透き通った世界でヒイロ・ユイを目指す話   作:Hakone8510

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 どうも、冬本番となり冬の味覚を存分に堪能しているところのHakone8510です。
 前にも言った気がするのですが、鍋が美味しい季節になりましたねぇ。寄せ鍋に鳥味噌鍋、ラーメン鍋にチゲ鍋、白胡麻坦々鍋……まぁ毎日やると腹一杯になってしまうので、ほどほどにしておりますが。

 さて、今回の主人公は、物語の転換点へ向かうようです。


人は敗北なくして成長しないって話。

「何者ですか」

 

 突然の来訪者に距離を取った「クロノス」と「ゼウス」、そして(くだん)の来訪者ことオカがいつもの服装でない、連邦生徒会の制服のような妙にかっこいい格好で向き合っている。

 

「あら、私の顔面が変わったから分からなかった?でも流石に、私の()()()()()は覚えているわよね?」

 

「あなたは……まさか!?」

 

 先ほどまで落ち着き払っていたクロノスが、頭頂にピアノ線が吊ってあるようにピンとしていた背筋を僅かに崩す。

 

「……クックック。なるほど、そういうことでしたか」

 

「クロノス様。一人で納得して一人で不敵に笑わないでください」

 

 肩を震わせて含み笑いする男にすかさずツッコむゼウス。一通り笑って気の済んだクロノスは、無い目をオカのと合わせるように姿勢を正した。

 

「君だったのですね、()()()()()()は」

 

「「!?」」

 

 クロノスは恍惚とした表情で  顔がないというのに顔が赤いというのも変な話だが  粘着質で嬉しそうな声を出した。え、気持ちわるっ*1

 本物のガイア?どういうことだ、今までわざわざ先にガイアと呼んでから今の名前を言われるくらいには「ガイア」だと認識されていたはずだが……それに関して半信半疑ではあったものの、まさか本当に別の人のことだったとは……。

 オカは心底気色が悪そうに吐き捨てる。

 

「あら、ようやく気がついたのかしら?」

 

「機嫌を悪くしないでください、マイハニー。私が君以外見向きもしないというのは、他ならぬ君がよく知っているはずでしょう?」

 

「そういうところが嫌いなのよ、クロノス」

 

 突然人が変わったように馴れ馴れしくなるクロノス。対して今度は取り繕いきれなくなったのか、本格的に顔を引き攣らせるオカ。しかし彼女の意思とは裏腹に、二人の間には完全な二人だけの空気感が漂っていた。

 

「このまま君と痴話喧嘩を続けても良いのですが、ひとまず置いておきましょう。今は重要事項を片付けることが先決」

 

「勝手に今のやり取りを痴話喧嘩にしないでもらえる?」

 

 納得いかずについ反論するオカ。一方クロノスはそんな彼女の言葉を半ば無視して話を続ける。

 

「……作戦変更です、ゼウス」

 

「はっ」

 

「偽物のガイア……暁月レイを即刻処分しなさい」

 

「御意に」

 

 俺が反応するよりも先に、ゼウスが動いた。誇張でなく光の速さで眼前まで迫ってきたかと思うと、今度は本当に串刺しにする勢いで槍を突き出してきた。

 

「ッ!」

 

 穂先が俺の頭に刺さるその直前、視認できない「何か」によってその槍は大きく弾かれた。

 

「“混沌“の権能ですか……敵に回ると非常に厄介ですね」

 

「彼女を失うわけにはいかないのよ。大人しく引き下がってくれるとありがたいのだけど……」

 

「なぜです?彼女はあなたが造り出した影武者。こうして私たちに露見した今、生かしておく必要などないのでは?」

 

「……そういうところが嫌いっての、いまだに理解できていないようね」

 

 そう言いながらオカは終始置いてけぼりの俺を持ち上げ、今度はうすら目で二人を見ている。

 しばらく睨み合いが続いていたものの、先に顔を下げたのは相手の方だった。

 

「……良いでしょう。あなた相手では今の戦力では足りませんし」

 

「あっそう。そのままもう二度と目の前に来ないでもらえると助かるんだけど?」

 

「そういうわけにもいきません。ですが、今回は大人しく引き下がってあげましょう」

 

 クロノスがそう言い終わるのと同時に、タイミングを見計らったかのように巨大なヘリが突然上空から現れる。

 ババババというブレード音と共に強い向かい風が体を突き抜ける。その中でゼウスはイクサを抱えながら先にヘリヘと乗り込み、それに続くようにしてクロノスもヘリの方へ向かう。乗り込みざま、クロノスは僅かにこちらへ振り向いた。

 

「またどこかでお会いしましょう、我らが女神よ」

 

 祈言(いのりごと)のような台詞と共に、彼らの姿は霞のように消え去った。

 

「ふぅ、ようやく帰ったみたいね。全く、気色悪いったらありゃしないわ」

 

 はっきりと通る彼女の声。しかし今はどこか遠く聞こえる。

 

「大丈夫?  って、その様子は流石に大丈夫とは言えないわよね……」

 

 語尾の端から耳に入らなくなっていく。例え入ってきたとしても、脳がそれを受け付けてくれない。

 

「疲れたでしょう?そのまま眠ってしまっても構わないわよ」

 

(駄目、だ……)

 

 俺にはまだ役目があるのだ。試験へと向かうみんな(補習授業部)を無事送り出し、その結末を見届けるという役割が。

 それに……

 

(あんたには、まだ、聞きたいことが、山ほど……)

 

「安心して。私がついているから」

 

 囁き声と共に俺は意識を手放し、心地の良い暗闇へとその身を沈めていくのだった。

 


 

「しかし、MS戦とはいえあのアレスをねじ伏せるとは。影武者といっても、どちらかといえば劣化コピーと言ったほうがいいのだろうか?」

 

「その可能性は大いに考えられる。何せ『混沌』の権能に関しては、我々でさえその全貌を掴めていないのだからな」

 

「対の存在である私の攻撃さえ無力化するとは……あのメカニズムは一体……」

 

「お、始まってるー?」

 

「アフロディテ、アレスの容体は?」

 

「命に関わるほどの怪我じゃなかったよ。怪我自体は重症だけど、アレスのことだから4、5日もすれば治ると思う」

 

「そうか……」

 

「でもねぇ、ちょっと気がかりなことがあって」

 

「何だ?」

 

「精神状態が芳しくないの。具体的にいうと、今までピンとしてた軸が今はブレブレってカンジ」

 

「あの戦バカなアレスがか?そんなまさか」

 

「私も一度見舞いに行ったが、そんな様子はあまり感じられなかった。なにを根拠に?」

 

「うーん、私の能力由来だから信じてもらえないかもだけど……私って意識を集中させると、その人の心の機微が『波長』として見えるようになるの」

 

「『波長』……地震計みたいな風に?」

 

「そそ。落ち着いてる人ってその波長が大きく動くことはないんだけどさ、今のアレスを見たら、安静にしてるはずなのに波長が山あり谷あり、心のアンデス山脈かよってカンジ」

 

「……その例えはよく分からんな」

 

「とにかく、しばらくは彼女のコト気ィ遣ってあげてねって話」

 

「分かった。善処しよう」

 

「お話は終わりましたか?」

 

「クロノス様、聞いていらしたのですか」

 

「アレスの精神状態に関しては時間が解決してくれるのを待つしかありません。アフロディテの言う通り、気長に慎重にいきましょう」

 

「してクロノス様、わざわざここに出向かれたと言うことは……」

 

「ええ。我々が数百年前より練り上げてきた崇高なる計画、その前途がようやく開かれようとしています」

 

「そのために技術を少しづつ現界へ流し、アリウスとも手を組んだ……」

 

「かつてより巨大な力を持つトリニティとゲヘナが沈めば、残すはミレニアムのみ。そのミレニアムも資金難により徐々に傾きつつあります」

 

「これは壮大なる計画。今の世界には犠牲になってもらうほかない」

 

「我々の望む世界のために」

 


 

「……ん」

 

 最初に感じたのは風だった。右から左へと吹き抜けていく心地の良い風が、俺を優しく揺り起こしてくれる。

 

「う……」

 

 次に感じたのは光だった。瞼の上から静かに照らす朗らかな陽光が、目覚めた意識を緩やかに覚醒へと導く。

 

「これは……」

 

 最後に感じたのは匂いだった。太陽に照らされた植物の独特な匂いが、先ほどの風に乗って俺の元へ運ばれてくる。

 その風にチューリップのような優しい甘みを感じることで、初めて(かたわら)に人がいることに気づいた。

 

「おはよう」

 

「……オカ」

 

 峯山オカは最後に見た姿と何一つ変わらぬ格好で、それでいてクロノスたちと対峙したものとは正反対の気配を漂わせながら丸いすに座っていた。

 辺りを見回す。周りには開かれた仕切りのカーテンとずらっと並ぶベット、白で統一された清潔な家具の数々。自分の体を見下ろせばところどころに巻かれた包帯とガーゼ、左腕には点滴まで打たれている。

 

「丸三日眠ってたのよ、あなた」

 

 自分の置かれた状況をようやく理解した瞬間、それまで外でカットされていた痛覚や疲労がドッと脳になだれ込んできた。四肢や腹に力が入らなくなり、気づいたオカの手を借りベットに仰向けで倒れた。

 

「しばらくは動けないわ。今は安静にしてなさい」

 

 もはや抵抗する気力さえ尽きていたので、大人しく従うことにする。何の用途も知れぬでこぼこの天井を見上げながら、自分の体に身を任せてゆっくり瞼を閉じる。

 

(これが、知らない天井ってやつか)

 

 歯噛みしたい気持ちを抑え、今度は自分の意思で意識をシャットダウンした。

 

 

 

 数日後、多少動けるようになってから、先生は病室にやってきた。そして、この間のことの顛末を彼から聞くことになった。

 あの後、アリウスに囲まれ絶対絶命だった補習授業部と先生は、かつてトリニティを席巻していた部活シスターフッドの介入により形成逆転。敗北を悟った主犯のミカは降伏、侵入したアリウス生徒数十人とともに拘束され、後に正義実現委員会によって連行されていったという。

 ヒフミ、アズサ、ハナコ、コハルの四人は試験に無事間に合ったようで、全力を尽くした結果見事全員合格。「補習授業部」は、晴れて解散となったそうだ。ただ先生の話では解散後もよく行動を共にしているそうで、今日も来がけにお出かけ中の彼女たちに会ったそう。

 

“「私たちのことをいつも気にかけてくださり、ありがとうございました」、そう君に伝えてほしいと言われたよ“

 

 そう言って先生から渡されたのは、頭が割れた水色のフクロウみたいなぬいぐるみ。タグを見てみると「ビッグブラザー」と書かれている。何とも彼女らしい贈り物だ。

 

“君のモビルスーツが爆発した時は心臓の冷える思いだったけど……生きててくれて、本当に良かった“

 

「……心配をかけた」

 

“いいよ。今度からは自分の命を第一に考えてほしいかな“

 

「分かった」

 

 親身に接してくれる彼に、ふとかつての父親の姿が重なる。もう大分前世の記憶は薄れてしまっていたが、今の先生は物静かながらに俺を気遣ってくれていた父を思い出させてくれた。

 

「ありがとう、先生」

 

 口の端が痛いが、もはやそんなものは気にしない。不器用ながらもはにかむ俺に、先生は微笑んで見せた。

 

「良い雰囲気のところ悪いけど、お邪魔するわ」

 

 そう言って病室のドアから現れたのは、またもやオカだった。今度はパリッとしたあのスタイリッシュな格好ではなく、柔らかくふんわりとしたスカートのワンピースを着ている。

 

“君がレイを助けてくれた子だね”

 

「お初にお目にかかります、先生。もっときちんとしたシチュエーションであなたとお会いしたかったけど……改めて自己紹介をば。私は峯山オカ、『オアシス』の祖にして運命を憂う者」

 

“私は連邦捜査部『シャーレ』顧問の先生だよ。よろしくね“

 

 二人がにこやかに握手を交わす。目線こそ俺と同じかそれより低く見えたが、背丈はほとんど先生と同じように見えた。

 

「初めましてなのに仲良く見えた?実はあの後あなたを安全な場所に移送してから、先生に連絡を入れていたのよ」

 

 彼女は悪戯っぽい顔で笑う。

 

「それは別にいい……で、お前も何か用事があってきたんじゃないのか」

 

「そうね、今日は一つ提案があってここに来たの」

 

“提案?“

 

「ええ、そしてこの提案は二人にとって、きっと喜ばしいものになるはずだわ」

 

「喜ばしいもの……それは一体?」

 

 

 

「神へと至る過程……その全てを、あなたにお教えしましょう」

 

 人という歯車はとうとう噛み合い、組み込まれた巨大な運命という機械が音を立ててゆっくりと、しかし確かに動き始めたのである。

*1
個人の感想です。




レイ「この提案がのちに、地獄を見ることになるとはこの時は知る由もなかった……」
作者「それお前が言うんかーい」

 さて、これにて第四章「遠き彼方の楽園」は完結となります。ようやく真実が明かされ始め、レイの身分についても明らかになりました。次章では、更なる真実が彼らを待っていることでしょう。
 次回更新は2025年12月19日を予定しております。乞うご期待。
 感想・評価お待ちしております。
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