「ほよ~!」
スマホの画面に、キラキラなアイドルのライブが広がっています。
歌が、ダンスが、ステージ上のすべての出来事がわたしの心をほよほよさせます。
「姫花さ~ん!」
お姫様みたいな金色のふんわりウェーブさせた長い髪と、宝石みたいな
わたしは姫花さんみたいになりたい。ふわプリアイドルになりたい。
ライブ動画の再生が終わって、スマホを持った手をぽすんと寝っ転がっていたベッドに落とすと、ぼーっとしながら余韻に浸ります。
「わたしも早くふわプリに行きたいなあ」
ふわプリは、誰でもふわふわかわいいに包まれて、アイドルになって幸せになれる場所。「ふわプリにいってもいいよカード」が届いた子だけが行ける女の子の楽園なんです。
でも、わたしのところになかなか届かないんだ。
いつになったら届くんだろう。
わたしもう小学五年生なのに。わたしと同じ年で届いてる子もいっぱいいるのに。
うぐぐぐぐ。
「わたしも早く行きたい行きたい行きたい~!」
そしたら絶対にほよほよして楽しいのに!
「なんでまだわたしのところに届かないのー!」
「お姉ちゃんうるさいよ」
「ほよ?」
ドアを開けてきたのはぽるん。長いピンク色の髪がきれいなわたしの妹です。
「ほよじゃなくて。部屋の外まで聞こえてたから、静かにして」
「だって「ふわプリにいってもいいよカード」が全然届かないんだもん」
「お姉ちゃんにはアイドルなんて無理だよ。ほよほよ言ってるだけの変な人だし」
「なんてこと言うの! わたしは絶対にアイドルになるんだから―!」
「ほよんちゃん早く朝ごはん食べないと遅刻しちゃうわよ~」
ママも来ちゃいました。机の上の時計を見ると、あと20分くらいで教室の机に着いてなきゃいけない時間です。
「わ、もうそんな時間!?」
急いで一階に降りてダイニングでベーコンエッグとクロワッサンをもぐもぐ口に詰め込んだら。
「行ってきまーす!」
赤いランドセルを背負って玄関の扉を開けます。
薄いピンク色のツインテールを風に乗せて、今日も通学路を走っていく。
わたし、
これから絶対に、ふわプリアイドルになってみせます!
「ほよーーーーーーーーーーー!」
OP とぅるふわランド
ふわふわふわふわふわふわふわふわ! トゥルーパラダイス!
(ふわプリ内の色んな施設が次々に写り、ほよんが片目をつぶりながら思い切りジャンプする)
ふわプリ! みんなで! 行こうよ!
(くぅあ(白い髪の女の子)とティピファ(金髪の女の子)が左右から出てきてほよんと手を繋いで走り出す)
いつもの日常 いやだって思ったなら
(モヤモヤなイメージがほよんの周りで攻め立てて、ほよんは眉を八の字にした困り顔になっている)
ここに来てよ キラキラな イベントが待ってるよ
(ふわプリ内のキラキラした光景がパラダイムハートの三人と共に次々に映る)
どんなジャンルも 望んだ先の幸せへ 飛んでいけるんだ
(ほよんたちふわプリアイドルがその光景に向かって飛んでいく)
たとえ争いが起きちゃったりしても
(ほよんとくぅあとティピファが黒い人影たちと対峙します。敵影は崖の上にあり、ほよんたちに強い風が吹き付けます)
優しさでわかりあえば ふわプリリー!
(光が溢れてほよんたちが笑顔になる)
ふわふわふわふわパラダイスへ ゴー!
(ほよん、くぅあ、ティピファ、三人の3Dライブ映像)
人類みんなでアイドルさ
悲しみをゼロにして ラブ&ピース!
(ほよん、くぅあ、ティピファでスイーツを食べてダブルピース)
始めよう
ふわふわふわふわふわふわハッピー!
(全員集合。ほよんセンター)
「お姉ちゃん待っててあげたんだからおいてかないでよー!」
ぽるんがランドセル揺らしながらトコトコ走ってきます。
「ごめんごめん」
ぽるんを待とうとブレーキをかけ、振り返りました。
「わぷっ」
なにかが顔にぶつかってきました。痛くはないです。紙っぽい感触がします。
手に取ってどかして、それが何か確かめると、キラキラと虹色に輝くカードでした。「ふわプリにいってもいいよカード」って書いてあります。
「届いた……」
「ぜえっ……ぜえっ……ちょっと、息整えさせて……」
「届いたーーーーーーー!!」
「届いたってなにがぁ? それより早くしないと遅刻しちゃう……」
「「ふわプリにいってもいいよカード」だよ! やったーやったーやったー!」
ぴょんぴょんジャンプしちゃうくらいハイテンション!
「それ本物? 風に飛ばされてたチラシとかじゃないの?
「本物だよ! ほら」
ぽるんの目の前にカードを、本物のキラキラ光ってる加工を見せつけます。
「本物だ……」
「でしょ?」
「お姉ちゃん、アイドルになるの……?」
「うん! わたし、アイドルになるよ!」
ほよ!
学校には遅刻しちゃった。先生に怒られちゃったよ。とほほ、ほよ。
いろいろな授業が終わって三時ごろ、放課後になりました。今日の授業はふわプリに行けるワクワクで集中できなくてまた怒られてしまいました。ほよ! 次から気をつけます。
それはそれとして。
「きたよ! ふわプリ!」
ふわプリに入る入口になっているお店、「ふわふわショップ」の前にわたしは立っています。お店の見た目は、キラキラでとっても素敵な感じ! 建物にオシャレな色合いとフォントで「ふわふわSHOP」って書いてあります。
学校から歩いて十五分くらいの所に、広い森林公園があって、その奥にふわふわショップだけのために広い敷地があるのです。
「秘密の場所って感じですごくワクワクするなっ。ほよ~っ」
森の木から届く、気持ちいい香りを楽しみながら、自動ドアをくぐりました。
「モコッ! いらっしゃいませモコッ。 君はふわプリ初めてですかモコッ?」
店内に入った途端、すぐ横にあったカウンターから何かが飛び出してきました。
「なにこの、かわいい? 変? どっちかわからない生き物!」
ベージュ色のわたあめに
「モコは
「へー、そうなんだ! わたしは神峰ほよんっていいます! ほよっ!」
「スキャン開始」
「わっ!?」
AIモコさんの目が突然光りました。その光はわたしに当てられて上から下に移動していくよ。
「スキャン中――スキャン中――スキャン完了。エネルギー収集効率ジャンル特定」
なにいってるんだろう? 不思議に思っている内に光は収まります。
「あなたに適したブランドは「ふわふわスタンダード」ですモコ。ふわふわかわいいをストレートに目指したブランドですモコ。このブランドに決定しますか? サンプルを確認してみてくださいモコ」
AIモコさんから色んなコーデの映像が出てきました。空中に映ってるのはホログラム? っていうんだっけ。
「わーっとってもすてきなコーデたち!」
わたしの好みピッタリのフリルがいっぱいついたコーデが多くて、心がほよほよしちゃう!
「決めた! わたし「ふわふわスタンダード」にする!」
「了解しました。神峰ほよんさんのブランドは「ふわふわスタンダード」に決定されましたモコ。ふわプリへ入場してください。奥のゲートをくぐったらふわプリに入れますモコ」
「わーい!」
扉がないけど向こう側が見えない、一面真っ白の広いゲートに飛び込みました。
「ふわプリ変身!」
服が全部なくなっちゃったのかと一瞬ビックリしたけど、すぐに別の服が肌に触れる感触があった。コーデが変わったんだ。
「「ふわふわスタンダード」のふわプリ内通常服タイプA「ふわふ
AIモコさんがまた前に現れて全身が映る鏡を見せてくれました。
「かわいい! これでいいよ!」
通常服なのにもうこれでライブできそうなくらいにかわいいひらひらな服で、ほよほよっと気に入ったよ。
それにそれにっ、服もすてきなんだけど、姿が中学生のお姉さんぐらいになってるよ! ちんちくりんないつものわたしと違って、スタイルがいい!
さらにさらにっ、目の前に幸せが広がってるよっ。
「ここがふわプリか~。ほよほよ~♪」
ふわプリに入ってすぐ目に入る光景がとってもふわふわかわいいに溢れてて最高なんだよ~。
円形広場の中心には家よりもでっかいふわふわなクマのぬいぐるみが展示されてて、周りにはふわふわな食べ物や飲み物を出しているカフェや、コスメショップとか、とにかく色んなふわふわかわいいお店がいっぱいあるんだよ!
「すっごくほよほよするよ~!」
歌が上から聞こえてきました。この歌声はっ。
見上げるとおっきなディスプレイが広場の中央上空に浮いていました。
「パラダイムハートだ!」
パラダイムハートのライブ映像アーカイブが流れています。
「そうだ、ふわプリの中なら、姫花さんと会えるかも! わくわく!」
姫花さんたちの生ライブがあったら、ライブ終わりの出待ちしちゃおうかなっ。迷惑かな?
「でも、とりあえずまずは、わたしもライブしてみたい! ライブしに行こう!」
と決めたはいいけどどうすればライブってできるんだろう。
「AIモコさん、ライブはどこでできるのかな」
「この「ぷろろ~ぐ広場」から一直線に進んだ先の「わたパレス」にてライブは基本行われておりますモコ」
奥の方にある、ここからでも見える綿でできたお城みたいなおっきい建物がわたパレスなんだね。
「よし、れっつごー!」
と右腕を上げて歩き出したけど、ふわパレスとは別の方向に目を奪われちゃった。とても目を引く女の子がいたから。
白色の髪を肩まで伸ばした、綺麗な碧い目をした女の子。
「かっこいい……」
ショートパンツもクールな雰囲気に似合ってていい感じ。全体的に涼しい色のコーデだよ。
話しかけてみようかな……。
白髪の子が顔を突然しかめました。
「なんか、ふわプリって、思っていたのと違うわね。帰ろうかしら……」
「えええええええっ!?」
思わず走って近づいて白髪の子の肩を両手で掴んでしまいました。
「なんでそんなこというの!? ふわプリは良いところだよ!?」
「あなた誰?」
「わたしは
「
「それはそうと、ふわプリは良いところだよ」
「いいえ、ここは私の理想とは違ったの。期待してたのに、悲しいわ……」
くぅあちゃんはスタスタと出入り口に向かって歩いて行っちゃう。
「ちょっとまって! わたしのライブを見てから判断してっ」
「私はクールさを求めているの。ふわプリにはふわふわかわいいしかないわ。あなたにもクールさは全然感じない。だから見ても無駄よ」
「まって!」
「一つの良さしか認めない場所なんて私はいやよ」
「ふわプリはそんな場所じゃないよ! ここは誰でも望んだアイドルになれる。幸せになれる場所なんだからっ!」
「私の求めるクールさがあるというの?」
「あるよ! 絶対ある!」
くぅあちゃんは数秒くらいじっとわたしを見てきます。
「……そこまで言うなら、試しにあなたのライブを見てもいいわ」
「ありがとうっ」
くぅあちゃんは優しいです。
「ライブするにはマスコットマネージャーが必要ですモコ」
ベージュ色のわたあめ生き物が、わたしとくぅあちゃんとの間に入ってきました。
「ええっ? 先に言ってよAIモコさん」
「伝える前に行ってしまわれようとしたので」
「マスコットマネージャーさんってどこにいるの?」
「そこらへんにいますモコ。サポートするアイドルがいないマスコットは常に自分がサポートしたいアイドルを探してふわプリ内を飛び回っていますモコ」
「へー、ならこっちからも探さないと」
「時間かかりそうね。見ると言ったからにはつきあうけれど」