ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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A-T-1-1-3 セリカのヒミツ

 ――対策委員会・教室*1

 

「ヘルメット団の件ですが、直近の拠点は潰せたのでしばらくは大人しくなるでしょう」

 

「これも先生のおかげ」

 

「私は大したことはしてないよ」

 

 ハルはシロコの言葉に首を左右に振った。自分は生徒たちの戦いを見守っていただけで、実際にヘルメット団と戦ったのは、あくまでも彼女たち自身に他ならない。自分がいなくても対策委員会のみんななら問題なく勝てたはずだ。

 実際、自分がここに来る以前はアビドスの生徒だけで学校を防衛していたのだから……と、ハルは謙遜する。そんなハルの言葉を聞いて、ホシノはどこか楽しげに頬を緩ませた。

 

「またまた~、流石はシャーレの大先生だねー」

 

「あはは……」

 

 ホシノの冗談交じりの称賛に、先生は肩を竦めつつもどこか居心地悪そうに苦笑いを返す。

 

「これで、借金返済に集中できる」

 

「借金かぁ……そう言えば、借金ってどれぐらいあるの?」

 

「うーん、ざっと9億ぐらい」

 

「9億……」

 

「正確には、9億6235万です」*2

 

 9億……同時期の自分の世界のアビドス高等学校よりも、彼女たちが抱えている借金は2億円以上も多い。やはり、『蒼井ハル』の存在が及ぼす影響は良くも悪くも大きいのだろう。改めて、自らに定められた役割と使命に思いを馳せる。

 

「詳しく事情を説明してほしい。どうして、そんな借金を背負うことに?」

 

 本当は過去の経験からアビドスの生徒たちの事情についてはある程度知っている。けれど、話を促し、正確な状況を把握するためにも、あえて尋ねることにした。

 

「数十年前、アビドス郊外にある砂漠で大規模な砂嵐が起きたんです。その砂嵐は想像を絶するもので、アビドス自治区の至るところが砂に埋れました」

 

「復旧するには多額の資金が必要……ですが、融資をしてくれる銀行は見つからず……」

 

「結局、カイザーローンっていう悪徳な金融業者に頼るしかなかった」

 

 ホシノは呟きながら、窓の外に視線を向ける。彼女の視線の先には、アビドス自治区の街並みが広がっていた。……しかし、その街並みも今は砂漠化の影響を色濃く受けている。かつての面影は消え去り、ただ荒れ果てた土地があるだけ。もっとも、かつての姿など知らないのだが……。

 

「最初は、すぐに返済できる算段だったんだと思います。しかし……その後も巨大な砂嵐は幾度となくアビドスを襲い続け、遂にはアビドスの半分以上が砂に飲まれてしまったのです。生徒たちは絶望し、その結果、膨れ上がった借金だけが残されました」

 

 一度そこで言葉を切り、アヤネは続ける。

 

「……借金が返済できないと、この学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなるんです。ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く……」

 

「殆どの生徒は諦めて、この学校を去っていった。……そして、私たちだけが残った」

 

「……まあ、そういうつまらない話だよ」

 

 アヤネが悲しげな表情で語り、シロコは淡々とその説明を補い、ホシノはどこか投げやりな口調で言い放つ。それぞれの言葉を通じて、この世界のアビドスの事情を知ることになった。

 

「教えてくれてありがとう。……ねえ、みんな。良かったら、私もみんなの力になれないかな?」

 

「え……?」

 

「私、大人としては青二才もいいところでね。生徒たちが苦しむ姿を、他の誰でもない私が見たくないから、あなたたちのためにできることはなんでもしたいんだ。どうかな? これからあなたたちの先生として、借金返済に協力させてくれないかな?」

 

「そ、それって……! あ、はいっ! よろしくお願いします!」

 

 アビドスの生徒たちの瞳に希望の光が宿る。それは絶望の中で苦しみ続けていた彼女たちが、ようやく掴んだ小さな希望。どれほど努力しても行き詰まる現状を誰よりも深く理解していたからこそ、その現状を変え得る一筋の光に、彼女たちは大きな希望を見出したのだ。

 

「それでいいの?」

 

 ただ一人、

 

「だって、先生は結局部外者だよ?」

 

 黒見セリカを除いて。

 

「……でも、だからこそ、私たちと違う視点で助けてくれるかもしれませんよ?」

 

「それでもっ! これまで学校の問題は、私たちだけでなんとかしてきたじゃない! なのに、突然やって来た大人に従うなんて……私は認めない!!」

 

「セリカちゃん!?」

 

 セリカは憤りを抑えきれず、ガタ! と扉を力任せに開け、教室を飛び出していく。残されたハルは、飛び出した扉の方を見つめたまま立ち尽くす。彼女の瞳には、どこか悲しげな色が宿っているようにも見えた……。

 

「(みんなの馬鹿! 先生、先生って……!)」

 

 ◇ ◇ ◇*3

 

 翌朝、過去の記憶を頼りにアビドス自治区を散策していたハルは、まるで予定調和のように街角で見知った生徒と遭遇した。

 

「うっ……な、何っ……!?」

 

「おはよう」

 

 昨日の一件が影を落としているのだろう、その生徒、黒見セリカは気まずそうに目を逸らし、どう対処していいのか戸惑っている様子が見て取れた。彼女の微妙な表情と挙動を見て、ハルは心の中で微笑ましく思いながら、あえて穏やかな挨拶の言葉をかけることにした。

 

「な、なにが『おはよう』よ! なれなれしくしないでくれる? 学校でも言ったけど、私、まだ先生のことなんて認めてないから! 大人ってだけで、私たちの問題に首を突っ込まないで!」

 

 セリカの拒絶の言葉を気にすることなく、ハルは穏やかな表情を崩さずに話しかける。

 

「セリカちゃんは、これから学校かな?」

 

「な、なによ! なんでちゃん付けで呼んでんのよ!」

 

 ハルのペースに調子を狂わされながらも、セリカは拒絶する姿勢を崩さない。

 しかし、ハルにはセリカの威嚇が全く通用していないようだった。どんな態度を取られても、目の前の生徒と正面から向き合う。先生は生徒の味方だと、自らの恩師から学んだその姿勢を貫くことが、ハルの信じる大人の在り方だった。

 

「私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ?」

 

「あはは、これから学校に行くのなら、私も一緒に行こうかなって」

 

「なんで私があんたと仲良く学校に行かなきゃならないわけ?」

 

「ダメ? 先生と生徒、一緒に学校に行くのも悪くないと思うけど……」

 

「冗談じゃないわ! ついて来ないでよ!」

 

 砂埃を巻き上げ、セリカは逃げるように走り去っていく。ここで会えたのも何かの縁だろう。先生として生徒との関係を深めたいと思ったハルは、遠ざかるセリカの後ろ姿を追いかける。

 

「待って、セリカちゃん!」

 

「しつこいわよ! このっ……ストーカー!!」

 

「でも、行く先は一緒の学校だよ」

 

「私はあんたが嫌い! 大人が嫌い、大っ嫌い!!」

 

「……そっか。でも、私を信じてほしいな。きっとセリカちゃんの力になれるから」

 

「う、ううううううぅぅぅ~~~~っっ!!!」

 

 セリカは怒りと困惑が入り混じった表情で、声にならない声を上げる。これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、彼女は実力行使で逃げ切ることを決めた。猫の獣人らしい俊敏な動きで一気に駆け出し、砂埃を立てながら、一目散に学校の方へと向かっていく。

 

「(……やっぱり、そう簡単にはいかないか)」

 

 ……ふぅ、とハルは息を一つ吐き出し、一歩一歩、自らも学校に向かって歩き始めた。

 

 ◇  ◇  ◇

 

「それは、ツンデレ娘のセリカちゃんじゃなくても怒るってー!」

 

 今朝の一幕を聞いたホシノは苦笑気味にツッコミを入れた。隣に座るノノミも頷きながら同意している。仲良くなりたいという気持ちは伝わるが、その方法には些か問題がある。誰だって、そこまでしつこく付き纏われたら、怒りを覚えるのも無理はないだろう。

 

「そう言えば、セリカって放課後すぐに帰るけど、どこに行ってるんだろう?」

 

「言われてみれば、モモトークの返信も遅いですよね」

 

「確かに……」

 

「あっ! じゃあ、みなさん。放課後、セリカちゃんのあとをつけてみるのはどうですか?」

 

「「「え?」」」

 

 シロコがふと思い出したようにセリカの不審な行動について言及すると、ノノミが大胆な提案を持ち出した。確かに、セリカの隠し事を探るためには尾行するのが確実かもしれないが……。顔を見合わせる他の面々とは対照的に、ホシノだけは「さんせーい!」と手を挙げた。

 

「戻ったわよ」

 

 ちょうどその時、件のセリカが教室に入ってきた。直前まで話していた内容が内容だけに、全員の視線が一斉に彼女に注がれる。セリカは怪訝そうに眉を顰めるが、一同は「あ、あはは……」とぎこちない笑いで誤魔化すしかなかった。

 

 

 

 ――アビドス市街地*4

 

「――ターゲット、ポイントAを通過」

 

 一際高いビルの屋上から双眼鏡を覗くシロコの声が静かに響く。彼女は、セリカが学校から出るのを待ってから尾行を開始。そして、見失わないように高い位置から彼女を追跡していた。

 とはいえ、それだけでは建物の中まで追うことはできない。そこで、セリカの後ろを歩く残りの面々の出番である。彼女たちは交代交代で休みながら、セリカを追いかけつつ、その位置情報を逐一報告していた。

 

『ターゲット、追跡中。このまま尾行を続けます』

 

『ハウンド、交代』

 

「了解しました。引き続き、追跡をお願いします」

 

 情報処理を担当するアヤネはタブレット端末の画面に赤と青の点で表示される3人、ターゲットこと黒見セリカ、追跡班のHOUND1『小鳥遊ホシノ』、HOUND2『十六夜ノノミ』の位置情報を確認しながら、彼女たちに指示を出していく。

 横断歩道を渡る老人を助けたり、コンビニで買い物をしたり、幅を利かせる不良たちを一掃したりと、キヴォトスらしい日常を送りつつ、最終的にセリカが行き着いた先は……。

 

「ここは……柴関ラーメン?」

 

「(……まぁ、それはそうだろうね)」

 

 経験則からこの展開を予測していたハルは心の中で呟いた。彼女の世界でもセリカは柴関ラーメンでアルバイトをしていた。全ての事象が完全に一致する訳では無いが、根源の因果が共通しているならば、同じ道を辿るのは当然と言えるだろう。

 これまでの出来事もそうだったように、この世界もまた、自分の知る運命(みらい)に収束していくのだろうか――そんな思いが胸を過ぎる。

 

「そう言えば……」

 

 一方でシロコは、ハルがアビドスに来る数日前の出来事をふと思い出す。あれはそう、対策委員会の定例会議で『連邦生徒会長の行方不明』が話題に上がった直後のことだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「そう言えば……ねえ、アヤネちゃん! カタカタヘルメット団が近所でまた暴れてるって、柴関ラーメンの大将が言ってた!」

 

「……あそこのラーメン、美味しいよね」

 

「シ、シロコ先輩、よく行くの?」

 

「たまに。……どうしたの?」

 

「べ、別に……」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 あの時、セリカが妙な反応を見せたのが気になっていたが、追求する間もなく話が別の方向に流れてしまった。心の何処かでそのことが引っかかっていたシロコだったが、今になってようやくその謎が解けたような気がした。

 

「セリカ、出て来ないね」

 

「大食いチャレンジでもしてるのかな?」

 

「おなかも空きましたし、私たちも入ってみましょうか」

 

 満場一致で賛成意見が固まり、アビドス一行はセリカの後を追って店内に足を踏み入れた。

*1
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*2
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*3
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*4
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TIPS:
S編のアニメ先生との差異。
「先生レベル1」のアニメ先生よりも『大人』として完成しているアプリ軸の先生をずっと見てきた影響で、同じ新米先生でも精神面や行動面がより積極的なものになっている。
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