ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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1-2-12 アビドス防衛戦(1)

 ――アビドス市街地*1

 

 無数の戦車――それこそ、渋滞する高速道路のように視界の全てを埋め尽くすほどの大群が、アビドス高等学校へ向けて進撃していた。その数は、およそ100台を超える。まさに圧巻の一言であり、並の戦力では対抗どころか、立ち向かうことすら困難だろう。

 さらに、上空では軍用ヘリが巡回し、地上の部隊と連携を取っている。死角を補う随伴歩兵の数も多く、まさにこれから戦争が始まると言われても違和感がないほどの戦力である。

 

 ドカアァァァァン!!! 1台の戦車が砲撃を放ち、高層ビルの一つに着弾。その衝撃で周囲の建物が揺れ、住民たちも巻き添えとなっていく。一つ、また一つとアビドス自治区の街並みが無残にも崩れていく。ただ進撃するだけでなく、主砲や副砲を次々と撃ち放ち、無差別に市街地を蹂躙する。銃撃や爆発が致命傷にならない頑丈な肉体を持つキヴォトス人でなければ、死人が出てもおかしくないほどの苛烈さだった。

 

「うわあぁぁぁっ!?」

 

「早くっ、早く逃げろっ!!」

 

 早朝の街に悲鳴と怒号が入り乱れる。戦火に巻き込まれることを恐れた人々は逃げ惑い、既に避難勧告が出ているため人通りは限りなく少ない。

 それでもなお戦車の砲撃は続き、市民たちは無慈悲な暴力に晒され続けていた。

 そんな凄惨な光景を上空から眺めていた1機のヘリが突如回転し始め、機体下部に装備された機関銃の銃口を地上に向ける。それはまるで、獲物に狙いを定めたハンターのようにも見えた。

 

「この地区を制圧するまで撃ち続けろ!」

 

「行け、行け!」

 

「進め!」

 

 PMC指揮官の号令の下、戦車とヘリの混成部隊による攻撃は一層激しさを増していく。散発的ながら歩兵部隊も展開しており、四方八方からの猛攻によってアビドスの制圧を目指す意図が明白だった。市街の至る所が戦場と化し、抗う術もなく蹂躙されていく。

 その中に、ひときわ異質な存在があった。戦火の只中、オーダーメイドのフォーマルスーツに身を包んだ大型のロボットが、一人悠然と佇んでいる。

 

「アビドス生徒会が何をするつもりかは知らんが……これ以上、余計な真似はさせん!」

 

 そう言い放つのは、アビドス侵攻を指揮する大軍勢の総司令官。カイザーコーポレーション傘下の企業の一つ、カイザーPMCを率いるこの男は、堂々と市街地の中心を進んでいく。部下たちに次々と指示を飛ばしながら、その歩みは一切の迷いを見せない。

 彼に付き従う兵士たちは選りすぐりの精鋭揃いであり、装備もまた他の部隊とは一線を画す最新鋭のものばかりだ。

 

「さあ、アビドス高校を占拠せよ! 我らカイザーコーポレーションの力を見せつけるのだ!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「……酷い」

 

「ひぃん……ここまでするなんて……」

 

 無関係な市民への暴虐を目の当たりにし、生徒たちの表情には怒りと悲しみが交錯していた。しかし、揺れ動く感情とは裏腹に、彼女たちの身体は冷静そのものであり、その指先は固く武器のグリップを握り締めている。戦う覚悟は、既に決まっていた。

 ここは市街地の中心に位置する大通り。瓦礫にもたれかかる獣人の男性に、無銘生徒会の制服を纏った生徒の1人が声をかける。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、どうにか……」

 

「落ち着いて。落ち着いて、避難してください。ここは私たちが守りますので……」

 

 左肩にトリニティ総合学園の校章、右肩に十字――救護騎士団の証であるエンブレムをあしらった制服を着た、黒髪を一つ結びにした少女。彼女の名は大環(たいわ)ナオ。より多くの人を助けるため、トリニティの救護騎士団から無銘生徒会へと籍を移した生徒だ。

 同じく無銘生徒会の医療班に所属する、レッドウィンター連邦学園出身の子熊(おぐま)ポーラと共に負傷者の救護に当たっている。

 

「ナオ先輩、この人……足に怪我を!」

 

「了解、了解です。これで、すぐによくなります。私は、癒しを処方する……!」

 

 治癒の神秘――癒しの特性を持つ神秘の力によって、歩くこともままならないほどの怪我を負っていた猫の獣人を治療する。その傍らでは、ポーラが他の負傷者に応急処置を施している。

 尤も、癒しの力も万能ではない。傷の深さによっては完治できない場合もあり、一人ずつの治療に割ける時間も限られている。負傷者全てを癒すのは物理的に不可能な状況であるため、自力で歩けない重傷者から優先して治療を行っていた。

 

「これで……よし」

 

「ありがとうございます!」

 

「……っ、危ない!」

 

 ナオが負傷者の治療をしている最中、戦車の砲撃によって崩れ落ちた瓦礫が彼女の頭上に落下してきた。それにいち早く気付いたシロコが、咄嗟に見知らぬ生徒(ナオ)へと声を張り上げる。

 

「――させないわよ!」

 

 ズドドドドドドドッ!!

 

 直後、戦車の砲撃をかき消すような激しい銃声が響き渡る。瓦礫は地面に届く前に粉砕され、衝撃で砂埃が舞い上がった。シロコたちは反射的に音のした方向へと視線を向ける。

 そこにいたのは、左肩にヴァルキューレ警察学校の校章を付けた少女。長い金髪をツインテールに結び、大海原のように澄んだ蒼い瞳が鋭く輝いている。ノノミの『リトルマシンガンV』にも劣らぬ大型MG(マシンガン)を軽々と振り回していた。

 

「ナオ、大丈夫!?」

 

「……た、助かりました。やはり戦いは、どうにも慣れませんね……」

 

 生徒には珍しく銃撃戦を苦手とするナオは、金髪の少女――清水(しみず)リディアに守られたことで安堵の表情を浮かべた。しかし、すぐに呼吸を整えると、救護騎士団で培った経験を活かし、医療班の仲間たちに次々と指示を出していく。

 一方、アビドス生徒会と便利屋の面々もただ見ているだけではない。戦火に飲み込まれていくアビドスの街と市民を見過ごせるはずもなく、彼女たちもそれぞれ行動を開始する。

 

「皆さん! 安全な場所へ避難してください!」

 

「慌てないで! ゆっくりでいいから、落ち着いて動いてください!」

 

 生徒会の一人一人が避難誘導に奔走する。市民たちを落ち着かせるための声掛けに加え、万が一にも流れ弾が当たらぬように細心の注意を払いながら動いており、その忙しさは尋常ではない。

 それでも、市民を第一に考え、己の役割を全うする彼女たちの姿勢は、自治区の顔たる生徒会に相応しいものだった。そんな彼女たちを守るべく、便利屋の3人も武器を構え、周囲の警戒を怠らない。

 

「――アビドス生徒会を発見! こっちだ!」

 

 ダダダダダダダダッ!

 

 エンカウント。避難誘導を続けるアビドス生徒会の下に、十数人のPMC兵士が現れる。彼らは問答無用でカイザー製のAR(アサルトライフル)を連射し、銃弾の雨を浴びせかける。

 だが、その暴挙を便利屋68が黙って見過ごすはずもない。むしろ、襲撃を予測していたかのように素早く、各々の固有武器を駆使し、PMC兵士たちの銃器を撃ち落とし、或いは彼らを昏倒させて無力化していく。

 

「来たみたいですね」

 

「それじゃ、こっちもやろっか。……ハルカちゃん?」

 

「はい! やっちゃいます!」

 

「どうしても邪魔したいみたいだけど……そういう興醒めなこと、やめてもらえるかしら?」

 

 細い路地から不意打ちを狙う気配を察知したアルは、正確に伏兵の頭部を狙い撃ちながら、自分たちに銃口を向けるPMC兵士たちに啖呵を切る。その堂々たる立ち振る舞いに、兵士たちは思わず怯んでしまう。

 だが、そうしている間にも新手の敵が次々と押し寄せる。このままではいずれ数で圧倒されるのが目に見えているため、便利屋一同は即座に次の一手を打つことにした。

 

「ムツキ」

 

「くふふふっ! さぁ、いっくよ~!!」

 

 幼い容姿にそぐわぬ膂力で、ムツキは勢いよくボストンバッグを放り投げる。当然、兵士たちはそれを脅威と判断し、銃で撃ち落とすが――バッグが撃ち抜かれた瞬間、ボフン! と多量の煙が辺りに立ち込めた。

 スモークグレネードだ。この煙幕の中ではPMC兵士たちもまともに動けない。その隙を逃さず、ハルカが機敏に兵士たちの足元に潜り込み、次々と爆弾を設置していく。

 

「行きます!」

 

 ドゴゴゴゴゴゴゴーーーーン!!!

 

「うわぁっ!?」

 

「き、急になんなんだ、いったい……!?」

 

 市民たちの方からも悲鳴が上がるほどの爆発が巻き起こり、50人ほどいたPMC兵士たちが爆炎と爆風に飲み込まれる。煙が晴れた時には、殆どの兵士が意識を失って地に伏していた。便利屋68が得意とする爆破戦術は、多少の数の不利など物ともしない実力を見せつける。

 そこへ騒ぎを聞きつけたアビドス生徒会の友人たちが慌てて駆けつける。倒れ伏す兵士たちを見たホシノは、思わず感嘆の声を漏らした。

 

「いやぁ~派手にやったね」

 

「ええ、でも……」

 

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……

 

「……キリがありませんね」

 

 ノノミが険しい表情で呟く。見渡す限り、際限なく押し寄せてくるオートマタの兵士たち。さらに、片側二車線の大通りには戦車が二列に並び、搭載された砲や機銃で市街地やそこに住まう人々を苛烈に攻撃している。

 それでも、生徒たちは決して屈さない。たとえ絶望的な戦力差があるとしても、それが諦める理由にはならない。武器を手に、迫り来る企業の軍勢と正面から対峙する。

 

「「――アカシックスター!!」」

 

 その時、金色の閃光が降り注いだ。戦車たちの前方を進んでいた兵士たちが、冗談のように吹き飛ばされていく。一個小隊を呑み込むかのように降り注ぐ流星雨――星々の輝きとともに、生徒たちの前に2人の少女が舞い降りる。

 ⅠとⅡ、自らの序列を示す数字を背中に刻んだ、黒き制服の少女たち。その周囲には金色の星屑が舞い、敵味方を問わず、誰の視線も奪わずにはおかない。

 

「!!」

 

「ハルちゃんっ!?」

 

「ミカ!?」

 

「みんな、ごめんね? ちょっと遅くなっちゃった」

 

「――まったく。ホント、嫌になるよね。無駄に数ばかり多くてさ」

 

 少女たち――ハルとミカは、友人たちに軽く謝罪の言葉を口にした。本来なら、もっと早く合流する予定だったのだが、遊撃隊として各地の敵を掃討しているうちに遅れてしまったのだ。

 とはいえ、アビドス生徒会にとっては頼もしい援軍であるのに変わりはない。今までの遅れを取り戻すかのように、彼女たちは目の前の戦車群を鋭く睨みつけた。戦場の空気が変わったのを感じ取ったハルは、背後の仲間たちに声を投げかける。

 

「みんなは、敵の指揮官を倒しに行って。そこまでの道は自分たちが切り拓くから」

 

 刹那、溢れ出る蒼い光の奔流。星の息吹を束ねたような絶大な神秘が1人の少女から放たれる。

 

「――神秘、限定再現。コード名『理解を通じた結合』」

 

 光輪が変形――否、それだけではない。円環の中央に光点が輝き、左右に雷霆の如く二条の線が伸びるという形状に変化すると同時に、生徒の域を越えた大きさまで肥大化していく。その大きさは人1人を容易に飲み込めるほど。

 空間を歪ませるほどの神秘を目の当たりにした者たちは格の違いを痛感する。巨いなる光の輪は神威の顕現であり、或いは人類の叡智など及びもしないナニカであると。

 

「我が深淵にて煌めく闇と混沌の神よ、歪み果てた秩序を砕く光の柱と化せ……」

 

 人々は光輪の背後に巨大な怪物を幻視する。蛇と鯨が合わさったような純白の巨体と、全身に駆け巡る淡いオレンジ色の幾何学模様。禍々しくも神々しいその姿こそ、アビドス自治区の砂漠で幾度となく目撃されてきた脅威……災禍の大蛇そのものだ。

 そして、それは――2年前、砂漠の太陽を喰らわんとした神の写し身であり、尊敬する先輩と信頼する友人を同時に失いかけたホシノは、憎々しげに怪物の名を口ずさむ。

 

「……ビナー」

 

「穿て、アツィルトの光!!

 

 カッ! ドゴォォォォーーーーン!!!!! 光輪が眩い輝きを放ち、ビナーの口腔より戦車群を覆い尽くすほどの極大の光の柱が放たれる。戦車の分厚い装甲を難なく貫いて破壊し尽くし、慌てて逃げ出した兵士たちも熱線の余波で焼き焦がしてしまう。

 アビドス生徒会と便利屋は、静寂の中でこの圧倒的な威力と威容を見つめていた。戦車群が跡形もなく消え去った市街地の大通りには、熱風に制服を靡かせる《魔人》だけが佇んでいる。

 

「あれだけの戦車が、一撃で……!?」

 

「……す、すごいです」

 

「これが、無銘生徒会のNo.Ⅰ……《万の魔人》蒼井ハルの力だよ」

 

 人智を超えた力に慄然とするセリカとアヤネの傍で、1年生の頃からの友人であるホシノが冷静に説明する。2年前の戦いで彼女が嵐と雷の神の権能を『習合』したように、ハルもまた闇と混沌の神の権能を『模倣』できるようになった。

 理を越えた暴虐なる力。本人の戦闘技術や身体能力だけでなく、最早人間の手が及ぶ範疇にはない異能の力こそが、彼女たちが学園都市最強の一角に数えられる所以の一つなのだ。

 

「――後ろは守るよ。だから、みんなは……!」

 

「うん」

 

「任されたわ!」

 

「こんな威力を見せられると、なんだか別の意味でちょっと怖くなりますけどね……」

 

「え? 事故で人死が出ないように大分出力は抑えたつもりなんだけど……」

 

「あれで!?」

 

 アヤネが冗談交じりに言い放つが、ハル本人はそこまでの威力を発揮したとは全く思っていない様子で、戦車の残骸に目を落としながら首を傾げる。シロコ、ノノミ、ホシノの3人は苦笑していたが、それ以外の生徒たちは彼女の言葉に小さく息を呑み、戦慄していた。

 さておき、のんびりしている暇はない。アビドス生徒会と便利屋68の面々は、破壊された戦車群を越えて大通りを駆け抜けていく。その背中を見送ったハルは、小さく一言、ぽつと呟いた。

 

「あとは、ホシノたちの奮闘次第かな」

 

「うん、そうだね。私たちはみんなが心置きなく戦えるようにアビドスの街を守らないと!」

 

 ハルとミカは頷き合うと、自分たちも市街地の防衛戦に参加するために走り出す。途中、避難誘導中の部下たちの傍までやって来た2人は、先ほどナオたちを守ったリディアに呼びかける。

 

「リディア、ここはお願いするね」

 

「ええ、生徒会長! あとは私たちに任せておきなさい!」

 

「頼りにしてるよ」

 

 生徒会長の期待に応えるべく、リディアは意気揚々と仲間たちの下へ戻っていく。そんな彼女の姿を見て微笑んだ2人は、すぐさま気持ちを切り替え、アビドス市街地の巡回を再開した。

 

「行こう、ミカ」

 

「うん!」

*1
【推奨BGM:Atrocious Raid】英雄伝説 閃の軌跡より




TIPS:
カイザーPMC。
アニメ版のオープニングに登場するシーンを参考に保有戦力を設定しました。
これが、カイザーPMCの本気だ!

無銘生徒会のモブ生徒:
一人一人、モブ生徒にもある程度の設定を用意してあります。

名前   :ナオ
フルネーム:大環(たいわ)ナオ
武器種  :AR
出身学園 :トリニティ総合学園
部活   :救護騎士団 → 無銘生徒会
年齢   :17歳
加入理由 :より多くを救護するために
元ネタ  :【超昂大戦 エスカレーション・ヒロインズ】より【神騎ディアロール】

名前   :ポーラ
フルネーム:小熊(おぐま)ポーラ
武器種  :RL
出身学園 :レッドウィンター連邦学園
部活   :無銘生徒会
年齢   :16歳
加入理由 :ナオに母性を感じた
元ネタ  :【超昂大戦 エスカレーション・ヒロインズ】より【神騎ポラリス】

名前   :リディア
フルネーム:清水(しみず)リディア
武器種  :MG
出身学園 :ヴァルキューレ警察学校
部活   :公安局 → 無銘生徒会
年齢   :16歳
加入理由 :ヴァルキューレ警察学校の不正を知り、それを正すために
元ネタ  :【あいりすミスティリア!】より【リディア】
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