ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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A-T-1-1-4 星の見る夜

 ――柴関ラーメン*1

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンです!」

 

 柴関ラーメン。アビドス高等学校の近くに店を構えるラーメン屋だ。『柴関』と店名を刺繍された帆前掛けを身に着けたセリカは、満面の笑みで入店したお客さんをもてなす。

 

「何名様ですか? 空いてるお席にご案内いたしますね!」

 

 セリカはこのラーメン屋でアルバイトをしている。その働きは実に見事で、彼女の明るい接客に魅了された客たちが続々と来店していた。お昼前のこの時間帯は、特に客足が増えている。

 

「少々お待ちください! 大将! 3番テーブル、替え玉追加です!」

 

 ガララッ! と戸が開き、新たな客が入ってくる。いち早く来客に反応した柴犬の獣人――店主である柴大将が「へいらっしゃい!」と威勢よく声を上げた。

 

「いらっしゃいませ! 何め……わわっ!?」

 

 セリカもそれに続いて、笑顔で応対するが……入ってきた人物を見て、彼女の笑顔は固まる。

 

「セリカちゃん、やっほー!」

 

「制服、とってもカワイイです☆」

 

「な、ななっ……!?」

 

 そこには、対策委員会の仲間たちが勢揃いしていた。さらにはシャーレの先生まで。思わぬ来店にセリカは動揺を隠せない。自分がここでバイトをしていることは誰にも言っていないのに、なんでみんながここに――その疑問が頭を巡る。

 

「アビドス高校の生徒さんか。セリカちゃんのお友達ならサービスしないとな」

 

「あ、うう……そ、それでは、こ、こちらへどうぞ……」

 

 バイトのセリカを除けば、この店を1人で切り盛りしている大将の指示に従い、セリカが席に案内する。人数が人数ということで、案内された先は座敷席だ。まず、ホシノとシロコが座布団の上に腰を下ろし、向かいの席にはアヤネとノノミが陣取る。そして――

 

 ドンッ!

 

 最後に座ったハルの前に、セリカはお冷を音を立てて置いた。その勢いからは内心の苛立ちが滲み出ている。

 

「セリカちゃんってユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

 

「も、もういいでしょ! で、ご注文はっ!?」

 

「私は、チャーシュー麺をお願いします!」

 

「私は塩」

 

「えっと……私は味噌で」

 

「私はねー、特製味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで!」

 

「一遍に言わないでよ!!」

 

「あはは……たしか、百鬼夜行の昔の生徒会長の逸話にこんなのあったっけなぁ……」

 

 文字にすれば誰が何を注文したのか分かるだろうが、同時に言われると誰が何を頼んだのか把握するのは難しい。アビドスの仲間4人が一斉に注文を言い出し、セリカは思わずキレ気味にツッコミを入れる。これにはセリカから粗雑な扱いをされているハルも苦笑気味だ。

 

「先生も遠慮しないでじゃんじゃん頼んでー」

 

「ありがとう。じゃあ、私は大盛柴関ラーメンの炙りチャーシュートッピングを貰おうかな」

 

 ギロリとセリカに鋭い視線を向けられたハルは、しかし全く動じることなく自らの注文を口にした。そのあまりにも慣れた様子に、ホシノは怪訝そうに眉を顰める。まるでここに来たのが初めてでは無いような……。

 

「しょ、少々お待ちください」

 

 さておき、ぎこちなく全員の注文を確認したセリカは、そそくさと厨房に引っ込んでいった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「「「「「いただきまーす!」」」」」

 

 ふぅふぅ、と息で麺を冷ましつつ、5人はラーメンを食べ進める。スープを口に含んでよく味わうと、旨みのある濃厚な味わいが広がっていくのが分かる。具材のチャーシューやメンマに、追加されたネギが加わり、口の中で踊るように調和して、味わい深く飽きが来ない。

 ラーメンに夢中な5人の下に、柴大将が腕を組みながら歩み寄ってくる。にこりと笑みを浮かべた彼が問いかける。

 

「どうだい、うちの味は?」

 

「「「「「美味しい/美味しいです!」」」」」

 

「そうだろそうだろ! さすがセリカちゃんの友達だ!」

 

 美味しい! と、口を揃える5人に気をよくした大将は、満足げに頷きながら「どんどん食べてくれよ!」と上機嫌に声を弾ませた。

 

「繁盛してるみたいですね」

 

「いやぁ、ここんとこ客足が落ちてね……」

 

「それは……」

 

 しかし、ハルの言葉を受けた大将は、急に声を潜め、悲しげに視線を落とした。これほど美味しいラーメン屋だというのに、客足が落ちているというのはどういうことなのだろうか……思い当たる節のあるハルは、心配そうに表情を曇らせるが、大将は胸を張り、自信満々に言い放った。

 

「……まあ、気にしてても仕方ねえ。なぁに、腹減らして来てくれた客にどんと美味いもんを食わせてやる。うちのモットーはそれだけだ」

 

「……やっぱり柴大将は凄いなぁ。同じことを言える大人がこの学園都市に何人いるのやら……私も見習わないと」

 

 自分がまだ大人として未熟であると自覚しているハルは、大将の気概に感心すると同時に、その姿勢を見習いたいと強く思った。そして、そんな彼女を、大将は静かに見つめていた。

 

 ◇ ◇ ◇*2

 

「セリカちゃん、また明日ね」

 

「また明日」

 

 ラーメンを食べ終えた5人は、セリカに見送られながら店を後にした。傾き始めた陽が西の空を夕焼け色に染め、アビドスの一行は帰路に就く。彼女たちの背中を見送ったセリカは、ふぅと一息ついて、ぽつりと漏らす。

 

「……なんだったのよ、もう」

 

 独り言ちたセリカは、店の戸を閉めて中に引っ込む。しばらく経ち、閉店時間を過ぎた店内で、セリカはカウンター席を丁寧に磨いていた。デッキブラシで床を掃除していた大将が、ふと彼女に声をかける。

 

「セリカちゃん、今日はもう上がっていいよ」

 

「はーい!」

 

 返事をして着替えに向かうセリカに、大将は背を向けたまま、少し間を置いてから続ける。

 

「……なぁ、セリカちゃん」

 

「え……?」

 

「あの先生、生徒想いの良い大人じゃないか。……俺は、そう思うぜ」

 

 眉を寄せて考え込むセリカは、心の内を言葉にすることができなかった。やがて、冷たく「お先に失礼します」と告げて店を後にする。辺りはすっかり暗くなっており、星々が輝く夜空と街灯が照らす通りは昼とは違った雰囲気を醸し出している。

 俯きがちに歩いていると、不意に自動販売機の稼働音が彼女の耳に届いた。振り向くと――

 

「……わわっ!?」

 

「お疲れ、今帰り?」

 

 ペットボトルを投げ渡したのはシロコだった。口数少なく、シロコはセリカの隣に立つと、自販機で買った飲み物を一口飲む。

 

「さっきのラーメン、美味しかった。大将も良い人だし、それに……頼りになりそう」

 

「うん」

 

 セリカは小さく頷いたが、それ以上何も言わず、ただ夜風に身を委ねている。

 

「ねえ、セリカ」

 

「?」

 

「私は先生も頼りになる大人だと思う」

 

 シロコがセリカの目を真っ直ぐ見つめながら、そう告げる。その眼差しは真剣そのもので、嘘偽りを述べているようには見えない。本心からの言葉だということは、セリカにもよく分かった。

 

「じゃあね、セリカ。また明日」

 

 ロードバイクに軽やかに乗り、ペダルを踏みながら、シロコは夜の街へと消えていった。

 

「シロコ先輩も、大将と同じなんだ……。先生、か……私も素直に頼ればいいのかな?」

 

 改めて、独りになったセリカの口を突いて出たのは、そんな言葉だった。確かに、先生は信頼できる『大人』かもしれない。……けれど、それを否定するように勢いよく首を左右に振った。

 

「ううん、そんなことできない! だってアビドス高校は……」

 

 カランコロン……足元に転がってきた空き缶程度の大きさの何かからガスが噴き出す。突然のことでそのガスを吸ったセリカは、眠気に襲われるようにふらりと身体を傾けた。完全に意識を失う前に彼女が目にしたのは、見覚えのあるヘルメットを身に付けた二つの人影だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「よし、撤収だ。車に乗せろ、ランデブーポイントへ向かう」

 

 赤いヘルメットを被った少女――先日のアビドス高校襲撃に関わったヘルメット団のリーダー格である彼女は、気絶したセリカを見下ろしながら、部下たちへと指示を出した。彼女たちはセリカをトラックの荷台に運び込もうとするが……

 

 タァン! タァン!

 

 それを阻むように連続して銃声が響き渡る。反射的に各々の銃を引き抜いたヘルメット団は、音の方向を向けて弾を撃ち返す。やがて銃声が静まり、彼女たちの視線の先に現れたのは――*3

 

「そこまでだよ」

 

「なに!? 小鳥遊ホシノだと!?」

 

 その二色の瞳に怒りを宿した少女――ホシノが、大切な後輩(セリカ)を守るように立ちはだかった。

 

「うへ~、見事に先生の予想通りだったねー」

 

「これでも学生の頃は筋金入りの悪童だったからね。……悪いことを企む子たちの考えそうなことはなんとなく分かるよ」

 

 そうホシノと言葉を交わすのは、彼女の隣に立つ白いコートに身を包む女――蒼井ハルだ。ホシノの後ろから現れたハルは、気絶しているセリカを抱きかかえながら、鋭い眼差しをヘルメット団へと向ける。

 

「――まったく。どうやらお仕置きが足りなかったみたいだね?」

 

 その言葉を聞いた赤いヘルメット団の少女はビクリと身体を震わせるが、すぐにそれを振り払うかのようにハルを睨み返した。

 

「突然出てきて、テメエは一体誰なんだ!?」

 

「私は先生だよ」

 

「先生?」

 

「私は、アビドスを助けるためにここに来た。悪いけど君たちには諦めてもらうよ」

 

 ハルの宣言に、その場の空気が一気に緊張感に包まれる。彼女の纏う威圧感は並大抵のものではない。そんな威圧に負けじと、赤いヘルメットの少女は銃口をハルへと向ける。

 

「偉そうに……蜂の巣にしてやるぜ!」

 

 タタタタタタタタタッ!! 怒りに突き動かされ、目の前の邪魔な大人を蜂の巣にせんと引き金を引いた彼女だが、放たれた銃弾はただの一発も当たることはなかった。何故なら――

 

「前は私に任せて」

 

 そう言って、ホシノが割り込むようにハルの前に立ったからだ。ヘルメット団の放った銃弾は、彼女の構える楯によって全て防がれ、カチンと虚しい金属音を響かせる。

 

「さあ行くよ、ホシノ!」

 

「うへ、それじゃ……始めようか?」

 

 それを合図に、このアビドスに来てから二度目――先生と生徒の初めての共闘が始まった。

 

*1
【推奨BGM:Lovely Picnic】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:夜景に霞む星空】英雄伝説 零の軌跡より

*3
【推奨BGM:KEVIN GRAHAM】英雄伝説 界の軌跡より




TIPS:
ケビン・グラハム。
『英雄伝説 軌跡』シリーズの登場人物。『空の軌跡 the 3rd』では主人公も務める。
小鳥遊ホシノとは、『一連の事件の第3章』で、『過去をネタに黒幕から揺さぶりをかけられ、死を考えるほどに精神を追い詰められる』などと共通点が多いキャラクター。
生徒編のホシノのEXスキル『憤怒の雷槍』も彼のSクラフト『魔槍ロア』が元ネタである。
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