ふわプリ   作:ソウブ

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11話 森林シルフィーは平穏でいたい

 

 

 

 交差点の信号待ちの間、首に巻き付いてるフェレットのふぇーくんがワタシを見て口を開く。

(今日のご飯は牛肉風ドライフードがいいふぇー)

「それ切らしてるし、今日は豚肉風の日だったはずでしょ」

(でももう口が牛肉風を受け入れる態勢に入っちゃってるふぇー)

「ワガママ言わないの」

(いやふぇー、いやふぇー)

「暴れないの。ごはん抜きにするから」

(そんな殺生な!?)

「殺生だよ」

(ふぇー死んじゃうふぇー……これがワガママという罪に対する罰なのかふぇー……)

「嘘だよごめんね」

 シュンとしているふぇーくんの頭を、右手の人差し指と中指でなでなでする。

 知らないお姉さん二人がこっちを見ていた。

「ふふふ、かわいい」

「そうね、とってもかわいらしい」

 

 

「……っ」

 目の前がチカチカする。何年も前の記憶が、今起きていることみたいに再生された。

「あの子動物と話してるよ……」「動物好きならよくあるんじゃない?」「いやあの子はまるで意思が通じてるみたいに話すからなんか違うよ。正直気味が悪い」「確かに一方的に猫なで声で話してる動物好きって感じじゃないね」「でしょー?」「変だよね」「うん、変」「妄想の中で会話が成立してるのかな」「うわ、無理なんだけど」

 

 感覚が今に戻ってくる。ぼやける視界で信号が青に変わっていた。

「うぅ……」

 吐き気がする。口に両手を重ねて当てる。うつむきながら横断歩道を走り抜ける。逃げるように。

 歩道を走って、公園を走って、ふわプリに駆け込む。ぷろろ~ぐ広場を外れて深い森の中へ。

 

 ふわプリの森の中で、いつものように自分のふわプリ(りょく)で聖域を創り出す。

 ワタシの森の中に木漏れ日が差し込む。無数に差し込む。無数じゃないか。数えきれないほどじゃない。それでもとにかくいっぱい差し込んでて幻想的。

 ふわふわな安らぎ。

 ふわふわな聖域。

 ここは森閑とした聖域。風に揺れる葉のせせらぎ。視覚的緑。

 

 ワタシは切り株みたいなテーブルに着く。椅子も切り株みたいなデザイン。背もたれはあるけど。

 フェレットのふぇーくん以外のワタシの友達たちも寄ってくる。ちゅんちゅんと鳴く鳥に美味しい空気と木漏れ日が合わされば気持ちのいい穏やか大自然の完成だ。

 

 ここは落ち着く。ずっとここにいたい。いやなことなんて考えたところで意味はない。もう終わったいやなことなんて思いだしても意味はない。

(元気出すふぇー)(わたしたちがいるトリー)(またいつもの発作ハム?)(よしよしいぬ)(何もかも問題ないタヌ)

 みんなが慰めてくれる。寄ってきて体を擦りつけてくる。獣毛や羽毛がモフモフ。

「みんなありがとう」

 マスカットジュースを取り出しペットボトルの蓋をくるくると開けて、少しずつ舐めるように飲んでいく。

 葉音に耳を澄まして目を閉じる。ああ、すごく落ち着く。

 

「シルフィーちゃーん!」

「んあ……!?」

 マスカットジュース少し零しちゃった。零れたジュースがかかったふぇーくんたちが散り散りに離れていく。

 突然声をかけてきたのは姫花だ。スイもいる。姫花がなぜかキャリーバッグを引いてる。

「シルフィーちゃんおはぁ~。今日も顔がいいねぇ~。お人形さん見た~いぃ」

 スイがべたべたしてきた。

「くっつかないで。それに、そんなのみんなそうでしょ」

 ふわプリアイドルはみんな顔が良くてかわいい。当たり前。

「エメラルド色の二つ結びな髪もいい匂いぃふわふわぁすーはーすーはぁー」

「やめて」

 

 この聖域は基本一人でいたい場所だ。でも姫花とスイの二人は例外。二人と一緒のほうがもっと落ち着いて、楽しい。だからいつでもここに入ってくることを歓迎している。ワタシが許可していればここには自然と入れるんだ。

 最近は、リボンちゃんもここに呼んでみたいかもと思ってる。

 

「それで、なにその荷物」姫花のキャリーバッグを視線で示す。

「お茶会をしようと思いまして」

「いいねぇ~」

「姫花はいつもながらバイタリティに溢れてるね」

「二人とお茶を楽しみたいんですもの」

 お茶を一緒に飲むだけなら、ふわプリにあるカフェでもできる。だけどそれはワタシがいやだ。というか抵抗がある。ふわプリカフェは周りに他の子も結構いるから。

 お茶をするならここみたいに静かな場所がいい。

 二人となら騒がしい場所でも我慢できなくはないけど、ちょっと、二人が一緒だったとしても人が多い場所に行くのはいやだ。なるべく避けたい。

 姫花はそれをわかっていて、ワタシの聖域までお茶会セットを運んできたんだ。その心遣いが暖かくて嬉しい。

 姫花はてきぱきと切り株テーブルに茶器を用意していく。手伝おうかと思ったけど、手際が良すぎて逆に邪魔しちゃいそうで、手が出せなかった。

 ポットから紅茶がカップへ注がれる。いい香りが森に漂う。

「ダージリンのオータムナルです。親しみやすいまろやかな甘みが、深く穏やかな味わいを提供してくれますよ」

 三人そろってカップを傾ける。味と香りが落着き度をさらに上乗せしてきて、ぽやぽやと、ふわふわと、どこかいい場所を漂うような気分。

「ふわふわぱ~ふぇくと、いいですよね」

 姫花が突然言い出した。

「うん、いいねぇ」

「……いいよね」ワタシもそう思うけど。

 さらに一口。ミルクや砂糖を入れているわけじゃないけど甘みを感じられて美味しい。

 幻想的な別世界でのお茶会。ここはさしずめ不思議の国のアリスのような空間。

「そういえばさぁ、シルフィーちゃんにしては珍しく、ティピファちゃんに対してだけは積極的だよねぇ」

「ティピファちゃんのことが気に入ったんですよね」

「気に入ったっていうか、うん、シンパシーを感じるんだ……」

 同じポジション感というか。

 ティピファちゃんの語尾も、昔から一緒のアニマルなみんなと似てて親近感があるんだ。

「わたくしもほよんちゃんが気になってます」

「スイもくぅあちゃんが気になりなりぃ~」

「見事に綺麗に分かれたね。ポケモン御三家かな? 何者かの意思を感じるよ」

 おそらくふわプリの意思……。いやそんなものはない。ワタシたちにはちゃんと自分の意思がある。

「フィナンシェもどうぞ~」

 フィナンシェもふわふわ甘くて美味しい。

 

「……最近ふわプリどうぉ?」

「どうだろう……」

「少し不穏な気配が、感じ取れる時があります」 

 やっぱり。姫花がそう言うならワタシが感じてたのも気のせいじゃなかったみたい。

「それは、具体的にどんなぁ?」

「ふわプリの中で発生して、ふわプリの外でもいろいろ動かれているような気がします」

「うんうん、そんな感じ」

「やばい案件ぅ?」

「準備しておけば大丈夫だと思いますよ」

「そっか、ならよかったぁ」

 ワタシもどう動けばいいか考えあぐねていたけど、姫花がそう言うなら大丈夫だね。

 

「さて、今日もレッスンしましょうか」

「ふわふわぱ~ふぇくとにも負けてられないしねぇ」

「そうだね」

 ワタシはふわプリ聖域を解除した。

 

 森を抜けて、ふわパレスのレッスンルームに三人でやってきた。壁の一辺が一面鏡になっているよ。

 ワタシがデッキケースのボタンを押すと、パラダイムハートの持ち曲「革新的ときめきハート」が流れ出す。デッキケースの機能の一つ。自分の曲と自分がメンバーのユニット曲を流せるんだ。スマホにも同じ曲を入れてあるけど、どうせならふわプリガジェットを使いたいよね。それにデッキケースの方にはアイドルパフォーマンスにふわプリ補正をつけるかつけないかを選べる機能もあるんだ。パラダイムハートはいつも補正を切ってレッスンしてる。

 

 鏡に対面して三人並んで、曲に合わせて踊る。

 ワタシたちなら、ダンスも歌も、ふわプリのサポートがなくても0.1秒のズレもなくシンクロさせられる。

 大体の人はふわプリのサポートがないとそんなことは不可能。でもワタシたちにはできる。だからこそのふわプリプリンセスなんだ。

 

 レッスンは二人とやると楽しくて、大変なのも全然気にならない。

 最初は、アイドルなんて、って思ってたけど、今はふわプリアイドルをやってると、聖域にいる時よりも平穏な気持ちになる。

 だからふわプリは楽しい。姫花もスイもやる気満々だし、続けられる。数少ない、前向きに、やろうって気持ちになれること。だからやる。やりたい。

 

 この日はレッスンをした後、家に帰った。

 

 後日、またふわプリの中に創った聖域で、先日スイからもらったマスカットジュースを舐めるように少しずつ飲んでいる。

 よし、決めた。

 ここにリボンちゃんを呼ぼう。

 ふわプリ提供チャットアプリ、ふわリンで呼んでもいいけど、今ふわプリにいるみたいだから、直接招こう。

「ん……」

 ちょっと集中。目を閉じて意識を外へ這わしていく感じ。

 捉えた。今リボンちゃんはぷろろ~ぐ広場にいるね。

 あとは、場所を把握したリボンちゃんを、聖域へ引き込むイメージで。

 よし、リボンちゃんをこの幻想世界に引きずり込んだよ。

 

 リボンちゃんはすぐそばにあった茂みから勢いよく飛び出てくる。ろくな態勢もとれていなかったみたいで上手く着地もできずに転がった。

「あ、ごめん。人引き込んだの初めてだから……」

 調整をいろいろとミスしちゃった。

「ここどこリボン!?」リボンちゃんは葉っぱが髪に引っ付いたまま立ち上がる。

「ここはふわプリの中にワタシが創ったふわプリ聖域だよ」

「森林さん!? ふわプリ聖域? なに言ってるリボン!?」

「とにかく、座って」

「……」おっかなびっくりリボンちゃんは対面の切り株椅子に座った。

「ここ本当にどこリボン?」

「だから、聖域だって。ワタシがふわプリに創った」

「申し訳ないけどもっとわかりやすく言ってほしいリボン……」

「ふわプリの中に作った自分だけの場所、みたいな……?」

「そんなこともふわプリではできるリボン?」

「できたから、できるよ」

「ふわプリやば~……」

「リボンって言わないの?」

「リボン……」

「うんうん、リボンちゃんはやっぱリボンって語尾がないとね」

「語尾褒められたの初めてリボン」

「え、かわいいのに」

 ほら、今照れて頬染めてる姿だって。

「ここについては不思議だけどわかったリボン。それで、何でティピファを呼んだリボン?」

「リボンちゃんと過ごしたくて……。珍しいツッコミ仲間だから」

「ティピファだけがツッコミだと思うリボン」

「?」

「本当にわからないみたいな顔するリボンね」

「とりあえずマスカットジュース飲む?」

「あ、はい、リボン……」

 自分で買い溜めてるお気に入りの銘柄のを一本テーブルに置く。スイもわざわざ同じ銘柄のをいつも渡してくれるんだ。適当なので別にいいのに。そもそもなにも渡してこなくてもいいのに。趣味みたいだから受け取ってるけど。

「おいしっ!?」

 一口飲んで目を見開くリボンちゃん。

「これすごくおいしいリボン」

「ワタシが厳選したとっておきだからね。これの良さがわかるなんて、リボンちゃんはやっぱりわかってるね」

「すごい誇らしげにドヤってるリボン」

 リボンちゃんがごくごくと飲む。ワタシもまた少しずつ舐めるように飲んでいく。

「なんでそんな、ちびちびなめなめと飲んでるリボン?

「この飲み方が一番おいしい」

 それに姫花が突然お茶会したがる時があるし。その時にジュース飲みすぎてて紅茶に口付けられなくなってたらいやだし。

 ちびちび。なめなめ。ごくっ。

「ここはいい場所リボンね」

「そうでしょ」

「動物が体を登ってくるのはどうかと思うけどリボン」

 リボンちゃんの体に犬の「いぬ助」や猫の「ねこ作」やハムスターの「はむはむ」が登っている。

「なつかれてるんだよ」

「でも落ち着かないリボン。どうにかできないリボン……?」

「みんな、リボンちゃんが嫌がってるよ」

 ワタシが言えば、みんなは嫌がることをやめてくれる。くれた。

「すごい。ありがとうリボン」

 いっぱいあるリボンや服を整えて一息つくリボンちゃん。

「この際、せっかくだからアイドルについて学ばせてもらうリボン」

「うん、特に今、何を教えられるわけでもないけど、好きにするといいよ」

「アイドルとして必要なことってなんだと考えてるリボン?

「他のアイドルについてはよく知らないけど、ふわプリアイドルは真剣に楽しめばいいんだよ。前にも似たようなこと言ったけど」

「結局それリボン? 楽しむ、楽しむ……」

「そう、楽しめばいい。特にリボンちゃんみたいに考えすぎるタイプは。ふわプリはそういうところだよ」

「でも、それだとパラダイムハートみたいな強い人には勝てはしないんじゃないのかと思うリボン」

 お、いいね。ふわプリプリンセスになれる可能性があるアイドルだけが、そういう考え方をするんだ。

「それなら上位ランクのふわプリアイドルのライブを見て学んで、歌やダンスの基礎技術の練習あるのみだよ。あとふわプリ劇場のクオリティを上げる」

「やっぱり、それリボンよね……」

「言ったでしょ、特に何も教えられないって」

「リボン……今は特に壁にぶつかっているというわけでもないし、基礎を頑張っていくリボン」

「うん、お互い頑張ろうね。ふわプリアイドル」

「それはそうと、あのパルクールを超えたような動きはどうやったらできるようになるリボン?」

「それは……めちゃくちゃ頑張ったらできるよ」

「曖昧リボン。やっぱり選ばれしものしか不可能リボン?」

「あの域まで行ける道に、答えはないから」

「自分たちで見つけ出さないといけないってことリボンね……」

「それにパルクールができたからといってふわプリアイドルとしてよくなるとは限らないよ、体力があるに越したことはないけど、ふわプリではサポートもあるし」

「ならあの時なんで見せたリボン?」

「今リボンちゃんが抱いてるような、負けるもんかっていう頑張る気持ちが重要だと思うからだよ」

「頑張る気持ち……リボン」

 

 このふわプリ聖域に誰かが入ってくるのを感知した。

 

「あ。すご、リボンちゃんのお友達、ほよんちゃんだっけ、すごいね」

「? なんのことリボン?」

 リボンちゃんと一緒のふわふわぱ~ふぇくとの、神峰ほよんちゃん。氷原くぅあちゃんも来ているけど、聖域の、誰かを入れないようにしている力を破ったのはほよんちゃんだ。

 ワタシのふわプリ聖域は、ワタシが許可した人しか入れないし、無理矢理入ってくるなんてことはできないようになってる。それなのに入ってきている。

「やばいね」

 だからこそふわプリプリンセスになれる素養があるんだ。ワタシたちのところまで来れる可能性が。

 

「ティピファちゃーん!」

「この無駄に元気な声は……」(リボンちゃん)

 ガサガサと茂みが音を立てて、走り出てくるのはほよんちゃんとくぅあちゃん。

「ティピファちゃーん! 無事だったー!」

「うわあ!?」 

 リボンちゃんはほよんちゃんに飛びつかれ強く抱きしめられてる。

「ほよん、私と同じふわふわぱ~ふぇくとのメンバーであるティピファが、そう簡単にやられるタマなわけがないと言ったでしょう」

 くぅあちゃんが得意げに鼻をフンと鳴らし腕組みをしているよ。

「でもでも心配だったから。突然消えちゃったし」

「傷一つないようね、ふん、さすがだわ」

「二人とも大げさリボン」

 いい仲間、友達、ううん、いいふわプリユニットだね。

 ふわふわぱ~ふぇくとのみんなは、姫花とスイみたいに、暖かい。

 

 

 

 AIモコの、ふわプリコーデ紹介のコーナー☆

 

「今回紹介するコーデは森林シルフィーさんの私服コーデですモコ」

 

「エメラルド色のパーカーは溌剌なイメージがある中、シルフィーさんの静かなイメージと喧嘩せずに上手くキュートな魅力が出ていますモコ。白いスカートと白いニーハイで生み出されている健康的な絶対領域もシルフィーさんの小動物的ふわふわかわいさを引き立たせていますモコ」

 

「以上、ふわプリコーデ紹介のコーナーでしたモコ~」

 

 

 

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