百合を自己供給するためにノリと勢いで書きました。
ちなみに百合に挟まる男は許せないけど、噛ませ犬だったり友人として存在する分には許せます。
「あ、思い出した」
高校の入学式を二週間後に控えた春。なんか、どうでもいい用事を思い出したみたいなノリで前世の記憶を思い出した。
……ちょっと待ってくれ。そんな、何だこいつ頭がおかしいのか、みたいな目で見ないでくれ。荒唐無稽に聞こえるかも知れないけど、確かに俺には前世があって、今まで忘れてはいたがはっきりとした記憶があるんだ。
前世の俺の名前は市川純也。友達0人、彼女いない歴=年齢、顔はよく車に轢かれたヒキガエルに喩えられるしがない高校生だ。……まあ、先に述べた通り、俺の容姿はお世辞にも良いと言えるものじゃなかった。それが原因で人から避けられ女の子からは拒絶され、小中高全てでまともな学生生活を送る事が出来ずにいた。ちなみに、不幸中の幸いなのか、何故かいじめられることはなかった。
しかし、そんな逆境の中にいながらも俺は諦める事をしなかった。古今東西、モテるのはイケメンかマッチョか運動神経が抜群な男だと決まっている。*1だから俺は顔がダメなら肉体で、をモットーにあらゆる手段を行使して肉体を磨き上げ、研鑽し、理想の自分を目指して努力した。
だけど、結果は惨憺たるものだった。女子からは妖怪筋肉ダルマと言われ気味悪がられ、男子からはガチムチホモと勘違いされ前以上に避けられ……最後には過度な運動によって心臓に負担が掛かり、若くして心不全により命を落としてしまった。
いや、前世の俺あまりにも不憫すぎないか?!正直、このまま思い出さずにいた方が幸せだった気がしなくもないんだけど!知りたくなかった真実なんだけど!
……とまあ、そんなこんなで、何の因果かこっちに転生して今世を満喫してきた訳だ……女として。どうやら転生と同時に性転換もしちゃってたみたいだ。だからか、前世の記憶を思い出してから違和感がすごい。主に胸と股間あたりの。肩は重いし股はスースーするしで男とは違う事を認識させられる。
ちなみに男から女になった事に対しては、性別に頓着してないこともあるかもだけどそんなに思う所はない。そもそもこっちでは前世の記憶が無かったとはいえ、女として15年間過ごしてきた訳で今更記憶を思い出したからと言って取り乱す方がおかしい。
そんでもって、今世での俺のこれまでの人生は、正直言ってかなりの怠惰だ。根暗・陰キャ・オタクの三拍子で、コミュ障を理由に友達を作ろうともしない。素は良いのに自らそれを磨こうとせず、二次元に入り浸り、自堕落に日々を過ごすという女として……いや、人間としてあるまじき人生を送ってきた。俺から言わせて貰えば、努力をしないなど言語道断。素が良いなら尚更ありえない事だ。
だがしかし、これからは違う!磨かないダイヤの原石には価値がないのと同義で、俺はそんな事を許せるほど甘くはない!前世の記憶を思い出した今、これまでみたいな自堕落な生活はやめて、自分の魅力を引き出すための努力をしよう。幸い、前世みたいなどうしようもない容姿って訳じゃない。さっきも言った通り、素は良いから磨けば必ず光るモノはあるはずだ。
そのためにまず最初にすることは……
「掃除するか」
このめちゃくちゃに散らかった汚部屋を綺麗にする事から始めよう。部屋の汚れは心の汚れ。今から変わろうってのに、部屋が汚いままだとやりたい事にも気が乗らない。あと掃除のついでに前の俺が収集してたコレクションは売り払って美容の足しにしよう。何が悲しくて男同士がイチャイチャする本やらゲームやらを元男の俺が嗜まなきゃならんのだ。
私の名前は
そんな私にはお姉ちゃんが一人がいるんだけど、最近そのお姉ちゃんの様子がおかしい。前までは根暗・陰キャ・オタクって感じで、家でも外でも口数の少ない誰が見ても人間失格と言えるような駄目人間だったんだけど……
「あっ!葵おはよう!今日もいい天気で気分も上がるね!」
「えっ、あっ、う、うんそうだね……」
いや、誰?うちのお姉ちゃんそんな明るい感じじゃなかったよね?いきなり雰囲気変わりすぎじゃない?なんなら私がお姉ちゃんみたいな反応しちゃったわ。
それに、これだけじゃない。他にも変わった所が何個もある。その内の一つが容姿だ。これは別にお姉ちゃんが整形したとかそういう訳じゃない。前はお風呂も学校のある日だけ入って、髪も肌もまともにケアをした事のない美容のびの字も無かったお姉ちゃんなんだけど、最近になって美容品を買い込んでるみたいだった。
もちろん何でいきなり美容を気にするようになったのかも気になったんだけど、お姉ちゃんはお母さんからお小遣いとかを貰っても、すぐによく分からないグッズやら本やらゲームやらを買って来るから晩年金欠の状態が続いていたはず。だから私は、どこからそんなお金が入ったんだろうって気になって聞いてみたら
「それはね、私の部屋にあったコレクションを売って貰ったお金だよ」
って言われた。あの重度のオタクのお姉ちゃんが……?って疑問に思った私はお姉ちゃんの部屋を見せてもらったんだけど、本当だった。お姉ちゃんの部屋にあったよくわからないコレクションは一掃されて、代わりにダンベルとかヨガマットが置かれた、ジムでも始めるの?と言いたくなるようなユニークな部屋へとリフォームされていた。
他にも、運動とは無縁の存在だったお姉ちゃんだけど、最近は外にランニングしに行ったり、部屋で筋トレをしていたりする。この前もお姉ちゃんの部屋をたまたま覗いてみると、中で筋トレしている姿を見た事がある。
「30…31…32…33…」
「あれ、お姉ちゃん何してるの?」
「ん…葵?えっとね、今は腕立て伏せをしてる所なんだけど……葵もやる?」
「いや、私はいいんだけど……お姉ちゃん最近いつも運動してるよね?前まではしてなかったのにどうしたの?」
「あー、それはね……お姉ちゃんね?やっぱり前のままじゃ駄目だ!って思って、自分を磨く事にしたの」
「へー……」
「んー、ちょうどいいし、そろそろ休憩しようかな」
……突然だけど、美容に力を入れ始めたお姉ちゃんは、正直言ってかなりかわいい。同じ家族で同じ女である私を以ってしても、見惚れてしまうほどに。それに、今まで運動していたお姉ちゃんはかなりの薄着で、汗で服が肌にピッタリと張り付いて体のラインがハッキリと見えていて、何というか……少し、えっちだ。更に、汗がお姉ちゃんのたわわに実った胸の谷間に流れ落ちていく姿は妖艶で、ついつい目が……
「ゴクリ……」
「ふぅ…あれ、葵?そんなに見つめてどうしたの?」
「うぇっ?!あ、い、いやなんでもないよ!それよりもお姉ちゃんいっぱい汗かいて喉乾いてるよね?!私水持ってくるよ!」
「えっちょっ葵?!……行っちゃった」
それだけじゃない。前のお姉ちゃんは、女子力?何それおいしいの?って感じだったけど、今のお姉ちゃんは、何と言うか、やばい。裁縫も料理も掃除も洗濯も全部できるようになっていて、最近はよくお母さんの手伝いをしている所を見る。エプロン姿のお姉ちゃんには、なんか、こう、キュンとくるものがあった。
あと、お姉ちゃんが変わり始めた頃、包丁も握った事も無いはずのお姉ちゃんが、私達のために朝食を作ってくれた事があったんだけど、それがまたとんでもなく美味しかったんだ。お母さんもお父さんも大絶賛で、料理をした事のなかったお姉ちゃんがどうしてこんな美味しい料理を作れるのか聞いてみると
「パパとママにはここまで育ててくれた事に感謝してるし、葵もこんなダメダメなお姉ちゃんを見捨てずに着いてきてくれて嬉しかった……私は家族皆んなに感謝してるの。だから、料理とか小さな事でも返せていけたらなって思って練習したんだ。愛してるって気持ちを込めて」
これには思わずお父さんもお母さんも私も、感動して泣いてしまった。そんな私達を見てオロオロするお姉ちゃんも可愛くて、私は泣きながら笑っていたのを覚えている。まさかあのお姉ちゃんがそんな事を想っていたなんて……そう思うと私は嬉しくて、胸が温まる気持ちだった。
……正直に言うと、前のお姉ちゃんはあまり好きじゃなかったんだ。家族の事は二の次で、自分の趣味にばかり没頭して……。だから、なんやかんや言いながらも、私はお姉ちゃんが変わってくれて良かったって思ってる。最初は少し……ううん、かなりビックリしたけど、今ではお姉ちゃんの事を大好きだって胸を張って言える。
ちなみにお母さんはお姉ちゃんの変化に全く動じる事はなかった。母は強しって言うけど、あのお姉ちゃんの変わりようを、「あらあら百合ちゃんにも春が来たのね」で流すのは流石にどうかと思う。だってお姉ちゃん友達0人だし、一回も家族以外と外出した事ないのに彼氏なんている訳ないじゃん……居ないよね?
つづかない