【完結】泳者(プレイヤー)名「葦名一心」   作:ムーンフォックス

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 今回の話は少しばかり長く、一部特殊タグが使用されています、ご注意ください。



隻狼

 

「……あれは何だ」

「あれって?」

「惚けるな」

 

 呪霊操術により手駒とされた天元が、羂索へとそう問いかける。決戦の12月24日まで羂索は動くことができない、宿儺の近くにいなければ五条悟に殺されるからだ。

 

 猛特訓を重ね決戦に備える高専術師達に対し、宿儺一行にやれることは限られる。宿儺が受肉する今の肉体──伏黒恵の術式である十種影法術の式神達を全て調伏する程度であろうか。

 もっとも調伏の儀は一人で行わなければならないため、結局羂索がやれることは無い。

 

 テレビを眺める。ポテチを一つまみ、喉が乾いたから今度はコーラ、甘い炭酸が舌の中で弾けた。

 観ているのは映画では無い、一つの現実だ。怨嗟の鬼と戦う葦名一心達の姿。

 だが天元が疑問を抱いたのはそれと戦う一心達では無い、その相手──怨嗟の鬼、その奥にいる修羅だ。

 

「何を言う。仮に人間が500年老いればどうなるかなんて、貴様が一番良く知ってるくせに」

「なんだと?」

「あれは貴様が手に入らなかった時に備えたサブプランだよ」

 

 天元の術式は不死、だが不老では無い。故に彼女には500年に1度、適合する人間と同化する必要がある。

 

「元々葦名という地には興味があったんだ。古来より不死の伝説は数多くあるけど、中でも葦名はその噂が抜きん出てる、必ず何かがあるって思ったね」

「それで結果は?」

「散々だったよ、目が赤く成る代わりに死ににくくなるだけの薬とか、身体に蟲が巣食うことで死んでも死ねない身体になったりとか、そうそう、鬼仏で休息したら殺した人も復活するなんて話もあったね、休息するっていうのが何なのか良くわからなくて断念しちゃったんだけど──それらすべてが、貴様のような完全な不死には程遠かった……でも一つだけ確かな収穫があったのさ」

「それが、あの鬼だと?」

 

 映像では乙骨がちょうど、怨嗟の鬼へ反転術式をアウトプットしていた所だ。だがその説明が確かならばあれは天元と同じく呪霊に近いというだけ、効き目は薄いだろう。反転術式が流される──祓いきれていない。

 なるほど──写真には映らない筈の呪霊が、今回に限り見えているのはそれも関係があるのだろう。

 

「その通り。『竜胤』──初めてその存在を聞いた時は心が躍ったよ。蟲憑きのように不死を保つ為の核を必要としない正真正銘の不死、だけど500年前にその竜胤の技術は失われてしまった。そして彼はその竜胤の契りを受けた最後の存在、とでも言うべきかな」

「ならば何故雷や反転術式が効いている? 不死ならばそもそも攻撃など通るわけが無い」

「ああ、あれはね──」

 

 パチリ、羂索が潰したのは一つの種子。その道に通じる者が見れば、それが紫華鬘の種子であることに気づくだろう。潰された瞬間、大きな音が響いた。

 

「幻術さ、といっても葦名じゃあ幻術幻影や亡霊なんてそこまで珍しいものじゃない、この種鳴らしもそれに対抗する術の一つ。逢魔ヶ時は呪術的な意味合いを多く含む。私もその時間に蘇った亡霊と戦わされて困ったものだった。まあ死滅回遊で本当に蘇っちゃったけどね」

「幻影だと? あの領域内の誰も気づいてないというのか?」

 

 羂索の小粋なジョークを意に介さず、天元が問いかけた。少しばかり残念そうは顔を見せ、しかしすぐに元の表情に切り替え答えが帰ってくる。

 

「ただの幻術じゃない、それにあそこは彼の領域、術式効果が底上げされているし──結界術の心得でもあったのかな? 或いはずいぶんと立派な幻術使いを師に持ったらしい。だいぶ精巧な幻影さ」

 

 怨嗟の鬼が左腕を伸ばし二度回転、炎の壁が立ち昇る。外部から烏鷺亨子が術式を使って上昇するのが見えた。

 

「ならば本体はどこにいる? あれが幻影なら出している本体がいる筈だが」

「さあね……私が取り込んだと思ったのも幻影だった、だから制御下を時々離れたんだ。彼がその本体を炙り出してでもくれたらいいんじゃないかな? 天元が手に入った以上、興味も無いしね」

 

 『リカ』による呪力の高出力指向放出。避けようとする怨嗟の鬼の足が真希と一心に斬られ動けなくなり、怨嗟の鬼はそのまま祓われた。

 

「さて、彼は果たして生き残れるかな……」

 

 ポテチが底をつきる。補充しなければ、

 テレビを切り、羂索が戻ることは無かった。

 

 


 

 

 左腕の忍義手が音を立てる。奏でられる刃と刃とが擦れ合う音、腕を振るってそれは放たれる。

 遠距離から投げられたそれを弾かんと刀を構え──一心は己のガードを超え、それが肉に食い込んだのを見た。

 

「……手裏剣か」

 

 バネ絡繰りにより貯められた回転は一撃で終わることはなく、その鋭利な刃で一心を切り裂き続ける。

 その手裏剣に貫き独楽という名があることを一心は知らないが、長時間受けることが危険なのを理解する。

 咄嗟に掴み投げ捨てた手裏剣、その動作に割いた時間は隻狼の次なる動作に気づかせない。

 

 瞬きする間に距離を詰められる。

 ──派生攻撃・追い斬り。

 

 大きく踏み込まれ一瞬で刀を振るわれる、動きが素早く弾くことができなかった。だがこの距離ならばこれは防げまい、納刀からの抜刀──隻狼には弾かれる、想定済みだ。真の狙いはその後の下段攻撃。

 だが隻狼は跳躍、攻撃直後の隙だらけの一心を踏みつける。

 

「グゥ……ッ!」

 

 生まれる隙、逃すほど相手は弱く無い。ならば次は如何様な攻撃を仕掛けてくる?

 

 隻狼が持つ不死斬りが赤く染まる。瘴気で溢れていく。

 

 ──奥義・不死斬り。

 

 弾かんと刀を構え──一心を襲ったのは、これまでに受けたことの無いような凄まじい衝撃であった。

 

 不死斬りの恐ろしさはただ不死をも殺せるというだけでは無い。使用者の想いに応じ放たれる一撃は重く、遠くの敵にも届く。

 徹底的までの殺意を放たれたそれは、一心の体幹と体力を削るのには充分な威力。

 

 ──隻狼は体力が無く、攻撃力が低い。殺すことはとても簡単。だがその忍は、葦名の門番を殺し異端の使い手を殺し剣聖をも殺し、ついには一国を燃やしつくすほどの力を見せた。

 何故か? かつて戦い、今一度こうして刃を交えたからわかる。彼の根底にあるのはいつ如何なるときも絶えぬ、意志。

 鎮火することを知らない不屈の精神が、それともかつてはただ一人の主君を忍の掟に従い守ろうとした想いが、彼を死なせんとさせているのだ。

 

 修羅と化して、果たして今は如何なる想いが彼を動かしているのかなど、一心にとっては知る方法も無く、知る必要も無い。

 

 だが意志はその者を成長させる。

 隻狼はただ死ぬだけでは無い。死ぬたびに先程まで防げ無かった攻撃を防ぎ、死ぬたびに隙を突き刃を斬り返してくる。驚異的な学習能力。

 

 だが、今は違う。

 吹き飛んだガードに斬りこまんとする隻狼は、見ることになる。

 不死を断ちし、黒の一閃を。

 

「そこじゃ」

 

 ──奥義・不死斬り。

 

 だが攻撃が当たる直前、隻狼は冷静に義手忍具を入れ替える。

 突然、一心の眼の前に現れたのは一つの傘だ。

 

 一心の知る故では無いが、それは遙か西方で作られた金城鉄壁の鉄の扇。ある者が手放したそれを、隻狼が買取り己の牙とした物。仕込み傘と名の付くそれは如何なる攻撃をも弾いてくれる。

 

 不死斬りとてそれは例外では無い。

 弾かれる一撃。だが一心が驚いたのはそこでは無かった。驚いたのは重み。抜いて斬る、ただこの動作にさえ、妖刀はここまでの体力を奪うとは。

 気を取られた一心は、隻狼の次なる動作に気付けなかった。閉じていた筈の傘が従来の鉄扇の形を取り戻す。

 

 義手忍具の力を刀に乗せて、前方に放つ忍びの体術。

 それは紅蓮の朱雀が刻まれてない仕込み傘に過ぎないが、燃える怨嗟の炎が纏われることで火力が増している。

 

 派生攻撃・放ち斬り。

 

 だがそれだけでは炎上までには至らない。ならばまだ──。

 

 被せられたのは、油の壺だ。

 ただの油。壺が割れたら、あたりに飛び散る。

 

「何を……」

 

 道玄が開発した義手には三つまで、事前に用意した忍具を扱えることができる。

 そしてこれはその三つ目。

 

 バネ絡繰りで力を溜めて放つと、巻き込んだ空気が火を激しく燃やし、敵をも吹き飛ばす爆炎を放つ。

 

 火吹き筒・バネ式。

 

 周る炎を抑えられる術は無い。一心の体が容赦なく炎上に達した。

 燃える炎を掻き消さんと一心の攻撃が止むのに対し、隻狼の猛攻はとどまるところを知らない。

 一心は目撃する。

 

 この技を最後に、仏師は忍義手を捨てた。

 極め、殺しすぎた。怨嗟の炎が漏れ出すほどに。

 

 赤く燃えし怨嗟の炎を纏う、赤き不死斬り。

 

 ──奥義・纏い斬り。

 

 牙と刃が一体となる、忍義手技の奥義である。

 

 


 

 

(儂の攻撃の尽くが弾かれ見切られる)

 

 燃える体、傷だらけの体、疲れ果てた体。

 されど、脳は回転をやめることは無い。

 

(竜咳に侵され体力も無く、それゆえに体幹も安定しない)

 

 いつ如何なる時も考えるのは最善の一手。

 そして、如何なる時も負けなど考えない。

 

(数少ない勝機は重く、使えることもままならぬ妖刀が一本)

 

 有利な相手と不利な自分。

 同じだ──あの時の、国盗り戦の時と。

 ならば、行ける。

 

(お主を殺すには)

 

 炎上を伴う攻撃は弾いたとしてもその上から衝撃が来る、これは有りふれた火では無い。怨嗟の炎はきっと、燃える尽きることを知らない。

 

(儂の最大呪力出力の不死斬りを放つほか無い……!)

 

 不死斬りを放つには、隙が必要になる。瘴気を出すのには一定の時間差が存在するからだ。

 隻狼の攻撃を弾く、隻狼の攻撃は単調そのもの。一心はこの長時間に置ける戦いの中で不死斬りを除く隻狼の攻撃を弾けるようになっていた。

 相手の攻撃を防ぐ中でも脳の回転は止めることをしない。

 

 だが相手は手練れの忍であり人殺し。そのような隙を作るのには困難を極める。

 何か、何か──。

 

(……一つだけ、あるでは無いか)

 

 一心は天を仰ぐ。故に気づいたその一手。

 

(だが、これを失敗すれば儂は死ぬ)

 

 冷静な思考、静かな動揺、冴えわたるが故に怖気づくその一手。

 そして、どこまでも滾ってしまう己の血。

 

 従うべきがどちらかなど、とっくのとうに理解している。

 

 そう、迷うことなど無い。

 

(為すべきことを、為すのだ)

 

 眼の前の男ならば、きっとそう言ったのだろう。

 一心は、跳んだ。

 

 突然の行動に隻狼は困惑しつつ手裏剣を投擲する。素早く投げ打った刃は跳ぶ一心の体力と体幹を削る。

 

 危。

 

 隻狼の本能がただの攻撃では無いことを伝える。

 突きか? 下段か? 掴みか?

 

 そのどれとも、違う。

 

 隻狼は気づく、曇天と化した空模様に。

 刀を光らせる、葦名一心に。

 

 受けた雷を相手に放つ雷返し。突発的に行われたその行動の真意は隻狼にはわからない。知るのは雷返しを返す方法のみだ。

 隻狼も合わせるように高く跳躍する。

 

 一心の放つ金色の雷を受ける隻狼。しかしこの体験は孫の方で体験している。身体を巡る一筋の雷。

 それを、隻狼は返す。彼の孫との戦いでそれは既に行った芸当だった。隻狼にとっては昨日のことのように思い出せる。

 

 次に雷を受けたのは、一心の方である。

 起死回生の一手だったのだろう、誰も扱っていないと思っていたのだろう。皮肉な話だ、彼の孫がその技を使ったと言うのに。なんともまあ、対処が楽な技だった。

 

 ──慢心が、対処を鈍らせる。

 

 一心の全身を巡る稲光、そして尚も、刀は振るわれる。

 それに危険信号は伴わなかった、だから気づかない。

 

 雷返しを返す技を返す、一心の姿にさえ。

 

 

 彼の孫はついぞ、雷返しを返せなかった。だから隻狼はこの技を知らない。

 

 『打雷』。隻狼の体が数瞬動けなくなる。

 

 これで隙は、できた。

 

 一心の姿勢が抜刀のそれに移行する。黒の瘴気が滲み出て、それがただの十文字の類では無いこと知らせる。

 ならばそれは何の攻撃だ?

 ──隻狼は、迷った。

 

 向こうの体幹も限界に近い筈。攻撃をすれば殺せるかもしれない。

 ──隻狼は、迷ってしまった。

 

 いや、安全策を取るならば防ぐべきだ、しかしそこまでの攻撃なのか?

 ──隻狼は、その言葉を忘れてしまった。

 

 思考の末に選択したのは防御の一手、弾こうなどとは考えない。初めから防御にだけに集中する。

 打雷の痺れから解放され即座に、己の相棒楔丸を必死に構える。傘を展開しなかったのは、如何なる攻撃をも弾けたこの刀に、隻狼は絶大な信頼を寄せていたからだ。

 

 だが、それは彼だけなのかも知れない。

 忍びは、人を殺すが定めなれど、一握の慈悲だけは捨ててはならぬ。そんな籠められた思いがこれまでに刀に決して壊れることの無き縛りを結ばせていたのかもしれない。

 

 そしてその慈悲すら握れなくなった主に、刀が従う義理がどこにあろうか?

 

 それは元来、死なずの者が百折不撓の果てに極めし不死斬りの秘伝。

 葦名十文字を、そして纏い斬りを会得しなければ扱えぬ筈の葦名無心流の技の一つ。

 だが忘れるな、それを作ったのは、他ならぬ一心自身だということを。

 

 ──秘伝・不死斬り。

 

 構えた楔丸が無情にも砕け散る。技の範囲は広く、大きい。一つの抜刀だというのに放たれるのは二つの円状の斬撃、そしてそのすべてに二重の衝撃が組み合わさっている。

 

 それを防ぐ術はもはや無く、

 隻狼の身体が、胴と脚とに分かたれた。

 

「…………」

 

 何故、敗れた。

 薄れ行く意識、走馬燈が映すのは、御殿に座す一心の忠言。

 

 

 ──行くか、隻狼。

 不死断ち……それもまた戦よ

 そして戦では……

 関わる者の、願いや企てやらが渦を巻きおる。

 迷えば、その渦に飲まれ───

 

『戦に敗れる』

 

 ──カカカッ、そうじゃ。肝に銘じて、おくがいい。

 隻狼よ。

 

「迷えば、敗れる……」

 

 

 断ち切るようにして、眼の前の一心の言葉。

 忘れてしまったその言葉を噛み締めて、

 影は二度死に、忍は殺される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SHINOBI EXECUTION

忍

殺

忍

殺

 

 ゆえに、忍殺。

 今ここに、一人の修羅は敗れたのだ。

 

 

 


 

 

 

「……ここは?」

 

 暗転する意識から我に返り、一心は辺りを見回す。ここはもはや怨嗟の鬼と戦った大手門では無い。どこまでも続く白の空間だった。よく見れば、乙骨たち一同もそこにいることに気づく。

 

「……えーっと、一心さん? でよろしいですかね?」

「何を突然……おお、そうか」

 

 ただし、乙骨達は彼のことを一心とは認識できてなかったようだ。少しだけ疑問が浮かぶがその要因に気づく。

 そう、彼は黒の不死斬りを奪うために完全な受肉を行い、顔と体まで変わっていたのだ。

 

「かかかッ! 確かに顔は変わったが、正真正銘葦名一心じゃよ」

「……完全に受肉しやがったか」

 

 この場で唯一同じ受肉型の泳者である鹿紫雲はそれに気づいたようだ。しかし問題はそこでは無い、この空間は一体どうしたことだ? 脱出できるのか?

 そこで彼らは気づいた。

 彼らとは別に、奥から何かが歩んでくる存在がいる。

 

「何やつ」

 

 咄嗟に全員が応戦の体勢を取る、まだ戦いは終わっていないというのか?

 そしてやがてその者が近くに来て、今度は乙骨と真希が声をあげる。

 

「……天元様?」

「なんで……」

 

 それは四つの目を有し、およそ人とは思えぬ角張った容姿をしていた。それは二人が見た天元の姿。だが天元は今羂索の手の内にいる筈……。

 その正体に気づいたのは、つい先程までそれと戦ってた一心であった。

 

「……隻狼か」

 

 竜胤が死を齎すことは無い。だが老いはどうだ?

 乙骨は思い出した。500年も人が老いればこのような姿になると、あの天元自身が答えていたことに。

 ならば我らがいるこの空間も、天元のような結界術の応用なのだろう。何故彼が結界術を使えるのかは疑問ではあるが。

 

「何か儂に、言うことは」

「…………」

 

 返答は無く、隻狼は静かに座り正座となる。無言で、何を考えているのかわからない仏頂面が、変わることは無い。

 だが不思議と、何を求めているのかは理解できた。

 もはや言葉はいらなく、彼の想いを汲み取ったのだろう。一心が静かに背後に立ち、瘴気を纏う黒の不死斬りを大きく振りかぶる。

 

 静寂の中、これまでを、思う。

 

 名残り墓に眠った御子を、

 目を奪うように舞った従者を、

 怨嗟に囚われ腕を失った飛び猿を、

 不治の病を治そうと尽力した薬師を、

 馬を駆り大手門を守り続けた守護者を、

 幻影を駆使し度々酒を盗もうとした蝶を、

 汎ゆる手段で己が愛した国を守らんとした孫を、

 大忍びでありながら誰よりも酒に酔っていた梟を、

 薬師を継ぎ、不治の病を治すことに成功した柔剣を、

 

 幼き身でありながら、竜胤が生んだ歪みを正さんと奔走した、誇り高き少年を、

 そんな少年の願いを汲み、直走った一匹の狼を、

 そんな狼が成ってしまった。人を斬る悦びに目覚めすべてを燃やした、眼前の修羅を、

 

 ──そして500年が経った今も尚、それらを呪いかのように引き摺ってしまう剣聖がいることを、

 

 もはや彼らは存在せず、死者の思いなど一心には知る術は無く。

 されど斬れぬ因果の関係はまさに、不死のよう。

 だからこそ、それすら断ち斬る妖刀を一心は振り下ろす必要があるのだ。

 

 

 不死斬りが、隻狼を斬った。

 

「……さらば」

 

 彼を生かさんと、竜胤が舞い散る桜を発する。けれども不死斬りに斬られては──。

 倒れ伏す隻狼が赤の不死斬りを引き抜いた。最期の足掻きかと乙骨達は警戒するが、動作はそこで停止を迎える。

 

「……見事じゃ、隻狼」

 

 一心が吐露した称揚すら、崩壊していく彼の耳に聞こえることは無い。

 

 彼らはいつしか、元の世界に戻ってることに気づく。

 ふと、一陣の桜が舞い上がった。

 一心は手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

IMMORTALITY SEVERED

不

死

斬

り

不

死

斬

り

 

 どうかこの500年が、それに乗りますようにと願いながら。




 『戦いの記憶・修羅』

 心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶

 鬼仏は無いが、戦いの記憶と向き合うことで、成長できるものがあるだろう

 戦場にいたのは、
 怨嗟の炎ですべてを焼き尽くした、隻腕の狼であった



 次回最終回となります。
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