ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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Vol.1 アビドス生徒会 2章 明日への鼓動
1-2-1 奇跡の同盟


 ――破壊されたアビドス市街地

 

「許せない……許せない……許せない……許せない……許せな――?」

 

 行政官・天雨アコ。その登場にアビドスの生徒たちが万全の注意を払う中、ハクノはふと建物の陰から陰へと移動する少女と目が合う。伊草ハルカ――便利屋の平社員である彼女は、笑顔で軽く目配せをすると、そのまま別の建物の陰へと消えていった。

 

「(目を逸らしておこう……)」

 

 とりあえず何も見なかったことにして、ハクノは目の前の生徒たちに意識を集中させる。

 

『行政官ということは……風紀委員会のナンバー2……』*1

 

『あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして……』

 

「本当にそうなら、そこの風紀委員たちがそんなに緊張するとは思えない」

 

「だ、誰が緊張してるって!?」

 

 涼しい声音で人畜無害を装うアコに、シロコは軽くジャブを放つ。すると、イオリが震える声のまま口を開いた。先走った挙句に敗北した事実。加えて、一学年上で自身の上司に当たるアコの登場。猪突猛進気味なところがあるとはいえ、生真面目なイオリが緊張するのも無理はない。

 

『なるほど、素晴らしい洞察力です。確か……砂狼シロコさん、でしたか?』

 

「……」

 

『アビドスに生徒会の面々だけが残ってると聞きましたが、みなさんのことのようですね』

 

 自分の名を言い当てたアコに対し、シロコはまたも警戒の色を濃くする。自らの名を知っていたことへの驚きか、それとも言葉に潜む何らかの意図を疑ったのかは定かではないが、いずれにせよシロコは気を引き締め直すと同時に警戒心をさらに強めたようだった。

 すると、シロコの内心を見透かしたかのように……いや、実際にそれを察したのだろう。アコは淡々とした口調で続けた。

 

『アビドスの生徒会は5名と聞いていましたが、あと1人はどちらに?』

 

『今はおりません。小鳥遊生徒会長は所用のため留守にしております、行政官』

 

『奥空さん……でしたよね? それでは、そちらの生徒会長はいらっしゃらないということでしょうか? 私は、そちらの生徒会長と話がしたいのですが』

 

「うーん、それなら……ホシノちゃんの代わりに私が話を聞くよ? それでどうかな?」

 

 アコの言葉に、アヤネの表情が険しくなる。このタイミングだ。何故ゲヘナの行政官が自分たちに接触してきたのかは分からないが、絶対にロクなことではないという確信がある。

 そこで、ユメは率先してアコとの交渉役を買って出た。現生徒会長であるホシノがここにいない以上、自分が矢面に立つのが適任だと考えたのだ。

 

『あなたは?』

 

「アビドス高校の元生徒会長だよ。今の所属に関しては……この制服を見れば、わかるよね?」

 

『無銘生徒会……その制服の数字から察するに、5人目の幹部ですか』

 

「役員No.Ⅴ。《翠蓋輝煌(すいがいきこう)梔子(くちなし)ユメ――無銘生徒会では、書記の役職に就いてるよ」

 

 アコの探るような言葉にも、ユメはいつも通りの穏やかな笑みを浮かべて応じる。相手の出方を伺うように、アコはしばし黙ったまま考え込むように沈黙を保っていたが――

 やがて大きなカウベルを付けた首を小さく横に振ると、鐘鈴の音と共に再び口を開いた。

 

『……わかりました。では、改めてアビドスのみなさん。こちらの話を聞いてもらえますか?』

 

「こんなに包囲して銃を向けられたまま「お話をしましょうか~」なんていうのは、お話の態度としてはどうかと思いますけどね?」

 

『ふふ、それもそうですね……』

 

 珍しく棘のある口調でノノミが噛みついたが、アコは涼やかな表情を崩さぬまま、意外にも素直に自らの非を認めた。続けて、部下である風紀委員たちに武装を解除するよう指示を出す。

 

『失礼しました。全員、武器を下ろしてください』

 

「あら……」

 

「本当に武器を下ろした……?」

 

「……」

 

『先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』

 

 アコの指示に従い、包囲していた風紀委員の生徒たちはスッと武器を下ろす。その様子を見たノノミとアヤネの2人は怪訝そうに声を漏らしたが、シロコは依然として警戒を解かない。訝しげに見つめるアビドス生徒会の面々に対し、アコは言い訳をすることもなく素直に謝意を口にした。

 

「なっ、私は命令通りにやったんだけど!? アコちゃん!?」

 

『命令に、「まずは無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれてましたか?』

 

「い、いや……状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵の投入……戦術の基本通りにって……」

 

『ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』

 

『(……?)』

 

 イオリが抗議の声を上げるも、アコは次々と正論で応じて反論を封じ込める。それから、一呼吸置いた後、改めてアビドス生徒会に注意を向け直した。

 アビドス生徒会の面々は尚も警戒を崩さないが、シロコの銃口が僅かに下がっているのが見て取れる。どうやら彼女たちもアコの話に耳を傾ける気になったらしい。

 その絶妙なタイミングを見計らい――アコは丁寧且つ礼儀正しい口調で本題を切り出した。

 

『失礼しました、アビドス生徒会のみなさん。私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言いきれないでしょうし……やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです。風紀委員会としての活動に、ご協力をお願いできませんか?』

 

 表面上は、一見すると真摯な姿勢そのもの。しかし、アビドス側としては素直に頷ける状況ではない。先ほどの一件を、不幸な行き違いで済ませようとするのは、流石に都合が良すぎる。

 

「……ねえ、アコちゃん。その言い分が通ると本気で思ってるの?」

 

『あらっ……?』

 

「こっちは、無思慮な迫撃砲が原因で民間人に被害が出るところだったんだよ。自治権の観点からして、これは違法行為と捉えられるんじゃないかな? アコちゃん。アビドス生徒会として、その提案を呑むわけにはいかないよ」

 

 怒りを滲ませた声音で問い詰めるユメに、アコは涼やかな表情を保ったまま首を傾げる。対照的に険しい表情を浮かべたアヤネが、在校生代表としてアビドスの総意を告げた。

 

『ユメ先輩の仰るとおりです。まさか、ゲヘナほどの大きな学園がこんな暴挙に出るとは思ってもみませんでしたが、これだけは譲れません。便利屋の処遇は、私たちが決めます!』

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

『……なるほど。そちらの方々も、同じ考えのようですね』

 

 アヤネだけでなく、他のアビドスの生徒たちもユメの結論に同意するように頷く。その反応を受けてアコは少し考え込む素振りを見せた後、肩を軽くすくめて呆れたようにため息をついた。

 

『ふぅ、この兵力を前にしても怯まないだなんて……これだけ自信に満ちているのは……やはり、あなたたちがいるからでしょうか? ……ねえ、ハルさん? ミカさん?』

 

「……さて、どうかな? 少なくとも、アビドス生徒会の子たちは私たちがいなくたって、きっと同じ結論を出したと思うよ」

 

「うん、そうだね。……アビドスのみんなには、シャーレの先生もついてるしさ☆」

 

 ハルとミカの意見を聞き終えたアコは、通信越しに意味ありげな視線をハクノへと送った。

 

『お二人にそこまで言わせるとは……よほど、周りから信頼されているようですね。ハクノ先生』

 

「……」

 

『シャーレの先生。あなたも、アビドス生徒会と同じご意見ですか?』

 

「便利屋は困った子たちかもだけど、そこまで悪い子たちじゃないからね」

 

 ハクノはアビドス生徒会の生徒たちに対して同意を求めるように視線を向ける。すると、最初に答えたのはシロコだった。

 

「……便利屋には聞きたいこともあるから、このまま大人しく引き渡すわけにはいかない」

 

「そうですね、彼女たちの背後にいる方の正体もまだ分かっていませんし。先にお話を聞かせてもらいませんと」

 

『そういうわけで、交渉は決裂です! ゲヘナの風紀委員会、あなた方には退去を要求します!!』

 

 アビドスの生徒たちは次々と拒絶の意思を表明する。アコは再びやれやれとばかりに首を軽く横に振り、ふと笑みを浮かべた。それは、天使のように穏やかで柔らかい笑みでありながら、しかし同時にゲヘナの在り方を象徴するような悪魔の微笑みでもあった。

 

『これは困りましたね……うーん……こうなったら仕方ありません。本当は穏便に済ませたかったのですが……ヤるしかなさそうですね?』

 

「「「「『!』」」」」

 

 アビドスの生徒たちが緊張した面持ちで身構える。同時に、武器を下ろしていた風紀委員たちが一斉に銃器を構え直し――*2

 

 ダダダダダダダッ! ダダダダダダダッ!

 

「うわあっ!?」

 

 ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

「ぐあっ!?」

 

 突如として銃声が響き渡る。アビドスの生徒たちは咄嗟に身を強張らせたが、その銃弾は彼女たちに命中することはなく、むしろ彼女たちを守るように風紀委員たちへと着弾していく。

 銃弾の主は、アビドス生徒会を包囲する風紀委員たちではない。況してや、ハルでもミカでもなく、アビドス生徒会のものでもない。

 陣営を問わず、生徒たちが一斉に銃声の響いた方向へと視線を向けると――

 

「な、なんだ!?」

 

「許せない……!」

 

「はっ!?」

 

「許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! うああああああああああっ!!」

 

 ダダダダダダダダダダダダンッッ!!

 

「ぐっ!? うぅ……っ!」

 

 伊草ハルカ。瞳に狂気を宿した彼女が、至近距離でSG(ショットガン)の弾丸をイオリに撃ち込む。一発、二発……連続する銃声に、イオリは苦悶の声を漏らしながら、その場にバタッと崩れ落ちる。

 

「嘘をつかないで、天雨アコ」

 

『嘘?』

 

「偶然なんかじゃないでしょ、最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった」

 

『……随分と面白い話をしますね、カヨコさん?』

 

 便利屋参上。自らの固有武器『デモンズロア』を構えたカヨコが核心を突くように言い放つ。しかし、アコが顔色を変える気配は微塵もない。数の差による余裕ゆえか、それとも……。

 

「……最初はどうして風紀委員がここに現れたのか、理解できなかった。風紀委員会が他の自治区にまで追ってくる理由、それも私たちを狙って? こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」

 

『……』

 

「それに、私たちを相手するにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。とはいえ、このアビドスは卒業生を含めても6人しかいない……なら結論は1つ」

 

 カヨコはそこで一息置き、アコの顔を真っ直ぐに見据えながら鋭く断言する。

 

「――アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまで来たんだ」

 

「!?」

 

「な、なんですって!?」

 

「先生を、ですか……!?」

 

「私?」

 

 アビドスの生徒たちは驚愕の声を上げ、その中心にいるハクノも小さく首を傾げる。一方で、無銘生徒会の3人はカヨコと同じ結論に至っていたのか、大きな動揺を見せることはなかった。

 

「就任当日から、シャーレの先生には蒼井ハルが護衛として常に張り付いていた。そして、ハルの傍には、ほぼ必ず聖園ミカの姿もある。どちらも、ヒナに匹敵するほどの特記戦力だ。……アコ、あんたは最初からこの2人を警戒してたんだ。だからこれだけの兵力を差し向けた」

 

『ふふっ、なるほど。……ああ、便利屋にカヨコさんがいることをすっかり忘れてました。のんきに雑談なんかしている場合ではありませんでしたね……』

 

 カヨコの推測を聞いてもなお、アコの余裕は崩れない。むしろ、お陰様で隠す必要はなくなったと言わんばかりの態度で、彼女は不敵に微笑み、パチンッと指を鳴らした。

 

『まあ、構いません』*3

 

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……

 

「!?」

 

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……

 

『12時の方向、それから6時の方向……3時、9時……風紀委員会のさらなる兵力が四方から集結しています……!』

 

 直後、四方八方から新たな風紀委員の舞台がアビドスの生徒たちを包囲し始めた。その数は一個大隊を優に超えるだろうか。風紀委員たちはアビドス側の陣営をじりじりと囲むように包囲網を整え、銃器を構えたまま隙を見せず着実に距離を詰めてくる――まさに絶体絶命。

 だが、そんな状況下でも表情に一切の揺らぎを見せない者が1人――《万の魔人》蒼井ハルは不敵に笑みを浮かべた。

 

「まさか、この程度の数で私たちを止められるとでも……?」

 

『それこそ、まさかですよ。お二人を足止めするために、特別な戦力を用意しました』

 

 不意に響く大きな排気音――ブロロロ……! 包囲の奥から飛び出してきたのは1台の巨大な戦車。アビドスの生徒たちはその威容にぎょっとして息を呑むが、カヨコをはじめとする一部の生徒たちは、その戦車に見覚えがあった。

 それは、ミレニアムサイエンススクールが開発した大型戦車だ。通常の戦車の数倍はある巨体には、大口径電磁投射砲(レールキャノン)やガトリングガンなど、数々の強力な武装が備えられている。

 

『ウリディンム――ミレニアム製のA級大型戦車です。少々やりすぎかとも思いましたが、シャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし……まあ、大は小を兼ねると言いますからね☆』

 

「へぇ……。こんなものまで用意していたなんてね……」

 

『ええ、対特記戦力(あなたたち)用に購入したものです。……それにしても、流石はカヨコさんですね。先ほどのお話は正解です。……いえ、得点としては半分くらいでしょうか?』

 

 アコが褒めるように微笑みかけると、カヨコの表情は苦虫を噛み潰したようなものに変わる。

 

『確かに私は、シャーレと衝突するという最悪のシチュエーションも想定していました。しかし、この状況を意図的に作り出したわけではありません。それだけは信じていただきたいのですが……どうやら、難しそうですね』

 

 最初からこの事態を仕組んでいたわけではないというアコの言葉をそのまま受け入れるには、流石に出来過ぎた状況である。だが、これ以上問い詰めてもいたずらに時間を費やすだけだろうと察し、アビドス陣営の生徒たちは緊張を残したまま黙した。

 一方で、アコは小さくため息をつくと、風紀委員会側の事情について語り出した。*4

 

『仕方ありませんね。事の次第をお話しましょう……切欠は、ティーパーティーでした。もちろんご存知ですよね、ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会のことです。そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている……と。そんな話が、うちの情報部から上がってきまして』

 

 ――戻ったら、この事実をティーパーティーに報告します!

 

 ――でも、サオリには伝えておく。きっと、力になってくれるから。

 

 アビドス生徒会の脳裏に、トリニティ総合学園に所属する2人の少女――ヒフミとアズサの姿がよぎる。先日、ブラックマーケットで共に行動した彼女たちは、別れ際に『ティーパーティーに報告する』と確かに言い残していた。

 

『当初は私も「シャーレ」とは一体何なのか、全く知りませんでしたが……ティーパーティーが知っている情報となれば、私たちも知る必要があります。それで、チナツさんが書いた報告書を確認しました』

 

「(確認するのが遅くないです……?)」

 

『連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。どう考えても怪しい匂いがしませんか?』

 

 まるで推理ドラマの探偵が真犯人を指摘するかのような口調で、アコはアビドスの生徒たちに語りかけ、そして確信に満ちた言葉を続けた。

 

『シャーレという組織は、とても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすのか分かったものではありません。ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに、居合わせた不良生徒たちも処理した上で……といった形で』

 

 要するに、カヨコの推測通り、ゲヘナの風紀委員会はシャーレの先生を拿捕するためにここへ来たということだ。無銘生徒会の3人とアビドス生徒会一同は、ハクノを守るように彼の周りに立ち塞がる。

 

「ん、むしろ状況が分かりやすくなって良いかも」

 

「……先生を連れて行くって? 私たちがそれで「はいそうですか」って言うとでも思った?」

 

「あははっ、冗談にしても笑えないよねぇ」

 

「戦車は私たち3人で何とかする。アビドスのみんなは、それ以外の風紀委員をお願い!」

 

「……わかりました。ハル先輩、正面はよろしくお願いしますね」

 

 ハルが冷静に指示を下し、他の生徒たちが頷く。そして、それぞれが各々の武器を構えて臨戦態勢に入った。アコはそんなアビドス陣営の反応を見て、再び小さくため息をつくと……

 

『……ふふ、やっぱりこういう展開になりますか。では仕方ありませんね、前生徒会長さん?』

 

「……?」

 

『ゲヘナの風紀委員会は、必要でしたら戦力を行使することもあります。私たちは一度その決断をすれば、一切の遠慮をしません』

 

「……!!」

 

 アコがそう言うと、周囲の風紀委員たちは一斉に銃口を構える。その先は、真っ直ぐアビドス陣営の生徒たちに向けられていた。翻って便利屋の4人に向けられる数は驚くほどに少ない。

 

「社長、逃げるなら今しかないよ。戦闘が始まったら、もう後戻りはできない。風紀委員会はきっと、アビドスと私たちを同時に殲滅するつもり。でもアビドスがあっちの気を引いてる間なら、包囲網が薄いところから突破……」

 

「……ふふっ。ふふっ、ふふふふっ」

 

「……社長?」

 

 カヨコが撤退を進言するも、アルはただ不敵な笑みを漏らすばかりだった。訝しむカヨコに対して、冷静さの中に怒りを含んだ声音で告げる。

 

「……ねえカヨコ、あなたはもうとっくに私の性格、分かってるんじゃなくて?」

 

「……?」

 

「こんな状況で、こんな扱いをされておいて……背中を向けて逃げる? そんな三流の悪党みたいなこと、私たち便利屋がするわけないじゃない!!!」

 

「……あはー」

 

「あの生意気な風紀委員会に一発食らわせないと気が済まないわ!」*5

 

 我慢の限界はとうに過ぎていた。自分たちを「事の序」のように扱う風紀委員会に、アルは燃え上がる怒りを隠すことなく露わにする。彼女の言葉を間近で耳にしたムツキは驚くどころか――まるで待ち望んでいたかのように凶悪な笑みを浮かべた

 

「アル様……っ」

 

「ふう……それは良いけど、あの兵力と真っ向から戦う気? アビドスと力を合わせてもギリギリだと思うけど……そもそもアビドスが私たちに協力してくれるとは思えないし……」

 

「よっし、便利屋っ! 背中は預けるわよ!! この連中、コテンパンにしてやらないと!!!」

 

「先生の盾になってもらう」

 

「!?」

 

「先生をみんなで守ります、いいですね?」

 

「話が早いな…………」

 

 セリカ、シロコ、ノノミ――アビドスの生徒たちから寄せられる思わぬ信頼に、カヨコは思わず目を丸くする。とはいえ、彼女も否ではない。すぐに覚悟を決めると、周囲を取り囲む風紀委員たちを鋭く睨み返した。

 そして、アルは――

 

「ふふっ……あははははははっ! 当たり前よ! この私を誰だと思ってるの? 心配は無用! 信頼には信頼で報いるわ! それが私たち、便利屋68のモットーだもの!」

 

「はい!! 先生には私たちも色々とお世話になりましたので! 絶対に成功させます……!」

 

 久しぶりに、本当に久しぶりに、心の底から楽しそうに笑っていた。頼りになる仲間たちに、信頼できる友人たちと、気に入らない連中を力で黙らせる。これだ。これこそが、自分が憧れた真のアウトローの在るべき姿だ。

 こんな胸の高鳴る状況は滅多にない――いや、もしかするとこれが初めてかもしれない。

 

『うーん……まあ、これはこれで想定していた状況ではありましたが……それにしても、ここまで意気投合が早いとは……その点は想定外でした』

 

「人の心は、そんな簡単に測れるようなものじゃないってことだよ、アコ」

 

 アコが呆れたように呟くと、ハルはどこか楽しそうに、それでいて真剣な眼差しで応じた。

 

『……まあいいでしょう、それでは』

 

 一拍。間を置き、宣言する。

 

『風紀委員会、攻撃を開始します。敵対勢力の全てを制圧して、先生を安全に確保してください。先生はキヴォトスの外部の人なので、怪我をさせないように十分注意を』

 

「よくもショットガンの乱射なんて決めてくれたな……覚悟しろ!!」

 

 アコの指示が飛ぶや否や、風紀委員たちは一斉に銃器の引き金を引いた。対するアビドスと便利屋68は背中合わせで息を合わせ、襲い来る敵勢を迎え撃つ構えを取る。さらに、無銘生徒会の3人が轟音と共に迫りくる大型武装戦車ウリディンム――敵の切り札と真正面から対峙する。

 

『敵、包囲を始めています! 突破してください! 先生、私たちの指揮、お願いします!』

 

 こうして、アビドス陣営対風紀委員会の戦いの火蓋が切って落とされたのだった――!!

*1
【推奨BGM:執行者】英雄伝説 空の軌跡SCより

*2
【推奨BGM:Alert】ブルーアーカイブより

*3
【推奨BGM:迫りくる脅威】英雄伝説 空の軌跡SCより

*4
【推奨BGM:Interface】ブルーアーカイブより

*5
【推奨BGM:Unwelcome School】ブルーアーカイブより




TIPS:
翠蓋輝煌(すいがいきこう)》ユメ。アビドス高等学校の先代生徒会長にして、無銘生徒会のNo.Ⅴ。
アビドス高等学校を卒業すると同時に無銘生徒会へ正式加入しており、
卒業生というテキストを、無銘生徒会の生徒というテキストで上書きしている状態にある。
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