透き通った世界でヒイロ・ユイを目指す話   作:Hakone8510

59 / 67
 どうも、オラトリオ編に完全にココロかき乱されたHakone8510です。
 皆さんは先週公開されたオラトリオ編第二章、ご覧になったでしょうか。あ“あ“〜心の抉られる音ォ〜がするんじゃあ〜。見てない方はぜひぜひ。

 さて、今回の主人公は、またあの人に遭遇するようです。


テストは基礎を固めるところから始まるって話。

「もう意味わかんない!つまんない!やりたくない!」

 

 第二次特別学力試験の翌日。癇癪を起こすコハルを、他の補習授業部と先生は必死に宥めていた。

 だが先日我々の置かれた状況を鑑みれば無理のない話であった。微かな光明の見えていた皆の胸中は、今ではすっかり雨模様となっていた。それは必死になって積み上げてきた石の山を、勝手な理由で崩されたに等しい仕打ちだったからだ。

 最初こそ散々なものだったが、コハルの成績はこの補習期間中に確かに上がっており、空っぽだった自信に中身ができ始めていた。ようやくその努力が実って、自分を本当に肯定できると思った矢先のこれなので、怒りもひとしおであろう。

 

「コハルちゃん……」

 

 この数週間一番彼女の面倒を見てきたハナコでさえ、言葉を詰まらせている。彼女が慰めあぐねている以上、誰もコハルを諭すことができずにいた。

 ただ、彼一人を除いては。

 

“コハル“

 

「……何よ。先生も早く切り替えろって言いたいわけ?」

 

 特に誰かがそのような趣旨の発言をしたわけではなかった。が、彼女の洞察は皆の表情や目線から、内に秘めた本音を的確に見抜いていた。

 

“……端的に言えば、そうなっちゃうかな“

 

 先生は正直に答える。

 

「次の試験まであと1週間しかないじゃん。一昨日ようやく60点を越えられたっていうのに、たったそれだけの時間で90点まで伸ばせるわけない」

 

“……“

 

「それにもし成績を上げられたって、昨日みたいにまた妨害されてまとも試験を受けさせてくれないかもしれない。二度も同じような目に遭うのはゴメンよ」

 

 そう言うと一気にテンションが下がり、教室の隅に座り込むコハル。先生はその前にかがみ込むと、優しい眼差しで彼女の目を見つめる。

 

“コハルはこれまでたくさん勉強を頑張ってきた。この短期間でこれだけ成績を伸ばせるなんて、本当にコハルは天才だね“

 

「……そうよ。当たり前じゃない、私は正義実現委員会のエリートなんだもの」

 

“だから、と言うのは違うかもしれないけど……私はそれをもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思ってる“

 

「……」

 

“証明してほしいんだ。コハルがトリニティいちのエリートなんだってことを。それを諦めないでほしい“

 

 一つ一つの言葉を、ゆっくりゆっくりと言葉を紡いでいく先生。コハルは何も言わない。

 

“妨害の方は、私とレイに任せて。絶対に君たちを、試験会場まで送り届けるよ“

 

「ああ。俺が必ず、お前たちの道を(ひら)いてみせる」

 

 俺は表情を変えないままサムズアップする。座り込む彼女の方から「フッ」と吹き出したかのような声が聞こえた。

 

“もう一度、私と君の仲間を……私たちを信用してくれるかな”

 

 コハルは顔を上げる。その目にもはや揺らぎはない。

 

「……やってやるわ。1週間で90点を超えるぐらい勉強して、見返してやるんだから!」

 

 誰を、と言うのはもはや言うまでもない。本来不敬な立場の人に対する冒涜と捉えられかねないが、それを咎める者はこの場にはいなかった。

 

「では、早速始めましょう……えいえい、おー!」

 

 部長であるヒフミが拳を頭上に突き上げ、他の三人もそれに(なら)う。為政者の思惑によって寄せ集められた四人の心が、真の意味で一致団結した瞬間だった。

 

 

 

 そこからの一日一日は、ただひたすら勉強と模擬試験を繰り返す日々となった。やることこそ古典的で変わらないものだが、こと勉強というものにおいては、それに勝る方法はないというのはヒフミの言葉だ。

 実は最初アズサやコハルの点数を30上げるのに2週間かかっていたので、正直言って無理かもしれないという不安は心の内にあった。

 

第4回模擬試験 結果

・阿慈谷ヒフミ:79点(不合格)

・白洲アズサ:82点(不合格)

・下江コハル:74点(不合格)

・浦和ハナコ:100点(合格)

 

 だが彼女たちの成績が日に日に、そして着実に良くなっていくのを見てそれは全くの杞憂だと気づいた。

 

第5回模擬試験 結果

・阿慈谷ヒフミ:93点(合格)

・白洲アズサ:94点(合格)

・下江コハル:90点(合格)

・浦和ハナコ:100点(合格)

 

 寝食を共にし、互いの力を合わせ、互いを高め合い  

 

第6回模擬試験 結果

・阿慈谷ヒフミ:89点(不合格)

・白洲アズサ:91点(合格)

・下江コハル:83点(不合格)

・浦和ハナコ:100点(合格)

 

 時につまづいて、少し気分が落ち込んだ時もあったが  

 

第7回模擬試験 結果

・阿慈谷ヒフミ:96点(合格)

・白洲アズサ:94点(合格)

・下江コハル:94点(合格)

・浦和ハナコ:100点(合格)

 

 毎日の学びを確実に体に染み込ませ、自分のものとしていく。それを繰り返していくうちに時間はあっという間に過ぎ、気づけば第3回試験を明日に控えていた。

 

「また何か変わってたりしないよね?」

 

 今日の勉強も終わり、皆着替えを用意しているというところでコハルが皆に聞く。

 

「そうですね。今の所は……」

 

 ヒフミが不安そうにそう告げる。何せ前回の例がある以上、確実なことは誰も言えなかった。

 

「試験範囲は以前の通りで、合格ラインも変わらず90点以上。時間は午前9時開始で、場所はトリニティ第19分館の第32教室。この建物からは離れていますが、前回の試験ほど遠くはありませんね」

 

 そう話すハナコの顔も心なしか血の気が薄いように思える。不安なのは彼女も変わらないようだ。

 そうだ、俺も今のうちに不安要素を解消しておくとするか。

 

「今日はもう休んでくれ。十分に休んで、十分な状態で試験に臨むべきだ。特にアズサ、お前が不安なのもわかるが、今日くらいはしっかり体力を回復しておけ」

 

「休むのも戦略の内だ。それはわかっている」

 

「今夜の()()は俺がやっておく。だから安心しろ」

 

「……」

 

 本当かな、と言いかけるのを俺は咄嗟に抑えた。

 補習期間中は基本深夜に護衛のため建物全体の見回りを行っているのだが、時々外に出ていくアズサを見かけることがあった。手慣れた様子で周囲を警戒していくので、きっと毎晩その誰かしらと会っているのだろうと思っていた。その後を追うことこそしなかったが、その相手には粗方予想がついていた。

 

(アズサと雰囲気のよく似たあの襲撃犯……居場所さえ特定できれば先手を打てるのだがな)

 

 まぁ結局のところ、今日こそしっかり眠ってくれると信じるしかない。作戦の都合上、俺はここを離れられないからな。

 

“ひとまず今日はここまでにしよっか。みんなお疲れ様“

 

 先生のねぎらいの一言でその場は解散となり、皆それぞれの準備のためそれぞれの場所へ戻っていった。

 

 

 

 時刻は日を跨ぎ深夜の2時を迎えた。俺は建物の入り口付近の屋上から、周囲をじーっと観察していた。

 丑三つ時。百鬼夜行では午前2時あたりになると妖の類がよく現れるようになるという言い伝えがあるらしい。なんでもこの世とあの世を繋ぐ門が開きかけ、この世のでないものがその隙をついて入り込んできてしまうからなのだそうだ。

 だが、今夜ここに訪ねてきたのは、どうやら妖怪や鬼のような、そんな可愛らしいものではなかった。

 

「白洲アズサは、どこにいる」

 

 夜の闇より音も立てずに現れたのは、いつぞやかの晩に現れた高身長マスク少女だった。

 

「やはり来たか」

 

 屋上から降り立つと、俺は目の前の少女を見つめる。さらに歩み寄ってきて街灯の光に照らされたその姿は、まるで神にその身を堕とされた天使のように美しかったが、剥き出しになった額やお腹、そして背中に流した長い黒髪には年頃の少女特有の潤いを感じられない。以前(まみ)えた時に帽子の(つば)に隠れてあまり見えなかったその瞳には、ただただ光を呑み込まんばかりの虚空が広がっているだけだった。

 今回はいきなり戦闘を仕掛けてくるようなことはしない。だが考え無しにただ進んでいるように見えてその所作一つ一つには、一切の余計な動きが感じられない。素人目から見ても、彼女が優秀なエージェントであることは明白である。

 

「確かにお前の言うアズサはこの建物内にいる。だが、このままお前をぬけぬけと建物に通すわけにはいかない」

 

 今のところ戦闘の意思はない、そう判断し彼女の質問には答える。だが、目の前の少女は反応を示すことはない。

 

「……もう一度聞く。アズサはどこにいる」

 

 ただただ単調に、アズサの居場所を聞き出すだけの少女。

 

(最初からまともに話を聞くつもりはない、ってことか……)

 

 すると背後から激しい呼吸音と足音が猛スピードで迫ってくる。ふと後ろを振り返ると、寝巻きに着替えて寝室に入っていったはずのアズサがこちらへ走ってきた。

 

「……ッ、サオリっ!?」

 

 彼女はおそらく来訪者のものであろう名前を口にする。素性の知れぬ来訪者  サオリはアズサの姿を認めると、まぶたの上に載る眉の角度がほんの少し緩んだ気がした。

 

「お前と話がある。今すぐ私と共に集合場所の方に来い」

 

「なっ……」

 

 明らかにアズサが動揺した。察するにこの場では、というか俺には聞かれちゃダメな話なんじゃなかろうか。

 

「話?一体何についての話なんだ?」

 

 まぁそれはそれとして聞きはするんですけどね。素直に答えてくれるとは思えないけど。

 

「貴様にわざわざ教えるとでも?」

 

(ですよねー)

 

「レイ、ここは一旦下がってほしい。私のことは大丈夫だから」

 

 アズサが心配そうに俺の顔を覗き込む。その可愛らしさに悶絶しそうになる自分の情緒をなんとか制御し、サオリの方へ視線を向ける。

 

「……ここでやり合うのはお互いによくないだろうしな。俺がこの場を離れるからここで話してくれ、それが俺のできる最大限の譲歩だ」

 

「……いいだろう」

 

 そう言うと俺は先ほどまで定位置だった監視場所へ戻り、二人の様子を観察することにした。声こそ聞こえなかったが、話し始めてからしばらくして二人は言い争いを始めた……と言うよりはアズサが一方的に捲し立てているように見えた。収拾がつかないかに思えたが、サオリの方が伝えることは伝えたと言わんばかりに身を翻したことで、強引に話は打ち切られてしまった。

 サオリが去った後、その方に顔を向けながら震えるアズサに近づく。彼女の顔の半分に陰りがかかって、眉間には皺が刻まれている。

 

「どう、しよう……」

 

「あいつに何を言われた?」

 

「今夜、トリニティを襲撃すると、あいつが……」

 

「襲撃だと?それは一体……」

 

「あら、二人してどうしたのですか?」

 

 場が混乱する中雲の合間から差す光明のように現れたのは、体操服姿(寝巻代わり)のハナコだった。彼女も彼女で何やら外に用事があったらしい。

 

「一旦中に入って皆さんを起こしましょう。アズサちゃんも私と同じでみんなに伝えたことがあるようなので」

 

 俺たちは、彼女の言葉に素直に従うことにした。




レイ「あれ、ここで切るのか?」
作者「ここで切らないとちょっと長くなりそうだからね……」

 感想・評価お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。