――アビドス高等学校・校庭*1
「シロコ先輩、これ!」
「うん、ありがとう」
校庭に並ぶ遮蔽物の一つ、金属製のロッカーの裏で仲間たちと合流したシロコに、セリカが固有武器の『WHITE FANG 465』を差し出す。シロコは受け取るとすぐにセーフティを外し、校門の辺りに陣を構えるカタカタヘルメット団の様子を窺う。
自分たちは弾薬の残量が僅かだというのに、どこから物資の補給を得ているのか、好き放題に弾丸を撒き散らすヘルメット団を見て、シロコは険しい表情を浮かべた。
「それにしても……しつこい、あいつら」
「弾薬が残り少ないというのに……困りましたね」
「もう少しで支援が受けられるのに……」
「――問題ない」
「ちょっ、シロコちゃん!?」
このまま待っていても状況は改善しないと判断し、意を決したシロコは仲間たちの制止も聞かずに飛び出した。ザッ! と砂を踏みしめ、一気に射線の通る位置まで駆け抜ける。
銃口の向き、角度、そして発射された弾丸の速度から弾道を予測し、敵の射線上に入らないように注意しながら次の遮蔽物へ。そこから身を乗り出したシロコの銃弾はヘルメット団を掠めるばかりで有効打にはならず、リーダー格と思しき赤いヘルメットの少女は余裕綽々と告げる。
「無駄無駄ぁ! お前らの弾薬が尽きかけているのはわかってんだよ!!」
「えっ!? なんでそんな情報を……!?」
本来、学校の外に漏れるはずのない情報が知られている事実に、アヤネは驚愕の声を上げる。
「大丈夫だよ、アヤネちゃん! ヘルメット団なんか私たちの敵じゃない!」
「シロコちゃんを援護だ!」
「はい!」
気になることはあるが、今は目の前の敵に集中するべきだ。セリカ、ホシノ、ノノミの3人も遮蔽物の陰から飛び出し、それぞれの固有武器でヘルメット団を牽制する。
校庭に放たれた弾丸は砂の上を縦横無尽に飛び交い、遮蔽物に命中する度に衝撃を伝える。それでも生徒たちは怯むことなく弾丸を撃ち返し、忌むべき訪問者に立ち向かう。しかし、弾薬不足から思うように戦えないことに、シロコは内心で焦りを募らせていた。
「あなたがたにアビドス高校は渡しません!」
ドドドドドドッ!!
「……あっ、シロコちゃん!?」
「……え?」
焦りから視野が狭くなっていたシロコは、進む方向で
「シロコちゃん! ノノミちゃん!」
「ホシノ先輩!?」
その隙を見逃すほどヘルメット団も甘くはない。後輩たちの窮地に気を取られた瞬間、彼女の足元と、砂上に転がる二人のすぐ近くに手榴弾が転がり込んだ。
爆発までの猶予は僅か1秒にも満たない。自分はいい。正面から構えている自分は身を守るだけの余裕がある。けど2人は……振り向いたホシノの目に映ったのは、今にも爆ぜようとしている手榴弾と、砂上で目を回している後輩2人の姿だった。
「――させない!」
だが、彼女の想像した未来は訪れなかった。横合いから飛び込んだ影が爆発寸前の手榴弾を勢いよく蹴り上げる。空高く打ち上げられた手榴弾は空中で爆発し、周囲に破片を撒き散らす。
砂の上に降り立ったのは、ハルだった。彼女はシロコとノノミに怪我がないことを確認すると、安堵の息を吐く。そして、そのまま視線を校門の方へと移した。
その視線の先では、寸刻の間も途切れることなくヘルメット団が銃弾を吐き出し続けている。
「みんな! 一度下がって体勢の立て直しを!」
異論は誰からも出なかった。砂の上のシロコとノノミを助け起こそうとするホシノとセリカ、そしてアヤネ。彼女たちはハルの指示に従い、遮蔽物の陰へと身を隠す。
それに合わせて、ハルが自身の固有武器である
「うっひゃっひゃっひゃっ! あいつら、まるで連携取れてねえでやんの!」
「銃弾を切らしているという情報は本当みたいだな」
「情報にない6人目は想定外だが……大した問題じゃない。数も弾数もこっちが上だ!」
「ふっふっふ、いよいよ決着を付ける時が来たようだ。よーし、このまま一気に畳み掛けるぞ!」
ヘルメット団のリーダー格である赤いヘルメットの少女はニヤリと笑いながら、部下たちに指示を出す。それを受けた部下一同は一斉に鬨の声を上げ、校庭に群れをなして押し寄せた。
◇ ◇ ◇
『先生、このままじゃアビドス高校の生徒さんたちが……』
「……うん、行こう!」
校舎内から戦いの推移を見守っていた先生は、アロナの言葉に力強く頷く。次いで、自分がするべきことを頭の中で整理すると、シッテムの箱を片手に駆け出した。
◇ ◇ ◇*2
「――神秘再現。コード名『シークレットタイム』」
掌中にて白い
その精度は、まるで未来が見えているかのようだ。脅威となる弾丸を撃ち落とし、逆に敵側の嫌がるところに撃ち込んでいく。
「(正直、私一人でもどうにかできる……けど、それじゃあ意味がない)」
本気を出せば、二桁程度の数しかいない不良集団など10秒も要せずに制圧できる。だが、それではダメだ。この戦いはアビドス高等学校の生徒たちが、自分たちの力で勝つことに意味があるのだから。余所者の自分が必要以上に介入することは、彼女たちの成長に繋がらない。
アビドスの生徒たちに戦闘の経験を積んでもらうために……そして、経験を糧に成長してもらうために。敢えて、不審に思われない程度に手を抜いて、彼女たちが戦いやすいように立ち回る。
「みんな、大丈夫?」
「うん」
「はい、なんとか」
「皆さん、固まらずに分散して戦ってください!」
しかし、予想していたよりもアビドスの生徒たちは苦戦を強いられている。特に弾薬が不足しているのがマズイ。このままでは、校庭という防衛ラインを突破されるのも時間の問題だろう。
それには、ヘルメット団も気付いていた。弾薬は底を突き、数の差にも劣るアビドス高等学校の悪足掻きに嘲笑を浮かべる。
「……おいおい、まだやる気なのかよ」
「お前らに勝ち目なんてないぞー?」
「まだまだ行くぜ!」
ドカアアァァァァン!! 新たな手榴弾が投擲され、校庭に再び爆炎が吹き荒れる。衝撃が砂を巻き上げて視界を遮り、敵の姿を見失ったハルは咄嗟に遮蔽物の陰に身を隠した。
「まずいです! このままでは押し切られてしまいます!」
「くそっ! あんな奴らに追い込まれるなんてっ!」
絶体絶命の状況。実力では自分たちの方が上のはずなのに、勝負の天秤は徐々にヘルメット団に傾いている。その事実が生徒たちに焦りを生み、その焦りは戦況を更に悪化させていた。
だが、そんな彼女たちとは裏腹に、ハルの顔に不安の色は微塵もない。無論、自分の実力に絶対の自信があるというのもあるが、それ以上に――
「みんな!」
――自分たちには、先生が付いている。
「君たちは、どうしてこの学校を守りたいんだ?」*3
「先生……」
「どうして?」
余程、急いで来たのだろう。ハァハァと息を切らしながら、先生は生徒たちに問いかける。
「……それは、ここが私たちの居場所だから」
シロコが立ち上がる。彼女の返答に頷いた先生は、他の生徒たちに視線を移し……
「みんなも同じかい?」
「「「「もちろんです!!」」」」
淀みなく返された言葉を聞いて、先生は満足そうに頷き返す。
……そう、ここは彼女たちの学校だ。彼女たちの居場所。それを、どんな事情があろうとも奪わせるわけにはいかない。ならば――先生として、自分のやるべきことは一つだけ。
先生はゆっくりと歩み出し、戦場と化した学校の校庭に堂々と姿を現した。その姿を捉えたヘルメット団の一人が、訝しげに声を上げる。
「突然出てきて、テメェは一体誰なんだ!?」
「私は先生だよ」
「先生?」
「私は、彼女たちを助けるためにここに来た。悪いが君たちには、退散してもらうよ」
「(……ああ、やっぱりこの人も『先生』なんだ)」
先生は、静かに告げる。その口調はどこまでも優しく……それと同時に、有無を言わせぬ迫力があった。容姿、性格、年齢――それら全てが異なるにもかかわらず、彼は紛れもなく『先生』と同じであるとハルには感じられた。
だが、そんな先生の態度にヘルメット団のリーダーが食ってかかる。それも当然だ。彼女たちからすれば初対面の大人でしかなく、しかも偉そうに上から目線で説教までしてきたのだから。
「突然出てきて偉そうに……! ハチの巣にしてやるぜ!!」
タタタタタタタタタッ!! 怒りに突き動かされ、目の前の邪魔な大人を蜂の巣にせんと引き金を引いた彼女だが、放たれた銃弾はただの一発も当たることはなかった。何故なら――
「――それはさせないよ」
銃口から放たれた無数の弾丸が空中に縫い留められていたからだ。意味不明の光景にヘルメット団の少女たちは目を白黒させる。何故、弾丸が空中で止まるなどという現象が起きているのか。
その答えは、すぐに彼女たちの目の前に示された。――ハルだ。先生の前に飛び出した彼女が、右腕を前に突き出していた。理屈は不明だが、彼女が何らかの方法によって弾丸を止めているのは明白だった。
「さあ行くよ、みんな!」
反撃開始。先生の指揮の下、生徒たちは一斉に動き出す。
「ノノミ! 相手に向けて弾幕を!!」
「お任せください!」
ノノミは
「セリカ、狙って!」
「くそっ、周りが見えない!」
「落ち着――あうっ!?」
「きゃあ!?」
「そんなこと言われなくても分かってる!」
さらに、セリカが固有武器『シンシアリティ』で精密射撃を行う。弾丸はヘルメットのバイザー部分に的確に命中し、装甲が薄い部分を撃ち抜かれたヘルメット団は次々に倒れていく。
「わぁお! ナイスだよ、ノノミちゃん! セリカちゃん!」
「いったいどうなって!?」
ザッ!
「させる――きゃうっ!?」
「おじさんも、後輩ちゃんたちに負けてられないねー」
砂塵に紛れたホシノが混乱するヘルメット団の1人に肉薄する。砂を踏む音で接近に気付いた彼女は咄嗟に反撃しようとするが、それより早くホシノの盾が横殴りに炸裂した。ドゴッ!! 殴られた頭部をヘルメットごと地面に叩きつけられたヘルメット団は、そのまま意識を失う。
「座標、補足しました! 受け取ってください、シロコ先輩!!」
「ナイスタイミング、アヤネ」
銃弾の雨を潜り抜けて前線に出たシロコだったが、弾切れを起こしてしまう。だが、それを予測していたアヤネのドローンがすかさず補給を行い、即座にリロードを完了させる。
ダダダダダダダダッ! シロコの固有武器『WHITE FANG 465』が、主の獲物に牙を剥き、3人のヘルメット団が立て続けにバイザーを貫かれてダウンする。
「――神秘反転。コード名『BLACK FANG 465』」
「舐めやがって!! あうっ! きゃあ!」
「おい、しっかりしろ! ――あぐっ! は、恥ずかしい!!」
シロコのそれと似た、鋭利で黒く、少し傷付いた光輪にヘイローを変化させたハルは、同じく色を失った『BLACK FANG 465』で敵の戦力を1人1人確実に仕留めていく。その射撃精度は、まるで機械のように正確だ。
ノノミ、セリカ、ホシノ――それぞれが全力で弾幕を張り巡らせ、1人でも多くの敵を倒すべく奮闘している。その中で、最後の1人を打ち倒すべくシロコが戦場を駆け抜ける。
「ち、近寄るなああーーーーーーーーーーッ!!!」
「チェックメイトだ、シロコ!!」
「来るなって、言ってんだろうっ!!!」
体勢を低くして懐に潜り込み、
「ま、ままま、待って! 降参だ!!」
「――これでおしまい」
ダンッ!
――
「痛っ!」
ダンッ! ダンッ!
「いっ、たたたいっ!」
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
「痛い! ちょ、ちょっとやめろって!」
ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!
「さっさと帰って!」
「分かった! 帰る、帰るから!!」
執拗に顔面を撃ち続けるシロコ。狂気すら感じさせる追い打ちに、先生は顔を引き攣らせる。なにもそこまでしなくても……と思いつつも、何も言わずに傍観を貫く。口出しするのもはばかられるほどの迫力が今のシロコにはあった。
「ひぐっ……お、覚えてろよー!」
ヘルメット団のリーダーは、泣きながら逃げ去っていく。その姿が見えなくなると……
「やりましたね、シロコちゃん!」
「……ん」
戦闘を終えた生徒たちは一箇所に集まる。シロコの周囲に集まった彼女たちの表情は、どれもどこか晴れやかだった。シロコの顔からも険が取れている。
「ご苦労さまでした」
「まさか、あの状況から逆転しちゃうなんてねー」
「これも先生のおかげです」
「うんうん、流石は先生の指揮だね」
「いやぁ、私は何も……」
先生は苦笑する。実際、自分は彼女たちの戦いを後ろから眺めていただけだ。この勝利は彼女たちが自分たちの力で掴み取ったものだ。自分の指揮、力なんて、それほど大したものではない。
「ただ、先生として……困っている生徒たちを放っておけなかっただけだよ」
「ふんっ! あんな奴ら、私たちの力だけでも勝ててたし」
「いやあ、セリカちゃんは相変わらずツンデレだねー」
「うるさい!」
「可愛いですよ、セリカちゃん」
「強がりはほどほどにしましょう」
「みんな、黙ってくれる!?」
賑やかな仲間たちの姿を見つめながら、シロコはポツリと呟いた。
「これが、先生……」
こうして、アビドス自治区を訪れて最初の戦いは無事に幕を下ろした。これが、アビドス高等学校の未来を巡る、長い戦いの始まりであることを、彼女たちはまだ知らない。
……ただ一人、多くの仲間たちと共に既にその未来を越えた1人の少女を除いて――。
TIPS:
黒い『WHITE FANG 465』。
この世界線の蒼井ハルは最終編を終えたあとの時間軸から並行世界に迷い込んでいます。当然、彼女と相見えたことがあり、彼女の神秘/恐怖すらも模倣対象の1つに入っています。
なお、外観から『BLACK FANG 965』と仮の名を付けることも考えましたが、正式名称が判明するまでは『WHITE FANG 465』のままで通します。