ブルーアーカイブ 校境なき生徒会   作:ゲーマーN

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E1-6 お祭りは開かれて

 ――どこかの廃墟*1

 

「……またやられたのか? それに、イズナ殿はどうした?」

 

「あいつは役に立たない! 何が忍者だ……!」

 

「今日もここに来る途中に、やるべきことがあるからって……」

 

「ふむ、それなりに使えると思っていたのだが……」

 

 自分たちのことを棚に上げ、魑魅一座の構成員たちは雇われの自称忍者・イズナに対する不満を口々に述べる。あまりに身勝手な物言いに、雇い主の男は心の中で呆れの嘆息を漏らした。

 

「(所詮この程度か……)」

 

 役立たずはお前たちも変わらない――自らの本音を胸にしまい込みながら、雇い主は魑魅一座の報告に耳を傾ける。今すぐに新しい戦力を用意するのは難しい。ならば、手持ちの戦力と集めた情報で策を練り、現状を打開するための次なる一手を打つ必要がある。

 

「このままだと桜花祭を邪魔しようにも、あのシャーレの先生とかいう大人にやられっぱなしっす」

 

「シャーレの先生か……それほどの力を持っているとは、にわかには信じがたいが……まあ良い。今、商店街にはどれぐらいの魑魅一座が来ている?」

 

「えっと、大体120人ぐらい……?」

 

「……そろそろ仕掛け時か。今から言うことをよく聞け」

 

 戦力は十分――雇い主の男は、薄闇の中で冷たく目を光らせ、さて徐ろに次の策を告げた。

 

「えっ、本当にそんなことを……?」

 

「マジっすか? 本当にやっちゃっていいんすか?」

 

「大きな変数は取り除いておくに限る。この処理さえ上手くいけば計画は成功するはず。そうすればお前たちにも契約通り、成果報酬を渡せる。悪い話では無いだろう?」

 

 魑魅一座の面々は顔を見合わせ、雇い主の男を訝しむように見つめる。彼女たちの瞳の奥には疑念と不安が宿り、本当にそんなことをしても良いのかという疑問がありありと浮かんでいた。

 

「まあ、あたしらにだって成功させるつもりはあるからね。分かったよ」

 

「はいっ! かしこまっす!」

 

「……くれぐれも、イズナ殿には内密にな」

 

「了解っす!」

 

 雇い主の男が念を押すと、魑魅一座の構成員は声を揃えて頷いた。

 

「さて、いい加減仕上げの時間だ」

 

 その反応に満足した雇い主は再び闇の中へ溶け込み、そのままどこか遠くへと姿を消した。

 

 

 

 ――百夜堂*2

 

 日が暮れた頃、作戦会議のために百夜堂に集まった一同は、これまで各々の部活が集めた情報を基に作戦会議に臨んでいた。

 

「ところで元凶のお話、具体的にはどうします?」

 

「一番確実な方法があるわ」

 

「というと?」

 

「まず街に出て、どこかで悪さをしてる魑魅一座を見つけたら、一気に包囲するの。お祭り運営委員会だけでは成し得なかった大掛かりな作戦だけど、修行部もいる今なら可能なはず!」

 

 現在、百夜堂の中には三つの勢力の生徒が集まっている。お祭り運営委員会、修行部、そして無銘生徒会の三つだ。個々の勢力の人数は少ないが、全て合わせれば結構な数の人員になる。これだけの人数が集まれば、それなりに大掛かりな作戦も展開できるだろう。

 

「包囲して~、その後はどうする……?」

 

「勿論全員で一気に撃退! 拘束! それで、そいつらから元凶を吐かせれば終わり! 必要なら多少過激な方法もやむなし!」

 

「サスガ委員長! 悪党たちには小指ザクリの刑デスね!」

 

 それは、多少どころではない過激な方法なのではないだろうか……と、その場のほぼ全員がシズコから距離を置くように二、三歩後退った。小指ザクリ――具体的に何をするかまでは分からないが、字面から想像できる内容があまりに残酷すぎて、とても直視できたものではなかった。

 

「うわっ……」

 

「あら……」

 

「ふあぁ……」

 

「あ、あはは……」

 

「いやー、怖い怖い……」

 

「えっと……よく考えると、フィーナもそれはちょっとやり過ぎだと思いマスよ、委員長……」

 

「なんで私の発案みたいな言い方してんの!?」

 

 元々、小指ザクリを言い出したのはフィーナであるはずなのに、何故か当の本人までシズコを咎めるような発言をしている。どうして私が責められなければならないのか――シズコは周りの反応に釈然としない思いを抱えながらも、どうにか気を取り直して真剣な表情で続ける。

 

「とにかく、魑魅一座を捕まえて元凶について吐かせる! もう時間が無いの。百夜ノ春ノ桜花祭のクライマックスは明日……」

 

「あっ、聞いたことがある! 花火でしょ、ホログラムの! バンバンバーンって!」

 

「ええ、盛り上がりも最高潮。桜花祭のラストを飾るのに相応しい新たな花火を用意したわ」

 

「もしその時に魑魅一座が暴れたら、「騒ぎ」じゃ済まなそうだね~……」

 

「もしそんなことになったら、責任を問われて私たちお祭り運営委員会は……」

 

 そう、もしこのまま桜花祭を台無しにされてしまえば、責任を問われるのはシズコたちお祭り運営委員会だ。歴代の先輩たちが築き上げてきた伝統にも泥を塗ることになる。それだけは絶対に避けなければならない。だからこそ、何としても今日中に解決しなければならなかった。

 

「シズコちゃん……」

 

「……ううん、もしものことはその時また考える。まずは早いところ元凶を探す! それで私がこれまで受けてきたストレスをそっくりそのまま叩き込んでやらないと、腹の虫が治まんない! 絶対ボコボコにしてやるんだからっ!!」

 

 拳を握り締めながら、シズコは強い決意を口にする。今日に至るまで散々辛酸を舐めてきた彼女の想いは誰よりも強かった。そして、その想いを汲み取った他の生徒たちもまた……。

 

「そうですね、これ以上の混乱は避けなければなりません」

 

「うん、そうだね。私たちも全面的に協力するよ」

 

「打倒、魑魅一座・路上流!」

 

「「「「「「「「(おー)!!」」」」」」」」

 

 シズコの決意に同調し、百夜堂の中に一丸となった声が響き渡った。

 

 ◇ ◇ ◇*3

 

 斯くして、魑魅一座捕縛のため一同は街へパトロールに向かうことになったのだが……

 

「あいつらいっつも呼ばれなくても来るくせに、なんでいざ探そうとすると出てこないわけ!?」

 

「フィーナ、分かった気がしマス! リモコンと同じデス! いざ探そうと思うと見つからないものデス! フィーナ、リモコンを探してて最終的には冷蔵庫から出てきたことがありマス!」

 

「俗に言う物欲センサーだね。必要がない時にはすぐに見つかるのに、必要になった途端になかなか見当たらなくなる。私も何度も苦しめられた記憶があるよ」

 

「分かる分かる! たしかマフィンの法則だったけ、そんな感じの!」

 

「美味しそうな法則だね、なんか違う気がするけど~」

 

「ですが、騒ぎがないおかげで、皆さん普通にお祭りを楽しめていますね」

 

 正しくはマーフィーの法則――「失敗する可能性のあるものは、失敗する」に代表される、事実か事実でないかは別にして、先人たちの経験から生じた数々のユーモラスでしかも哀愁に富む経験則を、「法則」の形式で表現したユーモア及びジョーク集だ。

 多くはユーモアの類で笑えるものであるが、認知バイアスのサンプルとして捉えることが可能なものも少数あるという見方もあり、完全な冗談とは一概に言い切れない部分もある。事実、

 

「うぅっ、何で出てこないの魑魅一座……っ! ううん、きっと今にもどこかで暴れようとしてるはず……!」

 

 いくら血眼になって探しても、肝心の魑魅一座は一向に姿を見せる気配がない。このままでは桜花祭のラストに間に合わなくなってしまう……シズコが焦燥に駆られていたその時だった。

 

「うあああん~! パパ~、ママ~! どこ~!?」

 

 迷子と思しき小さな女の子が、泣きべそを掻きながらとぼとぼと歩いているのが目に入った。

 

「あらっ、迷子の子が……?」

 

「放っておけない事案発生!! ツバキ先輩!」

 

「うん、出動~」

 

 そんな非常事態を放置できる修行部の3人ではなく、すぐさま行動を開始した。考えるより先に体が動いていた、とはまさにこのことだろう。普段の修行の成果を存分に発揮して、3人は電光石火の速さで女の子のもとへ駆け付ける。

 

「え、えっ? ま、待って……!?」

 

「あっ、シズコさん! ようやく見つけました! 明日の花火の準備で、ご相談なのですが……」

 

「うっ!? よりによってこのタイミングで……!」

 

 今度は、桜花祭のスタッフがシズコに話しかけてきた。思わず恨めし気な視線でスタッフを見つめてしまったが、彼女が悪いわけではない。何が悪いと言えば、間が悪いとしか言い様がない。

 

「でもお祭り運営委員会の委員長として知らんぷりなんてできないし……フィーナ! アナ! 後はお願い! 先生たちと魑魅一座を見つけて、監視しておいて!」

 

「了解デス! フィーナたちにお任せあれ!」

 

「合点承知。委員長、フィーナ先輩たちとパトロールの続きに行ってきます」

 

 フィーナとアナの2人に任せて、シズコは桜花祭のスタッフから花火の準備についての相談に応じる。何か困ったことがある度に相談に来るのは構わないのだが、今は非常事態だ。調査を続けたいのが本音だが、本来の職務を無視するわけにもいかない。

 

「急にみんな忙しくなってきマシタね」

 

「魑魅一座がいなければ、これが普通の光景なんだよね」

 

「……はい。先生の言う通りです」

 

「魑魅一座がいなかったら、ワタシたちお祭り運営委員会や他のみんなも、準備や何やらで走り回ってたと思いマス! そうやって良い意味で忙しくしてたはずなのに、こうして違う意味で忙しくなってしまうダナンテ……」

 

「まぁでも、おかげで修行部ともお友達になれたわけだから、今回の一件も悪いことばかりじゃないと思うけど……」

 

「はっ、ミカさんの言う通りデス! 良かったことにも目を向けないといけマセンね!」

 

 今まで関わりのなかった修行部ともこうして知り合えたのだから、考えてみれば確かに悪い事ばかりじゃない。そう思うと、この騒動も少しは前向きに捉えられそうな気がした。

 

「よし。それじゃ、この5人でパトロールの続きを頑張ろうか」

 

「ハイ! お頭の身辺警護、そして桜花祭の治安……どちらもワタシたちにお任せあれ、デス!」

 

「よろしくね、フィーナ」

 

 ガチャン!

 

「……って、言ってるそばからトラブル!?」

 

 突然の轟音に、ハクノたちは反射的に身構える。何事かと思って音のした方へ視線を送ると、そこには屋台の店主に絡む不良生徒の姿が。残念ながら魑魅一座ではなさそうだが、それでも放置はできない。取り敢えず、事情を知るためにも聞き耳を立ててみる。*4

 

「はぁ? これが失敗!?」

 

「本気で言ってんのか!?」

 

「で、でもここ、端っこが割れて……」

 

「よく見えねえなあ! 成功したんだから、大人しく商品券を出しな!」

 

「3千円のお祭り商品券を貰ったら、それを使ってまた挑戦して、この店のカタヌキが無くなるまで無限ループし続けてやる!」

 

「ひ、ひいいっ!! どうしてそんな残酷なことを! そんなのうちはどう対処したらいいんだ!?」

 

「くくくっ! これがあたいらカタヌキの達人の、桜花祭の楽しみ方さ!」

 

「あたしたちの目に留まったことを後悔しな!」

 

 これは、不良生徒側に非があるのは明らかだ。しかも、1人や2人ではなく、複数の不良生徒が屋台の周囲を占拠している。こんな傍若無人な行動を許しておくわけにはいかない。お祭り運営委員会の一員として、彼女たちを黙って見過ごすなどできなかった。

 

「あれは……! 桜花祭で毎回現れるという『かたぬきチンピラ』!」

 

「か、かたぬきチンピラ……?」

 

「何その風物詩……」

 

「かたぬき屋サンたちなら誰もが恐れる相手デス! お頭! ここはワタシたちの出番かと!」

 

「そうですね。仮にも、私も百夜堂の一員として見過ごすわけにはいきません」

 

「桜花祭の平和を乱す問題児は、フィーナたちが許しマセン!」

 

 こうして、桜花祭の平和を乱す者たちに立ち向かうべく、フィーナたちは意気込みを新たにして不良生徒たちのもとへと向かっていった。賑わいと共に、彼女たちの奮闘も始まる。

*1
【推奨BGM:蠢く者たち】英雄伝説 黎の軌跡より

*2
【推奨BGM:審念熟慮】あやかしランブル!より

*3
【推奨BGM:Plug and Play】ブルーアーカイブより

*4
【推奨BGM:Unwelcome School】ブルーアーカイブより




TIPS:
緋宮アナ。
無銘生徒会モブの1人。
トリニティ自治区出身の生徒で、現在は百夜堂で和菓子作りの勉強と修行を行っている。
固有武器は『スカーレットシータ』。元ネタが『火星』を守護星とするので、彼女の宿す神秘はローマ神話より『軍神マルス』を設定している。
元ネタは【ティンクルスターナイツ】より【アナ】。

後書き:
外伝作品『Blue Archive Grendel』……頭の中で無駄に構成が固まっていく。試しに短編で1話だけ書いてみようか、と考えてしまう自分がいます。
今作とは違い、シャーレの先生及び先生側の生徒を徹底的にアンチする内容の作品。具体的には、『IF-F-3 ゲマトリアの先生』が世界観のベース。キーワードは「アリウス分校」「ゲマトリア」「界の軌跡」「真紅の罪(CRIMSON SiN)」「3人の■■」「神殺しの剣」「憎悪と嫌悪」「墜ちる星」「七つの喇叭」「キリエ・エレイソン」。
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