【完結】泳者(プレイヤー)名「葦名一心」 作:ムーンフォックス
五条悟と両面宿儺の戦いが、始まった。
全員がモニター室でその様子を見守る中、一心は一人離れた部屋で静かに酒を呑み干した。どぶろくと呼ばれるこの濁り酒は実に濃醇であり、彼のお気に入りの一杯でもあった。
その部屋には数多くの
「…………」
対座するようになってからわかることがある。これはただの鬼仏では無い。
対座で研ぎ澄まされる集中力のおかげか、それともこれが呪物なのか? ──仔細はどうあれ、一心はこれまでに戦った類稀な強者と再戦できるようになっていた。
しかも相手のみでは無い。東京第2結界、仙台結界、東京第1結界───戦った空間すらも、これは再現できる。
これならば隻狼が一心の攻撃に500年の時を経て対応できた理由がわかる。
対座し戦い続けたのだろう。老齢の葦名一心と。
そしてこの再現された空間はどこか、修羅と化した隻狼と戦った際に転移された結界とも似ている。何度も強者と再戦し領域に取り込まれていく中で、彼は自然と結界術を理解していったのだろう。
ならば一心も同じように戦うことを繰り返していけば、同じように結界術を理解していけるであろう。
そしていつかは掴めるかもしれない。呪術の極地──
──領域展開を。
これまでに一心はひたすら鬼仏と対座し、目覚めてから出くわした強者と連戦していった。さながら死闘を踏破するかの如く。
鹿紫雲一、乙骨憂太、烏鷺亨子、両面宿儺、魔虚羅、怨嗟の鬼、修羅──。
何度も負けた。そして何度も挑んだ。そして気づくと、死闘踏破に成功していた。
だがこれは当時の相手の強さに過ぎない。あれから一ヶ月が経った今、宿儺は記憶よりももっと強くなっているであろう。
一心の竜咳は、あの戦いの後も暫く消えることは無かった。だがそれを治す術に気づいたのは、隻狼の遺品の一つである快復の御守りと、竜胤の雫を見てからである。
それらを鬼仏に供えて少し経つと、一心の竜咳は跡形もなく消え去っていた。隻狼が死に際まで持ち続け、そして彼に託したのは、何のためあってか……。
ただひたすらに、一心は死闘踏破を繰り返していき──。
「葦名一心」
「……なんじゃ、
その集中は、部屋に入室してきた憂憂の言葉により乱される。隙をついた魔虚羅が一心を刺し、敗北。
思考を切り替え、問いかける。
「五条悟が敗れました。現在鹿紫雲一が交戦しています」
「……なんと」
五条悟が敗れた──それは一心にとって寝耳に水に他ならない。彼との関わりはわずか一ヶ月ほど、だが一心はその間にはっきりと、彼が最強である所以を理解させられた。
やはり、今の宿儺はあの頃とは違う。緊張が一心に走る。
「私も遺体の回収に向かいます。なので、準備を」
「……すぐに向かう」
頭を下げ部屋を去る憂憂。彼の術式は対象を任意の場所に転移させるものであろうか? だが一度に転移させられる人数と位置に、恐らくだが制限が無い。彼が術式を開示したことが無いためその詳細は不明瞭だが、それが強力な術式なのは一心にも理解ができた。
準備するのには理由がある。
一心は宿儺との決戦の前に、
仮に五条悟が負けた場合、まずは鹿紫雲一が単身で突撃する。そして彼が負ければその次に対処にあたるのは日車寛見だ。
彼の術式は、司法に基づく独自の裁判で他者の術式を「没収」でき、更に受肉された伏黒恵をも救出できるのだという。
そしてそれと同時に、憂憂が五条悟の遺体を回収するための時間稼ぎも必要となる。
だが問題は如何にしてその時間を稼ぐかだ。何故か宿儺が執着し且つ、反転術式を覚えたことで宿儺の斬撃にも耐えれるようになった虎杖悠仁が参加するのは確定、だがそれだけでは不確定な要素が多すぎる。
時間稼ぎを確実なものとするには、宿儺の斬撃を弾けた葦名一心こそが相応しい。
憂憂の言う準備とは鹿紫雲一が殺された際、すぐに転移し戦えるようにするための準備のことである。
500年前隻狼と対峙した時のように、今の彼の装いは白の着物──死に装束だ。
そして手に握るのは黒の不死斬り、そして──
───死ぬ間際に隻狼が鞘から取り出した赤の不死斬り。最期の彼の動きは足掻きでは無い。むしろ、この刀を一心に握らせるための、後押し。
彼の遺した物はすべてが、まるでこれから戦いに赴く一心への餞のよう。
その真意は? その理由は?
───死人の口が開くことは無い、決して。
何を考えているのかなど、生きていても考察することはできない。
ならば今は、これを迷いなく振るえるようにするのみだ。
「……隻狼よ、儂に力を貸してくれ」
独りごちてから数秒、戸が開く。
焦った様子の憂憂が入ってくる。
「鹿紫雲一がやられました。すぐに転移させます。よいですね?」
「あいわかった」
──瞬間、彼の視界は部屋から、雪降る大地へと変わる。
両脇に立つ日車と虎杖、そして眼前に見える両面宿儺の姿。
恐らくは一心と同じように完全な受肉を果たしたのであろう。四つの腕に二つの口は、とても彼が人であったなどとは思わせない。
一心は気づく。切断された二つの死体に。
果たしてこの戦いで自分は生き残れるのか?
一瞬感じた怖気は、彼の身体中から滾る血を冷ます理由にはならなかった。
「血が、たぎって来たわ!」
不死斬りの瘴気を滲ませ、
死ぬことの無い迷いを断ち斬り、
一人の呪術師は何度もその言葉を叫び続ける。
この滾る血が冷めるいつかを夢見続けながら。
故に彼は目覚めたのだ。
死滅回游に、
呪いあい、のがれる術のない。廻りつづける戦に。
『戦いの残滓・修羅』
心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶
今はその残滓のみが残り、
記憶は確かに一心の糧となった
二振りの不死斬りこそ、男が修羅になったことへの証左
ならばそれに相応しくと、修羅はすべてを燃やし、斬り伏せ、そこに快楽を覚えた
なのに何故だろうか、ある言葉が今も耳から離れない
誰かが悲しんでいた気がするのだ
そなたは修羅ではないと、泣きながら
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