――百鬼夜行・市街地*1
「もう、倒しても倒してもキリがない……! せめてフィーナもいれば……!」
戦闘開始から十数分。数の差を物ともせずに次々と敵を撃ち倒すシズコだったが、その勢いも長くは続かず、敵の数がさらに増えるにつれて徐々に押され始めていた。ハクノの指揮のおかげでどうにか持ち堪えてはいるものの、このまま戦闘が長引けば、いずれは力尽きてしまうだろう。
「そこまでだよ! 魑魅一座・路上流!」
「だ、誰だ!?」
――その時だった。4つの人影が、苦戦する彼女たちの前に颯爽と舞い降りる。
「何だ誰だと聞かれたら、答えてやるのが人情ね!」
ドドンッ!!!
「悪鬼彷徨う現の闇を!」*2
「シュババッ!! 派手に!」
「可憐に……」
「う、美しく……! で、合ってます……?」
「バッチリ!」
布地面積の少ない巫女服のような装束を身に纏った4人の少女。そのうちの1人、淡い桜色の長髪の少女がおずおずと尋ねると、背丈は低いが非常に豊かな曲線美を持つ――俗にトランジスタグラマーと呼ばれる体型をした少女が満面の笑みで答える。
「払うは星影……」
「我ら、美少女三人組の修行部……!」
「とその助っ人!」
「「ここに参上!!」」
「参上ー……」
「えと、参上、です……」
謎のポーズを決めながら名乗る少女たち。ハクノは訳が分からず、呆然とするばかりだ。そんな周りの反応などお構いなしに、テンションの高いリーダー格と思しきトランジスタグラマーの少女が捲し立てる。
彼女は背丈こそ4人の中で最も低いものの、その分発育が良く、凹凸の主張が激しい凶器体型をしている。ぽよんっ! と動き回る度に巫女衣装を盛り上げるバストが揺れ動く。
「ふふーん! 完璧な登場演出! ね、ツバキ先輩!」
「ふぁ……そう?」
「えっと……カエデちゃん、何だかすごい見られてる気が……」
「ミモリちゃん、これは注目を浴びるって言うんだよ」
「……ね、言ったでしょう? 変わり者だって」
確かにこれは変わり者だ――と、ハクノは4人の顔を見回していると、その中に見覚えのある顔が当然のようにあることに気が付いた。百鬼夜行を訪れて早々に巻き込まれたトラブルの際、自分たちが逃げる時間を稼ぐため囮役を買って出てくれた少女――
「ハル!?」
「主役は遅れてやってくる……なんてね。先生、頼もしい仲間をつれて助けに来ました!」
和服風のセーラー服から修行部一同とお揃いの巫女装束に着替えたハルは、ハクノの方に向き直り、にこっと微笑んでみせた。
「……はっ!? つ、つい見惚れてしまったが、お前たちは何者だ!?」
「あたしたちは、素敵なレディーになるために日々修行を続ける『修行部』!」
「それが目的なのは、カエデだけでしょ? 私は別にそんな修行もしてないし……とにかく寝られればそれで」
ふぁ……と欠伸をしたのは、先ほど「ツバキ先輩」と呼ばれていた少女だ。スタイル抜群の修行部三人組の中でも特に豊かな胸を持つ彼女は、その胸に負けないくらい大きな欠伸をする。
「……眠い。ここで寝ていい?」
「魑魅一座と対峙しながらも全く動じないツバキ先輩、かっこいい……!」
「これは、ただマイペースなだけの気がするけど……」
「あはは……でも、目標があるというのは良いことだと思います」
「そうだよミモリ先輩! 素敵なレディーになるための修行ついでに、街の治安も守らなきゃ!」
別れた後、ハルがどういう経緯で修行部と行動を共にするようになったのかは分からないが、彼女がすっかり新しい友人たちと打ち解けている様子に、ハクノも安心した。合流できずに気がかりだったが、良い出会いがあったようだ。
「ということで、あたしたち修行部の出番だよ! 魑魅一座・路上流、覚悟!」
「うん、覚悟~」
「そ、それでは、覚悟してください!」
「先生、指揮をお願いします!」
修行部の協力を得たことで、戦況は一気に逆転した。先ほどまで防戦一方だったシズコも固有武器の『桜ボンボン』で反撃に転じ、魑魅一座を蹴散らしていく。硝煙の匂いに混じり、百夜堂名物である餡蜜の香りが彼女の銃から漂っている。
「ぐああっ! また強くなってないかあいつら!?」
「無駄無駄! こっちには先生がいるんだから!」
「ちっ、一体何者なんだシャーレ……!」
最初は余裕綽々とした態度でシズコたちと戦っていた魑魅一座だったが、戦況が不利になるにつれ次第に焦りの色が濃くなっていった。連邦捜査部『シャーレ』――名前だけは聞いたことがあったが、まさかこれほどとは……と、紅色の装束に身を包む天狗面の少女が険しい声を漏らす。
だが、彼女たちにも切り札となる強力な戦力が控えている。それを投入すれば、いくらシャーレと言えどひとたまりもないはずだ――そう考えた紅色装束の天狗少女は、声を荒らげた。
「あの馬っ……忍者もどきはまだか!?」
「えっと、確かそろそろ……」
「――イズナ流忍法! 四方八方もくもくの術!!」*3
爆発――突然生じた濃い煙幕が周囲の視界を覆い尽くし、その場にいた全員の視界を奪った。
「ば、爆発!?」
「え、うわっ!?」
「うーん……あれ、先生は?」
「せ、先生……!?」
「よし今のうちだ、全員突撃!」
シズコと修行部が動揺する隙を突き、魑魅一座の指揮官はすかさず部下たちに指示を出す。銃撃戦が再開される裏で、奇襲の気配を察知し慌てて駆け寄ったハルを間に挟み、爆破の犯人であるイズナはハクノと正面から対峙する。
「イズナ、予告通りに再び参上しました!」
「けほっけほっ! イズナ……!?」
目と目が合い、辺りに立ち込める煙に咳込みながらもハクノはイズナの名を呼んだ。
「イズナ、あの後気が付きました!」
「……?」
「たとえ先生が私の夢を認めてくれたかっこいい大人……いえ、かっこよくて悪い大人だとしても! こうやって敵として出会ってしまった以上……先生を倒して説得しなければなりません! それこそが、イズナの歩む忍びの道! 忍者としての宿命だと!」
「……どういうこと?」
ハクノの疑問には答えず、イズナは自らの固有武器を構える。戦闘は避けられない――そう判断したハルもまた、静かに固有武器を構える。神秘の光が奔り、顕現するはアビドスの一件で共闘した白州アズサの固有武器である『Et Omnia Vanitas』。
「さあ、お覚悟を! 先生! イズナは、先生のことを打ち倒してみせます!」
「Vanitas vanitatum……なんてね。あなたには悪いけど、ここから先には進ませないよ」
◇ ◇ ◇
影縫い、分け身、縮地法――三つの技術を自在に操り、遠近両方の戦闘に高い練度を誇るイズナの戦闘能力は、学園最高戦力級にこそ劣るものの、並の生徒とは比較にすらならないほど洗練されている。3年生になる頃には、学園最高戦力級に仲間入りしてもおかしくないほどに。
「きゃんっ!?」
それでも、まだ正真正銘の最高戦力級と戦うには実力も経験も足りていない。周りの魑魅一座諸共に、あっという間にイズナはハルに追い詰められていた。*4
「い、イズナ、二度も負けてしまいました!? 前回以上に万全の準備をして来たのに……! これでも敵わないなんて……!? まだまだ修行が足りないということですか……!?」
修行が足りていない、と言うよりは単にハルが強すぎただけなのだが――そんなことを知る由もないイズナは、前回以上に手も足も出ずに負けたことに、すっかり落ち込んでしまっていた。
「ねえイズナ、イズナは忍者になるのが夢って言ったのに、どうして魑魅一座と一緒にいるの?」
「それは……イズナは今、忍者として雇い主からそのように命令を受けているからです!」
「雇い主……?」
「はい! 邪魔者を倒し、任務を全うしなければなりません! たとえどんな任務でも、命令とあらば完璧に行うのが忍びというもの! そうしていれば、いつかイズナも真の主君に……!」
目を瞑り、夢見る少女のように語るイズナ。その瞳の奥には、彼女の抱く理想の忍者像が映し出されているのだろう。忍者としての使命を果たすこと、真の主君に仕えることが彼女の夢であり、心の底から望む未来なのだと、聞いている側にもありありと伝わってくる。
「はっ! イズナは何故今こんなことを話して……! これも先生の策略!?」
「いや、先生の策略って……自分から口を滑らせただけだよね?」
「ううっ! イズナは引き際を知っている忍者なので、今回は退きます……! 次に会った時こそ、覚悟しておいてください! 必ずや先生を倒してみせますので!」
「完全に三流の悪党の逃げ台詞だけど……」
「い、イズナは三流の悪党などではありません! 忍者ですから! 忍者というのはきちんと戦略的……えっと、戦略的撤退をして、その後また何度でも挑戦する、そういう存在なのです!」
イズナの必死な弁解に、ハクノはつい微笑んでしまう。真剣な瞳で語るその姿は、一途でどこか憎めないものがある。だからこそ、彼女が魑魅一座と行動を共にしている現状に、ハクノはどうしても違和感を拭えずにいた。
「次は絶対に負けませんから! ニンニン!」
ヒュッ! またしてもイズナは煙幕を残して姿を消した。去り際の軽快な足音が、次の戦いへの意気込みを伝えているかのようだった。
◇ ◇ ◇*5
「あっ、先生! 大丈夫ですか、お怪我はありませんか!?」
「うん、私は大丈夫。ハルが守ってくれたからね」
煙幕が晴れた後、魑魅一座を退けたシズコと修行部はハクノの下へ駆け寄ってきた。どうやら彼女たちも大きな怪我はしていないようで、一先ずは安堵する。今回も無事に切り抜けることができたようだ、と。
「ううっ、逃げられた……!」
「全員、「くっ、次は必ず……!」みたいなこと言いながら逃げていったね……」
「これまでずっと苦戦続きでしたが、先生がいるだけでこんなに違うだなんて……」
「ごくり……これが大人の力!?」
「うん、さすが」
各々の反応を見せながら、修行部の面々がハクノを褒め称える。彼女たちの称賛に照れ笑いするハクノだったが、ふと修行部の3人の姿と声に見聞き覚えがあるような気がした。
「あ、そう言えばたしかさっき……」
◇ ◇ ◇
「待てー! 逃がさないんだから!」
「か、カエデちゃんもちょっと待ってください……はあ、はあ……は、速すぎます……」
◇ ◇ ◇
「うん、あの時の子たちだよ」
初めて会った時、イズナは何者かに追いかけられていた。その何者かを足止めするためにハルは別行動を取ることになったわけだが、それが今目の前にいる彼女たちだったのだ。
「そう言えば、そんなことを言っていたような……」
「あ、パトロールしてた時のこと? いきなりハル先輩が飛び出してきたからびっくりしたよ!」
「パトロール?」
「修行の一環で街を守ろう……ってことで。それも一応、うちの部活の趣旨の一つだから」
「あいつらの手から桜花祭を守らなきゃ!」
「皆さんで楽しめてこその桜花祭ですからね。急にあちこちで魑魅一座・路上流が暴れ始めてしまって、困っていたところでした」
修行部の3人も桜花祭を楽しみにしているようで、それぞれが思い思いに桜花祭への意気込みを語る。彼女たちが魑魅一座と戦っているのも、桜花祭を守りたいという強い気持ちから。彼女たちもまた、シズコと同じように桜花祭のために戦っていたのだ。
「それであなたたちも陰陽部に……修行部がそんな活動をしてるなんて、全然知らなかった。いつも変なことばっかりしてる変わり者たちだとばかり……」
「面と向かってそれはちょっと……」
少し正直すぎる感想を口にするシズコを、ハクノは苦笑しながら軽く視線で窘める。
「と、とにかくです! やっぱり魑魅一座が暴れ出したのは「急に」ってことだったけど、改めて考えてみるとどうして……!?」
「んー……そう言えば、最近ある噂があって。今までバラバラだった魑魅一座を、統率して動かしてる「雇い主」……みたいな人がいるとかなんとか」
「(そう言えば、たしかイズナも「雇い主」って……)」
――い、イズナは忍びとして命令に従っているだけです!
――イズナは今、忍者として雇い主からそのように命令を受けているからです!
雇い主――イズナの言っていた言葉を思い出し、ハクノはハッとする。イズナの口振りから察するに、魑魅一座の「雇い主」とイズナの「雇い主」はおそらく同一人物だろう。だとすれば、その「雇い主」こそが今回の騒動を裏で操っている黒幕という可能性も……。
「雇い主って……あの問題児たちにわざわざお金を払って雇ってるの? それまたどうして?」
「なるほど、よっぽど悪い奴に違いない! みんなが楽しそうに笑ってるのが気に食わないとか、そんな理由で暴れさせてるのかも! うん、絶対そう! 絶対悪い奴!」
「カエデちゃんの言ってることはよく分からないですけど、この桜花祭を邪魔したがっている人がいることは確かみたいですね。その目的が何なのかは、まだ分かりませんが……こうして魑魅一座と戦い続けるより、その元凶を見つけた方が良いのではないでしょうか?」
淡い桜色の長髪の少女――
「それは賛成~……でもその元凶、どうやって探そうか?」
「元凶、元凶か……私たちの桜花祭を邪魔しようとする、元凶を探すためだし……うん、断腸の思いだけど仕方ない。シンプルに行きましょう。魑魅一座を誘拐してから脅して、雇い主が誰なのかを聞き出す!」
シズコの提案に場が一瞬静まり返り、一同はドン引きした表情で彼女を見つめた。
「うわー、血も涙もない」
「流石、お祭り運営委員会の委員長! お店の数字、お祭りの成功、なんだって欲しいもののためなら手段は選ばない! そういう噂を聞いてたけど、本当だった!」
「カエデちゃん、それ褒めてないですから……」
「でも、確実な方法ではあるよ。百鬼夜行中を闇雲に探し回るよりはよほど合理的だね」
正直、あまり褒められたやり方ではないが、背に腹は代えられない。これ以上被害を出さないためにも早急に対処する必要があるのは事実なのだから、非道な手段ではあるが、選択肢としてはアリだとハルはやや前向きな姿勢を見せる。
「い、いや、流石にそこまではっていうか、そのっ! い、嫌ですね~、シズコは心優しい看板娘で……!」
じーっと全員から視線を向けられ、しどろもどろになりながらも言い訳を並べ立てるシズコだったが、やがて観念したように大声を張り上げた。
「……ああもうっ! とにかく、元凶を探しに行くわよ!!」
TIPS:
修行部。
その名の通り各々が自らの目標のために修行を行う部活。
しかしながら、毎回修行のためと言いながら、色々と良く分からない活動をしているため変わり者集団扱いされることが多い。
因みに、所属する3人共ある部分がとても大きく、大人顔負けのスタイルをしている。