ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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E-1-1-8 ブラックマーケットへ

 ――ブラックマーケット*1

 

「ここがブラックマーケット……」

 

「わあ☆ すっごい賑わってますね?」

 

「本当に。小さな市場を想像していたけど、街ひとつぐらいの規模だなんて」

 

 セリカ、ノノミ、シロコの3人は物珍しそうに辺りを見回しながら口々に感想を述べる。

 彼女たちが足を踏み入れたそこは、アビドスとは比較にならないほどの喧騒に包まれていた。多様な物品を販売している店が並び、大人や子供が思い思いに買い物を楽しんでいる。そう、例えるのならば、まさに歓楽街のような街並みだった。

 

「ええ……相も変わらず騒がしいところですね、ここは」

 

「連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるとは思わなかった」

 

「うへ~普段私たちはアビドスにばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所が多いんだよー」

 

「ホシノ先輩、ここに来たことがあるの?」

 

「いんやー、私も初めてだねー。でも他の学区には、へんちくりんなものがたくさんあるんだってさー」

 

 一語一句に至るまで、10年前の会話の内容を覚えているハルは、当時の記憶との微妙な差異から、この世界のホシノには他の学区へと遊びに行く余裕すらなかったのだと察してしまい、わずかに顔を曇らせる。そんな表情の変化に気付くことなく、ホシノは言葉を続ける。

 

「ちょーデカい水族館もあるんだって。アクアリウムっていうの! 今度行ってみたいなー。うへ、魚……お刺身……」

 

「よくわかんないけど、アクアリウムってそういうのじゃないような……」

 

 そう言えば、自分の世界のホシノは観光業の中でも水族館経営に力を入れており、自らの家にも大きな水槽を置いていたっけ……とハルが思い出していると、アヤネが横から口を挟んでくる。

 

『皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起こるかわからないんですよ。何かあったら私が……』

 

 タタタタタタタタタ!*2

 

『きゃあっ!?』

 

「銃声だ」

 

 突然、辺りに響き渡る銃声。シロコが反応し、咄嗟に声を上げる。

 

「待て!!」

 

「う、うわあ! まずっ、まずいですー!! つ、ついてこないでくださいー!!」

 

「そうはいくか!」

 

 銃弾が飛び交う中、前方から駆けてきたのは幼い顔立ちをした1人の少女と、その少女を追い回す不良の集団。不良の1人、白いバツ印の描かれた黒いマスクで口元を覆い、「我絶死覇火我異威々」とプリントが入ったスカートを身に着けた少女が、手に持った銃を乱射しながら叫ぶ。

 

『あれ……あの制服は……』

 

 アヤネはハッとして、不良に追われる少女の制服に見覚えがあることに気が付く。

 

「わわわっ、そこどいてくださいー!!」

 

 ドンッ! と逃げていた少女がシロコに正面から衝突する。顔立ちに反して、シロコ以上の身長を有している彼女は、ベージュ色のロングヘアをふわりと広げながら、尻餅をついた。

 

「い、いたた……ご、ごめんなさい!」

 

「大丈夫? なわけないか、追われてるみたいだし」

 

「そ……それが……」

 

「何だおまえらは。どけ! アタシたちはそこのトリニティの生徒に用がある!」

 

「あ、あうう……わ、私の方は特に用はないのですけど……」

 

 金髪の不良少女に銃を突きつけられて、ベージュ髪の少女は及び腰になりながらも答える。

 

『……!! 思い出しました、その制服……キヴォトス一のマンモス校の一つ、トリニティ総合学園です!』

 

「そう、そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある! だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」

 

「拉致って交渉! なかなかの財テクだろう? くくくくっ」

 

 金髪の不良少女が下卑た笑い声を上げながら、追い回していた少女を震え上がらせる。

 

「どうだ、おまえらも興味があるなら計画に乗るか? 身代金の分け前は……」

 

 アビドスの生徒たちは、不良たちの言葉を最後まで聞かずに自らの武器を一斉に構える。そのまま、問答無用で攻撃を仕掛けた。

 

「うぎゃあっ!」

 

「罪人は懲らしめないとです☆」

 

「うん」

 

「ふふっ……こんなところにも羽虫どもが……全て片付けて差し上げます」

 

「あ……えっ? えっ?」

 

 状況が理解できずに困惑するベージュ髪の少女を余所に、アビドスの生徒たちは目の前の不良たちに向けて弾丸を発砲する。タタタタタタッ!!  と、まるで雨音のような銃声が轟く中、その音にも負けない大声で、ハルは生徒たちに号令をかける。

 

「行くよ、みんな! 出撃だ!!」

 

「「「「「『(おー)っ!』」」」」」

 

 味方の生徒は総勢6名。彼女たちは1人の犠牲も出すことなく、不良集団を鎮圧するのだった。

 

 ◇ ◇ ◇*3

 

「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……それに、こっそり抜け出してきたので、何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも……」

 

 阿慈谷ヒフミ。彼女は互いに自己紹介を済ませたあと、アビドスの生徒たちに深々と頭を下げ、感謝の言葉を告げた。学園上層部に内緒で自治区を抜け出してきた身として、もしもアビドス一行が通りすがらなければ、どんな処罰を受けていたか……想像するだけで青ざめてしまう。

 

「えっとー、ヒフミちゃんだっけ? それにしても、トリニティのお嬢様がなんでこんな危ない場所に来たの?」

 

「あ、あはは……それはですね……実は、探し物がありまして……」

 

 ホシノからの問いかけに、ヒフミは恥ずかしそうに頬をかきながら答える。

 

「もう販売されていないので買うこともできない物なのですが、ブラックマーケットでは密かに取引されているらしくて……」

 

「もしかして……戦車?」

 

「もしくは違法な火器?」

 

「化学武器とかですか?」

 

「変装用の装束ですか?」

 

「サーモバリック爆薬?」

 

「えっ!?」

 

 冗談なのか本気なのか。シロコ、ホシノ、ノノミ、ワカモ、果てにはハルの口からも非常に物騒な言葉が飛び出してきたことに、ヒフミは困惑と驚きが入り混じった声を上げる。一瞬の間を置いてから、ヒフミは慌てた様子でぶんぶんと首を横に振った。

 

「い、いいえ……えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです」

 

「ペロロ?」

 

「限定グッズ?」

 

「はい! これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ! 限定生産で100体しか作られていないグッズなんですよ」

 

 ヒフミが鞄から取り出したのは、白く丸っこい鳥のような姿をした謎の生物。両目があらぬ方向を向いており、その名のとおり、口の端からちょろっと舌を出しているなど、どこか奇妙なデザインのぬいぐるみだった。

 アイス屋とのコラボ商品だけあり、開いた口の中にアイスクリームが詰め込まれている。それを大事そうに抱えたヒフミが笑顔で自慢気に胸を張る。

 

「ね? 可愛いでしょう?」

 

「わあ☆モモフレンズですね! 私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよねえ! 私はミスター・ニコライが好きなんです!」

 

「分かります! ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて。最近出たニコライさんの『善悪の彼方』も買いましたよ! それも初版で!」

 

 ヒフミとノノミがテンション高くペロロ談義を始める。なお、話題に上がったニコライとは、カンガルー科の動物、クアッカワラビーをモチーフとするキャラクターだ。

 

「……いやぁー何の話だが、おじさんにはさっぱりだなー」

 

「ホシノ先輩はこういうファンシー系にまったく興味ないでしょ」

 

「ふむ、最近の若いやつにはついていけん」

 

「歳の差、ほぼないじゃん……」

 

「ふふ、ふふふ……歳上の私に対する新手の嫌味ですか? でしたら高くつきますよ?」

 

「いや、ストップ! ワカモ、少し落ち着こう!」

 

 ワカモのガチギレ顔を、ホシノは気にした様子もなく受け流す。そもそもペロロという謎の生物を知らないホシノは、話の輪から外れていた。一方でノノミは熱心にヒフミとモモフレ談義をしていたが、やがて満足げな表情をすると、新しいモモフレ仲間と共に本題へ戻ってくる。

 

「というわけで、グッズを買いに来たのですが、先ほどの人たちに絡まれて……みなさんがいなかったら今頃どうなっていたことやら」

 

 ヒフミの説明を聞き、アビドスの生徒たちは納得したように頷く。

 

「……ところで、アビドスのみなさんは、なぜこちらへ?」

 

「私たちも似たようなもんだよ。探し物があるんだー」

 

「そう。今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて」

 

「そうなんですか、似たような感じなんですね」

 

 お互いに探し物があると知り、ヒフミが親近感を覚えたように表情を綻ばせた、まさにその時。

 

『皆さん、大変です! 四方から武装した人たちが向かってきています!』*4

 

「何っ!?」

 

 セリカが驚きの声を上げる同時に、周囲の空気が一変した。先ほどまでは楽しげな喧噪で包まれていた場所が、あっという間に戦場の緊張を孕んだ空気に様変わりした。

 1分も経たないうちに、一行を取り囲むように数十人の不良たちが姿を現した。その中の1人、先程の『我絶死覇火我異威々』の不良が声を荒げる。

 

「あいつらだ!」

 

「よくもやってくれたな! 痛い目に遭わせてやるぜ!」

 

 突然、大勢に囲まれてしまった生徒たちは、互いの背中を預けると同時に武器を構える。

 

『先ほど撃退したチンピラの仲間のようです! 完全に敵対モードです!』

 

「望むところ」

 

「まったく、なんでこんなのばっかり絡んでくるんだろうね? 私たち、何か悪いことした?」

 

「妙なフェロモンでも出ているのでは?」

 

「うへ~……おじさん、そういう人気は求めてないなー」

 

『愚痴はあとにして……応戦しましょう、皆さん!』

 

 それぞれの言葉を最後に、生徒たちは一斉に目の前の不良たちに向けて引き金を引いた。

 

 ◇ ◇ ◇*5

 

「うぐっ!!」

 

 ワカモの放った弾丸が相手の体に命中する。銃弾は的確に敵の右肩を撃ち抜き、力が抜けた手から銃が零れ落ちる。と同時に痛みに悶絶し、その口からは苦痛の声が漏れた。

 

『敵、後退しています! だけどこのままでは……』

 

「仲間を呼ぶつもり? いくらでも相手してあげる」

 

「ま、待ってください! これ以上は戦っちゃダメです!」

 

 銃を構え直したシロコをヒフミが制止する。

 

「ん? どうして?」

 

「だ、だって……ブラックマーケットで騒ぎを起こしたら、ここを管理している治安機関に見つかってしまうかもしれません!」

 

「……マーケットガードですか。確かに、何の準備もなしに敵に回すのは厄介ですね」

 

 ヒフミとワカモの懸念を聞いたホシノが冷静に判断する。

 

「ふむ……わかった。ここのことはヒフミちゃんたちのほうが詳しいだろうから、従おう」

 

「ちぇっ、運のいい奴らめ!」

 

「こっちです!」

 

 ヒフミの手招きを受けて、シロコとワカモはハルを連れてその場から離脱する。その後ろをノノミとセリカが続き、ホシノが殿を務める形で逃走を開始した。

 

 

 

 ――歓楽街*6

 

「……ここまで来れば大丈夫でしょう」

 

 一行が辿り着いたのは、焼きそば屋やラーメン屋などの屋台が立ち並ぶ通りだ。先ほどまでいた区域とは異なった、昔ながらの雰囲気を感じる空間となっている。

 

「ふむ……ここをかなり危険な場所だって認識してるんだね」

 

「えっ? と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所のひとつですから。ブラックマーケットだけでも、学園数個分の規模に匹敵しますし、決して無視はできないかと……」

 

 シロコの問いかけにヒフミは真面目な表情で答える。

 

「それに様々な『企業』が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました」

 

「シャーレでも調査を進めているよ。ここ専用の金融機関や治安機関もあるみたいだね」

 

「銀行や警察があるってこと……!? そ、それってもちろん、認可されていない違法な団体だよね!?」

 

「うん、そうだよ」

 

「スケールがケタ違いですね……」

 

「中でも特に治安機関は……とにかく騒ぎを起こしたら、まずは身を潜めるべきです……」

 

 よほどその治安機関とやらを恐れているのか、そう静かに語るヒフミの表情はどこか青ざめているように見えた。

 

「ふ~ん、ヒフミちゃん、ここのことに意外と詳しいんだねー」

 

「えっ? そうですか? 危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか……」

 

 感心したように何度も頷くホシノに、ヒフミは不思議そうな顔で首を傾げる。

 

「よし、決めたー」

 

「……?」

 

「助けてあげたお礼に、私たちの探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」

 

「え? ええっ?」

 

 ヒフミは、突然の提案に目を白黒させた。そんな彼女に追い打ちをかけるように、ノノミとシロコが喜々とした声を上げる。

 

「わあ☆いいアイデアですね!」

 

「なるほど、誘拐だね」

 

「はいっ!?」

 

 思わずヒフミの口から大きな声が出る。まさかの展開に思考が追いついていないのだろう。先輩たちの悪ノリの被害に遭ったヒフミを気遣うように、セリカが助け船を出す。

 

「案内をお願いしたいだけでしょ? もちろん、ヒフミさんが良ければ、だけど」

 

 ヒフミは少し悩むような仕草を見せるが、すぐに真っ直ぐな瞳でアビドスの面々を見据えた。

 

「あ、あうう……私なんかでお役に立てるか分かりませんが……アビドスのみなさんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます」

 

「よーし。それじゃあ、ちょっとだけ同行頼むねー」

*1
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*2
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*3
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*4
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*5
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*6
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TIPS:
小鳥遊ホシノ(10年後のすがた)。
ドリームコーポレーション副社長として学生の頃のように、ユメ社長や後輩たちと一緒にアビドス復興事業を行っている。
観光業の中でも水族館経営に力を入れており、自らの家にも大きな水槽を置いている。
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