ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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A-S-1-1-5 帰りは怖い

 ――柴関ラーメン*1

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンです!」

 

 柴関ラーメン。アビドス高等学校の近くに店を構えるラーメン屋だ。『柴関』と店名を刺繍された帆前掛けを身に着けたセリカは、満面の笑みで入店したお客さんをもてなす。

 

「何名様ですか? 空いてるお席にご案内いたしますね!」

 

 セリカはこのラーメン屋でアルバイトをしている。その働きは実に見事で、彼女の明るい接客に魅了された客たちが続々と来店していた。お昼前のこの時間帯は、特に客足が増えている。

 

「少々お待ちください! 大将! 3番テーブル、替え玉追加です!」

 

 ガララッ! と戸が開き、新たな客が入ってくる。いち早く来客に反応した柴犬の獣人――店主である柴大将が「へいらっしゃい!」と威勢よく声を上げた。

 

「いらっしゃいませ! 何め……わわっ!?」

 

 セリカもそれに続いて、笑顔で応対するが……入ってきた人物を見て、彼女の笑顔は固まる。

 

「セリカちゃん、やっほー!」

 

「制服、とってもカワイイです☆」

 

「な、ななっ……!?」

 

 そこには、対策委員会の仲間たちが勢揃いしていた。さらにはシャーレの2人まで。思わぬ来店にセリカは動揺を隠せない。自分がここでバイトをしていることは誰にも言っていないのに、なんでみんながここに――その疑問が頭を巡る。

 

「アビドス高校の生徒さんか。セリカちゃんのお友達ならサービスしないとな」

 

「あ、うう……そ、それでは、こ、こちらへどうぞ……」

 

 バイトのセリカを除けば、この店を1人で切り盛りしている大将の指示に従い、セリカが席に案内する。人数が人数ということで、案内された先は座敷席だ。まず、ホシノとシロコが座布団の上に腰を下ろし、向かいの席にはアヤネとノノミが陣取る。そして――

 

 ドンッ!

 

 最後に座ったシャーレの2人の前に、セリカはお冷を音を立てて置いた。その勢いからは内心の苛立ちが滲み出ている。「あ、あはは……」と先生は頬を引きつらせ、乾いた笑いを漏らす。

 

「セリカちゃんってユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

 

「も、もういいでしょ! で、ご注文はっ!?」

 

「私は、チャーシュー麺をお願いします!」

 

「私は塩」

 

「えっと……私は味噌で」

 

「私はねー、特製味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで!」

 

「一遍に言わないでよ!!」

 

「あはは……たしか、百鬼夜行の昔の生徒会長の逸話にこんなのあったっけなぁ……」

 

 文字にすれば誰が何を注文したのか分かるだろうが、同時に言われると誰が何を頼んだのか把握するのは難しい。アビドスの仲間4人が一斉に注文を言い出し、セリカは思わずキレ気味にツッコミを入れる。これには先生同様にセリカから粗雑な扱いをされているハルも苦笑気味だ。

 

「先生も遠慮しないでじゃんじゃん頼んでー」

 

「あ、ああ。じゃあ、私は……」

 

 ギロリとセリカに鋭い視線を向けられた先生は、居心地の悪さを感じ、声を潜めるように「じゃあ……オススメで……」と小声で答えた。それから、今度は一人ずつ注文を言っていき、注文を聞き終えたセリカは「しょ、少々お待ちください」と言葉を残して厨房に入っていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「「「「「「いただきまーす!」」」」」」

 

 ふぅふぅ、と息で麺を冷ましつつ、6人はラーメンを食べ進める。スープを口に含んでよく味わうと、旨みのある濃厚な味わいが広がっていくのが分かる。具材のチャーシューやメンマに、追加されたネギが加わり、口の中で踊るように調和して、味わい深く飽きが来ない。

 ラーメンに夢中な6人の下に、柴大将が腕を組みながら歩み寄ってくる。にこりと笑みを浮かべた彼が問いかける。

 

「どうだい、うちの味は?」

 

「「「「「「美味しい/美味しいです!」」」」」」

 

「そうだろそうだろ! さすがセリカちゃんの友達だ!」

 

 美味しい! と、口を揃える6人に気をよくした大将は、満足げに頷きながら「どんどん食べてくれよ!」と上機嫌に声を弾ませた。

 

「繁盛してるみたいですね」

 

「いやぁ、ここんとこ客足が落ちてね……」

 

「え、それって……」

 

 しかし、先生の言葉を受けた大将は、急に声を潜め、悲しげに視線を落とした。これほど美味しいラーメン屋だというのに、客足が落ちているというのはどういうことなのだろうか……。先生の心配げな表情を吹き飛ばすように、大将は胸を張り、自信満々に言い放った。

 

「……まあ、気にしてても仕方ねえ。なぁに、腹減らして来てくれた客にどんと美味いもんを食わせてやる。うちのモットーはそれだけだ」

 

「素晴らしいです! 私も大将を見習って、どんとこの子たちを支えていかないと!」

 

「おっ、先生も粋だね! 特別にもう1杯、サービスしてやらぁ!」

 

 大人2人の笑い声が店内に響き渡り、他の客たちも思わず顔を綻ばせていた。

 

 ◇ ◇ ◇*2

 

「セリカちゃん、また明日ね」

 

「また明日」

 

 ラーメンを食べ終えた6人は、セリカに見送られながら店を後にした。傾き始めた陽が西の空を夕焼け色に染め、アビドスの一行は帰路に就く。彼女たちの背中を見送ったセリカは、ふぅと一息ついて、ぽつりと漏らす。

 

「……なんだったのよ、もう」

 

 独り言ちたセリカは、店の戸を閉めて中に引っ込む。しばらく経ち、閉店時間を過ぎた店内で、セリカはカウンター席を丁寧に磨いていた。デッキブラシで床を掃除していた大将が、ふと彼女に声をかける。

 

「セリカちゃん、今日はもう上がっていいよ」

 

「はーい!」

 

 返事をして着替えに向かうセリカに、大将は背を向けたまま、少し間を置いてから続ける。

 

「……なぁ、セリカちゃん」

 

「え……?」

 

「あの先生、生徒想いの良い大人じゃないか。……俺は、そう思うぜ」

 

 眉を寄せて考え込むセリカは、心の内を言葉にすることができなかった。やがて、冷たく「お先に失礼します」と告げて店を後にする。辺りはすっかり暗くなっており、星々が輝く夜空と街灯が照らす通りは昼とは違った雰囲気を醸し出している。

 俯きがちに歩いていると、不意に自動販売機の稼働音が彼女の耳に届いた。振り向くと――

 

「……わわっ!?」

 

「お疲れ、今帰り?」

 

 ペットボトルを投げ渡したのはシロコだった。口数少なく、シロコはセリカの隣に立つと、自販機で買った飲み物を一口飲む。

 

「さっきのラーメン、美味しかった。大将も良い人だし、それに……頼りになりそう」

 

「うん」

 

 セリカは小さく頷いたが、それ以上何も言わず、ただ夜風に身を委ねている。

 

「ねえ、セリカ」

 

「?」

 

「私は先生も頼りになる大人だと思う」

 

 シロコがセリカの目を真っ直ぐ見つめながら、そう告げる。その眼差しは真剣そのもので、嘘偽りを述べているようには見えない。本心からの言葉だということは、セリカにもよく分かった。

 

「じゃあね、セリカ。また明日」

 

 ロードバイクに軽やかに乗り、ペダルを踏みながら、シロコは夜の街へと消えていった。

 

「シロコ先輩も、大将と同じなんだ……。先生、か……私も素直に頼ればいいのかな?」

 

 改めて、独りになったセリカの口を突いて出たのは、そんな言葉だった。確かに、先生は信頼できる『大人』かもしれない。……けれど、それを否定するように勢いよく首を左右に振った。

 

「ううん、そんなことできない! だってアビドス高校は……」

 

 カランコロン……足元に転がってきた空き缶程度の大きさの何かからガスが噴き出す。突然のことでそのガスを吸ったセリカは、眠気に襲われるようにふらりと身体を傾けた。完全に意識を失う前に彼女が目にしたのは、見覚えのあるヘルメットを身に付けた二つの人影だった。

 

 

 

 ――対策委員会・教室*3

 

「そんな、まさか……!?」

 

「セリカちゃんが行方不明!?」

 

「そうなんです! チャイムを押しても返事が無かったので、気になって部屋に入ってしまったんですが……制服もカバンも無くて……!」

 

 翌日、校舎に集まった仲間たちに、焦りの表情でアヤネが事態を説明する。セリカが行方不明という衝撃の事実に、対策委員会のメンバーは動揺を隠せない。それは先生も例外ではなく、非常に深刻な表情を浮かべていた。

 

「電話はしてみました?」

 

「……はい。でも繋がらないんです……!」

 

「まさか……昨日の夜に?」

 

 おそらく、セリカと最後に会ったのは自分だと思い至ったシロコは、瞳を揺らし、責任を感じたかのように表情を曇らせるが――

 

「みんな、落ち着くんだ!」

 

 先生の一喝が、対策委員会の空気を引き締める。いつもの温厚な様子と違い、今の彼の眼差しには厳しさがあった。生徒たちもそれに気付き、全員の視線が先生に注がれる。その視線をしっかりと受け止めた先生は、スーツの内ポケットからシッテムの箱を取り出す。

 

『海は心の故郷ですねぇ……』

 

 バシャバシャ……

 

『……ん? あっ、お疲れ様です、せんせ……』

 

「アロナ、頼みがあるんだ。急いでセリカの居場所を特定してくれ」

 

『……は、はい!』

 

 シッテムの箱に意識を潜らせた先生は、メインOSのアロナにセリカの捜索を依頼する。先生の声から緊急事態を察したアロナは、即座にシステムを稼働させた。学園都市の中枢部、サンクトゥムタワーの制御権をたった数秒で掌握するほどの演算能力を存分に発揮する。

 

 

CONNECTING…

 

 

サンクトゥムタワーのデータシステムに接続中です。

 

少々お待ちください。

 

 

Complete!

 

「……っ、セリカの位置が特定できた!」

 

「えっ、どうやって?」

 

「連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスしてセリカのスマホの位置を特定した」

 

「そんな権限まで……!?」

 

「(……こういう自分の身を顧みない無茶をするところも『先生』なんだなぁ)」

 

 確かに『シャーレの先生』はセントラルネットワークへのアクセス権を保有している。だが、何の許可もなく権限の行使が認められるはずもなく、不正アクセス行為が露見すれば始末書の山は避けられないだろう。

 それでも、大切な生徒の安全を第一に考えた先生の行動に、ハルは心の中で何度目かの感心をしていた。やはりこの人も、『先生』なのだと。

 

「それよりも、セリカはどこ!?」

 

「ああ! どうやら、今も移動中らしい」

 

 シッテムの箱に表示されるアビドス自治区の地図を生徒たちに見せる。セリカを示すと思われる赤い光点が、市街地から離れ、砂漠の方へと徐々に移動しているのが確認できた。

 

「郊外の砂漠地帯……」

 

「あっ! ここは以前、カタカタヘルメット団の出入りが確認されていた場所の近くです!」

 

「今度は人質を取って脅迫しようってことかな」

 

「どちらかといえば、学校よりも生徒をターゲットにしてきたと考えた方が良いかもね」

 

 セリカはアビドス高等学校の生徒。仲間を人質に取られたとなれば、アビドスの生徒たちはヘルメット団に逆らえなくなる。兵糧攻めという第一の作戦は失敗してしまったが、ヘルメット団は第二の作戦として生徒を人質とする作戦に打って出たようだ。

 

「考えていても仕方ありません! 急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」

 

「うん」

 

 教室の隅に立てかけてある愛銃にシロコは真っ先に駆け寄り、他の生徒たちも続いて自分の愛銃を手に取ると、一斉に教室を飛び出していった。

*1
【推奨BGM:Lovely Picnic】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:夜景に霞む星空】英雄伝説 零の軌跡より

*3
【推奨BGM:危地】英雄伝説 零の軌跡より




TIPS:
百鬼夜行の昔の生徒会長。
聖徳太子、或いは上宮之厩戸豊聡耳命が元ネタ。
『ある時、厩戸皇子が人々の請願を聞く機会があった。我先にと口を開いた請願者の数は10人にも上ったが、皇子は全ての人が発した言葉を漏らさず一度で理解し、的確な答えを返したという。』という逸話から。
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