――SRT特殊学園・貴賓室*1
「……お初にお目にかかります、ハル先生。お噂はかねがねお伺いしております。連邦生徒会長の不在でパニック状態だったキヴォトスを纏めてくださったそうですね」
SRT特殊学園――「Special Response Team(特別対応チーム)」の名を冠した、キヴォトスの法執行機関における最高学府。
一般的な治安維持業務にあたるヴァルキューレ警察学校が連邦生徒会の管轄であることから、キヴォトスの各学園が持つ自治権を理由に活動を制限される場面が多い点を鑑み、ヴァルキューレでは対応できない案件を担うための特殊部隊の運用と養成を主目的としたエリート校。
連邦生徒会長直属の学園組織として創設された本校は、連邦生徒会長の権限・命令を以て、あらゆる自治区への介入を可能としており、生徒の装備もキヴォトスでトップクラス。SRTでしか扱えない最新兵器も保有している。
厳しい選抜試験や訓練を通過してきた生徒たちの練度・士気は高く、高品質の装備も相まって、並の集団では4~5人からなる一個小隊にすら太刀打ちできない。
その中でも、最も優秀な特殊部隊と評されるほどの腕利きが集う小隊……それが、FOX小隊だ。
通常の戦闘力だけなら各学園にもSRTにも匹敵する者たちはそこそこいるのだが、特殊な状況下での作戦行動で彼女たちを超える集団はいないと言われている。
シャーレの先生に就任してから数日後のある日、SRT特殊学園を訪れたハルは、案内された貴賓室でFOX小隊の隊長である
「……SRT特殊学園を代表し、厚くお礼申し上げます」
「どういたしまして。私もあなたたちのことは連邦生徒会長から聞いているよ」
「連邦生徒会長から……ですか?」
「とても頼りになる子たちだ、ってね」
ユキノは眉をピクリと動かす……が、すぐに表情を引き締め、冷静沈着な佇まいで続ける。
「恐縮です。……それで、本日はどういったご用件で?」
「ああ、うん。単刀直入に言うと……連邦捜査部『シャーレ』はSRT特殊学園と正式に協力関係を結びたいと考えてるんだ」
「!?」
今度こそ、ユキノは驚きに目を見開く。利害関係に囚われることのない独自の『正義』を理念とするSRT特殊学園を煙たがる組織は数あれど、協力関係を結びたがる組織など今までにひとつもなかったからだ。
「『正義とは、理にかなった正しい道理のこと。SRTの正義は、いかなる状況でも揺らぎはしません』」
「それは……」
「以前、あなたが言った言葉だよ。……私は、SRTの在り方を尊いものだと思ってる。私の在り方が『闇に蠢き、悪を咬み切る獣の牙』だとすれば、あなたたちは『闇を払い、平和を守る正義の弾丸』。あなたたちだったら、私が進むべき道を誤った時には止めてくれると信じているんだ」
言葉の節々から自分たちに対する好意と期待のようなものを感じる。SRTの理念に共感を示しただけでなく、自分たちの在り方を肯定した上で、その正しさを信じてくれるというハルの言葉にユキノは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「けど……今、SRTは未曾有の危機に陥っている。その理由は……分かるよね?」
「連邦生徒会長の失踪……私たちの活動に責任を負う者がいなくなったから、ですね」
ハルは頷いた。連邦生徒会長が失踪したことにより、SRTに関する責任の所在は宙に浮いてしまった。そうなっては非常に危険な火薬庫も同然……そんなSRT特殊学園について、責任を取ろうとする者が現れるはずもなく。今現在、SRT特殊学園は身動きが取れない状態にある。
連邦生徒会長が帰ってこないと決まったわけではない、SRTは存続しておくべきだ……という意見も連邦生徒会の中にはあるが、このままでは暗い未来は避けられないだろう。
「本当は、私が責任を背負えればよかったんだけど……それが許されるほど、私には信用も実績もない。だから、『明日』を待つことにしたんだ。昔、私の先生に教わったとおりにね」
「……明日? 明日が来たとして……それで一体何が変わるのでしょうか?」
「信頼を築くことができる。そうやって周りから信用されて、私が信頼に値する大人だと思われるようになったら。その時に改めて、SRT特殊学園に対する責任を負おうと考えているんだ」
ユキノはハルの瞳を見据える。その目はまっすぐで、どこまでも純粋だ。しかし同時に、力強く……確かな信念を感じさせる眼差しでもあるとユキノは思った。
そして、予感した。この人ならば、窮地にあるSRTを救ってくれるかもしれない……と。
「協力関係と仰いますが、具体的にはどのような内容でしょうか?」
「お互いが必要な時に情報を交換したり、物資や装備の融通をしたり……あとは、私の護衛をしてもらうのはどうかな? 要人警護という名目ならSRTを動かす許可も下りると思うし」
「なるほど……」
互いの利益になる提案であることは間違いなかった。ユキノは顎に手を当てて、ハルの提案について熟考する。その時、案内役の少女が飲み物を2つ持って入室してきた。2つのコップの内1つをユキノに手渡し、もう1つをハルの前に置くと彼女は自分の席につく。
彼女の名前はニコ。後輩からも慕われる優しい人柄とは裏腹に、戦闘時には冷静で的確な判断力を発揮する策謀家としての一面も併せ持つ、FOX小隊の副小隊長だ。
「ユキノちゃん……私はこの提案を受けてもいいと思うよ」
「ニコ……」
「あの子たちとかはどうかな? 足りない実戦経験を補ういい機会になると思うんだけど……」
「……確かに先生の護衛はいい経験になるか」
ニコの言いたいことを察し、ユキノは小さく頷いてニコの意見に同調する。そして、ハルに対して向き直った。ユキノはすっと立ち上がり、頭を下げる。隣にいたニコもまた立ち上がり、同じように頭を下げた。
2人からの突然の行動に目を丸くするハルだったが……彼女たちの意図を察してすぐに顔を引き締める。
「ハル先生、提案を受諾させていただきます。……どうか、SRT特殊学園にご助力ください」
「よろしくお願いします、先生」
「うん、こちらこそよろしく。FOX小隊のみんな」
――破壊されたアビドス市街地*2
「迫撃砲、防がれました!」
「ふん。歩兵、第2小隊まで突入」
ゲヘナ学園2年生。規則違反者へ情け容赦なく銃弾を撃ち込みにいく風紀委員会の切り込み隊長、
「……イオリ、あの方たちはどうします?」
「ん? ああ、向こう側の生徒? なんだって……アビドス?」
「いえ、報告書にあるアビドスの制服と一致しません。おそらく他の学園の生徒……観光客か何かかと思われますが……」
風紀委員会の期待の新人、火宮チナツの問いに、イオリは興味なさそうに目を向けた。そこには見覚えのない制服に身を包む2人の少女が、便利屋68の構成員4人を守るように立っていた。
「そんなの当然、公務の執行を妨害する輩は全員敵だ」
「ならば、大人しくしていてもらいたいものですね……しかし、こちらの事情を説明するのが先かと……」
「説明? 必要か、それ?」
イオリは肩を軽くすくめ、傲岸不遜に言い放つ。その態度に、チナツはため息で返した。
「うちの厄介者どもを取っ捕まえるための労力が惜しい。もし邪魔するなら、部外者とはいえ問答無用でまとめて叩きのめす」
そう宣言するイオリの顔には、一切の迷いも不安も見られない。彼女は、自分の役目を全うするだけだと言わんばかりに堂々としている。その姿を見て、チナツは再度ため息をついた。……こうなったイオリを説得するのは骨が折れるだろうと思いながら。
◇ ◇ ◇
「社長! ムツキ! ハルカ! 早く隠れよう! 奴らが来た!」
「奴らって?」
「うちの風紀の連中だよ! ここまで追ってくるなんて!」
対して、便利屋68のメンバーは、突然の襲撃により混乱に陥っていた。その中でいち早く状況を把握したカヨコは、仲間たちに情報を共有する。同様に、現場に駆けつけたばかりで状況を把握していないRABBIT小隊の4人も、カヨコの言葉に耳を傾けていた。
「ゲヘナ学園の風紀委員会……しかしこの兵力は……? 先生、一体何があったのですか?」
RABBIT小隊の隊長を務める
「どうせ、いつもみたいに変なトラブルに巻き込まれたんだろ」
『ふふっ……まーた何かやらかしたの? 危険な匂いがするなぁ……くひひっ』
『う、うん……先生のことだもんね……』
RABBIT2――
RABBIT3――
RABBIT4――
「……そうですね。ハル先生のことですし、妙に納得にしました」
「そう言われるとちょっと傷つくなぁ……」
RABBIT小隊の4人が次々と言うのを聞き、ハルは苦笑しながら頬を掻いた。彼女たちとの付き合いはまだ短いはずなのに、評価がやけに手厳しい気がするなぁ……と心の中で思いながら、ようやく落ち着きを取り戻してきたアルたちに声をかける。
「――アル社長」
「先生……?」
「ひとつ、依頼をしてもいいかな? 対策委員会の生徒たちを呼んできてほしいんだ」
「な、何を言っているのよ! 私たちはアビドスと敵対しているのよ!?」
アルが声を荒げて反論する。彼女が社長を務める便利屋68はアビドスと敵対関係にある。そんな彼女たちにアビドスの生徒たちを連れてきてほしいなどと頼むのだから、アルの反応も至極当然のものだろう。しかし、ハルはそんなアルに微笑みを返す。
「あくまで仕事で、でしょ? 別に、仕事以外の時は仲良くしてもいい……だよね、ムツキ?」
「あははっ、そんなことも言ったねー。どうする、アルちゃん? 先生からの初仕事だよ?」
ムツキが悪戯っぽく笑いながら問いかけると、アルは少し考え込んだあと……小さく頷いた。
「……分かったわ。未来の事業パートナーの頼みだもの、聞いてあげないこともないわよ」
「ありがとう……報酬は色を付けさせてもらうね」
「! ふふっ……楽しみにしているわ」
報酬に色を付けるというハルの言葉に、アルの気分は一気に上向いたようだ。社員たちと共にその場を離脱する彼女の背中を見送り、ハルは改めてRABBIT小隊の4人に向き直る。
「さて……本当なら、このまま撤退するのが作戦としては正解なんだろうけど、このままだと一般人に危害が加わる可能性がある。悪いけど、みんなには制圧する方向で動いてもらうよ」
「分かりました。RABBIT小隊、戦闘準備」
「ラジャー」
『う、うん……私も準備できた』
『はぁ、はぁ……火力支援、準備完了。これで……もっと派手な花火が撃てる』
ハルの指示を受けたRABBIT小隊のメンバーたちは、着々と戦闘準備を整えていく。隊員たちは武器を構え、隊長ミヤコの号令を静かに待っていた。ミヤコもまた、自らの固有武器『RABBIT-31式短機関銃』を構え、前方のゲヘナ風紀委員会を見据えながら口を開く。
「では、交戦を開始します」
◇ ◇ ◇
「所属不明の生徒たち、臨戦態勢に突入しました」
「はあ、面倒だな、たかが2人で。こっちは一個中隊級の兵力なのに」
イオリは鬱陶しそうにため息をついた。彼女の言葉通り、風紀委員会とRABBIT小隊の戦力差は圧倒的だ。いくらRABBIT小隊が優秀な生徒たちで構成されているとはいえ、この戦力差を覆すのは容易ではない。むしろ、不可能と断言してしまっても差し支えない。
「だけど、売られた喧嘩を買わないなんてことは、風紀委員会としてできない。総員、戦闘準備!」
「……ちょ、ちょっと待ってください。イオリ」
「ん?」
「向こう側に民間人が映りました。確認中ですので、お待ちください」
先程から情報収集を行っていたチナツがイオリを制止する。彼女は戦術サポート用の情報端末を操作し、部下からの報告で伝えられた民間人の容姿と身元を自らの目で確認する。
「え……!? ……あ、あの方は……まさかシャーレのハル先生!?」
「ん? シャーレ? なんだそれ?」
「……ちょ、ちょっと待ってください。シャーレの先生があっちにいるとしたら……この戦闘、行ってはいけません!」
「どういうことだ?」
蒼白した顔に焦燥の色を加えたチナツが必死に訴えるが、イオリは怪訝そうな表情を浮かべただけだった。そうしている間にも、状況は刻一刻と悪い方向へと傾いていく。
「所属不明の生徒たち、臨戦態勢に突入しました。こちらに接近中。発砲します!」
タタタタタターン!!
「ちっ、仕方ない。行くぞ!」
「あっ……」
そして、最悪の事態が訪れた。 連続した銃撃音が木霊する。ゲヘナ風紀委員会とシャーレの先生率いるRABBIT小隊の戦いの火蓋が切って落とされた。銃弾が飛び交う戦場へ、それぞれの生徒たちが駆け出していく。その先に待つ未来は、果たして……。
SRT特殊学園。
キヴォトスの法執行機関における最高学府です。
一般的な治安維持業務にあたるヴァルキューレ警察学校が連邦生徒会の管轄であることから、キヴォトスの各学園が持つ自治権を理由に活動を制限される場面が多い点を鑑み、ヴァルキューレでは対応できない案件を担うための特殊部隊を運用・養成することを主目的としたエリート校です。
実は、生徒の頃から『蒼井ハル』のSRT特殊学園に対する好感度はかなり高いです。
ルート分岐:
新たなルートが解放されました。
解放条件:SRT特殊学園の閉鎖問題が持ち上がる前に七度ユキノの絆ランクを■にする。
Vol.4 カルバノグの兎
→ Evolution Vol.4 狐の嫁入り