透き通った世界でヒイロ・ユイを目指す話 作:Hakone8510
昨今の急激な気温降下に加え、雨と低気圧によって俺のカラダ(主に鼻と体調)はボドボドだァ!……はい、みなさんは私のようにならないよう、体調に気をつけてこの冬をお過ごしください……。
さて、今回の主人公は、いよいよ核心に迫るようです。
「なるほど、ミカが……」
開きっぱなしの無線から聞こえてくる内容で、俺は先生たちの状況をあらかた把握していた。どうやら正義実現委員会やその他トリニティの自治組織を抑え、今回のアリウス襲撃を助けたようだ。そしてその裏には、ゲヘナを壊滅させるという大きな目的もあるとのこと。
(権力者の胸中はわからんな)
刹那、緑色の光の粒子が散り散りになるのが視界の端に映る。ほんの少し遅れて強烈な破裂音と火花の音が、右の鼓膜を破壊せんばかりに雷鳴のごとく鳴り響く。
『私を無視して考え事か?随分と私に対して余裕を持てるようになったな』
「無視などしていない。耳は傾けていたがな」
『ならば、力づくでも私だけを見てもらおう!』
台詞だけ見ればなんともラブコメのパワー系ヒロインが主人公に押しかける際に言ってそうな文言だが、この状況に至っては情熱的なときめきは一切感じられない。別の意味で緊迫感は高まったけど……。
「ッ!」
相手の動きがさらに機敏になる。実体ランスによる連続突きを時にかわし、時には弾いて防ぐものの、そろそろビームサーベル一本で戦うのも限界だ。武装が軒並み強力無比というのも考えものだな……今度市街地戦用の武装も考えてみるか。
「だがッ!」
『!』
ビームサーベルを逆袈裟に斬りかかり、敵のランスを弾き飛ばす。よし、ひとまずは……
『フン!』
ダダダダッ!!
すると相手は即座に円形の盾を正面に構え、その溝から無数のミサイルと柱のように並んだビームが発射される。まるでどこぞのギャンのような、武器内蔵型の盾だ。
「くっ」
なんとか間一髪で本体へのダメージは最小限に抑えることができたが、防御に使っていた左の主翼が被弾して一部が破損してしまった。まぁガンダニュウムといえど完全にダメージを防げるわけではないので、こればっかりはしょうがない。機体のバランスは多少乱れているが、普通に戦う分には依然問題ない。
そして。
「はぁッ!」
『なにッ!?』
追撃しようと接近してきた相手に対し、俺も同じく敵機に突っ込む!おそらく相手方はダメージを負った後だし一旦距離をとるだろうとでも考えたのだろうが、
ザシュッ……!
確かな手応えとともに敵機の持っていた盾ごと肘から下の左腕が、SNSの料理写真や動画でよくみるような綺麗な断面をこちらに見せながら人気のないところへ落下していく。
『ちぃっ!』
思いの外大きなダメージを負ったためか、逆に相手の方が身とマントを翻して後退する。こちらも呼吸を整えるために距離を取り、両者ともにもう一度武器を構え直した。
両機もう一機モビルスーツが入るほどの間があり、そこを朝焼けに照らされた鳩が数羽飛んでいく。最後尾の鳩が鳴き声を上げながら通過した瞬間、二機は己の全重量をかけて再度激突した。
ガシャアァァン!!!
電流が接触点から外へと激しく迸り、体ごと剣を押し合う両機の
先に痺れを切らしたのはイクサの方だった。空中での巧みな機動によりウイングゼロの頭部をマントで覆い隠したのだ。いわゆる
「くっ……!」
この程度では目隠しにもならないが、それは相手も承知のこと。彼女の真の狙いは、一瞬でも被されたマントに意識を向けさせることにある。そう思ってはいても、つい反射的に行動してしまうのが人間の性というもの。つい後ろに下がって視界を広げようとするも、そこにはすでに敵機の姿はなく、あるのはヒラヒラと宙を舞うマントがあるだけだ。
「ッ!」
グシャッ……!
背後からの渾身の一刺しをなんとか回避するも、破損した左主翼とそれから覗いていた左腕がまとめて持っていかれてしまった。
『今のを避けるか!』
「こんのおぉぉお!」
相手を引き込むように腰を捻り体勢を強引に変え、そのまま直上から真下へ一気に振り下ろす。すんでのところで回避されたので頭部や胸部などの上半身には当たらなかったが、足先まではおろそかになっていたようで左足の腿にかする。ビームサーベルの柔軟性によってその傷跡に先端が引っかかり、その勢いで相手の体勢が崩れる。時間にして数秒の、しかしこの戦いにおいてはあまりに大きな隙が生まれた。
「そこだあぁぁぁッ!!!」
『舐めるなぁぁぁッ!!!』
ズガアアアァァァン!!!
二人の剣が交錯し、互いの体を貫いた。
“レイ!!!“
ミカと補習授業部の戦いの最中。銀色の空に散るウイングゼロを見て、先生は悲鳴を上げた。
あまりにも悲痛な先生の叫びに補習授業部の四人は皆攻撃をやめ、蒼白の顔で落ちていく翼の生えたモビルスーツを見つめている。中でもハナコは特に大きく目を見開いて口を両手で抑えており、今にも何か吐き出してしまいそうな面持ちである。
「あーあ、あんなにバラバラになったら直させるの面倒じゃん。やっぱ
そんな雰囲気の中、ただ一人文句を垂れながら唇に人差し指を当て悩む仕草を見せるミカ。先生と会ったときと何も変わらないその態度が、かえって周りから見れば浮ついていた。それでいて部外者一人の命に少しの興味もないみたいに喋るその様は、人を人とも思わぬ化け物……「魔女」を想起させた。
そうしているうちに、遠くから何か巨大なものが落ちたような音が、五人の体を震わせる。それに耐えられずに先生は俯きながらへたり込んでしまった。いつもやわらかく品の良い顔は苦悶の色に染まってひきつっており、その様子はまるで自分の内にあるものを必死に押さえ込んでいるかのようだった。
そんな状態の先生の横に、一人の生徒が立つ。
「先生」
アズサの声である。先生はピクッという僅かな身動きで反応した。
「聖園ミカを止めよう。これ以上彼女に何も失わせないために」
“……“
「それに……確かにモビルスーツの自壊による爆発はキヴォトスの生徒でも致命傷になる。けれど、全員が全員助からなかったわけじゃない」
視線は地に伏す先生に、しかし空を見ながら彼女は言う。その言葉には自信が備わっていた。
「彼女のタフネスを信じよう。今は彼女を倒さなくては」
“……そうだね、ありがとうアズサ“
先生は膝立ちを挟んで徐々に立ち上がる。彼が見据えるのは、今は倒すべき大きな「壁」。
“補習授業部、行くよ!“
「まだ続けるんだ?なら、満足するまで
天使と悪魔の
「くッ、イタタ……」
気を失ってから一番最初に戻った感覚は痛覚だった。手足の指を閉じたり開いたりして、ひとまず体の欠損がないことだけは分かったが、耐え難い暑さと焦げ臭い匂いに堪らず目を開ければ、真っ赤なフィルターの先にボロボロになったコックピットがあった。液晶はところどころが黒塗りになっており、配線コードがあちらこちらから飛び出し、コンソールからは火が上がっている。
撃墜されたのか、俺は……。
「なんとかコックピットへの直撃は免れたが……」
画面割れしているもののなんとかまだ動くコンソールを見てみれば、機体の各部が「CAUTION」の文字で埋め尽くされてしまっており、もうほとんど使い物にならないことが明らかであった。
辛うじて動くコックピットハッチの開閉ボタンを押すと、5cmくらいの隙間が頭上にできる。搭乗口のドアが歪んでまともに開かなくなってしまってはいるものの、間に指をかけて強引に開けようとすれば開けられそうだ。
「あんまりちゃんと使ってやれなかったが……ありがとう」
コックピットから出る直前、爆発寸前であまり悠長にはしてられないが、特徴的な球状のレーダーに向かって今までの礼を言っておく。思い出せば俺の運命はこの機体と出会ってから動き始めたといっても過言ではない。俺にとっては恩人であり友人であり、そして師匠でもあった。いくら感謝してもしきれない。
腕に無理矢理にでも力を入れ、コックピットから這い出る。さっきの返事のつもりか、レーダーのピピピ、という音が聞こえた気がした。
特に出血のひどい左肩を押さえながら、よろよろとウイングゼロを離れる。広場のようなところに着陸したようで、特に何か倒壊したようなものは無さそうだった。
(ひとまず、先生と補習授業部の方に連絡しなくては……)
といっても通信機は先の爆発でダメになってしまったし、携帯電話は任務だからと建物に置いてきてしまった。そしてここから集合場所まではどう考えたって2kmはあるし、この怪我の状態も鑑みるに、あっちに着く頃には始業のチャイムが鳴ってしまっているだろう。それでも、歩いて変える以外に方法が思いつかないので、なんとか道中に公衆電話があるのを祈るばかりだ。
そう思って、歩みを進めようと足を踏み出した瞬間だった。
「待……て……」
彼女のものとは思えぬ微かな声が聞こえて一瞬固まってしまったが、声質に聞き覚えがあって確認のために振り向く。
「イクサ!?」
そこには俺の想定通り、俺以上に酷い怪我をして落下現場から這いつくばるように出てきたイクサの姿だった。足や腕はありえない方向に曲がっており、至る所から血を吹き出している。頭上に浮かぶヘイローも寿命の近い蛍光灯のように危なげに点滅しており、誰から見たって彼女が瀕死であることは明らかであった。
思わず俺は彼女の方に駆け寄り、今にも力尽きそうな彼女を抱き上げる。
「おいお前、大丈夫なのか!?」
「もん…だい…ない……」
「その状態を見て問題ないと言うやつがどこにいる?待ってろ、今応急処置を 」
敵とはいえ一人の人間の命。まだ救えると言うのなら救わないわけにはいかない。それに不可抗力ではあったものの、俺もビームサーベルを相手に刺し返したのはまごうことなき事実だ。エゴと負い目の二つの感情が、今の俺を突き動かしていた。
破れてボロボロになったミレニアムの白いジャケットを引き裂き、怪我をしている部分に優しく巻きつけ始める。化膿や感染症を防ぐため傷口を清潔な水や消毒液で洗うのが本来は望ましいのだが、生憎そのようなものは持ち合わせていないので、とにかくできることをやらなければ。
「こんな情けは、いらない……それよりも、私と戦え……!」
イクサは俺の処置を受けながら、うわごとのように呟き続ける。
「この状態で満足に戦えるか、ボケ」
「違うのだ……!」
俺が首を横に振ると、ならうように彼女もゆっくりと首を横に振る。
「私は、確かに戦狂いだ……それに、これだけ……これだけ勝敗が、はっきりついていれば、さすがの私も、諦めがつくというもの」
イクサは俺の肩を借り、ふらつきながらも立ち上がると、垂れ下がった赤い長髪の隙間からこちらを真っ直ぐ見つめてくる。
「だが、今回ばかりは、違う……
「あのお方?そいつは一体 」
光。
まばゆい黄金の光が俺の横を
「かはッ!?」
自分に何が起こったのか、全くもって分からなかった。唯一分かっているのは、とんでもない速度で何かがぶつかってきて、それにより俺の体は大きく吹っ飛ばされたということだけだった。
「余興は楽しめたかい?“ガイア“」
もんどりうって床に跳ね転がり、体勢を整える暇もなく喉元に突きつけられたのは二又に分かれた槍の穂先だった。柄を辿って視線を上げれば、そこにいるのは白く光輝く髪をもった、神秘的な雰囲気を纏う少女だった。
「ご苦労さまでした、“ゼウス“」
そして、その後ろで愉快そうに拍手しながら近づいてくるのは、黒い白衣*1を着た顔のない男だった。
「今のあなたにとっては初めまして、でしょうか。
「誰だ、お前は……」
「あなたの創造主、と言ったら?」
創造主。その言葉に心臓が一段と強く鼓動する。
アフロディテの言っていたことが正しいのなら、俺たちはタイタン……人工的に造られた生命。
(コイツだっていうのか……俺たちを作り出したヤツは……!)
「ああ、自己紹介がまだでしたね。私の名前はクロノス、とでも呼んでもらいましょうか。そして今君の生死を握っている者は君の片割れ……『黄昏のゼウス』ですよ」
「クロノス……ゼウス……!」
視界がふらつく。もはや目を開けることすら難しくなってきたが、なんとか意識を保って黒幕の話を聞いている。顔のない黒の白衣を着た男は、俺に話しかけながらも徐々に徐々にこちらへ近づいてくる。
「長ったらしい諸々の説明は後にしましょう。ひとまず、君の身体を預からせてもらいます」
「や……めろ……」
ついに全身に力が入らなくなり、その場にうつ伏せで倒れ込む。半目になりながらも近づいてくる黒い両の手を、全てを諦め受け入れようとしたその時
「あら?ここで諦めるなんて あなたの目指す
「 え」
あまりに予想外な声に、そんな気力も残っていなかったはずなのに、微かではあったが驚嘆の声が漏れ出た。突如襲来してきた二人を退け、俺を庇うように前に立ったのは、いつぞやかに話した可憐な少女の姿だった。
「もう安心して、私がきたわ!」
どこぞのヒーローみたいなことを高らかに宣言しながら、峯山オカは舞い降りたのだった。
レイ「思えば俺の運命は……ここから大きく動き出すことになったんだな」
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