【完結】泳者(プレイヤー)名「葦名一心」 作:ムーンフォックス
大きな焦燥感が、
死滅回遊が始まってから10日、
ただの
問題はもう一人の方だ。
(
この場でもっとも危惧すべきなのは
他の懸念として日車が別の
「どうする伏黒?」
「……ひとまずは日車に会わないことにはどうにもならん。鹿紫雲一が他者の持ち点を見れる
焦燥感はあれど、それでも伏黒の脳の回転が止まることは無い。全ては姉のため。
そのためならば、こんな事態はどうということはない。
本人も気づかぬ内に思考は冴え渡り、様々な事柄を予測できるようになっていた。
「つまりこいつも日車と戦うために東京第1
「だったらもう一人はどうなんだ?」
「鹿紫雲と似てるが、個より群を優先したいタイプの戦闘狂なんだろ。仙台に来たのは
「えーと……つまり?」
伏黒の考察を聞くパンダが問いかけた。答えは明白。
「俺達全員で日車寛見を見つけて──狩るぞ」
鹿紫雲一が東京第1
「いやー……助かりました一心さん。初めて会った時はどうなるんだろうかと」
「カカカッ! 気にするな! 儂とて民草が近くにいる中でお主と戦おうとは思わんわ」
11月11日夜。仙台
乙骨憂太と葦名一心は結論から言えば、友好的な同盟関係を結べていた。
仙台
子供の泣き声一つで死合は終わりを迎えた。元来それだけで良いのだ、争いが終わる理由などというのは。
子供をあやすために二人が協力したのは言うまでもなく、気づけば二人の間には争うという選択肢は失せていた。
葦名一心はつい今しがた、乙骨より伏黒津美紀を救出するための作戦を聞いていたのだ。
どぶろくでは無いことが葦名一心には少しばかり不満ではあったが、酒瓶を一杯ぐいと飲み干す。たまにはこのような酒も良い。
火を吹くような猿酒だろうと、手に入れれば馬鹿共が集ってくるような竜泉だろうと清濁併せ呑むのが葦名一心の主義である。
「じゃがお主らの計画を聞く限りでは、儂が
「気にしないでください。いつかは追加しようと思ってた
一心が追加した
理由は二つ。
一つは泳者が窮地に陥り結界間を逃げてを繰り返すのを防ぐため。それでは点を得ることは困難になるだろう。
二つは単純。敵が逃げるばかりでは面白くない。
「それで一心さん。
「ウム構わんよ。儂の点如きで命を救えるのならばいくらでも譲渡してやる……もちろん、『狼狩り』の件と引き換えにな」
「はい、それはもう。充分」
同盟の縛りの内容は簡単。乙骨は一心からの継続的な
共にこの混迷した仙台
「でも、
「ならば儂がいた東京第2
「本当ですか!? なら早速明日、
良かったぁ〜とほっと一息つく眼前の男はとてもこれまで20人近くの非術師を守りきれるほどの手練れには見えない。
だが葦名一心は理解していた。その気になれば彼の実力は恐らく鹿紫雲よりも上の次元に位置することを。
非力にしか見えない青年が規格外の強さを発揮できるのもまた、呪力という力のおかげなのだと一心は確信した。隻狼に貫かれた際、己にも宿ったその力。今はまだその力は使いこなせてない、しかしいずれは物にする必要があるだろう。
かつての己は死闘を重ね、貪欲に強さを求め、あらゆる技を飲みこもうとした。
せっかくの黄泉がえりである。使えるものは、何もかも利用したい。
『規格外』。
11月12日、四竦みの一角であったドゥルヴの喉元が乙骨により斬られた。
そこに至るまでの激闘を見た一心の感想は、その一言に集約される。
一心が追加した総則は仙台結界にも影響を与えている筈だったが、転移しようとする術師はいなかった。
転移しても結局自分に不利な術師が後を追ってくれば意味が無い、ならば現状を保った方が良いと考える術師が大多数を占めていたからだ。一日に一度しかできないという総則が効果を発揮し始める。
ここにおける一心の役目は単純、乙骨と敵の泳者との戦闘の余波が、非術師達に及ばないようにすることである。
そしてもう一つ。
「……まあ結界を移動できるのなら、まず真っ先に逃げるわよね」
宙に浮かながら、烏鷺亨子はコガネが表示した画面を見て歯噛みする。
黒沐死 獲得点54点。
現在位置は、東京第2
ドゥルヴとの相性が不利だったあの呪霊がこれ以上、ここに留まる理由は無い。
そして、黒沐死という天敵が消えた烏鷺もまた、結界にいる必要は無くなった。
「久しぶりに京の都でも見に行こうかしら……」
そこへ飛ぶ、斬撃が一つ。
烏鷺は術式を発動させ、その軌道上から自身を外しその敵を見下ろす。
「……今は戦う気が無いの、まだ見逃してあげるわよ?」
「カカカッ! そう言わずに是非付きおうてくれ」
葦名一心の役目はもう一つ、残ってる術師に対しての無差別な──勝負である。
「悪いけど敵にせよ恋人にせよ、アンタじゃ足元にも及ばないわ」
「ならば降りてこい。さすれば儂の真価もわかるであろう」
手に持つソレを烏鷺へと向けた。
「やはり、儂にはこれが一番しっくり来る」
鈍色に輝く、刀を。
己が知る規格の外に自身がいるのならば、己もまた内側に入れば良い。
特級術師は単独で国家転覆を行えるのだと言う。
ならば葦名一心も特級術師だ。
彼はその身一つで、国を盗ったのだから。
葦名一心は烏鷺亨子と。
乙骨憂太は石流龍と。
それぞれの戦いの火蓋が切って落とされる。
「私ハ 鉄ノ味ガ 好キダッ」
泳者名、黒沐死。
現代の黒い悪魔、その畏れが呪霊と化した存在。
極度の飢餓状態である彼は東京第2結界へやって来た。人と、鉄の味を求めに。
飢餓状態の彼に理性は無く、ただ本能に従うのみ。
故に一直線、血の味がする方向へと突き進む。
着いたのは病院。
黒沐死は理解した。辺りは血で濡れ、生き残りはただの一人もいないことに。
「私ハ 鉄ノ味 ガ好キダ」
否、どうやら一人だけ生き残りがいたようだ。
飢餓状態の彼に理性は無く、ただ本能に従うのみ。
だから彼は相手を観察しようともしない。
だから気付かない。
身に着けている服が、おんぼろで擦り切れているのも。
左腕が義手になっているのも。
両手に握られてる赤と黒の抜き身の刀が、異様な瘴気を放っているのも。
義手の筈の左腕から、赤い炎が燻っているのを。
そしてかつては感情を表に出すことが滅多に無かった筈の、その眉間の皺が深く刻まれた筈の仏頂面が、狂喜の笑みで満ちていることにも。
──これは今は亡き、とある国の民草が歌い継いだ記憶。
「……参る」
野にはむくろが、山となり、
竜泉川は、あけの川、
鬼はおおかみ、あけの神。
明日は恐らく更新できません。申し訳ございません。