くぅあちゃんがこっちへ振り向きました。
「ぎゃあお化けー!」
「誰がお化けよ」
「だって……」
くぅあちゃんがコスメを顔へハチャメチャに塗りたくってお化けになっちゃってるのが悪いんだよ。
くぅあちゃんはエヘさんに「まだ早いんじゃないかエヘ」と言われながらもメイクに挑戦していたのです。
そのうえAIモコさんのサポートを振り切って自分一人でやってみたいと試した結果が今なのです。
「そもそもなんで急にメイクしたがったのリボン」
「スイみたいに色っぽくしてみたかったのよ」
「また迷走してないリボン?」
「確かにスイには目指してる場所が違うと言われたわ。迷走かもしれない。けれど、やっぱり彼女のクールさは魅力的に見えてしまって、真似したくなってしまうのよ」
「まあわかるリボン。パラダイムハートは、すごかったリボン……」
そう、パラダイムハートはすごかったのです。
昨日、パラダイムハートのライブを生で見てから、心からモヤモヤが消えません。
「ねえエヘさん」
「なにエヘ」
「昨日のライブを見てからずっとモヤモヤしてるの。なんでかな」
「そりゃあれだけのライブを見たら、今の自分と比べて心の乱れぐらいは起きるエヘ。上を目指そうという心を持てるふわプリアイドルなら、そうなるエヘ」
そっかあ。わたし、姫花さんたちと自分を比べちゃってるんだ。
ただ憧れて、姫花さんもふわプリも好きで楽しくて、それでよかったのに。
ここはふわプリなのですから。誰もがただ思うままにアイドルになって楽しく幸せでいられる場所なのですから。
今も、ただ思うままに楽しくやっていられればそれでいいという気持ちはあります。だけど、わたしは上を目指したいみたいです。
もっとすごい楽しいが欲しくなっちゃう感じです。
「人の欲望に際限はないエヘ。でも大丈夫エヘ。その衝動のままに突っ走れエヘ。その先で暴走しないように、破滅しないようにサポートするのがエへたちの役割なんだエヘ」
「ほよ。よくわからないけどわかったよ。困ったらエヘさんを頼ればいいんだね」
わたしは姫花さんみたいになりたいんだ。
パラダイムハートみたいになりたいのだと思います。
なら、とにかく頑張らないとかな。
とりあえず、そうしてみよう。
ならまずは、ユニットを組みたいな。
パラダイムハートは最高のユニットです。だからパラダイムハートに近づくなら、ユニットをまず組んで、メンバー全員で上を目指して頑張らないといけないのだと思います。
そうなると自分以外も色々頑張るつもりな子をメンバーにしないといけません。
ふわプリで自分以外の子に頑張ることを強要はしたくないです。
でも、やっぱり組むならくぅあちゃんとティピファちゃんとがいいな。
今までふわプリで一緒に過ごしてきたのもあるし、なんかとてもしっくりくるのです。
「くぅあちゃん、ティピファちゃん、この三人でユニット組もうよ」
「いやよ私はソロで行くの。孤高のほうがクールでしょう?」
「まだ一人でライブしたことすらないティピファがユニットなんて、無理リボン。まずは一人でライブできてからリボン」
「ほよぅ」
二人ともに、それぞれの理由で断られました。
まずはくぅあちゃんに説得を試みます。
「本当に一人がいいの? パラダイムハートは三人揃ってもっとキラキラを強くしていたけど、それでも?」
「スイとは目指してる場所は違うのよ、私は孤高がいいの」
「さっきはスイのマネをしていたのに、都合のいいところだけ解釈を変えるエヘな」
「ほよ~……」
次はティピファちゃんです。
「ティピファちゃんも、まずは三人でやってみるってやり方もあると思うんだけど」
「でも神峰さんも氷原さんも一人でデビューできたリボン。ティピファだけおんぶにだっこなんてみじめすぎるリボン」
「そんな……」
初めからつまづいてしまいました。二人とユニットを組むにはどうすればいいのかな。
「突っ走れと言っておいてなんだけど、ユニットさえ組めばパラダイムハートに近づけるなんて安直に考えてないかエヘ?」
「そういうわけじゃないけど、みんなで頑張ったほうが楽しいと思ったの」
「それも一つのやり方ではあるエヘ、でもまずは一人でダンスや歌唱力とかの基礎を鍛えるというやり方もあるエヘ」
「ほよ~……説得は保留して、とりあえず基礎をやっておくほうがいいってこと……?」
「レッスン室なら案内するエヘ」
「それじゃあお願いしますっ」
エヘさんについて歩きだすと、くぅあちゃんとティピファちゃんもついてきます。
「ユニット組んでくれないんじゃないの?」
「組むとか関係なく、私もレッスンはするわ」
「そうだった! 同じ部屋でレッスンするんならユニットで一緒にレッスンするのと変わらないよね!」
「でもユニットは組まないし同じライブの振り付け練習はできないわ」
「ティピファは練習も一人でやるから同じ部屋ではやらないリボン」
「そんなーっ」
ふわパレス内のレッスン室に着きました。
ティピファちゃんは別の部屋を探すと言ってどこかへ行ってしまいました。
追いかけたかったけど、まずはわたしも基礎から頑張らないといけないのは本当です。レッスンを始めることにしました。
一時間くらい、まずはダンスレッスンをしました。けど。
「なんか、モヤモヤが深まってるよ。ほよほよしないよ」
わたしもくぅあちゃんも自分のライブのダンス練習をしていたので、一人でやってるのと変わらないのです。
一緒に隣で練習してるのに、友達と心が離れているのです。
「くぅあちゃん、次は発声練習しようよ」
「いいわよ」
「「あめんぼ、あかいな、あいうえお」」
あ、今くぅあちゃんと同じことできてる! やったっ。
「趣旨がズレてきてないかエヘ」
「ほよ……」
たしかに。
ユニットを組みたいけど、今は無理そうだから基礎を練習してるんだったね。
別に今一緒なことにこだわらなくていいんだ。
ダンスや歌のレッスンをいっぱいやって、一日が終わりました。
とにかく基礎のレッスンを続ける、そんな日々が数日続きました。
「ん~~~~」
あくる平日、わたしは学校の机にぐでーっと体を乗せています。
なんか、だめです。
気分が違います。
心がほよほよしないまま、ただ日々が過ぎて行っている感じがするのです。
「ほよん、どうしたのよ」
「ほよ~~……」
「レッスンで疲れたの? しゃっきりしなさい」
「レッスンはできるんだけど、なんだか、集中できないんだよ」
「なんでよ」
なんで、か。なんでだろう。
たぶん、今に納得していないからです。
心がほよほよする位置に座ってないから、安心して過ごせないのだと思います。
少し前まで、ふわプリがただ楽しくて、毎日幸せな気持ちだったのに。
このままほよほよしないでいるのは、絶対にダメです。
やっぱり、くぅあちゃんとティピファちゃんと一緒に進んでいけていないことが、ほよほよしない原因だと思います。
わたしはユニット組むところから始めたいんだ。そこがわたしにとっての新しいスタート地点な気がするんだ。
やり方として正しいかどうかはわからないけど、そうしたいんだからしょうがない。
わたしはやるぞー!
ほよほよほよ~っ!
「くぅあちゃんっ!」
「びっくりしたわ。急に大きい声を出さないで」
「あ、ごめん」
「それで、なんで集中できないのよ」
「くぅあちゃんとティピファちゃんとユニットを組めていないからです!」
「私はソロで行くって言ったでしょう。他をあたって」
「くぅあちゃんとティピファちゃんがいいの」
もうここまで来たら二人以外考えられません。
「大丈夫、初対面の人でも一度ユニットを組んでしまえば一緒に過ごしているうちに絆が育まれていいユニットになるわよ」
「いやだーっ、「ほくティ」がいいのーっ」
「たとえユニットになったとしてもそのチーム名はいやだわ」
「ソロパートもやっていいから! くぅあちゃんがちゃんと
「――それ本当? 確かにユニットでも孤高を表現する方法がなかったわけじゃないわよね。スイもユニット組んでるわけだし。それでクール度をさらに上げてたわけだし。でも私かなり目立っちゃうわよ。というより、かなり目立たないと満足しないわよ。ほよんはそれでいいの。常に自分より目立つアイドルがそばにいていやにならない?」
「負けないようにわたしも頑張るし目立つから大丈夫」
「口だけなら何とでも言えるわよ。あとでお互い悲しい思いなんてしたくないわ」
「ならしょーめーすればいいんでしょ」
「ん。そうね。でも証明なんて短期間でできることかしら」
「できるっ。するっ。くぅあちゃんとユニットを組むためならやってみせるよ」
お願いするだけじゃだめだよね。くぅあちゃんも納得しないと楽しくやれないし、ユニットになるならみんなでちゃんと楽しくやっていかなきゃだもんね。
頑張るよ。ほよっ。