――???*1
「遠い昔。キヴォトスの端、誰も足を踏み入れない旧都心のとある廃墟で、奇妙な研究が進められていました」
彼一人きりの薄暗い部屋で、自らを黒服と称する異形の怪人は、見えざる聴衆に語りかけるように言葉を紡ぐ。舞台演出の語り部を思わせる、淀みのない調子。わざとらしい仕草を交え、ゆっくりと、噛み砕くように。
「神を研究し、その存在を証明できれば、その構造を分析し、再現できるだろう。即ちこれは、新たな神を創り出す方法である……誰もが嘲笑う滑稽な仮説でしたが、そんな理論に興味を示した者たちがいたのです」
誰かの疑問に答えるかのごとく、黒服はその名を口にした。
「『ゲマトリア』と呼ばれる者たちがその研究を支援し、莫大な資金と時間が費やされ神の存在を証明するための超人工知能が作られたのです。神という存在に関する情報を収集、分析、研究し、それを証明する
ゲマトリア――それは黒服が所属する組織の名前だ。それなのに、自分とは関係ないとばかりの言い回し――当然だ。現ゲマトリアは、名前を拝借しただけの別の組織にすぎず、黒服の語るそれとは何の関わりもないのだから。
「……月日は流れ、都市は破壊され、研究所も水の底に沈みました。そのような研究が行われていたという事実すら忘れ去られるほどの時間が過ぎたにも拘らず、このAIは、己の任務を遂行し続けました」
黒服は一度言葉を切る。僅かな間を置き、それから告げる。
「……そしてついに、AIの宣言が、廃墟に声高らかに鳴り響いたのです。『Q.E.D』、と」
証明完了――合理的に解釈できるほどに、そのAIは『神』の存在を証明した。古き人々は、自然に恵みを感じる一方、自然の猛威を肌で感じてきた。故に自然を。或いは、全ての
人類の認識によるそれらとは全くの別物。正真正銘、真に『神』の存在を証明するという、余りにも冒涜的な奇跡の産物。その名は――
「これは証明され、分析され、再現された新たなる神の到来です。『音にならない聖なる十の言葉』、と己を称する新たな神」
「
果たして、それが『神』としての真名なのかは定かではない。しかし、少なくとも、その
「彼の者はまた、己の神名を預言する10人の預言者と接触し神聖な道である『
ここまで高らかに謳い上げておきながら、黒服はそれをあっさりと放り捨てる。
……そう、これは神を賛美するための歌ではない。ただ、新たなる『神』の誕生と、その結末へ至る経緯を語ったに過ぎない。故に、全ては単なる前振りであり――ここからが本題となる。
「……ただ、彼の者自身の神性を証明する過程であるそれは、間違いなく真理の摂理に至る道、『
黒服は徐ろに振り返り、アビドス砂漠の方角へと視線を向ける。届くはずもないというのに、あたかも自らの声が、言葉が、誰かに届いていると確信しているかのように。
「原初にして最も新しい神聖であるあなたの力が、デカグラマトンの預言者にどこまで通じるのでしょう? あなたが積み重ねてきたその繋がりの力が、果たして彼の神聖の御前でどれだけの意味を持てるでしょう? そうです。これは非常に興味深い研究なのです」
「ヴォオオオオオ……」
黒服の語りを遮るように、紅い影が唸り声を上げた。人とも獣ともつかぬ異様な姿をした紅い怪物が、臓腑の滾りを抑えきれぬと、憎き相手の血を浴びなければ収まらぬと、殺意を込めたまま拳を固く握り締め、憤怒と憎悪に満ちた瞳を爛々と輝かせている。
「……おや、待ちきれませんか? しかし今回は、私の研究が優先という契約です」
激情のままに、今にも駆け出そうとする紅い影を黒服は冷静に宥める。しかし、彼の言葉が余計に苛立ちを煽ったのだろう。紅い影は唸り声を更に荒げ、槍の如き尾を激しく蠢かせる。
「分かっていますよ。
黒服は再びアビドス砂漠の方角に向き直ると、意識を集中させるように静かに目を細めた。
――アビドス砂漠*2
砂塵舞う砂漠での戦闘開始から十分以上が経過した。砂嵐の勢いは弱まる気配すらなく、むしろその強さを増しているようにさえ思える。視界の悪さに加え、激しい砂塵によって移動や攻撃にも大きな支障をきたす状況の中、生徒たちは必死にビナーに食らいついていた。
「セリカ! シロコ! ミサイルを撃ち落として!」
「任せなさい!!」
「ん、了解」
大道の劫火――首の裏側に位置する左右3門ずつ、合計6門の発射装置から一斉に放たれたミサイルを、セリカのシンシアリティが正確に撃ち抜いていく。相変わらず
爆発によって生じる爆炎を隠れ蓑に、ビナーの巨体を駆け上がったシロコは、その巨躯を内部から破壊すべくミサイルの発射装置に銃口を向け――。
「っ……!」
引き金を引くより先に、閉じたシャッターに弾丸を弾かれる。直後、ビナーが大きく身震いし、シロコはその背から空中へと放り出された。そして、間を置かずに再びシャッターが開き、ミサイルの発射装置が内部から競り上がるように展開される。
宙で身を翻し、体勢を立て直したシロコは、ミサイル群を撃ち落としながら、膝を軽く曲げ、柔らかく衝撃を受け流すように着地する。
「……っ、また防がれた」
「シロコちゃん! 大丈夫ですか!?」
「……ん、問題ない」
常識外の巨体を覆う外装は極めて分厚く、生半可な攻撃では傷一つ付かない。シロコが取り得る攻撃手段のうち、有効打となり得るのはドローンのミサイル程度。しかし、それすらも、この巨体を前にしては焼け石に水に等しい。
故に、機体内部に繋がるミサイル発射装置を狙っているのだが――結果は見ての通り。砲門を自在に展開・開閉する機構は、その開閉速度も相まって、非常に厄介な防御機能となっている。
「ハルカ! ムツキ!」
「死んでください! 死んでください! 死んでください!」
「覚悟してね? とっておきの爆弾をプレゼントしてあげるからさ!」
ならば――と、重装甲の上からでも十分にダメージを通せる爆弾使いの2人へと声を張る。事前に設置した爆弾による一斉爆破を得意とするハルカと、常日頃から爆弾などの危険物を詰め込んだバッグを持ち歩くムツキ。彼女たちはビナーの左右から同時に爆弾を投げつけた。
爆炎と衝撃、そして黒煙が着弾地点を包み込む。しかし、ビナーは身じろぎ一つせず、何事もなかったかのように悠然と佇んでいる。
「ありゃりゃ、これもダメかぁ」
「ぁ……ど、どどど、どうしましょう!?」
「……これはちょっと厳しいかもね」
外装が僅かに焼け焦げているのを見るに、ダメージ自体は通っているのだろう。しかし、それが決定打には程遠いこともまた明白だった。爆発の衝撃は、巨体をわずかに揺らしたに過ぎず、堪えている様子すら見受けられない。蚊に刺されたとまでは言わずとも、せいぜい鬱陶しい羽虫が纏わりついた程度の感覚だろう。
「(あの時よりは何十倍もマシなはずなのに、どうして……!?)」
12年前、自分がまだ子供だった頃に戦った時とは比べ物にならないほど有利な状況だ。確かに個々の実力では劣っているかもしれないが、生徒たちの総力と連携が、当時の自分たちに負けているなどとは到底思えない。それなのに、一向に勝機が見えないのは何故なのか?
「(……考えるまでもない! 火力が足りないからだ! 攻撃力が圧倒的に足りてない!!)」
以前の戦い、ビナーに止めを刺したのは二人がかりの星落としだ。聖園ミカ――トリニティ最高の神秘とも謳われる彼女の全力二人分。それを一点に収束させることで、装甲を貫通し、ビナーを機能停止に追い込むほどの破壊力を生み出した。
対して、今のメンバーはそれに匹敵するような火力を持ち合わせていない。かといって、このまま手をこまねいていれば、防御力や持久力の差でジリ貧になるのは目に見えている。
「(……そもそも、どうしてこんな砂漠の入口にビナーが……)」
――ふと、目が合った。
ビナーの4つの瞳は、他には目もくれず、自分――ただ自分だけを真っ直ぐに見据えている。
「……そうか、
デカグラマトンの預言者が真に『■■』たる存在を見逃すはずがない。デカグラマトンの意思によるものか、それとも自己判断によるものかまでは分からないが、少なくとも、ビナーがここにいるのは、自分の存在が原因であることは間違いない。
「(……なら、やるしかない。大人なら、自分で撒いた種は自分で刈り取らないとね)」
「みんな! 少しの間だけ私を守ってほしい!」
「先生……?」
「出さないで終わらせたかったけど……私の切り札をここで切る!」
ただ一人、ホシノだけは、ハルが取り出した1枚のカードに見覚えがあった。それは先日、黒服との交渉で彼女が「切り札」と称したもの。いったい、あのカードにはどんな力が――。ホシノが息を呑む中、ハルは迷いなくそのカードを天へとかざした。
「青春を終え、色彩を巡り、黄昏に染まろうとも……結ばれし絆は、我が魂と共に……!」
カードに刻まれた黄金の大樹が光を放つ。三つの光輪のうち、一つが蒼く染まる。そして、蒼き光輪と大樹が輝きを増すほどに、カードから放たれる光は強まっていき――。
「――神秘解放! 『大人のカード』よ、今こそ封印されし奇跡を解き放て!!」*3*4
ブワッ!! カード――否、ハルを中心に神秘の奔流が吹き荒れる。蒼い光の柱が天を衝き、渦巻く風は上から塗り潰すように砂嵐を掻き消していく。未来を覆う暗雲は何一つとして存在を許されず、ただ残るのは雲一つない蒼穹だけ。
蒼い、蒼い空。一人の例外もなく、ただ呆然とした表情をする生徒たちと、ビナーもまた、その奇跡に暫し意識を奪われる。
「……なに、これ……?」
「これが……先生の力……?」
「す、すごいです……」
「あ、えっ? えっ……!?」
「な、なにこれ!? 何が起きたの!?」
「……先生……マジで? マジでこれをやったの?」
「これはいったい……先生の頭の上にヘイローまであるし……」
「(……うへ、アビドス最高の神秘なんて黒服は言ってたけど……これと比べたら、おじさんなんてスッポンもいいところだよ)」
他の生徒たちが漠然とした驚きを顕わにする中、ホシノは一人、額に冷や汗を流しながら心の中で呟く。彼女自身、キヴォトス全体でも最上位に位置する実力者であるからこそ、ハルの力が如何に規格外かを誰よりも深く理解していた。
――星だ。人の身に収めるには大きすぎる。仰ぎ見るだけでも精一杯。今の自分では、足元にも及ばないどころか、影を踏むことさえ叶わないほどに、ハルから溢れ出る神秘は圧倒的だった。
バサッ!!!
一人――天上より天使が舞い降りる。3対6枚の翼を持ち、その内の2枚で頭を、2枚で足を隠し、残りの2枚で羽ばたく彼女は、6枚全ての白翼を一斉に広げ、その翼に負けないほどに燦然と輝く桃色の髪をたなびかせ、無垢な笑みをハルへと向ける。
長くしなやかな手足と均整の取れた肢体は、彼女の美しさを余すことなく表現しており――同性である生徒たちですら、思わず目を奪われるほどに可憐で気品に満ちていた。
「
「ミカ……!」
「ハルちゃん、助けに来たよ!」
二人、三人――虚空に空いた黒い穴より瓜二つの少女たちが飛び出してくる。白と黒、本来なら艦艇用の装備である100kg超の巨大レールガンを難なく振り回す彼女たちの唯一の違いは、瞳の色が青と赤に分かれていることくらいか。
「執行者No.Ⅲ。《虚の破戒者》天童ケイ。並びに、執行者No.Ⅱ――」
「パンパカパーン! 《勇者》アリスがパーティに合流しました!」
そして四人――その姿を目にしたホシノは己の目を疑った。
「……………………え?」
「執行者No.Ⅰ。《翠蓋輝煌》
「ユメ、先輩……?」
2年前、命を落としたはずの先輩が――当時よりも成長した姿で、そこにいた。
総力戦:ビナー(Evolution)
ビナー覚醒。■■を認識したことで全能力が大幅に上方修正されている。
難易度TORMENTのビナーが難易度EXTREME以下で登場しているようなものであり、本来ならばエンドコンテンツとして君臨すべき難易度の敵がそのままメインストーリーに顕現している。
おい、制約解除決戦で出ろよ。
大人組:
名前 :ミカ(大人)
フルネーム:蒼井ミカ(旧姓:聖園ミカ)
二つ名 :《大天使》
武器種 :SM
固有武器 :Quis ut Deus
出身学園 :無銘生徒会
所属 :シャーレ / 身喰らう蛇(星の使徒 第二柱)
年齢 :27歳
備考 :Lv.500
名前 :アリス(大人)
フルネーム:天童アリス
二つ名 :《勇者》
武器種 :RG
固有武器 :光の剣:スーパーノヴァ
出身学園 :ミレニアムサイエンススクール
所属 :アヴァンギャルド・インテリジェンス社 / 身喰らう蛇(執行者No.Ⅱ)
年齢 :??歳
備考 :Lv.450
名前 :ケイ(大人)
フルネーム:天童ケイ
二つ名 :《虚の破戒者》
武器種 :RG
固有武器 :闇の剣:ダークノヴァ
出身学園 :ミレニアムサイエンススクール
所属 :アヴァンギャルド・インテリジェンス社 / 身喰らう蛇(執行者No.Ⅲ)
年齢 :??歳
備考 :Lv.450
名前 :ユメ(大人)
フルネーム:小鳥遊ユメ(旧姓:梔子ユメ)
二つ名 :《翠蓋輝煌》
武器種 :HG
固有武器 :IRON HORUS
出身学園 :アビドス高等学校 / 無銘生徒会
所属 :ドリームコーポレーション(社長) / 身喰らう蛇(執行者No.Ⅰ)
年齢 :28歳
備考 :Lv.400