【完結】泳者(プレイヤー)名「葦名一心」   作:ムーンフォックス

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東京第1結界(コロニー)

「こら! 待たぬか『天使』よ!」

 

 伏黒恵を抱えた天使──来栖華を全速力で追いかける。

 葦名一心が現在いるのは東京第1結界(コロニー)である。

 

 あの日から数日、病院の生き残りは殺された黒沐死含め一人もなし。今すぐにでも残った青森結界と岩手県御所湖結界に行き隻狼の所在を突き止めたかった一心を止めたのは乙骨であった。

 

 一心と乙骨では呪力の扱いに関しては後者の方に軍配が上がる、狼の残穢を見つけるのには戦力的な面から見ても自分が適任──非術師達を新たな安全圏に避難させるやいなや、そう言って翌日には青森結界へと転移していた。

 やることの無くなった一心は石流と一戦交えようかとも思ったが、そこで彼より頼まれたのが先んじての伏黒達との合流だ。

 

 伏黒恵、及び虎杖悠仁の簡単な外見的特徴を聞き東京第1結界へと転移した彼の眼に真っ先入って来たのはその伏黒恵らしき人物を運ぶ死滅回遊泳者──来栖華の姿。

 

 

 そして今現在、一心と来栖による鬼ごっこは一時間にも及んでいた。

 

 そろそろ竜閃で威嚇でもすべきだろうか? だが彼女は乙骨の言う『最強』を復活させるために不可欠な存在、攻撃は得策では無い。

 ふと、彼の耳が別方向からの足音を検知する。別の泳者か? 刀を構えた辺りを警戒し───

 

「おーい! 伏黒を返してくれ!」

「お前は完全に包囲されてる! 大人しく人質を解放しなさい!」

「む?」

 

 件の一人、虎杖悠仁ともう一人、右半身に一糸纏わぬ者と邂逅した。

 

 


 

 

「突然侍と半裸のおっさんに追いかけられたら誰だって驚くと思うんです。しかも侍さんは第2結界で人を殺しまくってたし」

「かかかっ! 確かにこれは申し訳ないことをしたの!」

「まさか二時間もずっと追いかけることになることはこのリハクの眼を以ってしても……」

 

 虎杖と偶然にも会うことになった一心は虎杖らに乙骨に関連した話を説明、これにより一心、虎杖、髙羽の三名で構成された『シン・いたたか同盟』が結成されることとなる。

 右半身に一糸纏わぬ者──髙羽史彦が漏らした言葉の通り、伏黒恵を中心に動いた状況をシン・いたたか同盟が制するのにはかなりの時間を要した。

 一応の虎杖による説明で来栖は納得してくれたようだ、尤も彼女が呼ぶ所の侍と半裸のおっさんには未だ恐怖の念が絶えないが。

 

「なんじゃ、たかが一刻で音を上げるとは情けない。儂のいた時代の忍者は尽きることの無き持久(スタミナ)を持っていたぞ」

「「忍者すげー」」

『……薄々察していたが、やはりお前は受肉した泳者か』

 

 虎杖達の関心に水を差す者が一人、聞き慣れない声の出どころは来栖──その手のひらに目を凝らす。

 口が一つ、生えていた。

 

「お主は……」

『天使、つまりは君達が捜している存在だよ。もっとも葦名一心、君とはあまり仲良くする気にはならないが』

「ほう? 天使よ、儂のどこが気に障る」

『罪の意識は無いのか? 君が受肉したことで死んであろうその器に対して』

 

 天使に言われ、改めて一心は己の姿を鏡を通して見た。知らない顔、知らない背、少しだけ似ている体格、羂索が用意した体は不調が一切無く──言ってしまえば肉体が一心の命令を拒むようなことがなかった。

 一心は羂索の計画の為の駒でしか無い。だが仔細は伏せられてたとは言え、その駒となることを望んだことは他ならぬ一心自身であるのも事実だ。

 

『今は何より堕天を屠ることが優先だ、だがそれが終わった時──次はお前達受肉型を屠る』

「…………」

「なー、堕天って?」

 

 髙羽達が堕天についての説明を聞く間も、葦名一心の脳裏に響くのは先の天使の言葉だった。

 無辜の民が死ぬ姿は幾度と見た。命を奪う、それ自体に罪の意識はもはや感じとれない。だからこそ怖いのだ、そんな己にはたして、現代で生きることが叶うのだろうか、と。

 

 思いはすれど、答えが浮かぶことは無い。時間はただ過ぎ行くのみだ。

 

 


 

 

 8月16日、午後三時。

 

 伏黒恵が目覚め、各地の結界内に突如として現れた外国からの戦闘員から非術師を守るために奔走するなどの様々な出来事があった。

 

 だがその長い長い道のりの行く末は、これに集約される。

 

 

 葦名一心はコロニーの九つのランダム地点の一つにて静かにその時を待っていた。恵の姉、伏黒津美紀は正午頃に追加された総則により死滅回遊から脱出することができる。

 だが問題はその後、つまりは今後の身の振り方である。

 

 推測のたつ不安要素は二つ、『狼狩り』と受肉型に敵対している天使との戦いである。

 『狼狩り』は言わずもがな、鹿紫雲、乙骨、烏鷺と強力な人員は着実に集まってきている、後一人ほど誰かが欲しい。

 

「五条悟、とやらが復活すれば誘ってみるか……」

 

 己が因果の終着点、それに万全を期したいのは当然であった。

 

 

 さて、問題はすべての術式の効果を消すという彼女の術式、それそのものは一心にとっては脅威では無いが──

 

泳者(プレイヤー)による死滅回遊へのルール追加が行われました』

 

 耽る思索はリンゴンというコガネの通知により中断される。誰が追加したのか? 浮かぶ疑問を晴らすべくコガネにその泳者を表示させる。

 

『〈総則(ルール)13〉 泳者は結界を自由に出入りすることができる』

 

 その総則を追加したのは、伏黒津美紀であった。

 いやな予感がして一心が駆け始めてから30秒、呪力で強化した脚力ならば伏黒達がいた場所まで30秒かからない。

 

 ビルが次々と破壊されていく、誰かが吹き飛ばされた。誰かと誰かが戦っているのは明白だ。予感が確信へ変わり駆ける脚に力が籠もる。

 

 そしてそこへ辿り着く、顔に謎の紋様を浮かべる伏黒の姿が、真っ先に一心の目に止まった。次に気づいたのは、彼が組んでいた掌印。

 

「──鵺」

 

 突然一心の視界が黒に染まった。

 目をやられたか? いや違う。

 影が重なったのだ、上を見た。

 

 

 その全長が一つのビルより大きく、表情が鳥ならざる異形の面でなければ、それが鳥であることに気づく時間はもっと短くなっていたというのに。

 

 翼から火花が漏れ出る。雷が降る曇天日和でも無いというのに、一心の体が全身で跳ぶことを訴えかけている。

 

 気づけば地面を跳んでいた。

 紫の雷が辺り一帯を散らしていく。

 

 

 


 

 

 

 伏黒の肉体を奪った宿儺が手始めに行ったことは、眼前で呆けた顔をする虎杖を殴ることだった。

 邪魔でしかなかった存在が彼方に吹き飛ぶというのはなんとも心地が良い、すぅと晴れた心は宿儺にある掌印を結ばせる。

 

「鵺」

 

 使うのは宿儺の斬撃では無い。宿儺の莫大な呪力によって構成される式神は通常の攻撃さえ一撃必殺のそれと遜色ない。

 

 ──だからこそ、その雷が自身を襲ったことは宿儺にとって予想外の出来事であった。

 いや、何者かによって雷を返された。宿儺は男に目を向ける。

 確か名は、

 

「……はて何だったか、亡霊など名を憶えるだけで祟られそうなものでな」

「葦名一心……お主、伏黒では無いな?」

「知らんのか、呪いの王を」

 

 呪いの王『両面宿儺』、それは鹿紫雲が探し求めて、天使が求めている相手、だが聞いた話では虎杖の体の中にいる筈だったが──。

 思考は宿儺の「解」によって中断される、宿儺には確信があった。飛ぶ斬撃をこれまで見ることのできたものは一人としていない。いつものように呆気なく三枚に卸されるのだろうと。

 

 甲高い剣がぶつかり合うような音の後、一心がその斬撃を弾くまでは。それに驚きを隠せない。

 

「魔虚羅ぶりか、俺の斬撃を弾いた奴は」

 

 少々厄介なことになる──一心に対する認識を改めた宿儺は、その天からの恵みに気付かなかった。

 

 ──邪去侮の梯子

 

 

 それは罪深き魔の者を消し去る必殺の一撃、放たれる直前に一心は後方に跳ぶすることでそれを回避しようとするが避けられない、彼を巻き込んでその一撃は宿儺を貫いた。

 

 絶大な痛みに焼かれる感覚を一心は覚える。だがそれは宿儺も同じ、身体は黒く焦げ、声帯の限りを尽くしての凄まじい悲鳴が聞こえた。

 これなら宿儺を殺せる──

 

「華」

 

 攻撃が突如として停止した。痛みで意識が朦朧とする中で一心が見たのは、右肩を喰われる来栖の姿だった。

 

 手を伸ばすが届かない。そのまま彼女が乱雑に屋上から放り投げられ落ちていく。グチャリと、下から音が聞こえた気がした。

 

 一心は確信する。

 この存在を、生かしておくわけにはいかない。

 

「宿ッ儺ぁああ゛ア゛ア゛!!!!」

 

 殺意で漲る呪力。その輪に入る因縁の相手──虎杖悠仁。

 

 そして

 

 ──術式解放、

 

 そこに現るもう一人の乱入者(イレギュラー)

 

「宿儺ァッ!!」

 

 ──『幻獣琥珀』。

 

 雷神、鹿紫雲一が乱入する。

 鹿紫雲は日車寛見を探し東京第1結界へと来ていた。だが奇しくも秤金次との戦いに負け、協力することになったのだ。

 その因果は巡り巡って、宿儺との相対を引き起こすこととなる。

 

 圧倒的な強者の出現、宿儺は領域展開をすべきか一時逡巡する。

 だが宿儺は伏黒の体に受肉してからの違和感に気づいていた、「解」の威力が落ちていることに。

 元来の「解」はあのようなものでは無い、ならばその威力を下げている要因は──

 

(伏黒恵め)

 

 その中に眠る精神に違いない。

 ならばまずは虎杖悠仁を殺し魂を更に深く沈める──伏黒恵の術式を以て。

 

 幻獣琥珀により変形した口が超音波を発する、一心の刀が赫灼に燃える、虎杖の固く握られた拳は正確に宿儺を狙う。

 

 そしてそれより早く宿儺の手は一つの形を結び、言葉を紡ぐ。

 

 

「──布瑠部由良由良」

 

 

 黒犬が鳴き蛙が吠えた。

 完全な調和を示す布留の言が、それを影より顕現させる。

 

 

「八握剣異戒神将魔虚羅」

 

 

 白亜の肉体、剥き出しの歯、右手に備えられた正負を揃えし退魔の剣。

 そして何より目立つは背部に浮かぶ──法陣。

 

 十種影法術、その最強が四者を巻きこみ暴走する。

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