ウマ娘の奇妙な物語   作:金糸雀^_^

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ウマドルの矜持

 視線を感じる。

 

 最近学園で一部の生徒がそう被害を訴えていた。

 

 トレセン学園に在籍する生徒は容姿端麗なウマ娘が多い。それゆえ熱狂的なファンがストーカー紛いのことをしているんだと思っていた。

 

 けれど実際に視線を感じるようになって、それは間違いだったと気づいた。

 

 何故ならその視線の主の姿が見えないからだ。

 

 ある時こっそり仕掛けてた監視カメラで自分の周囲を撮影していたが、何故か誰も写っていなかったのである。それから何度やっても結局犯人を特定することは出来なかった。

 

 犯人が見つからないということは勘違いかもしれない。私はそう思うようにしたが、自分の中のウマ娘の直感が告げる。これは気のせいではないと。

 

 常に誰かに見られてるという感覚は気持ちのいいものではなく、早急に事態の解決しようとしていたが、姿が見えない以上どうすることもできない。

 

 「ファル子さんどうしたんですか?」

 

 考え事をしていると、一緒にいたタルマエちゃんとリッキーちゃんが心配そうに声を掛けてきた。

 

 「ううん、何でもないよ!それより今度のライブなんだけど、またゲストとして参加してみない?」

 

 「えぇ⁉︎いいんですか?」

 

 「うん!大歓迎だよ!」

 

 「ありがとうございます!ちょうど新商品が発売されててそれをアピールしたかったんです!」

 

 「私も!前回参加させてもらった時も風水に興味持ってくれた人が結構いたみたいで、密かにブームが起きててこれを機にもう一度アピールしかったの!」

 

 私の提案に2人は嬉しそうにはしゃいでいる。タルマエちゃんはもちろんだけど、リッキーちゃんもアイドル向きの性格だよね。

 

 「それじゃあ次のライブに出演決定ね!」

 

 「そういえば今回はスズカさんとブルボンさんは参加しないんですか?」

 

 「そうなの、ブルボンちゃんはレースだから。そしてスズカちゃんはなんか調子が悪いみたいで、今回は参加しないの」

 

 「そうなんだ、心配だね」

 

 「そういえば、最近スズカさん変わったって言われること多いですよね。なにかあったのでしょうか?」

 

 「実は私も感じていてね、この前お見舞いに行ったの。でも何か違和感あるってのは確信したけど、よく分かんなくてね」

 

 「やっぱり変でした?」

 

 「うん。なんかオーラって言うのかな?姿や声は同じだけど、中身が別人って感じがしたの。一応スズカちゃんのトレーナーさんや同室のスペちゃんにも会って話を聞いてみたんだけど、同じこと感じてたみたいで、ある日突然変わっちゃったって言ってたの」

 

 「不気味ですよね」

 

 「うん……、もしかしたら学園でなにか起きてるのかも」

 

 「そういえば、この前フクキタルさんがそんなこと言って発狂してなかった?」

 

 「あの人はいつも発狂してませんか?」

 

 「それもそうだね」

 

 実は2人には言ってないけど、あの時スペちゃんもなんか違和感感じたんだよなー。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 2人と別れてから私はいつものトレーナー室に来た。室内ではトレーナーさんが私のために仕事をしている。

 

 「トレーナーさん。明日のライブのことなんだけど」

 

 「大丈夫だよ。たづなさんに言ってちゃんと中庭のステージ借りれたから」

 

 「ありがとー!さすがトレーナーだね」

 

 「トレーナーとして、そしてファン1号として当然だよ」

 

 「えへへ、ちゃんとファンとして特等席でファル子を見ててね!」

 

 「もちろんだとも。この日のために最前列のライブチケットを手に入れたんだから」

 

 「え?わざわざ買ったの?」

 

 「え?当然でしょ?ファル子のトレーナーだからって不正は良くないよ」

 

 「……うん」

 

 いや、言いたいことは分かるけどさ?もうちょっとあるでしょ?もしも取れなかったらどうする気だったんだろ。でも不正は嫌だからって他のファンと同じ土俵でチケットを勝ち取ってくるほどの必死さは素直に嬉しいけど。

 

 「ファル子は大丈夫?緊張とか調子悪いとかない?」

 

 「バッチリだよ!体調管理もウマドルの基本だからね!でも緊張はしてるかも」

 

 「大丈夫!ファル子ならきっと上手くいくよ!」

 

 「うん!ありがとう!」

 

 トレーナーさんが応援してくれるだけで嬉しい。そう言えたらいいんだけどそれはまだ無理だな。

 

 「………」

 

 「どうしたの?」

 

 「何か悩みある?」

 

 こういう普段と違うところに気づいてくれるところほんとに好き。でも心配かけたくはないな。

 

 「何でもないよ!明日のライブ緊張してるだけ!」

 

 「ならいいけど」

 

 視線は気になるけど今は明日に集中!

 

 でもどうして後ろは壁なのに変わらず視線を感じるんだろう?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 「おやすみ!」

 

 「おやすみなさい」

 

 電気を消して布団に入る。本当はもっと起きて明日の準備したいけど、同室のフラッシュちゃんはいつもこの時間に寝るから私もついでに布団に入る。

 

 しかし目が冴えてるためなかなか眠りにつけない。

 

 興奮か緊張か。何回ライブをしても慣れない感覚。だけどその感覚が私は割と好きなんだよね。

 

 「明日は頑張るぞー!」

 

 フラッシュちゃんが起きない声量で気合いを入れる。

 

 すると

 

 「頑張ってね」

 

 全く聞き覚えのない声が聞こえてきた。

 

 「⁉︎」

 

 室内は真冬かと勘違いするくらい寒い。

 

 声の主を探すが誰もいない。

 

 「誰?」

 

 返事はない。そこで気がついた。

 

 ずっと感じてた視線がもう無いことに。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 次の日。朝日を浴びていつものように目を覚ました。どうやらいつの間にか眠っていたみたいだった。

 

 「夢………だったのかな?」

 

 周りを見ても変わったところは無い。フラッシュちゃんはランニングなのかもう布団にはいない。いつも通りの部屋だった。

 

 「準備しなきゃ」

 

 ライブ当日だが、私はいつものように起きて身支度を済ませる。この起きてからの流れは思ってたより平常心を保つことが出来る。

 

 「うん!今日はいい感じかも!」

 

 いつもなら手間取る髪型も今日はスムーズに決まった。

 

 「そういえばフラッシュちゃんどうしたんだろ?いつもならもう戻ってきてるはずなのに」

 

 同室のフラッシュちゃんが戻ってこないことは少し気になるけど今は会場に向かわなきゃ。

 

 「行ってきまーす!」

 

 寮を出て学園にあるステージに向かう。

 

 しばらく走って私は違和感を感じた。

 

 「なんで誰もいないんだろう?」

 

 そう朝から誰ともすれ違ってないのだ。

 

 姿だけじゃない、声も聞こえないのである。朝とはいえ常に活気に溢れる学園でこんなことがあるのだろうか?

 

 「何かおかしい?」

 

 間違いなくおかしいが、まだ偶然って可能性もまだあるのも事実だった。

 

 私はリッキーとタルマエの待っているであろう場所に向かった。

 

 「お待たせ!」

 

 しかしそこには誰もいなかった。

 

 「……なんで?」

 

 確信した。この学園には誰もいない。

 

 とっさに時計を見てみるが、時間は進んでいた。もう少しでライブの時間になる。

 

 「時間が止まってるわけじゃないんだ」

 

 私はまた駆け出した。分かっていながら確かめずにはいられなかった。

 

 全力で走ってライブ会場に到着する。裏の控え室で急いで準備をしてマイクを持つ。

 

 震える。しかし歩みは止めない。そしてステージに上がって観客席を見ると、もちろんそこに誰もいなかった

 

 「なんで?みんなどこ行ったの?」

 

 不安で涙が出てくる。無意識に持ってたマイクを落としてしまう。

 

 混乱する頭で考えてるとふととある人物が思い浮かんだ。

 

 「トレーナーさんは?」

 

 トレーナーさんのことを思い出した私は藁にもすがる思いでふらふらとトレーナー室に向かう。

 

 「トレーナーさん。お願い」

 

 トレーナー室に着いて祈りながらドアを開ける。室内にはもちろん誰ももいない

 

 私は最後の希望すら打ち砕かれて膝から崩れ落ちる。

 

 「みんなどこ?どこ行ったの?」

 

 涙が溢れてくる。しかしそれを拭ってくれるトレーナーはいない。一緒に支えてくれる仲間もいない。

 

 「どうしたら」

 

 ふと過去を思い出す。ライブしても誰も向きもしなかったあの光景がフラッシュバックする。

 

 「やだやだ!どうして誰もいないの!」

 

 私のメンタルは限界だった。

 

 その時ふとトレーナーの机に置かれたノートが目に入った。

 

 それはトレーナーが私のために用意したトレーニング内容やライブでの振り付けなど一緒に努力した結晶だった。

 

 それを見た時私の中で小さな火が付いた。

 

 「そうだ、私はトレーナーさんと一緒に努力した」

 

 1人で悩んでた時側にいて支えてくれたトレーナー。

 

 たとえいなくなっても私の記憶にはある。

 

 「私はまだ諦めてなんかいないんだ!」

 

 私は涙を拭って勢いよくトレーナー室を出る。目指すはライブ会場。

 

 もう迷いはない。

 

 前は私1人の夢だったけど今はトレーナーさんと一緒に叶えると約束した2人の夢なんだ。

 

 こんな所で私が諦められるわけない!

 

 「ここで挫けたらトレーナーさんを裏切ることになっちゃう!そんなの嫌だ!」

 

 私が憧れたウマドルはどんな時でも輝いてた!

 

 泣いてる暇なんてない!トレーナーさんと思い描いた未来を諦めてたまるか!

 

 トレーナーさんだけじゃない。諦めたら私のために応援してくれる皆んなにも顔向け出来ない。

 

 「ファンの皆んながたとえファル子のこと忘れても ファル子は絶対に忘れない!誰もガッカリさせない!」

 

 私はステージに落ちているマイクを拾い上げ、再び誰もいないステージに駆け上がる。

 

 「誰もいなくてもファル子は頑張るよ!」

 

 そうして私は誰もいないステージでライブを全力で始めるのであった。

 

 

 

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