透き通った世界でヒイロ・ユイを目指す話   作:Hakone8510

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 どうも、Hakone8510です。
 もうすっかり天候が秋らしくなってきましたね。昨月まであんなに残暑とは思えんほどの暑さに喘いでいたというのに……時の流れと言うのは全く恐ろしいもんです。

 さて、今回の主人公は、降りかかる理不尽に苛立っているようです。


執念と使命の話。

「嘘ですよねっ、いくらなんでもこれは……!」

 

 ヒフミがこれまで見たこともないくらい急な角度の困り眉をして、叫ばんばかりの悲鳴を上げる。阿鼻叫喚の二人を横目に、こういう時は人一倍冷静なハナコは、ある推論を導き出した。

 

「なるほど……おそらくナギサさんが私たちを退学にしたいがために……」

 

「何、退学ってなんの話!?」

 

 コハルがさっきよりも多少は落ち着いた声で聞く。そういえばアズサと彼女は、この話に関しては初耳だったか。

 

“私が説明するよ。ここまで秘密にしてきた責任がある“

 

 そういって彼はこうなってしまった経緯をわかりやすく語り始めた。それはヒフミやハナコが言っていた「試験に3回合格しなかった場合、補習授業部全員が退学になってしまう」ということに加え、今日の午前中に彼がナギサと話したことが引き金になり、さらに試験が厳しいものとなってしまったのだろう、ということだった。

 

“ごめん、みんな。私の言葉が、彼女の心を逆撫でしてしまった“

 

「先生のせいではありません。この合格ラインの書き方からして、どうやら昨日の模試の結果をどこからか入手していたようですし」

 

 このメールはついさっき、そろそろ日を跨いでテスト当日になろうかというギリギリで送られてきた。それに模試の点数を鑑みてわざわざ届かなそうな数字に合格点を繰り上げている辺り、明らかに俺たちを嵌める意図があるとしか考えられない。

 

「とにかく、そうと決まれば急ごう。試験まであと数時間しかないぞ」

 

「そうでした、早くここを出ないと!」

 

 寝る用意をする前で本当に良かった。俺たちは着の身着のまま最低限必要なものをもって、大急ぎで建物の外へと走り出すのだった。

 

 

 

 トリニティからゲヘナへ普通のルートで行くには、かなり遠い回り道をしなければならない。トリニティとゲヘナがバチバチ戦りあっていた時代に、敵の侵入を防ぐため直通のトンネルや橋は全て壊されてしまったからだ。だがトリニティゲヘナ間の近道が唯一存在する。そこはヒフミの勝手知ったるところ……。

 

「いや、ここには別にそんなに通い詰めてないですよ!?」

 

 ゲヘナ自治区領内、スラム街。武器を抱えて脇目もふらずその街中を走り抜けていく。

 

「いや、雰囲気や状況としてはブラックマーケットに似ていると思ったんだが……」

 

「あわわわわわ……その件についてはみんなには言わないでもらえると……」

 

 そんなことを言いつつ体がきちんと覚えているのか、ヒフミは厄介な連中がいなさそうな場所を見極めてみんなを先導してくれる。しかし、巡り合わせが悪い日というのは往々にしてあるもので。

 

「おうおう、見慣れねぇ制服だと思ったらトリニティのお嬢様方じゃあねぇか!」

 

「なぁ金置いてけよ!たんまりもってんだろォ!?」

 

 様子見していたチンピラ共がわらわらと集まってきて、俺たちの行き先を遮る。

 

「もう、時間がないってのに!」

 

 コハルが苛ただしげに愚痴をこぼす。確かにここでまともに相手していては、試験には確実に間に合わなくなってしまう。

 仕方がない。使ったばかりで消耗が激しいが……

 

「『魂の鎧(ファントム)  フリーダム!」

 

 自由の翼のファントムを喚びだし、それを身に纏う。咄嗟に進行方向へと飛び出し、道を塞ぐ敵に向かってフルバーストを放った。彼女たちの体はネオン街の看板くらいの高さまで吹っ飛んでいく。

 

「突破口は()が開く。さぁ、早く!」

 

 そう言うと、5人は一斉に(ひら)けた道へ向かって全速力で走り出す。

 

「逃すな、追えーっ!」

 

 路地を駆け抜ける5人の後ろにつく形で、僕は追っ手に対しビームライフルや頭部のバルカン、腰のレールガンで建物や看板などを壊して彼女たちの足止めを行う。

 そうこうして、僕たちはなんとかスラム街を抜け出したのだった。

 

 

 

 が、苦難はそれだけでは終わらない。

 

「そこの者たち、直ちに止まれ!」

 

 とうとうゲヘナ自治区領内の核となる場所、その入り口まで辿り着いた僕たちであったが、巡回中のゲヘナ風紀委員会に止められてしまった。

 

「トリニティの生徒が、ゲヘナの領内になんの用だ!」

 

 そう聞く風紀委員の生徒たちの顔は険しい。自然と勢力闘争に関わることの多い部活動のため、トリニティに対し嫌悪感を抱く子も多いだろう。彼女たちの気持ちも理解できる、というか話を聞こうとしてくれている時点で、かなり温情な方だ。

 だが今は、今だけはそれに憂慮している暇はない。彼女もそれは重々理解しているようで、一応部の代表であるヒフミが勇気を振り絞ってその問いに答える。

 

「私たちはこの地域にある会場で、試験を受けないければならないんです。試験が終わったあとならお叱りでもなんでも受けますから……今だけは、ここに入るのを許してくれないでしょうか?」

 

「嘘をつけ!こんな遅い時間に入ってこようとするなんて、何か別の目的があるようにしか考えられない!そもそもなぜトリニティの生徒がゲヘナに試験に受けに来るんだ、おかしいだろ!」

 

「そ、それはそうなのですが……とにかく私たちは急いでいて……」

 

「もういい、お前たちの話をこれ以上聞いていても信用ならん!即刻立ち去らないのなら、10秒後に攻撃を開始する!」

 

 先頭の風紀委員がそう言うと、彼女たちは一斉に銃をこちらへ向かって構える。

 

「……ねぇレイ、あんたの力で突破できない?」

 

 聖水の入ったグレネードを握りしめたコハルが、ひそひそ声で聞いてくる。

 

「できるかできないかと言われれば、できる。けど前戦ったテロリストやさっきのチンピラたちと違って、あっちは正規の治安維持部隊だ。エデン条約調印前で気が立ってるってのもあって、こっちがトリニティと認識されている以上、手を出したら二校の関係をさらに悪化させることになると思う」

 

「……」

 

 それを聞いたコハルは黙ってグレネードを懐にしまい込んだ。だがここを突破しないことには試験に合格するしない以前に、試験を受けることすらできなくなってしまう。

 

「5、4  

 

 そうやって考えている間にも、攻撃までのカウントが進み続けている。一方アズサは迎撃できるようにすぐさま構えを取ったが、他のみんなは焦りと迷いが頭の中でぐるぐると回って動けずにいた。

 

「一体、どうすれば  

 

ドカアァァン!

 

 突然の爆発音が、周囲に漂っていた空気を吹き飛ばした。

 

「のあああっ!?」

 

「や、やはり襲撃が目的か……!」

 

 誤解を与えられたまま、風紀委員たちは次々に気絶していく。ついには隊列を組んでいた彼女たちの壁が、一気に取り払われた。

 

「おや、お久しぶりですね先生」

 

“その声は……“

 

 そこにいたのはつい先日ゲヘナに移送されたはずの、美食研究会の面々だった。どうやら事後処理の時に先生と面会したらしく、そこで仲良くなったらしい。……一体どれだけ人たらしなのだろうか、この人は。

 今先生に挨拶したのは美食研究会の会長である、黒館(くろたて)ハルナだ。

 

「このような場所でいかがされましたか?」

 

“実は……“

 

 先生は今ここにいる事情と、そのためにある場所に行きたいというのを手短に説明した。

 

「なるほど、状況は概ね把握しました。ともかくこの場所に行かねばならないのですね?」

 

“そうだね“

 

「先生と皆さんにはあの時の恩もありますし……わかりました、我々美食研究会が責任をもって皆さんをその場所まで送り届けましょう。さぁ、この車に乗ってくださいな」

 

 恩?面会しに行った先生はともかく、俺と補修授業部が彼女たちに何かしたっけか?どっちかというと恨まれているものだと思っていたが。

 時間がないので一旦それはスルーし、そう言われて彼女に案内されたのは、荷物を運搬するための小型車だった。といっても荷台には特に何も積まれていなかったが、唯一見覚えのあるような()()が丈夫な紐で括り付けられていた。

 

「ハルナ……だっけか?この人は一体……?」

 

「もがーっ、もがもがーっ!!!」

 

 俺は好奇心が(まさ)って思わず彼女に聞く。それは美食研究会と初めて相見えた時に人質に取られていた、少しくたびれていながらも清潔な三角巾と何度も補修した跡のあるエプロンを身につけた、一人の小柄な少女だった。そういえば戦う前にハルナから、ゲヘナの給食部に所属していて、彼女たちをもうならせる料理の腕をもっているんだとか。

 

「彼女は愛清(あいきよ)フウカさん。今日は私たちのために車を手配してくださったんですよ」

 

「むがぁーっ、もがもがむがもがーっ!!!」

 

 涙目で訴え続ける彼女……フウカの声に徐々に怒気がこもる。必死にもがいて縄を解こうとするが、麻縄でしっかりと結ばれているため体をしきりに動かしたぐらいでは抜けることは叶わなかった。おいたわしや。

 

「それはさておき、温泉開発部がそこら中を開発しまくっているおかげで、風紀委員会の警備が厳重になっております。じきにここにも援軍が送られて来ることでしょう。まぁそのお陰で私たちも檻から脱出できたのですが……」

 

「要するに、急ぐに越したことはない、ってことですね★」

 

 笑顔のままであっけらかんと話すのは、同じく美食研究会の鰐淵(わにぶち)アカリ。結局俺たちは二人に促されて車に乗り込んだ。

 

「ではアカリ、いっきまーす★」

 

 某機動戦士の某ア◯ロみたいにアカリはエンジンを入れ、華麗なスタートダッシュで発進した。マフラーからは炎が上がり、アカリはアカリで「ヒャッフウウウウゥゥゥ!!!」と金の長髪をたなびかせながら叫び出した。マリ◯カートかな?

 だが現実にはバナナや赤甲羅以上に厄介な武器(アイテム)がある。

 

バコオオオオォォォン!!!

 

「きゃああああぁぁぁぁ!?!?」

 

「なに、なんなの今の爆発!?」

 

「どうやら温泉開発部の仕掛けた爆弾(ボムへい)のようですね。開発用のものではなく、風紀委員会の進行を妨げるもののようです」

 

「なるほど、用途によって爆弾を分けているというわけか。実に戦術的だ」

 

「感心している場合ではないですよ、アズサちゃん……」

 

「あ、キノコ出ました★」

 

 叫ぶヒフミとコハルに、冷静に分析するハルナ、ハルナの分析から学びを得るアズサと、ボケる気力もなく突っ込  じゃなくてツッコミに回るハナコ、爆風に飛ばされて運転席に飛び込んできたエリンギを見事に口でキャッチするアカリ。俺は数分のうちに混沌と爆発と荒っぽい運転に囲まれてしまった。

 

(目がチカチカする……)

 

 俺は毎晩の見回りなどの疲れに苛まれながら、荒っぽい運転に揺られていくのだった。

 

 

 

 結局風紀委員会にも追われる身となり、ついには乗っていた車両が爆破されてしまったが、なんとかギリギリ目的地まで辿り着くことができた。

 

「これがその建物……なのでしょうか?」

 

 そう呟くヒフミの視線の先には、明らかに倒壊間近のもはや建物ともいえぬコンクリート状の何かがあった。よくその奥を見てみれば建物の状態に見合わないほど綺麗な机が四つ並べられていて、そこに問題用紙と(おぼ)しきものが数枚並べられているのがわかる。

 

「『第二次特別学力試験問題用紙』……どうやら場所はここで合ってるみたいですね」

 

「こんな場所で受けるなんて……」

 

「席につこう。もうそろそろ試験が始まる」

 

 至極真っ当な文句を言いつつも、席につく補修授業部の四人。俺は遠くの壁に寄りかかり、先ほどの荒い運転の疲れを取り戻そうと目を閉じる。

 

(ん?)

 

 木工用ボンドのような刺激性とガス漏れが混じったような臭いが、夜風に乗ってほんの微かに感じる。違和感に気づいて耳を澄ませてみれば、手持ち花火に火をつけた時のようなヂヂヂヂヂという音がどんどんこちらへ近づいているのがわかった。

 

(しまった!)

 

「全員、伏せろ  !」

 

ドカアアアァァァン!!!

 

 俺が指示を言い終わるか否かの瀬戸際に、光と煙と振動が視界を包み込む。咄嗟に前に出て(フリーダム)を纏ったので先生の身はなんとか守れたが、いまだに爆煙に遮られて皆の安否がわからない。

 

「みんな、大丈夫か!?」

 

 徐々に煙が晴れてくると、服や髪がすすまみれになりながらも四人がこちらに近づいてきた。

 

「なんとか……」

 

「問題ない」

 

「ゲホッゲホッ、なんなのよもう!」

 

 見たところ大した怪我もなさそうでホッと安心する。しかし先ほど彼女たちが座っていた机の方を見ると、問題用紙もろとも跡形もなく消し飛んでしまっている。

 

(まさか試験を受けることすら許さないとは……!)

 

第二次特別学力試験 結果

・阿慈谷ヒフミ:未受験(不合格)

・白洲アズサ:未受験(不合格)

・下江コハル:未受験(不合格)

・浦和ハナコ:未受験(不合格)

 

 改めて彼女の執念が伺える。そこまでして邪魔者を排除したいのか。

 

「試験すら受けさせてくれないとは……うふふ❤︎」

 

 そう言うハナコの顔は笑みを浮かべていたが、その目元は暗い影で覆われている。

 

「……ここで燻っていても仕方がない。今日はひとまず帰ろう」

 

 俺たちはなんともいえない大きな感情を胸に抱えたまま、来た道を戻るように帰途へとつくのだった。




レイ「どうやら温泉開発部を利用したみたいだ。全く、とんだ失態だったぜ」
作者「個としての力があっても倒せない敵はいるもんさ」

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