【完結】泳者(プレイヤー)名「葦名一心」   作:ムーンフォックス

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葦名の剣聖 呪術に現る。

 

 簡素な御殿にて白髪の老人──葦名一心は一人で静かに酒を呑み干した。どぶろくと呼ばれるこの濁り酒は実に濃醇であり、彼のお気に入りの一杯でもあった。

 

「──して」

 

 ゴクリ、嚥下され広がる味わいを確かめた後。一心は眼前に座る男を一瞥した。名も知らない男であるが、例え次の再会が100年後であろうと、彼はその男を忘れることは無かろう。

 それもその筈、その男の頭には()()()があるのだから。

 

「今、なんと言ったかもう一度、申してみよ」

「一度とならず、二度。私は羂索。平安時代より生きる呪術師だ。葦名一心、貴方に来たる死滅回遊の泳者(プレイヤー)になってもらいたい」

「ぷれ……?」

「参加者──と、この国では言った方が良いかな?」

 

 羂索、そう名乗る男は物音一つせず階段から平然とあがってきた。少なくとも、ただならぬ男であることは間違いない。

 今、葦名一心の脳裏に過ぎるのは数多の事柄。この階下にいた三人の寄鷹衆は? この男は何者だ? 死滅回遊とは?

 何故、自分なのか?

 

「──その死滅回遊とやら、開催はいつに?」

「恐らくは……500年も先になる」

「500年……か、カカカッ! 明日にでも死ぬであろう この老いぼれに、500年先まで生きろと!」

 

 哄笑、当然だ。彼の言う通り葦名一心の体は病に侵され、近い内に死ぬ。目の前の男の大言壮語に付き合えるほど命に暇は、無い。

 

「問題ない。死滅回遊は死後巡る呪いの諍い。死後呪物となった貴方は未来で受肉し、その時代で存分に──殺死合(ころしあ)っていただいてもらいたい」

「……良いだろう。構わん」

 

 尤も、それが大言壮語で夢のまた夢だとしてもやはり戦というのは常に──血が滾ってくる。眼前の男が狂人かはたまた時をかける神と呼べる存在だとしても、戦ができるのならば、それを拒む道理は無い。

 

「ふむ、『縛り』は成立だ。また会おう──恐らくは、500年後の世で」

 

 羂索の姿が一瞬で消える──止まった時が動き出したかのよう、階下から悲鳴と怒号とあらゆる声が聞こえた。

 寄鷹衆の一人が一心の身を案じ階段を駆け上がる。

 葦名一心は何事も無かったかのように、手にしていたどぶろくを口に含んだ。

 

 

 

 

 ──故に、だろうか。死と言うものに葦名一心はついぞ恐怖を感じることが無かった。

 

 幾重の剣閃が交わされる。攻撃を挟んだ後の己の突き──踏み込みで見切られる。

 

 ──だが、負の感情というのがそこにあるとするならば。

 

 眼前の男の攻撃を横に避け回避する。瞬時掴もうと手を()へ寄せる──後ろに跳ばれ回避された。

 これはエマに教えた合気道。故に彼女もそれを使ったのだろう。だから、対処の方法も知られていた。

 

 ──それはきっと。

 

 否──後ろに跳んだだけでは無い。体勢を低くしている、刀を水平にし、その鋒を胸にまで近づけている。

 その構えには見覚えがあった。あれは、大忍び(ふくろう)の奥義──

 

 奥義・大忍び刺し。

 

 気づいた時にはすでに遅し。尋常では無い速度での『突き』、回避することは叶わない。さらに踏み台にされ()が高く飛び上がる──

 

 咄嗟のことで体幹が限界に達する。

 

 「体勢を立て直す」──そう判断したのと()──否、『隻狼』が、一心の喉元に刀を突き刺したのは、同じタイミングであった。

 

 いやまだだ、まだ死ねない。最後の力を振り絞り、決死の覚悟で刀を振るう。その刃が少しでも、かの者に纏わりつく修羅へ届かんとするために。

 

 暫しの鍔迫り合い、

 弾かれる己が刀、

 その間隙を逃してくれるほど、相手が弱いと思ったことは一度も無い。

 狼の、一振りの慈悲も無い一閃が腹を裂いた。

 

「……隻狼よ」

 

 お主を、お主を

 

「斬って……やれぬか」

 

 地面に膝をつき、やがて倒れる。

 そう。負の感情があるとするならば、それは悔恨。彼の目には確かに修羅と、そして人としての二つの側面が写っていた。だからこそ、賭けたのだ、可能性に。

 

 もしかすれば、狼が修羅を断ち切り不死断ちを果たさんとする世界もあったかもしれない。もしそんな世界があれば、ひょんなことから葦名一心は全盛の姿に戻り、全力を以て殺り合えたかも知れない。

 

 そうはならなかった。

 あの時に、斬っておけばあるいは──。

 

 

 失意の中、葦名一心の意識が消えていく。

 

 故に彼は目覚めたのだ。

 

 死滅回游に、

 呪いあい、のがれる術のない。廻りつづける戦に。

 

 

 

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