦を、いつまで続けなきゃいけないのでしょうか……。ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに……」

 

 アヤネは深刻な顔で俯く。皆、終わりの見えない戦いの日々に疲れ切っているようだった。

 

「そういうわけで、ちょっと計画を練ってみたんだー」

 

「えっ!? ホシノ先輩が!?」

 

「うそっ……!?」

 

「いやぁ~その反応はいくら私でも、ちょーっと傷付いちゃうかなー。おじさんだって、たまにはちゃんとやるのさー」

 

 1年生2人に訝しげな視線を向けられ、ホシノは拗ねたように口を尖らせる。どうやら、ホシノは先ほどからずっと何かを考えていたようで、その考えがようやくまとまったらしい。

 

「……で、どんな計画?」

 

「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルが続いているからねー。だから、このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らが一番消耗しているだろうからさー」

 

「い、今ですか?」

 

「そう。今なら先生もいるし、補給とか面倒なことも解決してくれる」

 

 ホシノの提案に、他の生徒たちは顔を見合わせる。確かに、物資と装備が潤沢にある今なら、こちらから攻撃に出るのも悪くない選択肢だろう。むしろ、この機会を逃す手はない。今こそが反撃を仕掛ける最大の好機だ。

 

「なるほど。ヘルメット団の前哨基地はここから30kmくらいだし、今から出発しよっか」

 

「良いと思います。あちらも、まさか今から反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし」

 

「そ、それはそうですが……先生はいかがですか?」

 

 アヤネがハルの方に視線を向ける。その視線を受けて、ハルはにっこりと微笑んだ。

 

「私も賛成だよ」

 

「よっしゃ、先生の御墨付きも貰ったことだし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー」

 

「善は急げ、ってことだね」

 

「はい~それでは、しゅっぱーつ!」

 

 ノノミの号令とともに、アビドス対策委員会の5人は一斉に立ち上がり、教室から出発した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 これまで補給不足の状態で幾度となくヘルメット団の攻撃を退けてきた対策委員会が、万全の状態で仕掛けた戦いに敗北するはずもない。

 本来の実力を存分に発揮した5人の活躍によって、アビドス高等学校を襲い続けたヘルメット団の前哨基地は呆気なく陥落した。補給所、アジト、弾薬庫も徹底的に破壊し、前哨基地は今や壊滅状態である。これでヘルメット団もしばらくはおとなしくなるだろう。

 

「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした」

 

「ただいま~」

 

「お疲れ様。冷え冷えのスポーツドリンクを用意したから、飲んで休んでね」

 

 ヘルメット団を撃退した生徒たちが学校の教室に戻ってきた。その疲労した姿に、アヤネは労いの言葉をかけ、ハルはスポーツドリンクと汗を拭くためのタオルを差し出す。

 

「火急の事案だったカタカタヘルメット団も片付きましたね。これで一息つけそうです」

 

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」

 

「うん! 先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ! ありがとう、先生! この恩は一生忘れないから!」

 

 数秒の沈黙。あっ、とセリカは言ってから口を押さえた。

 

「借金かぁ……どれぐらいの?」*2

 

「そ、それは……」

 

「ま、待って!! アヤネちゃん、それ以上は!」

 

「……!」

 

 アヤネが何かを言おうとした瞬間、セリカが慌てて止める。

 

「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」

 

 しかし、ホシノはあっさりとセリカの制止を振り切り、けろりとした表情でそう言った。

 

「か、かといって、わざわざ話すようなことでもないでしょ!」

 

「別に罪を犯したとかじゃないでしょー? それに先生は私たちを助けてくれた大人でしょー?」

 

「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生は信頼していいと思う」

 

 シロコもホシノの意見に賛成する。しかし、セリカはなおも納得できない様子だ。

 

「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」

 

「確かに借金全額をポンと支払えるような財力は私にはないけど、部外者だからこそ協力できることもあるんじゃないかな。……もしよければ、その借金を私にも背負わせてくれないかな? 力にはなれると思う。ほら、高額依頼の斡旋とかなら、多少は協力できるよ」

 

「う、うう……」

 

 優しく諭すように告げるハルに、セリカも言葉を詰まらせる。

 頭では目の前の大人に甘えるべきだと理解している。それでも、心の奥底に何か割り切れないものが残り、セリカは湧き上がる感情のまま声を荒らげた。

 

「でっ、でも、さっき来たばっかりの大人でしょ! 今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!? この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん! なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……私は認めない!!」

 

 セリカは憤りを抑えきれず、ガタ! と扉を力任せに開け、生徒会室を飛び出していく。

 

「セリカちゃん!?」

 

「私、様子を見てきます」

 

 慌ててノノミがセリカを追いかけるように生徒会室を出て行くと、部屋の中にはしんとした沈黙が広がった。微かな足音が遠ざかり、息苦しい空気が広がる中、誰も何も言えず、ただ時間だけが無為に過ぎていく。その沈黙を打ち破るように、ホシノが重い口を開いた。

 

「えーと、簡単に説明すると……この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ。でも問題はその金額で……9億円ぐらいあるんだよねー」

 

「……9億6235万円、です。アビドス……いえ、私たちが返済しなくてはならない金額です」

 

 9億……この時点の自分の世界のアビドス高等学校よりも、彼女たちが抱えている借金は2億円以上も多い。やはり、『蒼井ハル』の存在が及ぼす影響は良くも悪くも大きいのだろう。改めて、自らに定められた役割と使命に思いを馳せる。

 

「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く……殆どの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました……」

 

「そして私たちだけが残った」

 

「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全てこの借金のせいです」

 

「詳しく事情を説明してほしい。どうして、そんな借金を背負うことに?」

 

 本当は過去の経験からアビドスの生徒たちの事情についてはある程度知っている。けれど、話を促し、正確な状況を把握するためにも、あえて尋ねることにした。

 

「借金をすることになった理由ですか? それは……」

 

 それから、アビドス対策委員会の面々が語り出したのは、人の身ではどうしようもない巨大な災厄と、その災厄がもたらした衰退の歴史だった。

 

「数十年前、この学区の郊外にある砂漠で砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。学区のいたる所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい。その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした……。しかしこのような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」

 

「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」

 

「……はい。最初の内は、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途を辿りました……そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです……」

 

 一度そこで言葉を切り、アヤネは続ける。

 

「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底を突いてしまっています」

 

「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて」

 

「……まあ、そういうつまらない話だよ。で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投入できるようになったってわけー。もしこの生徒会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくてもいいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし」

 

「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」

 

 ホシノとシロコの言葉に、ハルは首を横に振る。

 

「いいや、迷惑なんかじゃないよ。……私は、他の誰でもない私のためにあなたたちの力になりたい」

 

「え……?」

 

「私は悪い大人だからね。生徒が苦しむ姿を私が見たくないから、あなたたちのためにできることはなんでもしたいんだ。……だから、迷惑だなんて思わないでほしい」

 

 そう、これはあくまで自分のためだ。でも、自分がそうしたいのだから仕方ない。自分のエゴであることを自覚していながらも、大人として、子供たちの悩みを解決するために力を尽くす。それが『蒼井ハル』という個人なのだから。

 

「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて」

 

 ホシノは目を丸くして、ハルを見つめる。対してアヤネは、そっと目尻を拭う動作を見せる。

 そして、シロコはいつものように無表情だが、ほんの少しだけ嬉しそうな目をしていた。

 

「良かった……『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

 

「そうだね。希望が見えてくるかもしれない」

 

 

 

 ――アビドス高等学校・屋上*3

 

 夜。屋上に1人、ハルは冷たい月を見上げていた。借金問題の解決に関しては、彼女の世界という前例がある。しかも、まだそれを実行するだけの時間もある。生徒たちと共に準備を進めて、機が熟したその時に動くのが最善だろう。それより、大きな問題がこの学校には存在する。

 

『先生。梔子ユメという生徒に関してですが、2年前に行方不明になったアビドス高等学校の生徒に間違いありません。そして、彼女の目撃情報は――』

 

 連邦生徒会のデータベースから掻き集めた情報をアロナがハルに報告する。

 

「……そっか、ありがとうアロナ。……やっぱり、この世界のユメ先輩はあの一件で……」

 

 アロナの報告にただ静かに耳を傾けた後、一言だけそう呟いた。

 

「真実は残酷だ。ただの一度の失敗で簡単に道は閉ざされてしまう。でも、だからこそ私は……」

 

 ハルは、自分自身に言い聞かせるように言葉を続ける。生徒たちの背負うものの重さを想えば、彼女がこの学校のために身を粉にして働く理由は十分すぎるほどだった。

 

「どうして、先生がユメ先輩のことを……」

 

 強い決意を宿した瞳で闇の中に座す月を見上げる彼女を、物陰から1人の少女が見つめていた。

*1
【推奨BGM:Romantic Smile】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:Midsummer Cat】ブルーアーカイブより

*3
【推奨BGM:Scattered and Fallen】Fate/Samurai Remnantより




TIPS:
アビドス廃校対策委員会。
略称は『アビドス対策委員会』または『対策委員会』で、主に後者の名称が使用されています。
アビドス高等学校に学籍を置く最後の生徒5人全員が所属している委員会です。
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