ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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1-2-7 潜入作戦

 ――カイザーPMC・廊下*1

 

「こちらNo.Ⅰ、現在の時刻は23:30(フタサンサンマル)。無事ポイント(デルタ)に到着したよ」

 

「んー……人の気配はないみたい。ただ、向かいの廊下に監視カメラがあるっぽいかなぁ?」

 

 カイザーPMCが所有する高層オフィスビル。その上層階で、ハルとミカは特注の通信機器を用いて仲間と連絡を取り合っていた。今回の作戦で彼女たちに課された役目は、カイザーPMC側の不正の証拠を掴むことだ。

 二段構えの作戦。アビドス生徒会が裏帳簿を保管する闇銀行を襲撃している隙に、2人はカイザーPMCのビルへと潜入し、さらなる犯罪の証拠を押さえる──それが今作戦の全容である。

 

『こちらNo.Ⅲ。ちょっと待ってちょうだい。ラフムによる有線接続でハッキングを行うわ』

 

 通信音声が僅かな間を置いて再び聞こえてくる。その瞬間、2人の視界の先を羽虫のような小さな影が横切った。

 その正体はラフム――無銘生徒会が所有する光学迷彩機能付きの超小型ドローンだ。指先に収まるほどのサイズで、音を立てることなくビルの廊下を飛行していく。そして監視カメラに到達するや否や、それに張り付き、内部機能への侵入を開始した。

 

「どう?」

 

『今、ハッキング中よ……ん、もう終わったわ。画面で見た限り、付近に警備員は無し。ポイント(ホテル)に向かって』

 

「了解。ポイント(ホテル)に向かうね」

 

 No.Ⅲへの報告を終えると、2人はトラップを警戒しつつ慎重に移動を開始した。ハルは油断なく愛銃を構え、ミカもまた緊張を滲ませた表情のまま後に続く。敵地への侵入はこれが初めてではないものの、何度経験しても慣れるものではない。

 彼女たちの目指す先はポイントH――カイザーPMCの代表取締役が使用するオフィスだ。事前の調査によれば、そこに今回の戦いの鍵を握る機密文書が保管されているはずだ。

 

「それにしても……仮にも民間軍事会社(Private Military Company)なのにお粗末だよね。ヘルメット団に自社の名前が刻印された戦車を支給したり、警備もこんなに手薄だし……」

 

「だよね。ま、楽で助かるけどさ☆」

 

 2人は軽い雑談を交わしつつも、緊張感を内に秘めながらオフィスを目指して進んでいく。足音はほとんど立てていないが、一歩一歩が緊迫感をさらに高めていく。途中、幾つかのセキュリティ装置を無力化し、ついに目的の部屋まであと一歩というところまで辿り着いた。

 

「……ハルちゃん」

 

「うん。いるね」

 

 ミカが小声で警告を発するや、2人は即座に足を止め、壁際に身を潜めた。天井の監視カメラが静かに回転し、その冷徹な視線が通路をくまなく監視している。ハルが手元の端末でカメラ映像を確認すると、その先には――

 

「4人……か」

 

「ちょっと多いね。どうするの、ハルちゃん?」

 

 通路を巡回する黒服のロボたち。その数は4人。足取りは鉄のように堅固で、厳格な規律を感じさせる。全員がAR(アサルトライフル)などの武装を備えており、その鋭い佇まいから、ただの警備員ではないことが一目で分かる。おそらくカイザーPMCの精鋭部隊に違いない。

 

「じゃあ、いつも通りに行こうか」

 

「了解☆」

 

 ハルとミカは目配せを交わすと、息を合わせたかのように一斉に動き出した。2人が行動を開始するのとほぼ同時に、4人の警備員たちも侵入者の存在に気付いたようだ。しかし、彼らが反応を示す間もなく……2人はすでに事を終えていた。

 それぞれが1人ずつ首元を掴み上げ、勢いよく残りの2人に叩きつける。鈍い衝撃音が響き、警備員たちは無様に折り重なり、その場に崩れ落ちた。

 

「ふぅ……ま、こんなものかな。ダメ押しにスタンガンを当てて……っと」

 

 警備員たちを手際よく拘束した後、2人はスタンガンを押し当てて確実に無力化する。四肢を拘束された4体のロボは力なく床に横たわり、もはや抵抗の余地はない。

 民間軍事会社の所属員である以上、彼らは並の生徒を遥かに凌ぐ戦闘能力を備えていたはずだ。それでも、この2人にとっては障害にすらならなかった。こうして彼女たちは、あっさりとカイザーPMC代表取締役のオフィスへの侵入を果たした。

 

 ◇ ◇ ◇*2

 

「この部屋に、例の機密文書が……」

 

「うん。情報通りなら、このデスクの引き出しにあるはずだよ」

 

 オフィスに侵入した2人は、目当ての物を探して部屋の中を丹念に調べ始めた。デスクの周辺をくまなく探り、引き出しやその中身を次々と確認していく。書類の束や端末、キーボードなどが整然と並ぶデスクは、まさに『大企業』らしい洗練された佇まいだ。その整然さは、見慣れたシャーレのオフィスとは比べものにならないほどだった。

 

「あ、これかな」

 

 その作業も程なくして終わりを迎えた。2人がデスクの引き出しを上から順に確認していき、最後の段で目的の物を発見する。それは黒革張りのファイルに閉じられた数枚の書類だった。ハルはその内容を確かめるべく、ファイルを手に取り中身を確認する。

 

「ビンゴ! これだよ!!」

 

「やったね☆ これで証拠をゲットだね!」

 

 そこに記されていたのは、カイザーPMCが行っていた数々の犯罪の証拠だった。生徒が銃器で武装するのが常識な超銃器社会のキヴォトスにおいても、高すぎる殺傷能力から製造や使用が厳しく制限されている兵器の製造や取引の記録。その一部がブラックマーケットに流れていたことも詳細に記載されている。

 さらに、反社会勢力との癒着、違法兵器の製造記録、密売ルートの確立――これらの情報はいずれも重大であり、カイザーPMCを追い詰めるのに十分な内容だった。

 

「……にしても、カイザーグループも懲りないなぁ。また、こんなものを作っちゃうなんて」

 

「弾道ミサイル用サーモバリック弾……SRTに一度検挙されたのに、懲りないね」

 

 SRT特殊学園――「Special Response Team(特別対応チーム)」の名を冠した、キヴォトスの法執行機関における最高学府。

 一般的な治安維持業務にあたるヴァルキューレ警察学校が連邦生徒会の管轄であることから、キヴォトスの各学園が持つ自治権を理由に活動を制限される場面が多い点を鑑み、ヴァルキューレでは対応できない案件を担うための特殊部隊の運用と養成を主目的としたエリート校。

 

 連邦生徒会長直属の学園組織として創設された本校は、連邦生徒会長の権限・命令を以て、あらゆる自治区への介入を可能としており、生徒の装備もキヴォトスでトップクラス。SRTでしか扱えない最新兵器も保有している。

 厳しい選抜試験や訓練を通過してきた生徒たちの練度・士気は高く、高品質の装備も相まって、並の集団では4~5人からなる一個小隊にすら太刀打ちできない。

 

 匿名(無銘生徒会)の情報提供により、そのSRTが一度摘発し、製造も使用もできないよう処理されたはずの弾頭を、またこうして作り出すとは……いったい何を考えているのか。もはや怒りを通り越し、呆れるばかりだった。

 2人は揃って「はぁ」とため息をつき、ファイルを閉じてポーチに仕舞い込む。あとはこれを持ち帰れば、今回の作戦は完了だ。

 

「ま、仮想敵を考えれば、こんなものを用意するのも分からないでもないけどね」

 

「デカグラマトンの預言者……2年前は、本当に大変だったよね」

 

「うん。ユメ先輩を助けたと思ったら、いきなりビナーが飛び出してくるし……その上、今度は()の化け物(トの憤怒)まで出てくるんだもん。あの時は本当にどうなるかと思ったよ」

 

「あはは、確かにね☆」

 

 2人は当時の記憶に思いを馳せ、自然と遠い目をする。幾多の修羅場を潜り抜けてきた自負が2人にはあるが……あれは間違いなく、これまでで最も苛烈な戦いだった。冗談抜きに、死を覚悟せざるを得なかったほどだ。

 二柱の怪物が放つ圧倒的な力は、ただ強力という言葉などでは到底足りず、あの激闘で誰一人として命を落とさなかったのは、奇跡以外の何物でもないだろう。

 

「因果の捻じ曲げ、その対価を甘く見ていたよ。1人の死を無かったことにするには、1人の死で収支を釣り合わせるしかない。……けど、私たちは因果の帳尻を合わせずに、ユメ先輩の命を救おうとした。その反動が、あれだった」

 

「……それでも、私たちは何も失わずに済んだ。ユメ先輩も、自分自身も……何もかもね」

 

「そうだね……でもそれは、運が良かっただけ。一歩でも間違えれば、私たち全員が命を落としていた。……そんな命懸けの綱渡りをアビドスの後輩たちにさせるわけにはいかない」

 

 そこで一度言葉を切ると、ハルは強い意志を宿した瞳でミカを見つめた。ミカもまた、その意図を汲み取り、静かに頷く。2人の瞳には、同じ決意の炎が宿っている。大切な後輩たちを守るためなら……彼女たちは、悪に身を沈める覚悟さえ持っていた。

 

「――だから、アビドス生徒会には因果の精算をしてもらう。ある程度は熱量の帳尻を合わせておかないと、今度はいったい何が起きるか分かったものじゃないからね」

 

 オフィスの窓越しに外の景色を眺めながら、ハルは小さく息を吐き、言葉を紡ぐ。その横顔にはどこか影が差しており、それに気付いたミカは少し困ったように眉を寄せ、そっと彼女の手を握りしめた。

 

「……ま、私たちはせいぜいサポートに徹しようか」

 

「うん、そうだね。私もアビドスの子たちには幸せになってほしいしさ☆」

 

 2人は互いに頷き合い、カイザーPMCのオフィスを後にする。窓から差し込む月光が廊下に2人の影を伸ばし、その行く末を暗示するかのような静謐な光景を描き出していた。

 

 

 

 ――銀行

 

「えーっと、カイザーローン……これですね☆」

 

「ナイスだよ、クリスティーナ(ノノミ)ちゃん。ちょっと見せてもらってもいいかな~?」

 

「はい、コーラル(ホシノ)先輩!」

 

 同時刻、闇銀行への侵入を果たしたアビドス生徒会……もとい覆面水着団の面々は、順調に目的の裏帳簿を回収していた。3の覆面を被った少女――クリスティーナ(十六夜ノノミ)が、本棚の中から見つけ出したそれを、1の覆面の少女に手渡す。

 

「んむ……なるほどね。随分と前からヘルメット団に資金を横流ししてたみたいだねー」

 

 受け取った書類を一瞥すると、1の覆面の少女――コーラル(ホシノ)はしたり顔で頷く。それを見て、どうやら当たりだと悟った4の覆面の少女(セリカ)は、2号(シロコ)にさりげなく目配せを送る。これでカイザーローンの不正の証拠を掴むことができた。

 だが、ここで捕まってしまえば元も子もない。まずはここから無事に抜け出すことが最優先だと判断した彼女たちは、速やかに行動を開始するが――その矢先、突如として異変が起きた。

 

「!?」

 

「シロ……ブルー先輩?」

 

「囲まれてる、気を付けて」

 

「「「「!?」」」」*3

 

 あと少しで出口に辿り着く――そんなところで、突如としてブルー(シロコ)が立ち止まった。異変に気付いた他の面々が慌てて窓から外を確認すると……そこには、無数の光が建物を取り囲んでいた。

 マーケットガードのお出ましだ。何時の間にか、覆面水着団の侵入が察知されており、物量に物を言わせた人海戦術による包囲網が形成されつつあった。このままでは、銀行内部に突入されるのも時間の問題だろう。

 

「は、はう……」

 

「ひょっとして……私たちの侵入がバレていた!?」

 

「……間違いなさそうだね」

 

 取り乱すⅤの覆面を被った少女(ユメ)4の覆面を被った少女(セリカ)に、ブルー(シロコ)は冷静に答える。彼女たちは銀行への侵入にあたり、細心の注意を払っていた。監視カメラや警備員の目といった警戒網を掻い潜り、誰にも気付かれずに入り込んだ。

 ――つもりだったが、どうやらマーケットガードの警備を出し抜くには不十分だったらしい。

 

「――全員、脱出の準備をしてねー。アディ(セリカ)ちゃんは例の証拠をお願いするよー」

 

「分かったわ……!」

 

ブルー(シロコ)ちゃんは周囲の警戒。クリスティーナ(ノノミ)ちゃんはフォローに回ってね」

 

「(スチャッ)」

 

「分かりました!」

 

ミラクル(ユメ)先輩。殿は私と先輩で行きますよ」

 

「うん!」

 

 コーラル(ホシノ)の指示に従い、覆面水着団は脱出の準備に取り掛かる。ここで大人しく捕まるわけにはいかない。ならば、やれることをやるだけだ。だが、陣形を整えようとしていたその最中――

 

「よーし、なるべく陣形を崩さずに――」

 

 ダダダダダダダダッ! ガシャーン!!

 

 窓ガラスを粉砕する音と共に、無数の弾丸が室内を埋め尽くした。機関銃による容赦のない掃射だ。突然の襲撃に思わず息を呑む彼女たちの前に、武装したオートマタたちが建物内部へと突入してきた。

 

「っ……!?」

 

「マーケットガード……!!」

 

「全員撤収! 裏口を作って逃げるよー!」

 

 作戦通り、全員が出入り口とは逆の方向へと一斉に駆け出した。逃げ道を作るため、コーラル(ホシノ)ミラクル(ユメ)の2人がマーケットガードの進行を食い止めようと、果敢に立ち塞がる。その堅実な防御により、銃弾が後方の3人まで届くことはない。

 ブラックマーケット突破戦――後に伝説として語られる一夜の争いが、今ここに幕を開けた。

*1
【推奨BGM:潜入】英雄伝説 空の軌跡SCより

*2
【推奨BGM:Gnosis】英雄伝説 零の軌跡より

*3
【推奨BGM:Demonic Drive】英雄伝説 零の軌跡より




TIPS:
梔子ユメ。
本来は、死の運命にあった少女。彼女の死を覆すために本来の死の原因に対処した結果、因果の帳尻を合わせるために反動が起きたのか、デカグラマトンの預言者『ビナー』と『セトの憤怒』が立て続けに出現、冗談抜きに蒼井ハルはヘイローが壊れる寸前まで追い詰められました。

バッドエンドルートⅠ
無銘生徒会に聖園ミカが所属しない並行世界では、預言者『ビナー』の熱線により蒼井ハルは梔子ユメと共に肉体が蒸発、小鳥遊ホシノが遺品として2人の固有武器を引き継ぐことになります。
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