透き通った世界でヒイロ・ユイを目指す話 作:Hakone8510
ちなみに私は夏よりも冬が好きです。なぜなら夏に大量発生する羽虫がいないのと、鍋が美味しい季節だからです。皆さんはどんな鍋が好きでしょうか?
さて、今回の主人公は、彼女たちの決意を見るそうです。
やや急足で寝室の方に向かうと、3人ほどの声が何やら話し合っているのが中から聞こえた。
先頭のハナコがコンコンコン、とノックしてドアを開ける。
「あら、二人もどうやら眠れなかったみたいですね」
「あはは……少しお話に付き合ってもらってました……」
「私は違っ 自分から早く寝ようなんて言ったくせに起きてるから、それを注意しようと思っただけで……!」
“結局みんな集まっちゃったね“
ため息をつきながらも、どこか嬉しそうな先生。だが呑気に雑談していられるほど、俺たちに悠長にしている暇はない。
「……それで、ハナコは建物の外に行って何をしていたんだ?」
全員が落ち着いて話を聞ける場所に位置取ってから、俺から話を切り出した。
「そうですね。では私のもってきた情報をば 」
そうしてハナコが話し始めたのは、試験会場についての情報だった。
第二次試験という前例もあり、ハナコも急な変更がないかを確かめるべくシスターフッドの知り合いに情報を聞き出しに行っていたのだそう。
そこで分かったのは、場所そのものは変わっていなかったが、日を跨いですぐに試験会場となる第19分館が正義実現委員会によって隔離されるのだそう。一応名目として「エデン条約に必要な重要書類を保護する」というティーパーティからの要請があったのだと言うが、明らかにそれ以外の理由を孕んでいながらそれを隠蔽しようとしているようにしか見えなかった。
理由からして、エデン条約が締結されるまではおそらくその建物には何人たりとも入ることは許されないだろう。
「嘘、じゃあ私たちどうやって試験を受ければ !?」
「まぁ十中八九、彼女の妨害工作だろう。お前たちに試験を受けさせないための」
「試験を受けるためには……すなわち建物に入るには、正義実現委員会による厳戒態勢を突破しなくてはなりません。いくらアズサちゃんやレイさん、そして先生の助力があっても、突破は困難を極めるでしょう」
あちらにはたった6人では手に負えないほどの人数と装備が揃っているし、おそらく増援の用意も済ませているだろう。それにあちらは別に俺たちを倒す必要はなく、ただ会場となる建物の中に入れないよう試験時間まで時間を稼げば良い。加えて顔のきくコハルがハスミに交渉したとしても、先ほどの建前的理由から「エデン条約に対する反乱分子」とみなされ、諸共トリニティを追放されてしまうだろう。
あちらさんは余程彼女たちを怖がっているようだ。
「こうなったのは……私のせいだ」
うすら目でうつむくアズサが言う。続けて彼女も自分の置かれた状況について話し始めた。
まず自分がアリウス分校の出身であること、それを理由にナギサおよびティーパーティに疑われていること、実際にアリウスはトリニティへの襲撃計画を企てていること、そしてアズサはアリウスのリーダーであるサオリからナギサのヘイローを破壊する任務を与えられたこと……その全てを曝け出した。
「私は試験に行くことはできない。桐藤ナギサを守らなくては」
「どういうこと?ティーパーティをやっつけるのがアズサの任務なんじゃ……」
「……」
そう言ってまた黙り込むアズサ。それまで一歩引いたところで話を聞いていたハナコが、ずいっと前へ出る。
「アズサちゃん
「……!」
「アズサちゃんがもしアリウスと同じ考えをもって行動していたなら、真っ先に私たちを利用しようとするでしょう。ですが数週間を共に過ごしていく中で、そんな気配は微塵も感じませんでした。心の底から楽しそうで……そして何に対してもまっすぐに向き合っていました」
目を閉じ胸に手を当てて、舞台上で大衆を前に演説するかのように話す。アズサはそれに対抗するかのように立ち上がった。
ハナコがアズサの方へまっすぐ向き合う。
「アズサちゃんは、なぜティーパーティを守ろうとしたんですか?誰かからの命令で?」
「いや、私の個人的な判断だ。彼女がいなければエデン条約は取り消しになってしまう、そうなればゲヘナトリニティの争いは続き、キヴォトスの混乱は高まる一方だ」
「だからと言って、アズサちゃんが彼女を守りにいく道理はないはずです。あの人が今まで
「だからこそなんだ、ハナコ。その混乱の中で、アリウスのような学園が生まれてしまうかもしれない。アリウスで生きてきた身として、恨みの怨嗟をなんとしても断ち切らなくてはと思ったんだ」
「 !」
彼女の瞳孔が開く。数秒後にほんの少し体勢を崩して、今度はハナコの方が俯いてしまう。
「……私もかつては、その怨嗟の輪の中にいたんです」
咄嗟にコハルが隣でハナコを支える。彼女は優しく微笑みかけてそれに応えると、声と足を震わせながらも少しづつ言葉を吐き出していく。
「要領がよく、何をしても周りからおだてられるようなタイプだった私は、あれよあれよという内にトリニティの権力闘争に巻き込まれていきいました。私はその濁流に抗うこともできず、常に仮面を被って生きてきました」
呼吸を整え、ようやく自分の足で立つハナコ。皆はそれを固唾を飲んで見守っている。
「でもある時、そんな毎日に嫌気がさして、本気でその渦から抜け出そうと決めたんです。だからこの補習授業部に入れたのは、ある意味好都合でもありました。そもそも最初から学校を退学する気だったのですから」
「「「!」」」
今度は皆の方が思わず声を上げる。だが同時に何か心得たような表情もしていた。
「なるほど、最初の方でテストの点数がすごく低かったのは、それが原因だったんですね……」
「ヒフミちゃんや先生には心配をかけてしまいましたね。でも、もう大丈夫です。普通の学園生活とは程遠いものだったかもしれませんが、アズサちゃんがこの数週間を楽しんでくれたことで、私も気づくことができたんです 学校って、楽しいものだったんだ、って」
「ハナコ……」
「下着姿でプール掃除をしたり、みんな水着で夜のお散歩をしたり……」
「ん?」
「果てには身も心も丸裸になって、いろいろなことを打ち明けあったり……❤︎」
「ちょっと待てエエェェェ!?!?!?」
ハナコの顔はみるみるうちに見慣れた満面の笑みに赤た頬へと変わり、コハルもいつものような猫目で顔を沸騰させながらツッコむ。
だがその光景は、かえって俺たちを安心させる。
「……とにかく、本当の自分をさらけ出せる人たちと、
それを聞いてふと思い出す、彼女の代名詞的セリフとも言える言葉「Vanitas vanitatum et omnia vanitas(全ては虚しい、ただ虚しいだけだ)」。この補習期間中彼女から何度も聞いた言葉だ。だが彼女はいつもその言葉に続いてこうも言っていた。
「全ては虚しい。けれど、それは諦めていい理由にはならない」
困難に直面した時、彼女はいつもそう言って真っ向から立ち向かっていった。どんな状況に置かれたとしても諦めない心、それこそがアズサの最も得意とするところ。
「だからこそ、アズサちゃんには諦めないで欲しいのです。エデン条約の完遂という思いも、皆で試験を合格するという目標も」
“……ハナコ、それはつまり“
「試験に合格する、ナギサさんも守る。両方やらなくちゃあいけないっていうのが、私たちの選ぶ道です」
トリニティ総合学園領地内、ティーパーティの拠点を擁する建物郡のうちの一つ。いつもは権力闘争に勤しむ者たちの噂話で賑わう場所だが、流石に深夜ともなれば一帯は閑としていた。ある一室を除いては。
単調な音の連続が廊下に響く。月の光のみを灯りとして、紅茶片手に執務に明け暮れるのはティーパーティの現ホストこと桐藤ナギサだった。
「ふぅ……」
万年筆をペン立てにおき、作業に一息つく彼女。ちょうどその時、大きなドアからノックが3回、決して乱れぬリズムで鳴る。
「……紅茶でしたらもう結構です。もう休んでいただいても 」
だがその返事を聞く前に、背丈の倍ほどある扉は開かれる。
「かわいそうに、眠れないのですね?」
「……ッ!?」
以前から何度か耳にした声がして振り向く。扉の裏から何くわぬ顔して現れたのは、ここにいるはずのない者。補習授業部の中でも最も疑わしかった、浦和ハナコであった。
「それもそうですよね、ナギサさん?正義実現委員会が周りにいないこの状況……不安にもなりますよね……」
「あなたは……一体何処から……!?いや、まずなぜここを……!?」
「それは勿論、
「なっ……!?」
思わずそこそこの音を立てて椅子を引き、ぎこちないながらも慌てて立ち上がるナギサ。そうしている間にも、ハナコはどんどん距離を詰めてくる。
「無論いつもローテーション通りとは限りませんから、例外的な場合もおおよそ把握しています。例えば……」
「今晩みたいに不安なときは、この秘密の屋根裏部屋に身を隠すということも……」
「ひッ……!?」
カチャリッ
あまりの恐ろしさに後ずさった瞬間、何かが掛かったような音と共に後頭部が円柱状のものがぶつかるのを感じる。
「動くな」
「……!」
「ああ、勿論ここまでの間に警備の方々は全員眠っていただきました。まさか地下にMSまで用意していたとは思いませんでしたが……大事になる前に制圧できてよかった、というべきでしょうか」
「ま、まさか……」
「ええ、そのまさかですよ……」
とうとう彼女はその場で尻餅をついて、笑顔とガスマスクに覆われた二人の形相を見上げる。
「裏切り者は、
もはや抵抗する気力すら残っていないナギサは、さらに詰め寄る二人に対してただ後ずさるしかない。
「ふふ、ふふふふふ……」
「……?」
そして、その様子を見て不敵に笑い出すハナコ。
「単純な思考回路ですねぇ❤︎私もアズサちゃんも、あの方にとってはただの駒……指揮官は別にいますよ」
「な、それは一体……!?」
「では、私たちの指揮官から伝言を預かっておりますので、お伝えしておきますね……」
するとハナコはかなりわざとらしく咳き込んで、薄ら目でナギサを見つめる。
「『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』、とのことです❤︎」
「……ッ!?!?」
ダダダダダダダダダダダダッ!!!
けたましい銃声と共に、ナギサの意識は暗闇へ沈んでいった。
作者「今回パロった部分が二つありました。どこだかわかるかな?」
レイ「だいぶ露骨というか、無理矢理感が否めないけどな……」
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