物語の進行に関わる修正を入れたので再投稿しました。
――対策委員会・教室*1
少し時間を巻き戻し、風紀委員会が便利屋68へ奇襲を仕掛けた直後のこと。突然の轟音に、対策委員会の面々は数秒ほど固まった。次いで、アヤネが慌てて戦術サポートシステムを確認する。
「前方、半径10Km内にて爆発を感知! 近いです!」
「10Kmってことは……市街地? まさか襲撃!?」
「衝撃波の形状からすると砲撃や爆撃の類かと思われます……もう少し確認してみます!」
アヤネはデバイスのキーボードを目にも留まらぬ速さで叩きながら、索敵を続ける。
「……爆発地点確認。市街地です! この反応は……50mm迫撃砲です!」
「迫撃砲、ですか……?」
「50mm迫撃砲と言えば……」
疑問の表情を浮かべるノノミと、考え込むような声を出すシロコ。50mm迫撃砲を運用する集団と言えば、一つしか思い浮かばない。その予想を裏付けるようにアヤネが観測結果を述べる。
「兵力の所属、確認できました!! ゲヘナの風紀委員会! 一個中隊の規模です!」
「風紀委員会……!?」
「はあ!? どういうこと!? なんでゲヘナの風紀委員会が!」
対策委員会は困惑に包まれた。アビドスとゲヘナの間に特別な接点はほとんどないはず。どうして風紀委員会が……と考えたところで、セリカがある仮説に思い至る。
「……もしかして、便利屋68を捕まえるために……?」
「憶測はあとでも遅くない。まずはなにか手を打たないと!」
「でもゲヘナの風紀委員会は、他校の公認武力集団や、便利屋のような部活とは性質が異なります! 一歩間違えれば、政治的な紛争の火種になるかもしれません……」
シロコの発言に、ノノミが即座に反論する。生徒会の議論は平行線を保ち、結論に辿り着く気配はない。無為に時が過ぎる中、ノノミは沈黙し、思案に耽る。そして、やがてぽつりと呟いた。
「この状況……私たちはどうすればいいのでしょうか?」
沈黙がその問いに答えるように部屋を支配した。不安と緊張が生徒たちの間に漂い、彼女たちは困惑した表情を交わし合う。
「全く……急いで来てみれば、何を泣き言ばかり言ってるのかしら……」
「……!?」
不意に、入口の扉が開け放たれる。部屋に入ってきたのは、4つの人影。その姿を見た対策委員会の面々は、皆一様に驚きの表情を浮かべた。それも仕方のないことだろう。ここにいるはずのない人物たちが、突如として目の前に現れたのだから。
「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……それが、あなたたち覆面水着団のモットーじゃなかったの?」
「……あ、あなたたちは!?」
「便利屋68!? どうしてあんたたちがここにいるの!?」
そう、彼女たちの目の前に現れたのは、先ほど話題に上がった便利屋68だった。予期せぬ来訪者に対策委員会の生徒たちは混乱する。しかし、その混乱を意に介さず、便利屋68の社長であるアルは堂々とした振る舞いで続けた。
「何をすればいいのか分からない、どうすればいいのかも分からない。一歩間違えれば、政治的紛争が生じるかもしれない……」
不敵な表情を崩さないまま、アルは対策委員会を一瞥する。
「だからなんなのよっっっ!!!」
次いで、室内に響き渡るほどの大声で言い放った。その迫力に圧倒され、対策委員会の生徒たちは言葉を失くす。そんな彼らに対し、アルはさらに追い打ちをかける。
「泣き言を言っても、問題を先延ばしにしてるだけじゃない! 学園の復興を目指してるんでしょう!? それなのに、くだらないことばっかり考えて、このまま余所者に好き放題されて、それで納得できるわけ!? あなたたちは、そんな情けない集団だったの!?」
心の奥底から湧き上がる感情を、そのまま言葉に乗せてアルが叫ぶ。それは、対策委員会の面々の心に深く突き刺さる言葉だった。そして、その言葉を受けた生徒たちは……。
「便利屋の皆さん……」
「……お陰様で目が覚めました。私たちに今、こうして迷っている時間はありません」
「そうだよ! 何よりもまず、急いで向かわないと!!」
「ホシノ先輩には私から連絡します、出動を!!」
自分たちが置かれている状況を思い出す。ヘルメット団だろうと、風紀委員会だろうと、目の前に迫った脅威を放置するなんて、そんなことできるはずがない! そう思った彼女たちの行動は迅速だった立ち上がると、各々の得物を手に取り、教室から飛び出していく。それはまるで、吹き荒れる風のような速さだった。
そんな対策委員会の生徒たちの姿を横目で見ながら、アルは満足げな笑みを浮かべた。
「ふふっ、それでこそ私の憧れた真のアウトロー……覆面水着団よ」
「ごふっ!? ア、アルさん、気付いていたんですか!?」
「へ……とっ、当然でしょう! この私があなたたちの姿を見間違えるわけないじゃない!」
「……アルちゃん……本当は、まったく気付いてなかったよねー?」
「う、うるさいっ!? 余計なことは言わなくていいの!」
ムツキに痛いところを突かれて、アルが顔を真っ赤にして反論する。ビシッと決めたはずなのに、やっぱりどこか締まらないアルなのであった。
――破壊されたアビドス市街地*2
一方、RABBIT小隊とゲヘナ風紀委員会の戦いも佳境を迎えていた。ハルの的確な指揮のもと、RABBIT小隊は風紀委員たちを確実に制圧していった。陣地の最奥で全体を指揮していたイオリが、苦悶の表情を顔に滲ませて膝から崩れ落ちる。
「ぐ……私たちが負けただと……!?」
「――クリア。先生、風紀委員会の制圧を完了しました」
膝をつくイオリに銃口を向けながら、ミヤコがハルに報告する。それを聞いたハルは、最前線で戦った2人に目立った傷がないことを確認してから、ほっと胸を撫で下ろした。これでようやく一息つける……と、RABBIT小隊の4人に労いの言葉をかける。
「みんな、お疲れ様。流石はSRT期待の1年生だね」
「SRT!? SRT特殊学園の生徒がどうしてこんなところに!?」
「……先生の護衛のため、ですね?」
イオリの疑問に答えたのはハルたち――ではなく、イオリの後ろから現れたチナツだった。
「久しぶり、チナツ」
「先生……こんな形でお目にかかるとは……」
シャーレ奪還の際に身を以てハルの指揮能力の高さを体験していたチナツは、自らの失策を悔やむように唇を噛みしめる。しかし、ハルはそんなチナツに対して、朗らかな笑みを向ける。
……と、その時だった。ハルたちの後方から聞き覚えのある声が聞こえてきたのは。
『ハル先生発見! 生存確認しました!』
「こちらも確認した、風紀委員会と対峙する先生を発見!」
「みんな、待ってたよ」
アビドス高等学校の校舎を出発した対策委員会の生徒4人が、ようやくハルの元に合流した。
『アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします』
「それは……」
『それは私から答えさせていただきます』
『通信……?』
返答に窮したチナツの言葉を遮るように、突如第三者の声が通信に割り込んできた。アヤネが怪訝な表情を浮かべていると、ドローンから1人の少女の姿が投影される。
「アコちゃん……?」
「アコ行政官……?」
『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、天雨アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?』
大胆にも横乳が露出した服装に、手枷やカウベルといった変た……独創的なアクセサリーの数々を身に着けた彼女は、自らをゲヘナの行政官と名乗った。その自己紹介にアビドス生徒会が警戒を強める一方で、イオリとチナツの2人は直属の上司の登場に戸惑いを露わにする。
「アコちゃん……その……」
『イオリ。反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存知ですよね?』
途端にイオリの体がピタリと硬直する。何か言い訳をしようとしていたようだったが、結局は大人しく口を閉ざした。アコはその様子を確認すると、仕切り直すように軽く咳払いをしてから、改めて対策委員会の生徒たちへと視線を向けた。
アコが何を言うのか、アビドス生徒会一同は息を詰めて待ち構えていた。そして、彼女の口から発せられた言葉は――
――キヴォトス・某所*3
「これはこれは。お待ちしておりましたよ、暁のホル……いや、ホシノさんでしたね。これは失礼」
同時刻。黒服に身を包んだ異形の男が、目の前の少女へと告げる。不機嫌を隠そうともしないその少女――小鳥遊ホシノは、不気味な男に鋭い視線を向けた。
「いやいや、キヴォトスにはまだ馴染めていなくて。こちらへどうぞ、ホシノさん」
「……黒服の人、今度は何の用なのさ?」
「……ふふ、状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」
「提案? ふざけるな!!! それはもう……!!」
ホシノが激昂する。しかし彼女の怒りを受け流すかのように、黒服は涼しい態度で口を開いた。
「まあまあ、落ち着いてください」
「……!?」
「……お気に入りの映画の台詞がありましてね。今回はそれを引用してみましょう」
トサッと椅子に腰を下ろし、肘を机に立て、両手を口元で組むと、黒服は意味深に続ける。
「あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴ください。ククッ、クックックックッ……」
不穏な空気が漂い始める。黒服が提示する提案――それは、新たな波乱の予感をもたらす不吉な幕開けだった。斯くして、アビドス高等学校を巡る一連の問題は次の局面へと突き進んでいく。
TIPS:
対策委員会編。
シャーレに寄せられた最初の依頼です。
砂漠化が進行している上に借金まみれで廃校寸前のアビドス高等学校の廃校を防ぐべく、対策委員会と共に奮闘します。