泥沼を渡り切って泥塗れになった後、姫花さんに新しい衣装を手に入れましょうと伝えられたところです。
「衣装ってどこにあるのよ」
「今更だけど泥塗れになるのがアイドルイベントの正規ルートってどうなのリボン……」
「これも試練だよ。頑張ろう」
泥沼を抜けたここは木がたくさん生えている森、森、森です。さっき進んだ森よりも、ふわプリの外の森林公園よりも森林しています。
「衣装のパーツが森の中に散りばめられているよぉ。オリジナルの組み合わせでおしゃれなコーデにしちゃおぅ!」
スイさんの言葉を聞くなり探しに走ります。あちこちに目を向けながら動き回ります。
茂みに顔を突っ込んで分け入ると、長い水色の布が台座に飾られていました。
「この布をどうコーデにするのよ。泥を拭うのに使った方がよさそうだけれど」
「そりゃそうだけど、それで使い潰してしまうのはなんか違う気がするリボン」
「ほよっと閃いたよ! これを腰に巻いてスカートにするんだよ」
「いいわね。あとはトップスのパーツを探しましょう」
「泥もいい加減気持ち悪いから洗い落としたいリボン。どこかに水場がないかも探すリボン」
「泥はコーデが完成したら自動洗浄されるから安心してね」
シルフィーさんがAIモコさんのディスプレイ越しに説明してくれます。
「そこは親切設計なのかリボン……。ならコーデパーツだけを探すリボン」
「あ、見つけたよ! 水玉模様のシャツ」
また茂みを分け入った先の開けた芝生の中心にありました。さっきのコーデパーツと同じように台座の上へ飾ってあります。
「これはあたしたちが今持ってるコーデパーツに相性ばっちりだね」
くぅあちゃんでもティピファちゃんでもない声がお隣から聞こえました。
「あれ?」
「ほよ?」
振り向くと、物凄くちっちゃい赤髪の子と、物凄く背が高い青髪の子と、普通ぐらいの黒髪の子三人組がいました。
どうやら必要なパーツを前にして他のユニットと鉢合わせしてしまったようです。
わたしと黒髪の子は同時にダッシュし始めます。
コーデパーツを先に取られるわけにはいかないからです。
芝生を全力で駆けます。
手を伸ばして水玉模様のシャツを掴みました。けれど同時に黒髪の子も掴んでいました。
これはどういう判定になるのでしょう。
「あっちにアカシロツルバミ色のコーデパーツがあったからこれは譲ってくれない?」
「アカシロツルバミ色ってどんな色よ」
くぅあちゃんが言うようにどんな色かはわからないけど、この水玉模様よりも必要な色のパーツではない気がします。
すでに持ってる水色の布と水玉は相性がいいです。この組み合わせじゃないといいコーデにならない。とまでは思わないけど他にちゃんと合うコーデパーツを探してるうちに他のユニットが先に会場まで辿りついてしまいそうです。
「だから絶対に水玉のパーツは必要だから譲れないよ」
「なら勝負するしかないわね。ふわプリバトルかしら?」
「くぅあちゃん、ふわプリバトルは危険だからダメだよ。もっと楽しくてふわふわかわいい勝負にしようよ」
「いつものようにふわプリのライブをするか、他に何か考えるか、そちらはどんな勝負がいいとかあるリボン?」
「歌詞でバトルしようよ」
黒髪の子が言いました。
「お菓子?」(わたし)
「違う。歌詞の良さで競うの」
「あいまいリボン。そんなの受け取る人次第リボン」
「ならばこうしましょう。この中継を見ている視聴者の心に希望を与えられた方の勝ち、ということに」
姫花さんがAIモコさんを通して助言してくれました。
「そんなの正確に判定できるリボン?」
「ふわプリのシステムが判断してくれます」
「やっぱりふわプリはすごいリボン」
そんな感じで、歌詞バトル始めます。
「先攻はもらった!」
黒髪の子が突然大きな声を出しました。
「ええ!? いいけど」(わたし)
「いいのかリボン」
「いいのよ。後攻の方がいいわ」(くぅあちゃん)
「先攻後攻を決める、ふわプリスペシャルマシーンも用意してたんだけどなぁ」(スイさん)
「今はいいわ」
「じゅああんまり長くても判断しにくいと思うので歌詞は五行にしようか」(シルフィーさん)
「そうだねぇ」(スイさん)
「歌詞考案タイムが五分設けられます」(姫花さん)
チックタックチックタックという音がどこからか鳴り続ける中、わたしたちは考えます。
「どんな歌詞にする?」
「ティピファの頭脳に任せるリボン」
「私の考えた歌詞も一行は入れてほしいわ」
「バランス崩れそうリボン。でも考えてみるリボン」
防水スマホをポチポチとティピファちゃんはタップしまくりです。
五分経ちました。チックタックという音は聞こえなくなります。
「では、先攻、ジャンケンポンロンの歌詞披露です」(姫花さん)
ジャンケンポンロンの皆さんが並んで身構えます。
「行く!」(黒髪の子)
「…………」(青髪の大きい子)
「デス~!」(赤髪の小さい子)
ジャンケンポンロンの三人が歌い始めました。どこからともなく曲もかかります。
「ふわプリふわプリ ここはふわプリ
楽しい楽しい良いところイエイ
ハッピーハピネスハッピーターン
みんな幸せな気持ち溢れる
えへへへえへへへえっへへへ」
ジャンケンポンロンの歌詞披露が終わりました。
「先攻でとびっきりの歌詞を披露して圧をかけてやったわ。ひれ伏して!」
黒髪の子がなにか言っていますが、わたしはふわプリのサポートがないなか歌詞を忘れないようにするので精いっぱいです。ふわプリライブではない歌詞披露なのでふわプリのシステムサポートが発揮されないのです。
「後攻、ふわふわぱ~ふぇくとの歌詞披露です」
ふわふわぱ~ふぇくとのみんなで歌います。
「あなたに笑顔になってほしい わたしたちはそばにいるよ
ここは頑張りが報われる場所
頑張れないって
ゆっくり休んでね ふわプリなら大丈夫だから
ふわふわかわいいに包まれて おやすみなさい」
これがわたしたちの歌詞です。どうにか間違えずに歌えていたと思います。
「視聴者、観客からのふわプリポイントが投げ入れられていきます」(姫花さん)
AIモコさんのディスプレイに表示されたメーターに、フワプリッ。フワプリッ。という音声が発されながらポイントが追加されていきます。
「結果が出ました。ジャンケンポンロンに30ふわプリポイント、ふわふわぱ~ふぇくとに70ふわプリポイント、ふわふわぱ~ふぇくとの勝利です」
「やったー!」
「ふふ、当然ね」
「どうにか三人分の意見を取り入れて算出したリボン」
「柔らかい優しさと分かりやすさ、言葉の選択が、ふわふわぱ~ふぇくとの方が上回っていたとわたくしは思います」
姫花さんに褒められちゃったえへへ。
「くぅ~! これで勝ったと思うなよ~!」(黒髪の子)
「なよ~!」(青髪の大きい子)
「デス~!」(赤髪の小さい子)
ジャンケンポンロンの三人は走り去ってしまいました。
それはそれとして、コーデパーツゲットです。
「勝ち取った水玉模様のシャツと、長い布でスカートを作って、即席コーデ!」
「まだ完成じゃないリボン。あとアクセサリとシューズが必要リボン。最低どちらかだけでも」
「なら急ぐわよ。今の歌詞バトルで結構時間を取られたわ」
「レアアクセサリーイベント発生ですモコ! レアアクセサリーの位置が一つ地図上に表示されますモコ」
AIモコさんのお知らせにくぅあちゃんが即座に反応します。
「いくわよ!」
「ほよ!」
「リボン!」
わたしたちも続きました。
地図に示された目標地点まで辿りつくと、深い崖がありました。向こう岸まで五十メートルくらいで、橋が架かっています。橋の横幅は五メートルくらいです。一番下には川が流れていますが、そこまでは足がすくんでしまうほどの高さがあります。
橋の先、対岸には台座に飾られたコーデパーツが
「お先!」
歯も髪もギザギザな形をした女の子たち三人のユニットが、わたしたちの横を走り過ぎていきました。
「ギザなあたしっちたちが、ギザギザっと手に入れてやるわ」
「わわ、橋が揺れるっ」
「もっと静かに渡りなさいよ」
「急げって言ったのはザギサちゃんなのに!」
ギザギザな女の子たちは三人でわちゃわちゃしながら橋をグラグラと揺らせて進んでいってしまいます。
「あ、先を越されるわ」
「わたしたちも早くいかないと」
「待つリボン」
岸壁から丸い穴の開いた筒みたいなものが迫り出してきました。
重い大きな音が響き渡ります。
「へ?」
よく見えなかったけど何か白いものがギザギザな女の子たちに衝突すると、女の子たちは白いふわふわもこもこな姿になって、風に乗り飛んで行ってしまいました。
「あれは砲台で、今のは砲撃リボン……?」
「おーっとギザギザパッションズ脱落だぁ」
スイさんの暢気な声がスピーカーから聞こえます。
「なにあれ!?」
「あれはふわふわ砲です」(姫花さん)
「ふわふわ砲!?」
「ふわふわ砲の砲弾が命中すると、わたあめのような姿になって幸せな夢を見ながらスタート地点に戻されます」
「なにそれこわいよ」
「スタート地点に戻りましたら、ちゃんと元の姿に戻れますので大丈夫ですよ」
「それなら安心だね」
「安心リボン?」
「あれに当たらないように橋の向こうまで辿りつかないと、レアコーデパーツは手に入らないというわけね」
「任せてリボン」
ティピファちゃんは防水スマホをポチポチとものすごい速さでタップします。
「ふわふわ砲を避けるには、ダンスリボン。ダンスの動きリボン」
「ダンスなら任せなさい」
「わたしだってダンスいっぱいレッスンしてきたんだから」
「ダンスしながらこのランウェイを渡り切るリボン」
「ほよっ! と来たらクールが一番、リボンがほどけておはようだ」
走り出しながら小さく歌詞を口ずさみ、時折ハミングしながら、ダンスの動きを反射で、一秒以下の速度でできるように準備しておきます。
重い音がする気配、ほら、砲撃来ましたほよ。
真っ白な砲弾を綺麗なターンで避けます。
避けました。すれすれでとても怖い。でも、ダンスを乱れさせないように頑張ります。
くぅあちゃんも涼しい顔で避けています。三人でライブをするようにダンスで砲撃の嵐を避け進んで往きます。
他のユニットも負けじと抜きつ抜かれつ追い抜こうとしてきました。
何度も何度も重低音の砲撃音が響きます。
ふわふわもこもこな姿になってスタート地点に戻されていくアイドルたちの間を踊り舞いながら橋の対岸へ辿り着きました。
「とりぷるなパーフェクト最大ガールズ」
ちょうど口ずさんでいた歌詞も終わりの一節になったところでした。
「優雅に、力強く、クールよ」
「これが、レアコーデパーツ?」
台座の上には、キラキラとしたリボンがありました。リボンは色が赤色になったり青色になったり、何度も変化しています。
「リボンリボン! 素敵リボン」
「そのレアコーデパーツのリボンには色を自由に設定できる機能がついています。ほとんどのコーデに組み合わせられる優秀なコーデパーツなんですよ」(姫花さん)
「素敵リボン」
「これでコーデ完成だね」
キラキラキラふわふわふわと、光と小気味のいい音に包まれて手に入れたコーデパーツたちが集まってわたしたちに着せられていきました。
「即席コーデ水玉!」シュパーンキラキラッ。
水色のスカート、水玉模様のシャツ、アクセサリーにリボンなコーデです。
レアコーデパーツの色可変式リボンは青色にしました。青色にキラキラと輝いていてサファイアみたいです。
泥もすっきりどこかへとなくなりました。
ほよ~。熱いお風呂から上がってミルクをゴクゴクと飲んだ時のような気分です。
「なかなかいいコーデになったリボン」
「ようやく不快な泥も消えてくれて爽快シャッキリクールね」