どうにかダークツインズから逃げることができたあと、ヤミミちゃんとは連絡先だけ交換して、今度遊ぼうねって別れました。その日は帰ってご飯食べてお風呂に入ったら、へとへとだったのでいっぱい寝ちゃいました。
朝。意識がゆっくり上るのは、清々しさと苦しさが綯い交ぜの中で。
しょぼしょぼする目をぱちぱちさせて、薄いカーテン越しの日差しに目覚めを促されます。
でもベッドから起き上がりたくありません。体がだるいです。
「ぼよ~……」
もうこのまま寝ちゃおうかな……。
「お姉ちゃーん、起きないとまた遅刻しちゃうよー」
ぽるんがドアを開けながらいつものように起こしにきてくれました。
「お姉ちゃん?」
ぽるんが近づいてきてわたしのおでこに自分のおでこをくっつけてきました。綺麗で甘い匂いのする、わたしと同じ薄ピンク色の髪がわたしの顔にかかります。
「熱は、ないっぽいけど……調子は悪そう。ママ呼んでくるね」
「ほよ、待って……これ多分風邪じゃないほよ……」
「そんなこと言っても説得力ないよ。ママ呼ぶね」
ぽるんがママを連れてきました。
「確かに調子悪そうね。今日は休みなさい。学校には電話入れておくから」
「ほよ……これは調子が悪い感じの調子が悪いじゃなくて、学校を休んじゃうほどのぼよ~じゃないから学校いくよ」
「おバカなこといってないで寝ていなさい」
休むことになりました。
ぽるんは学校へ行き、ママは一階のお店へ、わたしは部屋で一人になりました。スマホを取り出してメッセージアプリふわリネを起動します。
<二人とも~、わたし今日学校休むことになっちゃったよ>
<私もママにベッドへ括りつけられたわ>
<わたしは括りつけられてないよ……?>
<ティピファも休みリボン>
<くぅあちゃんはなんで括りつけられたの?>
<調子が悪いのに学校へ行くためママの防壁を強行突破しようとした結果よ>
それからパラダイムハートのライブ映像とかを観ながら寝っ転がっていたら、午後三時くらいになっていました。大体放課後ぐらいの時間です。
調子はすでに戻っていて、ベッドから起き上がりたくて仕方ないよ。もう全然普通に動けるよ。だるくもないし。
<みんなはもう元気? 元気だったら今からふわプリに行かない?>
<いいわね。私も調子が戻ってきた気がするから>
<リボン>
パジャマから私服に着替えて、デコったピンク色のデッキケースに付けたベルトを腰に巻いて、ママの目を盗んで家を抜け出します。見つかったらまだ休んでいなさいって言われちゃうからね。いざふわプリへ。
ふわプリでコーデチェンジして、ライブ開始です!
「あれ?」
曲が始まって、最初のステップを踏もうとしたら、力がうまく入りませんでした。バランスを崩してしまいます。横になっていく視界。わたしはステージの上で転んでしまいました。
なんで? さっきまで調子が戻ってきた感じだったのに、ライブを始めた途端急に踊り方とかわかんなくなっちゃって、今こんな状況です。
ライブ、失敗してしまいました。
「撤収。撤収よ」
「ほよん、肩を貸すリボン」
くぅあちゃんとティピファちゃんが両側から支えてくれます。ありがとう。
「ほよ~~! みんなごめんなさーい!」
「次のライブではいつもより満足させて見せるわ!」
「お騒がせしましたリボンー!」
ステージの
「お大事に! また元気な姿見せてね~!」(観客)
「待ってるね~!」(観客)
みんなの声援が暖かいです。
ライブアイドル控室まできました。
「いやどうしたんだエヘ。体調でも悪いのかエヘ」
心配顔のエヘさんが、二人に支えられながら椅子に座ったわたしの前までふよふよと空中を飛んできます。
「体調が悪いっていうか、ライブ始めるまでは調子よかったんだけど、始めた途端に力が入らなくなっちゃった感じだよ」
「ほよんほどじゃないけど、ティピファたちも動きが鈍かったリボン」
「そうね。100%のクールじゃなかったわ」
「なんでそうなるエヘ。最近何かあったエヘ?」
「実は昨日――」
「ふわプリバトル?」
「うん」
「うんじゃないがエヘ! ほよんが剣で貫かれたってさらっと言われたエヘが、大丈夫なのかエヘ!?」
「大丈夫だよ! どこも痛いとかないし」
「本当にそうエヘ……?」
エヘさんがペタペタと背中とか触ってきます。
「ふふ、くすぐったいよ」
「傷もついてないし
「うんうん、大丈夫」
「まったく、ふわプリバトルとか、いったい誰がそんな危険なシステム広めたエヘ!」
「ヤミミちゃんは謎のおじさんが配ってるって言ってたけど」
「不審者エヘ! なぜ捕まらないエヘ!」
「それを今から調べるリボン」
「……その通りエヘ。エヘもマスコットネットワークで調べてみるエヘ」
「マスコットネットワーク?」
「マスコットたちの情報共有井戸端会議エヘ」
「原始的リボン」
「それはそうと、ライブに失敗したのは、もしかしたらそのふわプリバトルで受けたダメージが何か関係しているんじゃないかエヘ?」
「ティピファもそう思っていたリボン」
「ならそれも調べておくから、三人は安静にするか、レッスンして待っててほしいエヘ」
「ほよ! りょーかいです!」
「すぐにでも復帰してやるわ」
「じゃあ、今日は帰るリボン?」
「いえ、レッスンしていくわ」
「わたしは、あの子を探したいな」
「あの子って誰よ」
「昨日、思いつめた顔してヤミミちゃんとふわプリバトルして、負けて泣いちゃってた女の子だよ。すごく心配」
「あの走り去ってしまった子ね」
「とてもお節介リボン。探すなら明日学校でするのがいいリボン」
「なんで明日?」
「ほよんたちと同じ制服着ていたし、今日は学校終わってるからリボン」
お節介なんて言いながらティピファちゃんはいい案を出してくれました。
「なら今日はレッスンして帰ろっか」
「大事をとって安静にしている方がいいって、ティピファの頭脳は言ってるリボン」
「ほよ、ならやっぱり今から帰った方がいいかな」
「ジャンケンしてどっちか決める、と言いたいところだけれど、今日のところはティピファの頭脳を信じてみるわ」
「やけに素直リボン」
「仲間の能力は信用するわ。私たちは三人でふわふわパ~ふぇくとなんだもの」
「またこっぱずかしいことを恥ずかしげもなく言うリボン」
「一緒に過ごしてきて、もっと仲良しになってきた証だね。ほよよよ~」
三人でお手てつないで帰りました。
家に着くと。
「ほよん! 具合悪かったのに出かけちゃダメでしょう!」
「ほよ~!」
ママがおかんむりだよ!
「お姉ちゃんは本当にしかたないお姉ちゃんだね。でも元気そうで良かったよ」
ぽるんは優しかったです。
次の日の朝です。ベッドの上で、パチパチっとお目目を開け閉め開け閉め。目がしょぼしょぼしないです。今日は調子が悪いことはなくって、いつも通り学校には朝からいけそうです。いきます。
学校につきました。
一時間目の国語の授業をどうにか真面目に受けて、休み時間です。
「よし! 探そう!」
机から勢いよく立ち上がります。
「私もいくわ」
くぅあちゃんと一緒に教室を出て、廊下を進んでいきます。
いろんな教室をのぞき込んで、あの子を探していきます。
一度目の休み時間では見つからなかったので、休み時間になるたびに教室をのぞき込むのを繰り返して、三時間目が終わった休み時間でとうとう見つけ出しました。昨日泣いていた赤髪の女の子です。
そうして昼休みです。
「突撃よー!」
「ほよー!」
三年一組に突入して、くぅあちゃんと一緒に赤髪の女の子を担ぎ上げてかっさらいます。
「わあああああああなになになになに~!?!?」
周囲の生徒にへんてこなものを見る目で見られながら、廊下を走らずに早歩きして、階段を下りて、一階の渡り廊下から中庭へ、中庭の隅へ。
女の子を降ろして放してあげます。
「な、なんなんですか~!?」
「おうおうおうおうお嬢ちゃんなんで昨日ふわプリバトルに負けて泣いていたのか教えてよ」
「教えないとクールだわよ」
「ひいいいいぃぃ」
わたしとくぅあちゃんはサングラスをかけて、スーツを着て、黒いもじゃもじゃな髪のカツラをかぶって、赤髪の子に詰め寄ります。
「なにその恰好、なにに影響を受けてるリボン」
「何でティピファちゃんがここにいるの」
「気になったから来てしまったリボン」
「ほよ~別の学校からすぐに来れるものなの?」
「それよりその恰好の説明を求めたいリボン」
「昨日見たサングラスをかけた怖い男の人たちの映画に、ちょっと影響されちゃって」
「やくざ映画なんてやってたのリボン……怖がってるからやめるリボン」
「ごめんなさい」
わたしとくぅあちゃんは物陰で元の制服姿に着替えます。
「わ、わたし帰っていいですか……?」
そろそろと逃げようとしている女の子の前に回り込みます。
「待って待って、まだ話聞いてないんだよ」
「そもそも、あなたたち誰なんですか」
「え、覚えてない? 昨日あなたがふわプリバトルに負けてしまったところに居合わせた」
「あのときは頭がぐちゃぐちゃでよく覚えていません……」
「そっかー」
「あなたたちは地下ふわプリバトラーなんですか?」
「違うよ。ふわプリアイドルだよ」
「ふわプリバトラー、また新語が出てきたリボン。おそらくふわプリバトルをする人たちのことだっていうのはわかるけどリボン」
「それで、泣くほどの悩みがあるなら教えてよ」
「なんでそんなにわたしのことなんて知りたがるんですか……」
「え、なんでって」
なんでだろう。
う~ん。
多分、シンプルな気持ちです。誰かが泣いているのがいやだったから。周りが幸せじゃないのがいやだったから。当然のことです。
「とにかく泣いてる君を見たら笑ってほしいって思っただけだよ」
「一度かかわってしまったのだし、呉越同舟よ」
「……そうですか」