透き通った世界でヒイロ・ユイを目指す話 作:Hakone8510
そういえば大分時間差が空いておりますが、閃光のハサウェイ続編の制作決定が発表されてましたね。聞いた話によると次のシリーズは最も原作小説と違う部分が多いのだとか。前回のが個人的にはかなり良かったので非常に楽しみです。
さて、今回の主人公は、不届きものを捕まえるようです。
翌日、トリニティは空気の澄んだ心地よい朝を迎えた。
身支度を程々にして教室へ向かうと、既にアズサと先生はビシッと支度を済ませて各々の椅子に座っていた。ふと黒板の真上にかかった時計を見やると、その針はおおよそ7時を指し示していた。
「おはよう。って本当に早いな、二人とも」
「作戦の迅速な遂行のため、指定した時間に起きられるよう訓練している。このくらいは何でもない」
“昨日は久しぶりにまともな睡眠時間取れたから……あんまり寝過ぎちゃうと体に良くないし“
「……頼むから無理はしないでくれよ」
そういえばこの人、この依頼受けるまで4徹してるんだった。その前からも断続的に徹夜で仕事をしており、そのおかげで本人の中で感覚がバグり、毎日とるべき睡眠時間の基準が常人より3時間くらい短くなっているのだ。そのしるしに、彼の目に今まで見たことがないほど青い隈ができており、とてもじゃないが大丈夫には見えない。
先生は後で必ず仮眠室へぶち込むと心に決めていると、遅れてやってきた3人が教室に入ってきた。みんな落ちそうになる瞼を擦ったりあくびをしたり、見るからにまだ眠そうである。夜更かしでもしたのだろうか。
「アズサちゃん、早いですよ〜」
「ま、まだ眠い……むにゃ」
「アズサちゃんは朝でも元気いっぱいですね〜❤︎」
おもむろに変態行為に及ぶのを除けばキッチリしているハナコでさえ、少し目の端にシワがよっている。それがある意味答え合わせであった。
(ゆうべはお楽しみでしたね、ってか。原義通りの意味はじゃないだろうけど)
かくして、大事な合宿初日。壇上に上がったヒフミは、対面に座る3人に向けて宣言する。
「私たちの目指すところは、一週間後の第二回特別学力試験で合格することです!そこで、今から模擬試験を行います!」
これは、事前に先生と部長であるヒフミが話し合った通りである。今の実力とどこができないのかを測るのを目的に、ヒフミがもてる伝手を存分に使い持ってきた昨年の試験問題の一部をもとに、先生の手も借りながら昨日一晩をかけて模試の形式に仕上げることができたという。なるほど、ヒフミが眠そうだったのはそれが原因か。
「試験時間は60分、100点満点中の60点以上で合格。つまり本番と一緒です。さぁ、まずはこれを解いてみましょう!」
そうして配られた模擬試験の用紙は、昨晩夜なべして作ったとは思えないほどの完成度で、受け取った3人は神妙な面持ちでそれを見つめていた。やがてヒフミも用紙を持って席に座ると、先生が代わりに教壇に立ち、彼の合図で試験が始まった。
しばらく教室内には、黒鉛のペン先が紙に当たって擦れる音が響き渡る。ヒフミが模擬試験を行うと3人に提案した時、アズサは驚き、ハナコは戸惑い、コハルは反発していた。だが一度始まると全員余所見することなく問題を解き始めた。問題児と呼ばれる彼女たちだが、一つの目標に向かって突き進む行動力と集中力は、実はずば抜けて高いのかもしれない。
彼女たちの様子を観察しながら先生と共に試験の監督をしていると、すぐに試験終了の時間がやってきた。答案用紙を回収して、早速採点作業に取り掛かる。問題量がそこまで多いわけではないので、俺と先生の二人がかりで取り組み、10分もしないうちに作業は完了した。
丸つけされたそれぞれの答案用紙が俺たちの手で四人に返却される。
第一次補習授業部模擬試験
・阿慈谷ヒフミ:68点(合格)
・白洲アズサ:33点(不合格)
・下江コハル:15点(不合格)
・浦和ハナコ:4点(不合格)
「……これが私たちの今の状況です。現状を解決するためには、効率的な勉強を行うことが重要になってきます。……そこで!」
ヒフミは再び教壇に立つと、まずアズサとコハルの方へ体を向けた。
「まず、コハルちゃんとアズサちゃんが受けるのは一年生用の試験ですので、私とハナコちゃんが、お二人の勉強内容をお手伝いします!」
「えっ、ハナコ?ヒフミに教わるのはわかるけど、ハナコは一番点が低かったでしょ?」
「それがですね……」
ハナコとヒフミに教室内の全員の視線が集まる。
「勝手ながら今回の模試を作成する過程で、ハナコちゃんの1年生の試験を拝見させていただいたのですが……ごめんなさい、失礼でしたよね」
「ああ、それですか……そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。続けますとハナコちゃんは、入学からずっと2年生に上がるまでは高得点を維持していました。きっと何か理由があるのかと思いますが……今は時間がありません。ハナコちゃんの問題については後ほど、今の状態になってしまった原因を把握した上で、先生と一緒に解決策を探しましょう」
「……ええ、わかりました」
ハナコはすぐにヒフミの言葉から真意を読み取ると、表情を和らげて微笑む。
「そしてレイさん」
急に話がこっちに振られたので、ビックリして肩が跳ね上がってしまった。今ので崩れた澄まし顔を元に戻して彼女たちの方へ振り向いた。
「何だ?」
「昨夜先生から、レイさんは理数系の科目が得意だとお聞きしました。私は文系の方が得意なので、私と手分けして二人の勉強を見てもらえませんか?」
「そういうことか。ならばいくらでも協力しよう」
そうして、全員が合格するための勉強合宿が今度こそ始まった。アズサとコハルの勉強を俺と先生も加わって見たり教えたりしつつ、ヒフミとハナコは自分たちの勉強に勤しむ。適度に休憩を挟みつつ試験範囲を少しづつ埋めていくうち、あたりはすっかり日が落ちてしまっていた。
勉強を始めてからおおよそ9時間が経過したところで今日の分はひとまず終了。これから風呂や夕食の準備をするというのでそういった家事は4人に任せ、俺は周囲の見回りにと建物の外へと向かうことにした。
(いやぁ、にしても今日は存外に疲れたな)
長い廊下をまた一人で歩きながら、今日あったことを思い出す。
(人にものを教える、っていうのはそれをただ知ってるだけじゃダメなんだなぁ……今度から国語の授業真面目に受けようかな)
ヒフミに言われた通り、どちらかといえば理系科目の方が点数が高かったのは事実だし、自分も得意だと思っていたのだが……「わからない相手にわかってもらえるような言い方・表現」を出力することは、俺にとってはゼロシステムを制するよりも難題であった。
特にコハルはなかなかの曲者だった。まず、文章題で使うべき公式がわからないと言われ、ここはこういう公式を使うんだと教えれば「そんな公式習ってないわ!」と言われ、じゃあその公式はこうやって使うんだと教えれば「やってみたけど答え違うじゃない!」と言われ、もしかして間違えて教えてしまったかなと途中式を見たら計算の順番ややり方を間違えている……といった調子。ただそうやって試行錯誤し続けて模範解答に辿り着けた時に見せるあの笑顔、もうお釣りがくるほど可愛いんですけどね(謎の自慢)。
とはいえ己の語彙力と今後にも不安を感じながら、昨日アズサが仕掛けた罠(事前にどこに仕掛けてあるのかを教えてもらった)に反応されないよう玄関を開け、入り口付近で周りを見回す。すると……
(……ん?)
今一瞬、ほんの一瞬ではあったが、トリニティの建物からはかなりの距離があるこの別館の周りに、数人の気配を感じた。この別館はもう授業や部活では使われていないので、トリニティの生徒は本来近づこうともしないはずだが……俺の勘違いならばいいが。
相手方に俺が何をしようとしているのかを悟らせないよう、かろうじて残っている舗装された道路をたどりながら、さっきの気配がいた方向へ意識を向ける。相手の方々はこちらの視線に気づいてはいないようで、勘付かれないよう慎重に俺を追跡しているのを感じる。そいつらからわずかに漏れる殺気から、おそらく俺を排除する機を待っているのだろう……なら折角だから、こちらからその機を作ってやろう。
歩いているとちょうど良さそうなベンチを見つけ、腰に巻いたホルスターを外してそこに腰掛ける。それに伴い追跡者達も俺の背後、熟練した暗殺者であれば反応する前に殺せるほどの距離で止まる。しばらく周りの景色を眺めたのち、俺はおもむろにフラガラッハを鞘から抜いて、刃の部分に油を塗って打ち粉*1を当て始めた。
粉をある程度打ち終わったら、最後は余分な油を紙で拭き取る……その途中で、手がもつれたかのように自然と剣を落とした。カァンという鈍い金属音が辺りに鳴り響いた瞬間、草木の中から、岩の陰から、街灯の上から、右手にハンドガン、左手にナイフを構えた3人の少女らが一斉に襲いかかってきた。
「単純だな」
俺は今しがた落としたフラガラッハが地面に当たった反動で浮き上がった瞬間に柄を掴み、そのままの体勢から体の向きを横方向にぐるっと1回転させ、敵が持っていた武器の全てを遥か彼方へ吹き飛ばした。いきなり不利な状況に立たされた彼女らは混乱により一瞬動きが固まる。それを見てすかさず隠し持っていた「HEAVY GUYS」でワイヤーを飛ばし、ようやく逃げに転じて体を外へと向け始めた3人の身柄を拘束する。
未だに混乱している3人を尻目にベンチへ向かい、置いてきたホルスターを手に取る。そこには「HEAVY GUYS」によく似た拳銃 M1911が収められていた。それを見て3人はハッとでも言いたげに顔を上げる……白いガスマスクで顔を覆っているため、表情こそわからなかったが。
「
そう言って彼女達の目の前でホルスターからM1911を引き抜き、鉛の弾丸を装填してその内の一人の脳天に銃口を当てがう。
「さて、そろそろお前達にも喋ってもらおうか。どこの組織に所属していて、お前達に命令を下したのは誰だ?」
しかし、恐怖で声が出ないのかはたまた徹底的に厳命されているのか、相手は体を震わせたまま一向に口を割らない。せめて組織名だけでも音が取れればいいのだが……。
と、その時。ボシュウッという音と共に白い煙が、街灯の光によって現れて視界を覆う。一瞬またアズサが新しい罠でも張ったのかと思ったが、静かで真っ直ぐな殺気を感じてそれを即座に否定した。捕らえた3人の気配が消え、残りの強い気配が真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。
ガキィン!
火花が散り、風が吹いて煙が晴れる。既視感を感じながら前を見据えると、やがてやってきた敵の姿が露わになる。黒の帽子に黒いマスク、黒いタンクトップに白いコート。わずかな風に靡く黒髪の長髪が、昨夜見た銀髪と重なる。
「お前、何者だ?」
「……」
彼女は答えない。ただ黙って眼前の敵を逃すまいとしている。
銃身と刀身が震えてぶつかり合い、互いに押すも引くもできない状況。本来であれば剣と銃がぶつかり合ったら銃の方が壊れそうなものだが、現実は先述した通りだ。これも神秘ぱぅわーの恩恵か?
鍔迫り合いの状態を解消するため、お互いは同時に武器を横に振って、互いの武器がギリギリ当たらない距離の間合いを取った。だが相手方はこれ以上の戦闘は無用と考えたのか、それともただの時間稼ぎだったのか、夜の闇と残った煙に紛れ、その姿を消した。
剣と銃をしまい、彼女の消えた方の虚空をじっと見つめる。瞼には、先ほど本の数十秒だけまみえた敵とアズサの格好が、不思議と重なって映っていた。
レイ「あいつの姿……どこかで……」
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