透き通った世界でヒイロ・ユイを目指す話   作:Hakone8510

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 どうも、そろそろ夏休みが終わりに近づいていることに戦々恐々としているHakone8510です。
 やはり楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去っていく……世はなんと儚いことよ(誰?)。それはさておきもうそろそろ9月だってのに一向に暑さ収まる気配なくないですか!?秋とかどうなるんやろコレ。

 さて、今回の主人公は、不穏な気配を感じ取ったようです。


平穏な日々と不穏な気配の話。

 どんなジャンルのものでもそうだが、合宿というのは意外にも早く過ぎ去っていく。既に四日目を迎えていたこの旧校舎での生活は、想像していたよりもそう悪くない。少々機器が古いのを除けば、の話だが。

 今日は朝方から雨が降っていた。夜も更け、問題作成の作業に一息つくためのコーヒーを片手に、雨粒を仕切りに打ち付けられる窓をぼうっと眺めながら、今日までの合宿の日々を思い返していた。この四日間は、色々なことがありすぎた。俺だけ外に出てミレニアムの仕事をしたり、それ以外の時は先生について回っていたから、特徴的な出来事をいくつも目にして流石に疲れた。だがそうして思い出していく中でも一際印象に残っていたのは、二日目の朝と三日目の夜に起こったことだった。

 

 

 

 二日目の早朝、先生によって起こされた俺は一昨日掃除されたばかりだというプールに連れられ、そこで一人のお偉いさんと会うことになった。

 

「わぁっ、水が入ってるー!もしかして、これからプールパーティでも開くのかなー?」

 

「……」

 

 プールサイドの周りをひょこひょこと軽快なステップで歩き回る少女。その背中にはややデフォルメされた翼を生やし、適度にカールしたピンクの髪がヒラヒラと宙を舞う。

 

“……お待たせ。要件を聞いてもいいかな?“

 

「えへへ、おはよー先生っ。それと、先生の護衛さん?」

 

 歌うように挨拶し、わざとらしい仕草でカーテシーする目の前の少女の名は聖園ミカ。ティーパーティの三大派閥の一つ「パテル派」の代表であり、本人が言うには先生を補習授業部の顧問に推薦したのは彼女なのだそう。そして色々な前置きを挟みつつ、彼女は補習授業部に潜む「トリニティの裏切り者」を教えてくれた。

 

「……白洲アズサ。それが、ナギちゃんが今必死になって探してる『トリニティの裏切り者』だよ」

 

 それはこちらで粗方予想のついてはいた、しかしいざ断言されると衝撃的だと言わざるを得ない発言だった。

 なんでも、アズサは大昔にトリニティから分派した「アリウス分校」の生徒であり、ミカの計らいでトリニティに転校してきたのだとか。その理由は、ミカはアリウス分校とも有効的な関係を持ちたいと考えていて、アリウスの生徒がトリニティでも幸せに暮らしていける証明として、アズサにそのシンボルになってもらいたいと考えたからだった。

 

「それに……彼女を編入させるには『この時期』にしかなかったんだよね」

 

 今ナギサがゲヘナと結ぼうとしている「エデン条約」、そして互いの生徒を出し合って結成する「ETO(エデン条約機構)」。それらは確かにトリニティとゲヘナの和平を象徴するものかもしれない。しかしそれは多くの分派が寄り集まり「第一回公会議」によって結束して生まれたトリニティが、それに唯一反対したアリウスを弾圧したように、ETOがそれを良しとしない人々を弾圧し始めるのではないか。そしてアリウスにとって「エデン条約」は、「第一回公会議」と同じ「誰かを除け者にする」もの。そんなものに対し彼女たちが因縁を持っていないはずもなく、正式に結ばれればアリウスとの和平は2度と望めない。だからこのタイミングで、アズサをトリニティに編入させるしかなかったのだという。

 もしそれが(おおやけ)に露呈すれば、ナギサはどんな手を使ってでもアズサを排除しに来るだろう。もちろん彼女の所属する補習授業部も、ただで済むとは思えない。

 

「だから、先生には守って欲しいんだ」

 

 アズサと、疑いをかけられた哀れな3人の少女たち。彼女たちだけでは、この状況を打破できない。そう思ったが故に、先生(かれ)をこの部の担当にしたのだと。

 

「それじゃあ、よろしくねっ先生!」

 

 そう言うと、彼女はさっきプールサイドでしていたように、バレエのような足取りでその場を去っていった。

 

“あの子……自分が話した以上の重い『何か』を背負っているような気がする“

 

 それが、ミカがいなくなって最初に発した先生の言葉だった。

 

 

 

 合宿が始まってからと言うもの、先生とヒフミと俺は毎晩のようにこれからのことについての会議を行なっていた。ヒフミは最初の方「レイさんはトリニティの外の方なので……」と話すのを渋っていたが、自分がこの仕事に就く前に連邦生徒会の行政官(リンちゃん)から「他校の事情に対する日守秘義務」を負うよう契約していることを説明してからは、今は同じく部を牽引していく指導員(インストラクター)として遠慮なく話してくれる。

 さてそんなわけで昨日の深夜、話し合いのために先生用の個室でヒフミを待っていたのだが、先に扉を開けて現れたのは、もはや見慣れてしまった水着姿のハナコだった。

 

「こんばんは、先生、レイさん」

 

「……」

 

“……!?“

 

 俺はもはや驚かなかったが、先生にとってはそうではなかったらしい  この場合は驚いたと言うよりは、身の危険を感じた*1と言う方が正しいのだろうが。

 

“どうしてハナコが……いやそれよりもなんで水着!?“

 

「ああ、これはパジャマなのでお気になさらず  それよりアズサちゃんのことについて先生にご相談が……」

 

“気にしない方が無理じゃない?“

 

 先生の的確な指摘やツッコミをものともせず、話を続けようとするハナコ。その後ヒフミが来たことにより二人に誤解を招きさらに状況は混乱したが、先生と俺の尽力によってなんとか互いの誤解を解き、落ち着いて話し合いを始める頃には既に十数分が経過していた。

 

「……では、私から。先ほども言った通り、アズサちゃんのことに関してなのですが……」

 

 ハナコの相談事は、アズサの睡眠事情だった。彼女が皆が寝静まった深夜に一人どこかへ行っているのを知っており、睡眠時間を十分に取れていないのではないかと心配していたのだ。

 

「先生とヒフミちゃん、それにレイさんも、ですよ?深夜に問題を作ってくださっているのは知っていますが……しっかり寝ないと体調を崩してしまいます。試験も大事ですが例え合格できなくとも落第というだけなのですから、身体の健康の方が大事だとは思いませんか?」

 

“……それは“

 

「普通の試験であれば、そうなのですが……」

 

 ヒフミは、少し言いにくそうに言葉を濁し、やや下を向いている。しかし意を決したように、

 

「ヒフミちゃん……?」

 

「でも今回のは、『落第』で済む話ではないんです、もしあと2回ある試験のどちらも不合格だったら……私たちは、退学しなければならないんです!

 

「た、退学……?退学するには色々と手続きとそれなりの理由が必要だと校則で決まっていますし、補習試験くらいでそう簡単には……」

 

“……ハナコ、実はね……“

 

 珍しく混乱するハナコが落ち着けるように、先生は普段よりおゆっくりと、この部の事情について話し始めた。

 話していくにつれハナコの表情は徐々に曇りと陰りを帯びていく。

 

「なるほど、シャーレの超法規的権限が……」

 

 やはり頭がいいのか、膨大な情報を即座に整理して状況を理解している。しばらく考え込むような素振りの後、ハナコは俺たちを驚かせるような言葉を紡ぎだした。

 

「私たちはエデン条約の直前になって集められた……つまりこの補習授業部は、エデン条約を邪魔する疑いのある者の集い、というわけですか」

 

「「”!?”」」

 

 なんと、本来ヒフミや先生といった限られた人にしか知られていないこの部の秘密を、いとも簡単に導き出してみせたのだ。それは同時に、彼女が並外れた頭脳を持っているということの証左でもあった。

 それを引き合いにヒフミは本当は成績が良いのではないかと問い詰めるも、ハナコは頑なに事情を話してはくれなかった。が、最低限退学にはならないよう試験を頑張ってくれることを約束してくれた。そうしてひとまずはアズサの動きを警戒するということと、今夜以降の深夜会議にハナコも参加することが決まり、その日の会合はお開きとなったのである。

 

 

 

 以上が、今日まで印象深かった出来事二つの詳細だ。

 にしたってこういう風に振り返る暇もないほど、この四日間は忙しすぎた。さっきだって昨日外に干していた洗濯物を取り込み忘れ、急いで取りに行ったら雨と泥にまみれ、汚れを落とすために全員でシャワーを浴びていたら落雷で施設内すべてが一時停電し、加えて汚れた服や干していたものを入れて回していた洗濯機も止まってしまったため中の着替えを取り出すことができず、先生以外全員が指定の水着でしばらく過ごすことになった。妙にハナコが嬉しそうだったのが少々癪にさわったが、幸い日を跨ぐよりも前に復旧したため、あのまま夜を越さなかっただけでも良しとしよう。

 さて、そろそろ休憩も終わりだ。トラブルで疲れた彼女たち(補習授業部)を休ませ、尚且つ明日も問題なく勉強ができるよう、試験作りに取り掛からねば  そう思った矢先。

 

コンコンコン……

 

 個室の扉をたたく音が聞こえ、俺は手を止めて入口の方へと向かう。ドアを開けるとそこにいたのは、さきほどまで終始ハナコと天候に振り回されていたコハルがいた。深夜にも関わらず制服を着ている彼女は、もじもじとしながら何やら言いたげにこちらを上目遣いで見つめている。うわっ顔がいいッ!?

 

「どうかしたか?」

 

 なんとか胸の動悸を抑え、平静を装いながら話しかける。大丈夫かなコレ、キモがられてないかなコレ。

 

「ハナコが外に遊びにいこうって皆に言うから……折角だし、あんたも誘おうと思って」

 

「……」

 

「かっ、勘違いしないでよねっ!別にあんたに数学教えてもらったお礼とかじゃないんだから、みんなで外に出てる間あんたが独りぼっちなのがかわいそうだなんて、全ッ然おもってないんだから!」

 

「…………」

 

「……ちょ、ちょっと?何とか言ってみなさいよ」

 

「………………」

 

「え、ちょ、なんで泣いてるの!?」

 

 感涙である。まさか彼女の貴重な「デレ」を、こんな至近距離で摂取できるとは。気分は上裸でこぶしを振り上げる某ラ○ウ*2だ。

 その後普段無表情なよくわかんねーやつがボロ泣きしているという異常な様子を心配したコハルによって他の四人を呼ばれ、集まった皆の誤解を解くのに小一時間を要した。

 

 

 

 一悶着ののち、俺たちは合宿所を(一応こっそりというテイで)離れ、近くの商店街まで来ていた。ここでは夜遅くまで営業している店が多くあり、日中何かと忙しいトリニティの生徒が多く訪れるという。本来、門限後に学園の寮や敷地の外に出るのは校則で禁止されているが、前述の事情もあって騒動さえ起こさなければと黙認されているのだそう。

 実際一歩足を踏み入れれば、およそ深夜とは思えないほどの賑わいを見せており、さらっと見た感想ではあるが学園内よりも和気藹々とした雰囲気だった。

 

「あ、あそこに良さげなスイーツカフェがありますね。あそこに行ってみましょうか」

 

「ちょ、ちょっと、深夜にスイーツなんて……!」

 

「それがいいんじゃないですか、コハルちゃん。その背徳感こそ甘味の良いスパイスになるんですよ」

 

「ここの限定パフェ、すごく美味しいんですよ!ちょっと行ってみましょう!」

 

「パフェか……悪くない」

 

 各々が各々の反応をしながらスイーツ店に入っていく。俺も先生と共にその後に続こうとするが  

 

「……!」

 

“ここのパフェ食べたことないんだよねぇ、レイはパフェ好き……ってレイ?“

 

「……あ、ああ。すまない、少しぼうっとしていた。入ろうか」

 

 ここに迫る嫌な気配を一瞬感じつつも先生の言葉ですぐさま疑念を引っ込め、彼と一緒に店へ入っていく。

 


 

「おや、もう行くのかい?」

 

「……()()は来ていないが、奴の顔を直接見ておきたくてな。何、早々に潰すような真似はしないさ」

 

「ならいいんだけど……」

 

「なんだ、私が勢いで奴を殺すとでも思っているのか?安心しろ、()()()()の計画の邪魔はしない」

 

「そうかい、なら行ってきていいよ」

 

 

 

「千軍無敗の戦神アレス……君の力、この目で見せてもらうとしよう」

*1
大人としての立場と責任が危ぶまれる(意味深)という意味で。

*2
我が生涯に一片の悔い無し




レイ「今のが杞憂じゃなければいいが……」

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